そんな日常のこと
よろしくおねがいします。
カリカリとペンを走らせる音が響く。やがて音を出すペンの音が少なくなってきた所で、チャイムの音がする。同時に、教壇の前に教師が出てくる。
「はい、後ろから答案用紙回して」
言われるまでもなく既に答案用紙を回した先頭の席の者が纏めて教壇へと答案用紙を置いていく。
テストが終わり、間もなく終業式で、夏休みの開始だ。秀平はそう先の事を考えながら、筆箱などを鞄に詰めていく。
秀平の考える通り今日で期末テストは全て完了し、テストの回答期間を含めても一ヶ月以内には夏休みへと突入する。テストの出来によっては夏休み期間に補講もあるのだが、その心配はしなくても大丈夫だと、自信を持っていた。
それ以外には夏休み期間中は自主勉強をしていくつもりだし、ダンジョンの探索も休みの分密度が高くできる。去年まではどこかの予備校の夏期講習でも受けようかと思っていたが、それよりも今はダンジョン探索と自主勉強で大学受験を乗り切ろうと考えていた。
何より推薦入試が今の所受けられるというのが気が楽だ。勿論推薦の結果受からない場合もあるが、その時はその時で一般入試を受けるつもりである。その為の勉強も怠らない。
なので夏休み期間中の全国模試だけは受けるようにして、後は自主勉強とダンジョン探索だ。
などと若干ダンジョン探索に比重を置いた事を考えていると、肩をポンと叩かれる。
振り返ると同級生で同じクラスの男子、友人関係にある野村剛史が居た。
「島長、帰りメシ食って帰ろうぜ」
「いいよ、どこにする」
軽く言われた言葉に間髪つけずに回答する。こんな事考えるまでも無く回答できる内容だった。
「何食いたい。俺は肉なら何でもいいけど」
「選択肢広いな。じゃあ駅前のノースバーガーでいいんじゃねぇの」
「んじゃあそれで、他にも声かけてくるわ」
「おう」
手早く荷物を纏め終えた野村が別の教室へと向かう間に、秀平も荷物を纏める。筆箱に参考書、プリントとを纏めて鞄を背負うと、丁度野村が二人の生徒を連れて戻ってきた。
今年は別のクラスになった平阪浩一と宍戸宏文だ。秀平は三人に合流すると、廊下へと一緒に出る。これで少なくとも来週までは、この教室に来る事は無い。
四人となった集団で秀平達はテスト期間の為早帰りとなった学校から出て駅前へと繰り出した。
四人でテスト結果の予想を語りながら駅前のハンバーガー屋へと入り、オーダーを通してから適当な席へと向かう。
店内は秀平達と同じ学校の生徒が多数を占め、やはりどの席の生徒もテストの話をメインの話題としていた。
その中に混じるように四人席へと着席して四人でテストの答え合わせを行う。先程まで開いていた問題用紙を机に出して、お互いの獲得点数を予想する。
「……俺の予想、96点か」
「んなもんじゃねぇの。80点切る科目無ければいけるっしょ」
「さすが全国模試5000番代の男は言うことが違うなり~」
「褒めてるのか貶してるのかわからん」
ハンバーガーとポテトを食べながらそんな事を言い合い談笑する。
テストの事、最近のゲームの事を話しながら、直近の一番話題となるダンジョンの話題となった。
「んで、島長ダンジョン行ったんしょ。どうだったん」
ズズズーとコーラを飲みながら問いかける野村の言葉に頷きながら秀平が応じる。
「別に、普通、かな。今の所特に危険は感じてないけど。まだ低階層だからかな」
「スキルは何を獲得できたんだ?」
平阪の言葉に右手でポテトを摘みつつ、左手にマジックサークルを展開する。
「これ、一応魔法。できる事多いから逆にどこまで出来るのか今測ってる感じ」
「おお、魔法か。じゃあ島長はプレイヤーなんだな」
宍戸の言葉に頭に疑問符を浮かべながら問い返す。
「プレイヤー? って、ゲームのプレイヤー?」
「ニューワールドファンタジーオンライン。プレイヤーじゃないのか?」
「あぁ、設定の元になったっていう。違うよ、俺はプレイした事ない」
そんな秀平の回答に宍戸は驚愕の表情を浮かべる。
「バカな、VRゲームユーザーだろ。世界人口の一割がプレイしているというあのゲームをやった事ないのか」
「盛りすぎだろ。流石にそんなにユーザーいねぇよ」
「でも魔法スキル持ちって、みんなプレイヤーって聞いてたけど違うのか?」
「少なくとも俺はプレイした事無いからなぁ。三人はプレイした事あるんでしょ、ダンジョン行かないの?」
秀平のその言葉に、野村達三人はわざとらしく肩を落とした。
「10月生まれだからなぁ、まだ行けない」
「拙者9月生まれでござる。その前に許可が降りるか怪しいでござる」
「2月生まれ。受験終わるまでは無理だろうな」
はぁ、と揃って肩を下げる姿を苦笑しながら眺めてポテトを食べる。
「ご愁傷さま。まぁ受験終わったら行ってみたらいいんじゃない。ファーストキルの恩恵だけでも貰っておけばなんかの役には立つかもよ」
「まぁなぁ、今の時代スキルの一つや二つ持っておいた方が良いもんな」
「文字通りスキルを獲得する為にも受験を成功させねば」
「あと運転免許もどうするかなぁ。島長は夏休みで合宿行ったりする予定は無いのか?」
「運転免許は今の所予定に無いかな。大学進学してからで良いと思う。運転する予定無いし」
「運転……するか? 都内で」
「都外の人は毎日でも運転するでしょ」
「後は仕事関連で、かな。都内住んでると交通機関が基本的にあるから免許なくてもいいかって思考になりやすいけど、何かの為に運転免許ぐらいは持ってないといかん気がする」
「何か……旅行とか?」
秀平のその言葉に他の三人がうーん、と唸る。
「旅行でも基本歩きか交通機関じゃねぇ?」
「レンタカー借りて旅するなんてものあるでござろう」
「だったらツアーでバス乗ってた方が楽じゃん。一人旅でもすんのか平阪」
「拙者原付免許は持ってるでござる。原付バイク持ってないけど将来的には購入して一人旅も辞さない構え」
そう言って平阪が財布の中から運転免許を取り出す。おぉー、と三人で声をあげ、秀平も財布の中から冒険者証を取り出した。
「冒険者証と似てるなやっぱり。免許区分の記載が無いけど」
「おぉーそれが冒険者証。でも顔写真は拙者の方が綺麗に写っている」
「運転免許の写真って免許センターで撮ってもらえるんだろ。俺の駅前の証明写真だよ、比べんなよ」
「でも両方ともICチップ入りなんだよな。免許のICチップってどのタイミングで使うの?」
「免許センターの電子受付時にピッと番号発行して順番待ちするでござる」
「冒険者証のはそのまま駅の自動改札と同じでダンジョンゲートの出入りに使う」
「意外と使う場所あるんだなぁ」
そんなノリで、四人はダンジョンと運転免許の必要性について語り合うのだった。




