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工場の新製品

よろしくおねがいします。


 休憩室のテーブルの上に並べられた試作品のいくつかを手に取り、工場長が教えてくれる。

 

「まずは服だな。これは特殊な薬剤でアリの外殻を繊維状にして作った糸で編んだシャツだ。それとこっちのベストは内側のポケットに硬いままのアリの外殻を入れてある防弾チョッキみたいなもんだな」


 そう言って手渡されたシャツは手触りが良く、重さも普通のシャツと同じ程度か、それより軽い気がする。

 

「こいつを繊維状にした後に再び固めると溶剤の影響か耐熱性が高くなる。それと耐切創性も高い。作るのは比較的安価で行けるな」


「へぇ、安いんですか。耐切創性はいいですね。モンスターの攻撃で服が破ける事なんて比較的ありますから」


 秀平はそう言いながらもう一つのベストを手に取る。確かに先程のシャツよりも重い気がするが、これがアリの外殻の重さなのだろう。

 

 触ってみると手触りはシャツと変わらず、ベストの内側にはゴツゴツとしたものが入っている。

 

「このアリの外殻は圧縮すると驚く程硬質化する。その特性を使って内側の防弾部に硬質化させた外殻を使用した」


「実際に撃ってみる、っていうのは出来ないか。まぁ拳銃の弾よりも速い攻撃は俺の居る階層では今の所来ていませんから大丈夫じゃないかな、と」


「耐切創性のテストは実施済みだ。包丁でぶっ刺しても繊維が切れる事はねぇ」


「それはまた、強靭ですね」


 工場長の説明に感心しながらベストを撫でる。

 

 やはり肌触りが良いというのは、着る場合を考えると重要な事だよなと思う。

 

 続いて工場長は箱から取り出したヘルメットを取り出すと、コンコンと叩きながら教えてくれた。

 

「こいつはさっき言った硬質化を利用して形状をヘルメット型に圧縮して作ったもんだ。従来のものより硬い上に軽い。特殊プラスチックのヘルメットなんて目じゃないくらいのシロモノだ」


「ホントだ、かなり軽い。内側にクッションとか敷いたらまた変わるんでしょうけれど、元々がかなり軽いから問題にならなさそうですね」


 そう言って秀平も同じようにコンコンとヘルメットを叩く。軽い音がするが決して中がスカスカという訳ではなく、凝縮されているからこの音が出るといった感じだった。

 

「んで最後がこの超硬度短棒。別に短棒の形じゃなくていいんだが分かりやすく棒にしておいた。こいつは複数の外殻を圧着・圧縮させて短棒の形に形成したものだ。重さもそれ程でも無く何より硬い。鉄棒とコレで殴りつけたら鉄棒が一方的に曲がるくらいには硬い」


「それは凄い……。アリの外殻にこんな使い方が出来るんですね」


「ま、今必死になって色んな研究所も民間企業もダンジョン産素材の研究開発を行っている途中だからな。ウチもその一つだ」


「へぇ……。それでこれらは、今後この工場で作られるんですか?」


 その質問に、工場長が頭を捻る。

 

「実はそこを悩んでる。こういうものが出来ました、だから造りますで売れるならいいんだがな。造っても売れないんじゃ意味ないだろ。だから冒険者にまずはどの程度売れそうか聞いてみようかと思ってよ」


「なるほど、そういう事ですか。えーっと……まずこのシャツなんですけれど、染色は出来るんですか?」


「問題ない。いくつか色見本も用意できるぞ」


「ならシャツは問題ないかと。耐切創性がある外着が欲しい冒険者は沢山いますから。あとヘルメットも人によっては買うかな。ヘルメットの場合他の用途が多すぎて冒険者よりも他の業者に売れそうですけれど」


「それは分かってる」


 そう言って頷く工場長に秀平が言葉を続ける。

 

「後は冒険者としては手袋みたいなものが作れると助かります。滑り止めのついたグローブがあると武器を持っている時間が長いので疲れにくいかな、と。そこに耐切創性や耐熱性がある繊維で作られたグローブが安価で手に入るなら買うと思います」


「なるほど、グローブか。あまり厚手じゃない方がいいんだよな?」


「そうですね、なるべく薄手で、指ぬきグローブみたいなものが良いかと。掌の部分に革やゴムを張って滑り止めにしてあると助かります」


「なるほどな。となると縫製工場の仕事だな」


 そういう工場長の頭には既に計画が立っているようで、他の工場を巻き込んで作り始めるのが目に見えていた。

 

「後はこの短棒ですけれど。この硬度を維持して棒じゃなくてナイフや剣、杖の形に出来るといいんですけれど」


「要はセラミック包丁の要領か。出来ない事は無いな」


「包丁ほど刃を細くする必要はありません。ある程度の硬さがあって尖っていたりすれば後は勢いで切れますから」


「そりゃそうだな。それで杖の形も当然出来るが、棒を長くするだけじゃダメなのか?」


「今ギルドショップで売られている魔法使いの杖って、基本的に魔力増幅機能のついた魔石入りなんですよ。なので魔石を填められる部分をつけると冒険者相手になら売れるかな、と。普通の木材よりも軽いですしね。それと魔力伝導性は──」


 そう言うと、秀平は持った短棒に魔力を通し、少しだけ発露させる。

 

 普段使っているトレントの杖と似た軽い感触を受け、その事に笑みを浮かべた。

 

「元の素材がダンジョン産だからか、魔力伝導性は凄く高いですね。これに魔石を加工して填め込めばかなり魔法使いには売れますよ」


「そうか。魔力伝導性か、そういうのもあるんだなぁ。魔石の加工に関しちゃちょっと確認してみるか、ありがとうよ」


 そう言うと工場長は笑顔で頷く。

 

 それに秀平も合わせて頷くと、工場長は席を立って笑顔を浮かべながら扉の方へと向かっていった。

 

「よっしゃまずは縫製工場と他の工場に連絡だな! 紡糸と加工に関しちゃこっちでやることにして後は流れでいけるか!? よっしゃ忙しくなるぞ~!」


 そう言いながら慌ただしく休憩室を出ていき、バタンと勢いよく扉を閉める。

 

 そうして休憩室には、秀平達学生四人だけが残された。

 

「……全く父上は。仕事人間すぎるでござるな。すまんでござる島長氏」


「いや、いいお父さんじゃない? やる事が決まったらすぐ動きたくなる気持ちは分かるし」


「報酬は何が良いでござるか? 何だったら新製品一式揃えて提供させるでござるが」


「それはありがたいかも。じゃあとりあえずそれを貰っておくね。こんな意見を言うだけしか出来なかったけれど」


「いやいや、ずいぶん助かったでござるよ。やはり冒険者の実情を知らない人間が造っても頓珍漢な方向の商品になりそうでござった。そういう意味では本当に島長氏には助けられたでござるよ」


「そう? そうだったらいいんだけれど」


 そう言うと秀平は平阪の用意してくれたお茶を一口飲む。

 

 そんな感じで少しまったりした所で、平阪が告げた。

 

「それじゃあこの後拙者の家でゲームでもするでござるか。漫画もあるでござるよ」


「お、いいねぇ。まだ速いし平阪の家で遊ぶとするか」


「賛成、偶にはそういうのも良いだろう」


「だね」


「それじゃ、拙者についてくるでござる!」


 そうして、工場から離れて秀平達は平阪の実家で楽しむのだった。

 

 なお平阪の部屋は普段の言動通りのまるでドラマにでも出てきそうなオタク部屋だった事に、平阪以外の三人は引くより前に感心をしてしまうのだった。

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