魔道具とお弁当
よろしくおねがいします。
翌日から秀平の魔道具研究が開始された。
まずは自身の持つ探索魔法、検知魔法を把握する事だ。
秀平の持つ探索魔法に微弱な魔力を放出してその魔力が壁や物に反射する事で周辺の地理を把握するものがある。
この魔法は魔力検知能力が高い者やモンスター相手には逆探知される場合があるものではあるが、周囲の地理が図として頭に思い浮かべる事ができる便利なものである。
だが今回必要となりそうな魔法には使えないだろうと思っている。
何せダンジョン内は広い。さすがにあれほどの広さの範囲を全てこの魔法で探索するのは無理である。
となれば他の方法として、検知魔法を次に挙げる。
内容物の魔力を検知したり、壁や床のトラップを検知したりといった魔法が挙げられる。
これは魔力検知そのものをより具体的な利用法としたものだ。
検知可能な範囲は様々だが、基本魔力をつぎ込めばつぎ込むほど具体的な形やモノが分かる。
この検知魔法であればいい線いくのではないか、と秀平は思っていた。
今回魔道具として落とし込むのは周囲に漂う魔力の流れを検知するものだ。
モノや人、モンスターを検知するような道具ではなく、周辺に漂う風の流れを読む風見鶏のような役割を期待している。
故に、余り敏感に魔力を捉えすぎても良くなく、自然の風を捉えるのと同程度に、自然の魔力の流れを捉える。その程度の検知能力が求められる。
その構想が具体化したら、次に購入した抽出された魔石に術式を刻む。
刻むと言っても魔石に傷を入れるようなものでは無く、魔法を魔法陣化し、それを魔力で魔石に刻み込むのだ。
魔力で刻み込むので後からの改変も可能なのだが、何しろ魔法陣を刻み込む作業自体繊細な作業だ、改変となると更に気を使う。
なので秀平は慎重に魔力を流しながら魔石へと魔力を注ぎ込む。
そうして、魔石の内部に構想にあった魔法陣を刻み込まれた魔石が出来上がった。
それにホッとした後、魔石に紐を取り付ける。これで道具化は完了だ。
試しに試験を行う為、手に持った魔石を吊るし、手からぶら下げる。魔石は紐に吊り下げられぶら下がるので、魔石のペンデュラムだ。
そこへ魔力を流し込む。紐を伝い魔石に魔力が流れ光を灯すと、魔石がふわりと持ち上がり身体とは反対側へと引っ張られた。
「これは、身体から発散される魔力を検知してるのかな」
胸元近くで試験を行っていたからか、魔石は秀平の身体から発散される魔力を検知して秀平の身体から最も離れた場所へ移動した可能性がある。
秀平が腕を伸ばして身体からなるべく放して再度試験を行うと、今度は身体とは別方向、右側へと向かってペンデュラムが移動した。
「ふむ……大まかには俺の右側方向に魔力が流れてるって事かな」
とりあえず自分を検知して移動した訳では無さそうだ、と理解して一息つく。
後はこれが、ダンジョンでも有効に機能してくれれば問題無さそうだなと思いながら、秀平は次のダンジョン探索で実地試験をするべく準備するのだった。
そうして次のダンジョン探索の日。
再び秀平達四人はダンジョンに集まり第21階層へと赴いた。
「さて、じゃあ試験を開始します」
そう言って秀平は魔石のペンデュラムを取り出し、小さく魔力を通す。
すると魔石はふわりと浮き上がり、正面から左、260°といった所を指し示した。
その光景にひとみと奈央、拓海がおーっと声をあげる。
「これが魔力の流れる先って事だよね」
「一応、そのつもりで作りました。まぁ魔力の流れる先が次の階層に続くかは確認しないといけませんけれど」
「それでも、指針があるだけ大分マシよ。後は結果を確認するだけね」
そう言って、四人でペンデュラムの指し示した方向へと進んでいく。
途中では当然モンスターが出現する。21階層では角の生えたウサギだ。
比較的機敏で突進力のあるウサギだが、秀平達は難なく抑える。
秀平と奈央、ひとみの三人で群れで襲いかかるウサギへひと当てし、ウサギが怯んだ所へ拓海がマジックショットで撃退する。
秀平と奈央は当然として、ひとみも日々の鍛錬、東雲道場での稽古により近距離戦に慣れている。
魔法少女然としたその杖を鈍器として扱う様には秀平的には若干思う所があるが、ひとみ自体は特に気にしていないので問題はないのだろう。
そうして何度かの襲撃を受けてから休憩を取る。
個々に持ち寄ったお弁当を広げながら秀平の張った結界の中で休憩だ。
「それで秀平君、方向はこっちで合ってるのよね」
「もう一度確認しますね」
膝の上に弁当を広げたまま秀平はペンデュラムを用いると、やはり進行方向そのままをペンデュラムは指し示した。
その事にほっとしつつ、問題ないです、と告げる。
「なら、普段どおりであればあと五時間て所かしら」
「そうですね。幸い草原なんで見通しは良いですから、石碑があればすぐ見つけられるでしょう」
「うんうん。あ、奈央その卵焼きトレードしない? 私のタコさんウインナーと」
「いいわよ」
そう言ってひとみは奈央の弁当から卵焼きを受け取ると、美味しそうに咀嚼した。
ひとみと奈央、拓海の弁当は自前のお弁当で、秀平のものはコンビニで買ったものだ。
秀平に弁当を作るスキルも無ければ料理もできない。親に弁当を作るのをお願いするのも中々憚られるのでコンビニのものでなんとかしている。
しかし奈央やひとみの弁当を見ると、自前の弁当も良さそうだな、と感じていた。
そんな秀平の視線に気付いたのか、拓海が秀平の弁当を見ながら問いかける。
「島長さんは、手製のにしないんですか?」
「いや、俺料理できないし。親に弁当作ってって言うのも憚られるから」
「そうですか……。よければ次は私、作ってきましょうか?」
その言葉に、摘んでいたおにぎりを一瞬喉に詰まらせかける。
慌ててお茶を飲み下すと、秀平は拓海に言った。
「いやいや。そんな気を使わなくても」
「いえ、別に気を使うとかではなくて。コンビニのお弁当って量少ないじゃないですか。足りてます?」
「……正直、あまり足りてない」
「ですよね。私も冒険者始めてから食欲が増えたので、コンビニで普段買う量だと足りないと思ったので作ってきてるんです」
なるほど、見れば確かに拓海のお弁当箱は一般的に女性が用いるような可愛らしいサイズではなく、二段重ねのしっかりしたお弁当箱だ。
それは当然拓海のみでは無く、ひとみも拓海と同様のサイズ感のお弁当箱だし、奈央のは二人のより更に大きい。
その事に気付いた秀平は思わず奈央とお弁当箱を交互に見やると、奈央が少し頬を赤らめて言う。
「ほら、私は普段から道場で運動しているから。二人より消費カロリーが普段から大きいんだ」
「そうだよねー。奈央は運動してるから食事量とか気にしなくていいと思う」
そんなひとみの同意にほっとした奈央が、拓海と秀平の会話に混ざる。
「確かにコンビニ弁当じゃ足りないだろうな。よし、私も協力しようか。良ければ作ってくるよ」
「あ、それじゃあ私も。三人でローテーションで秀平君のお弁当作ろうか」
「そんな、悪いですよ」
「いいからいいから」
そう言って溌剌とした笑顔で言うひとみに根負けし、わかりましたと理解を示す。
「じゃあせめて、お弁当代は支払います。それくらいは受け取ってください」
「ん、じゃあそうしよっか。お弁当箱は奈央サイズのものでいいのかな」
「それで大丈夫だと思います」
「んじゃ、今日ダンジョン終わったらお弁当箱探しだねー」
そうして昼食の休憩は終わり、意気揚々とダンジョンの探索を再開する。
そこからも散発的にモンスターの襲撃があったが、それを難なく打倒しつつ、魔道具を用いて方向を確認しながら進む。
すると休憩地点から三時間ほど歩いた地点で、次の階層へと進出可能な石碑が見つかった。
その事にまず、秀平はほっと胸を撫で下ろす。
この魔道具の指し示す方向に、問題はなかったという事だ。
これで、次のダンジョン探索も問題なく次の階層へ行けるだろう。
ここから先は秀平達もまだ未経験の第22階層からだ。
今まで以上に気を引き締め、探索していこうと胸に誓った。
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