20.明日の予定は
特に画期的な案は浮かばなかったので、庭のネットに投げ込みをして感触を試してみよう。まずは直球とほぼ同じ握りで軽く捻り上げながら投げてみる。
「うーん、ダメだな。こんな球じゃ使い物にならない」
変化はしている。が、キレがない。球速も乗っていない。これでは棒球同然だ。まぁ、そんなに簡単に習得出来るなら世の中の投手はみんなプロになれるだろう。まだまだ始めたばかり、焦らず行こう。
次は縫い目を左にずらして、ただ直球を投げる感覚で投げてみる。…おっ、さっきより良いんじゃないのか?球速も直球と変わらないし、何より手元で鋭く曲がったような、そんな気がする。
よしよし、この調子でどんどん行こう!
とりあえずは一通り全部試してみる。投げる時に捻るのではなく最初から少し腕を倒して真っ直ぐ振り下ろしたり。シンカーの要領で深めに握ってみたり。それこそ投手が10人いれば同じ変化球でも全員違う変化をする。自分に合った握りを見つけるというのは並大抵じゃない。
試行錯誤する事数時間。一旦辿り着いたのは、最初の方に試した少し左側に指をずらす投げ方に加え、さらに親指も左にずらして球の左半分のみを握るような投げ方。これが一番しっくりと来た。
「後は、実際に捕手や打者の目線で見てもらって武器になり得るかどうかってところか」
一応形にはなったので、ここから先は試合やブルペンでの投球練習の中で少しずつ調整した方が良いだろう。
今日はこの辺りで切り上げよう。なるべく自然に腕を振り下ろせる握りを模索はしていたが、それでも変化球ばかり多投するのは肩に良くない。しっかりクールダウンとマッサージをして体を休める事にしよう。
「さぁて、週末はどんなトレーニングをして過ごそうかね。………また例のバッティングセンターにでも行ってみようか」
お互い投手である以上、一番重要なのは打たせない事。だが同時に打者としても対戦するのだ。両方で勝てるよう最善を尽くしたい。認めたくはないが、天城の実力は高く、そこに光のリードも加わるのだから、苦戦するのは間違いない。向こうの球種が増えていたりすると厄介だが、いくら親友とは言え同じチームの仲間の情報教えろなんて卑怯なことはしたくないしな………そんな事を考えながら部屋に戻ると、携帯が鳴っている。光からだ。
「もしもし、光か?どうした?」
『やっと出たか晴樹ィ!朝から何回も電話してたんだぞ!』
「あ、朝からずっと練習してたわ。悪い」
履歴を見てみると丁度俺がランニングに出た直後くらいに最初の着信が来てる。なんと間の悪い……
『もうかれこれ半日は経つんだが………。何だよ、親友がこんなに心配してんのに、可愛い女の子に励まされたらもう元気か?薄情な奴だなぁ』
確かに、携帯を放置していて気付かなかったとは言え、心配してわざわざ連絡してくれたんだ。悪い事してしまったな………。
「いや、悪い。マジですまん。今度は気をつける」
『ククク、冗談だよ。お前は何でも真剣に答えるからな、からかい甲斐があるよ。それが良い所でもあるんだがな』
「実際悪いと思ってるよ。四条の件も、ありがとうな」
『気にすんなよ。本気のお前と戦いたいってのも、本心だからな。お前が元気になったならそれでいい。それよか、明日の予定だが』
「明日…?なんかあったっけ?」
試合とか練習はなかったと思ったが………
『おいっ!?週末付き合えって言っただろ!?しれっと忘れてんじゃねぇよ!』
「あっ。……練習する気満々だったわ」
『本当元気になった途端野球の事しか頭に無いなお前は。……ま、元に戻った証拠か。とにかく、今更ドタキャンはなしで頼むぜ?明日の朝、駅前集合でな』
「明日の朝駅前に集合ね、了解!じゃあ、今日は早めに寝るよ。また明日」
『おう、寝坊すんなよ』
そう言って通話が切れる。明日の準備だけして、今日はもう寝ようか。普通の格好で行けば良いんだよな?一応、グラブとボールも持っていくか?
シュートの握り云々は、作者の実体験です。一般的にはツーシームの握りから少し左にズラして握ることが多いそうですが、自分はいわゆるフォーシーム(ストレート、直球と表現される球)の握りからずらして投げていたので作中でもそんなイメージです。
気になる方は適当に流してもらった方が違和感を感じないかもしれません。すみません。




