24.秋季大会に向けて
週明け。まずは秋季大会に向けてチーム方針等の再編成の為、全体練習(ノックや実対戦形式でのフリーバッティング等)から入ることになった。
しかし、3年生の抜けた穴は大きいんだと改めて感じる。特に、エースであった古谷先輩を筆頭にチームの要であるセンターラインを守る選手の大半が3年生であったこと。
救いなのは、2年生ながら二塁手のレギュラーを獲得していた園田先輩が残っていること、それから古谷先輩からの投手リレーで抑えを任される事の多かった浅倉先輩、控え捕手としてベンチで経験を積んでいた樋口先輩が居る事だ。
園田先輩
小柄ながらも広い守備範囲と、細かな技で相手を翻弄する技術を持つ、縁の下の力持ち的存在。
浅倉先輩
夏大会では古谷先輩からのリレーで抑えを務めることが多かった。140km前後の直球と、鋭く曲がるスライダー、それをコーナーにきっちり投げ分けられる丁寧な投球が持ち味。以前肘を痛めた事があり、スタミナに不安があるらしい。
樋口先輩
控え捕手だった先輩。しかし次年度の要となる選手に経験を積ませるという考えから代打、終盤の守備固め等で出場していた。光とは真逆の、セオリーに則った堅実なリードをするが、時には投手の気持ちを汲み勝負を選ぶ柔軟さも持つ。
投手として言えば、俺は浅倉先輩を超えることを目指していかなければならない。派手さはないかもしれないが、堅実な樋口先輩のリードとそれに応える丁寧な投球は侮れないし、チームメイトや監督からの信頼もある。実力と、信頼。両方で勝ちに行くのは大変だろうが、ワクワクする。それにはまずアピールして出番を貰わないと話にならないけどな!
午後からは監督が1年投手の状態を見るということで、野手組とは別行動になる。樋口先輩と俺、同じ1年の市川が屋内ブルペンに集まっている。そう言えば、こいつがブルペンで投げるのを見るのは初めてなんだよな………。
『まずは、市川!一通り変化球も含めて投げてみろ』
言われた市川が投球を始める。直球は140kmぐらい。ただ、左投手でサイド気味のスリークォーターなので、右打者へのクロスファイヤーはかなり有効だろう。変化球は、縦に割れるカーブのみの様だが……これは思わぬ強敵かもしれない。
『次は高橋!』
よし、俺の番だ。自分の球には自信を持ってはいるが、ちょっと緊張するな。
「じゃあ、直球から行きます!」
10球ほど直球を投げるが、全て綺麗に乾いた音を立ててミットに吸い込まれる。この人、めちゃくちゃにキャッチングが上手い。実直に練習を繰り返してきたのだろう、捕球したミットが全くブレず安心感がある。体格の良さと相まって投げ込む的が大きく感じる様な錯覚を覚えた。
「次、変化球行きます!」
スライダー、チェンジアップ、覚えたてのシュートを順番に投げ込む。うん、良い感触だ。
……だが、監督達にはどう評価されるかは分からない。使い物にならんとか言われないよな…?
『…‥高橋。お前、来週末の練習試合、先発しろ』
「えっ!?いきなり先発ですか!?来週の試合の相手って確か、大阪からわざわざ来るって…そんな大事な試合を?」
いや、嬉しい。嬉しいが、突然過ぎる!10月の秋大では出番もらえたらなぐらいに思ってたのに!
『大事な試合だからこそ、だ。お前の球は、正直に言って1年のレベルを越えていると俺は思う。だから同地区のライバル相手に、投球の様子をあまり見せたくない。夏の切札になり得る可能性があるからだ』
この間、一番のライバルに向かって投げ込んじゃいましたけど…………まぁ、周りに吹聴したりはしないだろ、あいつなら。
シュートを試せる貴重な機会だ。期待にも応えたいし、全力でいけるところまで投げ切ってやる!
『あ、ちなみに市川も投げてもらうから。5〜6回を目安に、1試合を2人で投げ切れ。後シュートはまだ投げるの禁止な。奥の手のつもりで練習しといてくれ』
と思ったら、決まった回での交代制らしい。しかも縛りプレイ。逆に燃えてくるわ。
どうやら、大事な試合を任せられる程度には実力を見せられたらしい。ここの登板内容次第ではベンチ入りも……って事かな。いや、目安ってことは内容が良ければ投球回が伸びるし、悪ければ市川に出番を持っていかれるってだけだろう。余計なことは考えず、まずは与えられた仕事に全力で取り組もう。
『それから、完全に下げてしまうと何かあった時に対応できない。マウンドを降りた後はライトを守ってもらうから、そっちの練習もしておけよ』
そう、高校野球では一旦マウンドを降りても外野などを守り、終盤にまたマウンドに立つ事も多々ある。投手だから投げる事を考えてれば良いと言うわけではないのが厳しくもあり、楽しくもある。
次の投手に対して、まだ俺も投げられるから全力で行けと鼓舞する事もできるし、打席で失点を取り返す事も援護することもできる。
どちらも中途半端にならないように、励まなければいけないな、これは!




