クエストシステム
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お盆が明けた夏の日。
久々にダンジョンに来た秀平達三人は、久しぶりと挨拶をしながらゲート前の待ち合わせ広場で顔を合わせていた。
とはいえ久しぶりなのは秀平のみで、奈緒は田舎から帰ってすぐにひとみとお茶を楽しんでいた。
「島長君は、お盆の間自己鍛錬していたかしら?」
「それはまぁ。流石に休みの間怠けて動けなくなるなんて御免ですからね」
「私も一応筋トレとかはしてたけど、やっぱり道場で一度見てもらった方がいいかも~」
「ひとみはまだまだ動きが硬いからね。明日にでもウチに来てよ」
そんな雑談をしながらゲートを潜り冒険者証をゲートのセンサーにタッチすると、ゲートからピンポーンと機械音が鳴る。
その事に疑問を覚えた秀平は今一度ゲートを通ろうとタッチするが、またもや機械音によりそれは阻まれた。
それはひとみと奈緒も同じで、三人ともがゲートを通れずにいると、傍らで見ていた係員の人が声をかけてくる。
「音鳴った? 君たちギルドの受付には寄ったかな」
「受付? いえ、広場からそのまま来ましたけど」
「この音ね、冒険者ギルドからの呼び出しなんだよ。ギルドの方で対応してくれるから、受付に行ってきてくれるかな」
その言葉に疑問を覚えたが、どうやってもゲートは潜れないので仕方なく秀平達はゲートから離れる。
そうして三人で集まり、広場へと戻ってきた。
「冒険者ギルドからの呼び出し……。何かしたかしら」
「う~ん、わかんないね!」
「ともかくこのままじゃダンジョンに入れませんし、一度冒険者ギルドに顔を出しましょうか」
「そうするしかないわね」
奈緒の言葉に頷きながら三人で冒険者ギルドへと赴く。
冒険者ギルドのプレハブの後ろでは工事が行われており、駆動音を響かせながら作業が行われているのを眺めつつ冒険者ギルドへと入る。
内部には新しく導入したのだろうタブレット端末が数多く置かれたフロアがあり、その先に受付があった。
秀平は受付カウンターで冒険者証を取り出すと、カウンターに居る受付係の女性へと提示する。
「すみません、ゲートが通れなかったんですけれど」
「はい、呼び出しですね。冒険者証をお預かりします」
秀平から冒険者証を受け取った女性はそれを機械に置くと、タブレットを操作していく。
ほんの数秒操作した後に、女性は冒険者証をカウンターへと戻しながら秀平へと言った。
「島長秀平様ですね。この度ギルドからのクエストシステムに関する講習会がありますので、ぜひご参加いただきたいというお話です。お連れの方たちも同様の件かと思われますので、冒険者証をご提示いただいてよろしいでしょうか」
「クエストシステム……?」
受付係の言葉に頭を捻りながら秀平は呟く。
ひとみと奈緒も冒険者証を提示するとやはり同様の案件での呼び出しらしく、揃って頭を捻る事となった。
そんな三人に苦笑を浮かべながら、受付係が説明を行う。
「はい。この度新規にクエストシステムというものを導入しまして。ある程度の階層以上まで進めた冒険者様には一様に講習会への参加をお願いしております。時間も30分もあれば終わる簡単な講習ですし、是非ご参加ください」
「……っていう事ですけど。どうします?」
受付係の説明に秀平が二人へと促すと、ひとみと奈緒は応じる。
「クエストってあれでしょ。ゲーム的に言うなら条件クリアで報酬が貰えるやつ。私は別に参加してもいいけれど」
「私も構わないわ。私達に関して何か問題があるという話じゃないのでしょう?」
「えぇ、それは大丈夫です。あなた方の履歴を確認した所特に問題となる項目はございませんでした。クエストシステムに関するご案内をするようにと登録されていただけです」
奈緒の疑問に受付係がそう答える。
「なら、俺としても特に問題は無いかと。早速ですけどその講習を受けます」
「ありがとうございます。それではこちらへお願いします」
秀平の同意に、受付係はそのままカウンターから出てきて、秀平達の案内を行う。
受付係の先導するままついていくと、先程見たタブレット端末の置かれたフロアへと案内された。
そこで受付係が手近なタブレット端末を一つ手に取り、何らかの操作をしてから秀平へと手渡す。
「それでは、こちらの端末をお持ち下さい。お二人もこちらを」
そう言ってひとみ、奈緒へ端末を渡してから、受付係が講習を始めた。
「ではまず、この度は講習へご参加いただきありがとうございます」
「あ、このまま始まるんだ……」
そんなひとみの呟きに苦笑を浮かべてから、受付係が話を続ける。
「まずはクエストシステムに関するご説明です。クエストシステムとはそのままクエストを発行するシステムになります。ここで言う『クエスト』とは、義務ではないですが参加する権利のある探索任務の事を指します。リクエストとはまた別のものですね」
「探索任務……。依頼というのとは違うという事ですか?」
「はい。依頼は『リクエスト』と冒険者ギルドでは定義しております。『クエスト』はどちらかと言うとミッションの語源に近いものですね」
「ミッション……なるほど。それで、このクエストは一体?」
「クエストは探索により得た成果などをギルドへご提供いただきまして、その成果に対して報酬を支払うシステムです。成果は例えば特定のドロップアイテムの納品や、ダンジョン内部の地図の作成などがあります」
「今までもドロップアイテムは売却していましたけれど、それとは別なんですか?」
「はい、別になります。勿論通常通り売却益も含め、別途クエスト達成の報酬が支払われると思っていただいて結構です」
「それって、報酬の二重取りなのでは?」
秀平の言葉に受付係の女性が笑みを浮かべると一つ頷く。
「いえ、二重取りにはなりません。クエストの成果はクエストの成果、売却益は売却益で報酬が支払われている事になりますので。税務上も問題ありません」
「ならいいんですけれど……」
「話を続けます。こちらのクエストに関しては適時発行されているもので、受注と納品という作業が必要になります。受注に関しましてはこちらのタブレットで行えます」
「へぇ、なるほど」
そう言ってタブレットの画面をいくつか操作していると、導入されているアプリ画面が開く。そこにはクエスト発行状況が記載されていた。
内容は各フロアの地図の作成、アリの足の納品、ネズミの尻尾の納品など、具体的な納品アイテムの画像と共に記載されていた。
そして、クエストの発行者欄には色々な企業が記載されている。
そのクエスト状況を眺めつつ、ひとみが感心したように呟く。
「これって、通常の買い取り以外にもこの企業がドロップアイテムを買い取りたいって事だよね」
「はい、そうなります。別途報酬を支払ってでもアイテムを購入したい、そういう企業があるという事です」
なるほど、そういう手で来たか。
秀平達は冒険者ギルドの手腕を察して心の中で感心していた。
つまりこれは、企業が直接ドロップアイテムの買い取りに乗り出してこない為に冒険者ギルド、ひいては国が打った施策の一つという事だ。




