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周辺の女性達について

よろしくおねがいします。

思いの外長くなってしまいました。


 庭で談笑をしていると、道場の方から門下生がやってくる。

 

 両手には大きな寸胴鍋を抱え、慎重に歩きながら進んできた。

 

 それを「よっこいしょ」と言いながら石ブロックで作られた竈の上に置き、ホッと一息ついている。

 

 竈の下では既に焚き火が起こされており、その上に改めて置かれた形だ。

 

 寸胴鍋の数は3つで、相当数の人間が鯉こくにありつけるだろう。

 

 最後に道場の師範、奈緒の祖父がやってきて一つ一つの鍋の蓋を開けてはうむうむと頷くと、ビニールプールから一本取り出して飲み始める。

 

 ラベルを見る限り缶ビールだ。

 

「鯉こくは一時間アクを取って澄んだ状態にしてから味噌を入れるのよ。ウチは赤味噌を使うけれど地方によっては白味噌でも作るみたい」


「へぇ~、一時間。仕込みも大変だ」


「だから今日みたいな大勢の人に出す時は門下生も手伝うの。普段は祖父と父が作っているわ」


 奈緒の言葉になるほどと感心する。

 

 鯉こくは男の料理、東雲家ではそういう決まりになっているという事だ。

 

 そんな事に感心しているととうとう奈緒の父が動き出す。

 

 門下生も集まった所で鉄板料理に良く使われるコテを取り出し、目の前の大きな鉄板に油を敷いてまず野菜を炒め始めた。

 

 ジュワーと心地よい音と共に野菜が踊り、それを両手のコテで切り分けながら炒めていく。

 

 かなり手慣れたその手つきにやはりテキ屋かと思っていると、門の方から一組の家族がやってきた。

 

 拓海とその両親と思われる一組の家族は、拓海は一言二言言葉を交わすとそそくさと奈緒の方へと近寄り、その両親は手土産を携えて奥からやってきた奈緒の母へと向かっていく。

 

「奈緒ちゃん。島長さんも、こんにちは」


「こんにちは、白瀬さん」


「拓海、いらっしゃい。ご両親でやってきたのね」


「うん。別に両親で来る必要ないって言ったんだけど、ご近所の付き合いがあるからって……」


 拓海の少し嫌そうな表情を浮かべながら言った言葉に奈緒が苦笑しつつ黙ってジュースを手渡す。

 

 ビニールプールから出したてのキンキンに冷えた炭酸が拓海の喉を潤した。

 

 秀平はそんな拓海に秀平の横で奈緒の父が開始した鉄板料理をほへ~と見ている妹を紹介する。

 

「白瀬さん。こっちは俺の妹の美紀です。こちら、白瀬拓海さん。こちらの道場に通ってて一緒にダンジョン探索してる人だ」


「こんにちは。白瀬拓海です」


「あ、島長美紀です。兄がいつもお世話になっています」


 妹のそんな挨拶に「お世話になっているのは私だけど」と言う拓海に苦笑を浮かべつつ、秀平はもう一人も来たと心の中で呟く。

 

「もう一人、大崎ひとみさんていう方も一緒にダンジョン探索してる。今来た」


 そういう秀平の視線の先では、お~いとこちらに手を振りながら近寄ってくるひとみの姿と、予想以上の人出だったのか雰囲気に面食らっている父親と思われる人がやってきた。

 

「や、奈緒も拓海ちゃんも秀平君もこんち~。ウチのお父さんが中々準備終わらなくて遅くなっちゃった」


「まだ本番は始まってないから大丈夫よ。いらっしゃいひとみ」


 今日も元気にやってきたひとみに奈緒が苦笑を浮かべつつ対応すると、目ざといひとみは秀平の横に立つ妹の姿をすぐに発見する。

 

「秀平君の妹さんかな? 私は大崎ひとみ、よろしくね~」


「し、島長美紀です。よろしくおねがいします」


 そんな挨拶をしてからすぐ妹が秀平の脇腹をつつき、小声で問いかける。

 

「ちょっとお兄ちゃん! 女性ばっかりじゃない! なんで女性ばっかりの中にお兄ちゃんがいるの!?」


「いやなんでって言われても、不可抗力というか話の流れというか。別に構わないだろ?」


「そりゃあ構わないけど、構わないけど。ていうか友達の野村さんとか宍戸さんはどうしたのよ」


「あ~、あいつらまだ18歳になってないから。それにこの時期に冒険者始めるのはさすがに受験大変だし、受験終わったらってみんな言ってるよ」


 そんな秀平の説明に「あ~」と納得しつつ、妹はチラリと視線を外す。

 

 そちらには奈緒の祖父とビールを開け始めた秀平の父達が集まっていた。

 

「……お母さんとか絶対知らないでしょ」


「そりゃあ、言ってないからな。なに、何か問題?」


 純粋に疑問に思った秀平のそんな言葉にハァ~と分かりやすくため息をつくと、妹が秀平に言う。

 

「お母さんに知られたら事だよ。私が見定めるとか言って乗り込んできそう」


「いやいや、そんな大げさな」


 そんな秀平の言葉に再びため息をつくと妹は紹介された女性陣を見つめて言う。

 

「お兄ちゃんはお母さんの事が分かってないね。まぁいいよ、不純な動機で一緒にダンジョン探索してる訳じゃなさそうだし。それはそれで問題だけど」


「ん~、何が問題?」


 妹の言葉にひとみが反応して問い返すと、妹が少し困った表情を浮かべながら言う。

 

「いえ、皆さんみたいな女性と一緒にいるのに、不純な動機も一切無さそうな兄が心配で。奈緒さんはお綺麗だし大崎さんも白瀬さんも可愛らしいのに、そういうのが無いのかなって」


 そう言われた秀平としては虚を突かれた表情を浮かべる。

 

 今までそんな事考えた事も無かったと思いつつ、秀平は自分の状況を見つめ返す。

 

 そうして一瞬考えた後、「やめておこう」と思い至った。

 

「そういう風に意識した事ないし。三人はあくまでもダンジョン探索のパーティで、言うなればビジネス上のパートナーというか」


「そうだろうね~。まぁ別に男女が一緒に居たら恋愛に発展しないといけないって事じゃないから」


「それは分かりますけど、兄もまだ高校生なのにそういう恋愛の話とか聞いた事ないから」


「へぇ~、秀平君恋人とか居なかったの?」


「全然聞いた事ないです。男友達と一緒に遊んでるくらいしか聞いた事ないです。同じ高校なので分かりますけど、兄の周り本当に女っ気が無いみたいで」


「おい余計な事言うな美紀」


「お兄ちゃんは分かってないだろうけれど、思春期の女子にとって上級生男子なんて格好の獲物なんだからね。いつも四人でつるんでるお兄ちゃん達は偶に噂になるよ」


 妹のその言葉に「マジか……」と唖然として言った秀平に、奈緒が苦笑しつつ声をかける。

 

「さ、肉が焼けたみたい。秀平君も妹さんも、一緒に取りに行こう。鯉こくも忘れずにな」


「秀平君の恋愛遍歴についてはその後って事で~」

 

 茶化して言うひとみの言葉に「こら」と言いつつ、奈緒達はバーベキューのメインとなる食事を取りに行くのだった。

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