真夏のバーベキュー
よろしくおねがいします。
拓海の名前は「しらせ たくみ」で合っております。
読みにくくてすみません。
自室で自己学習をしている時に、ガジェットにチャットの通知が来る。
グループチャットに流れた連絡は奈緒からで、次の休みに道場でバーベキューを行う旨の連絡だった。
高校生以下の学生の夏休みがもうすぐ終わるという事で、道場に通っている学生の家族向けに毎年行っているらしい。
ぜひご家族とどうぞ、と案内があったので秀平はその日の晩ごはんの時に家族が集まったタイミングで情報を共有した。
「ふむ、道場か。そういえばまだご挨拶に行っていなかったから、行くべきかな」
「別に、気にしなくてもいいと思うけれど。俺は行くけどその時に挨拶がてら一緒に行く?」
「ならそうしようか。手土産に何か持っていくべきだろうから、何がいいかな」
そうして父が思考をしていると、秀平の妹が手を挙げる。
「バーベキュー私も行きたい!」
「まぁ……いいんじゃないか。学校からの課題終わってるなら」
「もうとっくに終わってる。ちょうどその日は特に用事無いし私も行くね!」
「分かった分かった。健二はどうする、一緒に行くか?」
「俺は友達と予定あるから、兄貴と美紀で楽しんでくればいいよ」
「分かった。母さんは?」
「私は家でのんびりしてるわ。この真夏に外でバーベキューは少ししんどいし」
「じゃあ俺と父さんと美紀の三人ね。向こうの人に連絡しておくよ」
そう言って、グループチャットで三人で行く旨を連絡する。こうして次の休日に三人で東雲道場へと訪問する事になった。
そしてその日。昼時くらいからバーベキューを始めるという事で三人で電車で二駅乗り、駅で手土産を買う。
父の選んだ手土産は無難にクッキー詰め合わせだった。
駅ビルの中にあるちょっとオシャレな店のクッキーだが、まぁ大丈夫だろうと秀平は考えていた。
その隣では妹が隣のテナントで売っていたテイクアウト用のアイスを食べている。
こういう時妹はちゃっかり父におねだりして買ってもらう事が多いから、要領が良いんだろうなぁと感心しつつ、東雲流動場へとやってきた。
道場の敷地内では既にビーチパラソルやバーベキューグリルが展開されており、炭火の焼ける独特の香りが漂っている。
なんと言っても庭部分の正面にどでかい鉄板が敷いてあり、その下にブロックで作られた竈に薪が焼べられていて、横には大量の野菜や魚介、鶏肉が山盛り盛られている。
まるでテキ屋の屋台だと思いつつ、その鉄板の前にでんと構えるのが鉢巻をつけタンクトップを身に纏った道場の師範代で奈緒の父である事を確認して、さらにまるでテキ屋だな、と感じる。
いかつい感じのおじさんが鉢巻付けて鉄板の前を牛耳るというのは、いかにもテキ屋だ。
そんな事を思っていた秀平だが、父と妹は道場の庭先に入ってきてからその雰囲気に若干気圧されていたようだ。
ここで本当に大丈夫なんだろうか、などと思っていると、そのテキ屋風の師範代が秀平に気付く。
「や、秀平君。ご家族の方もいらっしゃい。今日は楽しんでください」
「師範代、こんにちは。今日はお招きいただきまして。こちらは俺の父と、妹です。ほら父さん」
「あ、あぁ。初めまして、息子の秀平がお世話になっております。父の島長哲司です。こちらは娘で秀平の妹の美紀です」
「は、初めまして。よろしくおねがいします」
そう言って頭を下げる美紀に師範代は笑みを浮かべて頷く。
「はい、よろしくおねがいします。美紀さんは高校生かな?」
「は、はい。今年高校一年生です。弟も居るんですけど、今日は弟は用事があって」
「ウチの弟と妹は二卵性なんです。俺と同じ学校の下級生です」
「そうか。弟君に関しては機会があればという事で。それじゃ、おーい奈緒!」
師範代が道場へそう呼びかけると、パタパタと足音を立てて奈緒がやってくる。
「はーいお父さん。あ、秀平君いらっしゃい」
エプロンを身に着けた奈緒が笑顔で秀平達を迎えてくれる。それと同時に、手に持っていたザルを師範代へと手渡した。
「はい父さん、お野菜。あとお替わりが二杯分あるから」
「うん、ありがとう。それじゃあ奈緒はこっちで秀平君達のお相手をしなさい。どうせ後は鯉こくだけだろう?」
「分かったわ。初めまして、東雲奈緒です」
「は、初めまして。島長美紀です」
「俺の妹です」
「そうなんだ。美紀さん、飲み物は何が良い? コーラとか色々あるわよ」
そう言って庭の傍らにあるビニールプールから缶ジュースを拾ってくる。見ればビニールプール内は氷水で冷やされていて、色々な飲み物が中に入っていた。
「完全に屋台のソレですね」
「まぁ今日は人数も多いしね。門下生のみんなは今は台所で鯉こくと他の肉やお野菜の仕込みしてるわ」
「へぇ、鯉こく。俺食べたことないんですよね」
「今じゃ逆に珍しいでしょうね、鯉こくなんて。ウチは祖父が好物だし、スタミナ付くからって昔から食べていたわ」
「それに鯉こくを食べると母乳の出が良くなるなんていう話もあるからね。ウチの妻が出産した時は月一くらいで鯉こくを作って食べたものさ」
「へぇ~そんな逸話が」
食べ物に意外な逸話があるもんだな、と秀平は感心する。
そうしてそのまま奈緒と談笑になり、次々と現れる門下生のご家族にも挨拶をしつつジュースを飲んで涼むのだった。




