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【書籍発売中】俺の天使は盲目でひきこもり  作者: ことりとりとん
四章 冬から春へ

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49.お出かけとご挨拶 sideアンジェ

 


「セトスさま! ちゃんとお日様ぽかぽかで、晴れてるよ」


 今日は待ちに待ったピクニックの日。

 たった数日とはいえとっても待ち遠しかったの。

 だってセトスさまが初めて私を遠くへ連れてってくれるんだから。


「ちゃんとお願いして良かったね」

「そうだな」


 セトスさまの声も心なしか嬉しそうで、私と出かけることを楽しみにしてくれてると思うと、とっても嬉しくなった。


「あとはねぇ……そうだ! イリーナ、ちゃんとお菓子持った? 白パンとあんずジャムも」


「もちろん持ちましたよ」


「じゃあ、もうお外行こう!」


「いやいや、先に朝ご飯だ。あんまり焦らないで」


「はーい」


 ちょっとソワソワしながらもちゃんと朝ごはんを食べて。


「じゃあ、行こうか。出発だよ」


「やったー! 行こう、行こう!」


 いつもと同じ距離に立ってくれるセトスさまの左腕に腕を回す。


 私が行ける範囲は玄関までだから、それよりも遠くは、セトスさまがいないと無理だけど……

 セトスさまはどこへだって連れて行ってくれるから楽しみ。




 外へ出て少しした時。


「馬車に乗るからここもって」


 そう言って手すりのようなものを持たされる。


「抱き上げてあげられればいいんだけど、入り口が狭いからそういうわけにもいかなくて……

 悪いけど頑張ってほしい」


 少し大きめの段差だったけど、今の私なら何とか登れるし、セトスさまもちゃんとサポートしてくれた。

 そうして柔らかい椅子に腰掛ける。


「よしよし、なんとか乗れたな。

 前にアンジェを家に連れてきた時は大変だったけど、今回は1人で乗ってくれたからすごく楽だったよ。ありがとう」


「ひとりでできた訳じゃないと思うけど、セトスさまが楽だったなら、よかった」


 そこへイリーナも乗ってきて、馬車が走り出す。


 開いた窓から入ってくる風が頬にあたって気持ちいい。

 それに、セトスさまが隣にいてとってもあったかいな。




「アンジェ、着いたよ? 起きて」


「えっ!?」


 いつの間にか寝てしまっていたみたい。


「ごめんなさい、寝ちゃってた」


「いやいや、別にいいんだけど」


「でも、もったいないことしちゃった。せっかくのお出かけで、セトスさまと一緒なのに」


「まだまだ楽しいことはあるんだから、休んでた方がいいと思って寝かしてたんだ。

 馬車であんなにテンション上がってたら途中でしんどくなっちゃうからね」


 確かにそれはそうかもしれない。私はあんまり長いこと動けないし。

 楽しいことの本番は、これからなんだしね。



「お待ちしておりました、セトス様、お嬢様。あるじ様がお待ちです」


 そう言われて入った建物は天井が高いようで靴音がとってもよく響いた。

 そして、玄関から割と近いふわふわの絨毯の部屋に案内された。


「叔父上、こんにちは。お久しぶりです」


「よく来たな、セトス。まぁ、座りなさい」


「ありがとうございます」


 とりあえず、セトスさまの言うように座ったんだけど……

 いきなり知らない人と会って、どうしたらいいんだろう?


「ご紹介します、アンジェです」


 その上私の名前が話に出てきて。

 本当にどうしたらいいかわからないんだけど。


 わけもわからずセトスさまの腕にしがみつくことぐらいしかできない。


「ごめんごめん、先に言っとけばよかったね。

 普段は父の代官として領地にいる、叔父のカルトス様だよ」


「はい、こんにちは」


 せいぜいそう挨拶するのが精一杯だったけれど、セトスさまは褒めるみたいに優しく髪を撫でてくれた。


「私はカルトス・ミラドルト。そして、こちらが妻のアリスだ」


「こんにちは」


「あらあら、緊張しちゃってるわね。そりゃそうよねぇ。説明もなしにいきなり夫の叔父の家に連れてこられたりしたらなんにもできなくなっちゃうのは当たり前よね。

 セトスったらちゃんと言っておいてあげないと可哀想よ?」


「あはは、本当にそうですね。ごめんよ、アンジェ」


「……はい」


 本当にこれどうしたらいいの?


「だが、アスセスといいお前といい、おとなしい子を嫁にもらうな」


「まぁ、母があれですからね」


「そうねぇ……でも、男の子はお母さんに似た人をお嫁さんにすることも多いのよ?

 それに、私には子供がいないけど、もし子供がいたらこんなに可愛い女の子が欲しかったわねぇ。

 アンジェちゃん、今からでも私の子供にならない?」


「……えっ? えっ?」


「アリス叔母上、あんまり無茶を言わないでください」


「そんなことはわかってるんだけどね、本当に私もこんな子供が欲しかったわぁ。

 アンジェちゃん、うちを実家と思ってもいいからね。いつでも遊びに行きなさいよ」


「……」


どうしたらいいのか分からなくてセトスさまの方を向くと。

「困った時には『はい、ありがとうございます』って言っといたらだいたいのことはなんとかなるよ」


「はい。ありがとう、ございます……?」


「そうそう。そんな感じ」


「本当に口数の少ない子ねぇ……

 まぁ、その方が下手なことを言いふらすよりずっといいとは思うけど。私は喋ってばっかりだから怒られることも多いのよ?その点、アンジェちゃんは安心ね」


 その後も4人で少し話をしていた。

 時間にしたらそんなに長くないと思うし、私はほとんど何も言ってなかったんだけど、凄く長い時間に感じた。


「まあ、お二人は今が一番楽しい恋人期間でしょうし、お庭でのんびりしていてくださいね。

 何でも自由に使ってくださっていいですし、何かあったら家の者に言ってくれたらいいからね」


「はい、お気遣いありがとうございます。では失礼します」


 失礼しますってことは、立たなきゃいけない!

 とりあえずそのことにだけ気づいた私は立とうとしたんだけど、ソファーの座面が低くてちょっとうまくいかない。

 困ってたら、セトスさまが引っ張るみたいにしてなんとか立たせてくれた。

 多分、そんなに不自然ではなかったと思う。


「では、失礼します」

「失礼します」


 しっかりセトスさまの手を持ってついていく。





 お屋敷を出て庭へ行くと、イリーナが待っていてくれた。


「お嬢様、お食事の準備は出来ておりますよ、」


「ありがとう、イリーナ、でもちょっと疲れた」


「アンジェの練習にはちょうどいいと思ってたんだが、ちょっと負担大きかったかなぁ?」


「ううん、だいじょうぶ。ありがとう」


 イリーナが準備してくれていた椅子に一緒に座って隣のセトスさまに体を預ける。

 気を使っていたから、何をした訳でもないのに結構疲れてしまった。


「アンジェ、疲れた時には甘いものを食べるといいよ」


 そう言ってマフィンを出してくれた。


 ちょっとしんどいけど、受け取って一口食べてみると。


「うん、美味しい!」


「もうしんどいことは終わりだから、あとは好きなだけ楽しもうな」


「うん。ありがとう」



 ちょっと疲れたけど、楽しいことはこれからなんだから!

 美味しいお菓子を食べて元気に遊ぼうっと。


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