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友人の実家へ

思ったより長くなりましたので二回に分けます。

よろしくおねがいします。


「島長氏~、いるでござるか」


「ん? どうかした平阪」


 授業も全て終わり放課後になった途端、隣のクラスから平阪が同じクラスの宍戸と共にやってくる。

 

 今日は特に何の用事も無いから野村達と一緒に帰るかと思っていた所だが、丁度良く向こうからやってきた形だ。

 

 そんな平阪の声に応えながら鞄に教科書を詰め込んで帰宅の用意をする。

 

「今日、特に用事が無ければ拙者の実家の仕事場に来ないでござるか」


「平阪の実家、町工場だっけ? どうしてまた」


 不思議なお誘いに疑問をそのまま口にした秀平に、平阪は応える。

 

「実はウチの工場でダンジョン産の素材の加工に着手し始めたのでござる。それで試作品をいくつか作ったので現役の冒険者に使い心地を聞いてみたいと父上が言うので、島長氏にと思ったのでござる」


「なるほど、ダンジョン絡みか。うん、面白そうだし行くよ」


「なら俺達も一緒に見学に行くか、な、宍戸」


「俺は元々そのつもりだし、急に出てきて当たり前のように言うな野村」


「なら四人で工場見学でござる。お茶と茶菓子くらいは出すでござるよ」


 そうして、男友達四人で工場見学となった。

 

 平阪の実家の工場は駅から少し離れた町工場の集まる一帯に存在している。

 

 もちろん平阪家が工場に住んでいる訳ではないが、工場と平阪家の間は自転車で15分程の近さだ。

 

 駅からは少し離れるがそれでも都心である事からコンビニやスーパーなどが集まった一帯も近くにあり生活に苦労はしていない。

 

 そんな町工場に平阪を先導にして訪れると、中からは金属加工の音や機械の稼働する音がせわしなく聞こえてきた。

 

 金属同士が激しく擦れ合う甲高い音に思わず頭を揺さぶられるが、平阪は平然とその中を歩いていく。

 

 平阪からすれば聞き慣れた音でしかないので工場でこういう音がするのが当たり前なのだ。

 

 そんな風に工場を見て回ると、工場のラインの一つを確認している中年男性の姿があった。

 

 そこへ平阪が近寄ると声をかける。

 

「岡崎さん、お疲れ様です」


「お、なんだ坊っちゃんじゃないですか。今日はどうしたんで?」


「父に呼ばれまして、新作のダンジョン産素材で作った試作品の確認です。父は居ますか?」


「工場長なら今は休憩入ってますよ。休憩室に居ると思います」


「ありがとうございます。どうぞご安全に」


 そう言って頭を下げる平阪に男性は安全帽を外して挨拶をする。

 

 彼との会話を終えた平阪はすぐに三人の所へと戻って声をかけた。

 

「父上は休憩室でござる。丁度良いから休憩室に行くでござるよ」


 再び平阪の先導で建物内へと入り、扉をいくつか潜る。

 

 そうして休憩室と看板のかけられた部屋へと入ると、中を覗き込んだ。

 

「父上~、いるでござるか」


「おう、浩一来たか」


 平阪の声に応えたのは休憩室の中にある畳のフロアであぐらをかいて新聞を読んでいた男性だった。

 

 手には湯呑を持ち上下作業着を来た男性は白髪交じりの髪を短く切り揃えている。

 

 バサッと読んでいた新聞を畳に置くのを見て、平阪は秀平達を休憩室へと招き入れた。

 

「父上、今朝言った現役冒険者で友人の島長氏でござる。それと野村氏と宍戸氏」


「おう、よろしく。俺は浩一の父親で、この会社の社長……まぁ普段は工場長だが、工場長とでも呼んでくれ」


「初めまして、島長秀平です」


「野村です、野村剛史」


「宍戸宏文と言います」


 そんな自己紹介を終えている間に、平阪は四人分のお茶を用意してテーブルへと並べる。

 

 一緒に備え付けの網カゴからお菓子を引っ張り出していて本当にお茶と茶菓子を用意してくれるようだ。

 

「それで、話は浩一から言ってるとは思うが改めて。ウチで取り扱う事になったダンジョン産素材の試作品をいくつか作ったんで、現役冒険者に確認して貰いたいと思ったんだがな、直接のツテがねぇ。そこで浩一の友達の冒険者である島長君に見てもらいたくてな。勿論報酬もある」


「それは……報酬は特にいらないかなって思ってるんですけれど」


「ま、そう言う訳にもいかんさ。とにかく一度見てほしい。今持ってくるからそれまで浩一とここで待っててくれ」


 そう言うと工場長は靴を履いて休憩室から出ていく。

 

 秀平達はとりあえず平阪の用意してくれたお茶と茶菓子を飲んで待っている事にした。

 

「平阪、どんな試作品ができたんだ?」


「衣類が複数と、ヘルメット。それと棒状のものと聞いているでござる」


「衣類?」


「正確には衣類に相当するもの、でござろうか。防弾チョッキのようなものを想像して貰えれば良いと父上も言っていたでござる」


「へぇ~、衣類か。どんなのが来るんだろう」


 そんな話をしているとガチャリと扉が開き、工場長が戻ってくる。

 

 両手に抱えたダンボールからはいくつかの道具が見え隠れしているが、その中でも一際突き出した棒があった。

 

 見た目は確かに棒だ、だがその外側の色艶が、どこかで見たことがある。

 

 どこだったか……と記憶を浚い、ダンジョン産という言葉でピンと来るものがあった。

 

「あっ、アリの外殻」


「へぇ、よく分かるもんだ。その通り、こいつはダンジョン産のアリの外殻を素材にした超硬度短棒よ」


 そう言って工場長が取り出したのは、間違い無く短棒と呼べるものだった。

 

 そしていくつかのシャツやベスト、ヘルメットなどと一緒にテーブルの上へと並べられる。

 

「さて、それじゃあ一つずつ説明するが、質問は後でしてくれよな」


 そう言う工場長の声は、どこか嬉しそうな響きを持っていた。

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