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家庭環境の問題

よろしくおねがいします。

ダンジョン以外パートはこれで終わりです。


 初めて食べた鯉こくは秀平の口にあった。

 

 秀平の妹も初めて食べるものに「美味しい」と一言呟いてから黙って箸を進めている。

 

 鯉の身も程よく口の中でほぐれて旨味を出している。

 

 道場の師範、奈緒の祖父はその味に満足なのかうむうむと頷きながら鯉こくを食べ、師範代の焼いた鶏肉を食べる。

 

 秀平も鶏肉を頂いているがこちらもまた良く焼けているし味付けも絶妙だ。

 

「この焼鳥は、何ていう料理なんですか」


「ウチじゃそのまま鉄板焼きだけれど。そもそも特別な味付けはしていないしね」


 一緒に箸を進めている奈緒の言葉になるほどと頷く。

 

 確かに特別な味付けは無いが、そのまま鶏肉の味を引き立たせるような美味しさだ。

 

 一緒に炒められたキャベツや人参もその味に一役買っている。

 

 これはこれで美味しいからいいかと思いつつ、次々焼かれていく肉を食らい、鯉こくを味わう。

 

 この場に集まった父兄達はそのまま宴会モードへと入り、門下生達も成人している人達は飲み始めている。

 

 場が賑やかに進んでいくと、年少の秀平達は自然と集まって談笑しつつ食事を摂る形になっていた。

 

「こういう賑やかなのもいいよね。今年の夏休みもお父さんどこにも連れていってくれなかったからなぁ~」


「去年は受験だったものね。私は従兄弟の家に行ったけど、ひとみはどこにも行ってないの?」


「まぁ家族で映画鑑賞とか外食には行ったけどね。それと友達と遊びはしたかな」


「帰る田舎が無いとそんなもんじゃないですか? ウチもどこにも行ってませんよ」


 ひとみの言葉に秀平が合わせて言うと、拓海も続く。

 

「ウチも特に田舎は無いので。私もそうですけど妹も今年受験なので……」


「拓海ちゃんの妹、今年受験なんだ。高校受験?」


「はい。その所為って訳じゃないですけれど、家の中がピリピリしていて」


 そう言うと、拓海が一つため息をつく。

 

 その視線の先には拓海の両親が鯉こくを楽しんでいる姿が写った。

 

「今日は妹は外で友達と受験勉強に行っているから、両親共私に付いてきたんです。普段は兄か妹の側にいますけど、今日はどちらも居ないので」


「ふ~ん。お兄さんは大学生?」


「はい。今年三年生です」


「そっか、じゃあそろそろ就活だ」


 ひとみがそう言うと、拓海は「はい」と小さく呟いた。

 

 そうして、続けるように「でも」と言う。

 

「兄は公務員試験を受けるみたいです。来年もピリピリした空気になるのかな、と思うと精神的に億劫で……」


「公務員試験か。重要だもんね」


「なので今から気が重くて……今の家の雰囲気も良くないので、早く独り立ちしたいなって」


 そう小声で言いながら鯉こくを口に運ぶ。

 

 小さな心のつぶやきに奈緒が黙って頷いてから拓海の皿にお代わりの鉄板焼きを装う。

 

「拓海は兄と妹に挟まれてるからね、苦労もあるんだろう」


「苦労、っていうものでもないと思うけれど。奈緒ちゃんの所が羨ましいよ、上はお兄ちゃんばかりだし」


「そうは言うけれど、私の家も中々大変だぞ。兄達は私を女扱いしないし、ガサツだし」


「奈緒のお兄さんはみんな家を出てるんだっけ今」


「長男は自衛官になって独立してる。結婚もしてるよ。次兄と三男は今他の道場で修行中。特に次兄は将来ウチを継ぐって張り切ってるから」


「お兄さん三人なんですね東雲さんの所は」


「そう。家は道場で兄弟はみんな男、良く私はこう育ったと思うよ」


 それはどういう意味なんだ。

 

 思わず突っ込みを入れそうになった秀平だが、その言葉をぐっと飲み込んだ。

 

「まぁ私の家の事はいいわ。拓海は将来家を出たいのよね」


「うん、いつになるか分からないけれど、いつかは」


「冒険者続けていれば結構すぐ行けると思うよ。ていうか拓海ちゃん受験大丈夫なの?」


「あ、私は推薦受けられるのでそれが終わるまでは何とか。落ちちゃったら一般受験で大変になりますけれど」


「白瀬さんも推薦受けられるんだ、志望校はどこ?」


「奈緒ちゃんの所の大学を」


「一緒だ」


「島長君も同じ志望校なんだ、よろしくね」


「といっても俺も推薦受験がまずあるんだけれどね」


 秀平がそう言うと拓海は嬉しそうに「一緒だ」と呟く。

 

「同じ環境の子が周囲に居なくて。島長君は何か委員会とかしていたの?」


「俺は特に何も。白瀬さんは委員会とかしていたんだ」


「うん、図書委員を。文芸コンクールとかでちょっと賞を貰ったりしたから、それで推薦受けられたみたい」


 やっぱり図書委員だったのか、と心の中で呟く。

 

 見た目の印象通り文学少女である事実が判明しただけ、秀平は拓海の事が少し分かった気がした。

 

「じゃあ受験頑張らないとね。あ、でもそうするとダンジョン探索どうするの? 二学期でしょ推薦」


「俺は別に、続けますよ。ダンジョン探索でストレス発散できてる部分もありますし」


「私も。気晴らしにはなりますし、将来の貯金が着実に貯められてますから」


「そっか、なら安心。あ、ちゃんと合格するまでは安心じゃないか」


 「失敗失敗」と言いながら舌をペロリと出すひとみの言葉に笑みを零す。

 

 そうして身内とも呼べる面々の家庭環境を知りつつ、真夏のバーベキューを十分に堪能するのだった。

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