テイマーのこと
よろしくおねがいします。
東雲流道場での鍛錬の日。
秀平とめぐみは一人の少女を道場で紹介された。
「こちら、白瀬拓海ちゃん。近所のお子さんで、高校3年生だ」
「し、白瀬拓海です。よろしくおねがいします」
良く言えば控えめそうな、パッと見文学少女を思わせる目の前の少女は、オドオドとしながら秀平達へと頭を下げた。
彼女を紹介してきた奈緒の父親も多少苦笑を浮かべながら、その様を見ている。
「何でも拓海ちゃんも、冒険者になったそうでな。入門自体は最近だが、昔から町内会でお世話になっている白瀬さん所のお嬢さんなんだ」
「最近はお互い忙しくなっていたから紹介が遅れたけれど、私の幼馴染なのよ」
「なるほど、幼馴染……」
奈緒の言葉にひとみがなるほど、と頷いて拓海を観察する。
艶のある黒髪をお下げにして、額部分をヘアバンドで留めている。服装は動きやすいジャージ姿だが、着慣れていない印象を受ける。
メガネこそかけていないが、図書委員ですと言われてもしっくり来る雰囲気があった。
そんな彼女が、なぜ冒険者に? と疑問を覚える秀平。
だがその答え自体は奈緒の父が持っていた。
「彼女、NFOのプレイヤーなんだよ。なんでもその中でもレアなテイマーというプレイをしているそうだ」
「テイマー!? 半分趣味技能じゃない! もしかして実際のスキルも?」
「そう、テイマー関連の技能らしい」
驚きと共に言ったひとみは「あっちゃー」と小声で言いながら額を押さえる。
テイマーという言葉自体は理解できていた秀平としては、一体テイマーの何が悪いのか分からずひとみに質問をした。
「テイマーって、何か悪いんですか?」
「テイマーはさっきも言ったけど半分趣味技能で、モンスターを仲間にするスキルがあるんだけど、仲間にできるモンスターはランダムなのよ」
「ランダム? 好きに決められないんですか」
「そう。テイマーがパーティに居る時だけモンスターがドロップするテイミングエッグと呼ばれる卵の中からランダムで現れるモンスター最大3匹を仲間にできるんだけど、狙ったモンスターが出るなんてラッキーはほぼ無いね」
「へぇ、テイミングエッグ。それってドロップ率どんなもんなんですか?」
「1%も無いって話だけど。それにエッグから出てきたモンスターの強さは全部初期レベルで、育てないと使い物にならないの」
「それって、あまりにも最初のハードルが高くないかしら?」
「だから半分趣味技能で、メインでテイマーやってる人なんてほとんど居ないよ。でも拓海ちゃんは、NFOでテイマーなんだよね?」
「は、はい。趣味でやってるNFOではモンスターを一匹だけテイムできているので、その子と一緒に……」
そう言うと、拓海の声が少し沈む。
「現実だとテイミングエッグをまだ手に入れてないので、ダンジョン探索もできなくて。何とか第9階層でモンスターを狩ってるんですけれど、日に10匹も倒せていなくて」
「あ~。あの混み具合だもんねぇ」
「はい、そうなんです。モンスターも倒せなくて、テイミングエッグも出ないので、とにかく今は自分を鍛えないといけないと思って、こちらの道場に入門したんです」
なるほど、そういう理由でこの道場に入ったのか。と秀平が納得すると、奈緒の父が眉尻を下げて秀平とひとみに言った。
「それで、どうかな。良かったら彼女も一緒にダンジョンへ連れて行ってあげてくれないか」
「私も父に相談されたんだけれど、二人にも聞かないといけないと思って。とは言っても私としては幼馴染の拓海の事は力になってあげたいと思っているんだけれど」
「う~ん、秀平君はどう?」
奈緒の言葉に否定も同意もせず、ひとみが秀平へ水を向ける。水を向けられた秀平も「う~ん」と悩んでから逆にひとみへ問いかけた。
「大崎さん、テイマーのデメリットって何かあります?」
「ゲーム的な話なら、経験値がテイムモンスターの分だけ分散するとか。後はテイミングモンスターには餌が必要で、定期的に餌をあげないと命令を無視するとかあるけれど」
「逆に、メリットは?」
「うーん、強さはともかくテイムモンスターの分手数は増えるよね。後はテイマー自体も魔法使い寄りのスキルになってるから、遠距離攻撃が主体になるとか」
なるほど、メリットデメリットはそんな所か、と思いつつ秀平は拓海へと問いかける。
「少し立ち入った事を聞きますけれど、どうして冒険者に?」
「私が元々NFOのプレイヤーだったという事も理由の一つにはなるんですけれど、私大学進学した後は一人暮らしをしたくて。その為に今の内に貯金をしておこうと思ったんですけれど、今なら冒険者が割が良いアルバイトより稼げると思って」
金銭的な理由。悪い事では無く目的意識がある事は良い事だ。その目標を達成するまでは少なくとも頑張るだろうと秀平は思っている。
聞きたい事は聞けたかなと確認してから、秀平は応える。
「分かりました。一緒にダンジョンに潜りましょう。大崎さんもそれでいいですか?」
「いいよ~。別に急ぐ旅でもないしねぇ」
秀平の言葉にひとみが頷くと、奈緒はほっとした表情を浮かべ、拓海が頭を下げた。
「あ、ありがとうございます! がんばります!」
「あんまり無理はせず、気をつけて進んでいきましょう」
張り切る拓海の言葉に秀平が気軽に返すと、拓海は再び頭を下げるのだった。




