そんな夏の日のこと
よろしくおねがいします。
第21階層の探索には、しばらく時間が必要だった。
入り口からいくつもの方向に誰かが通過した形跡はあるが、それを辿ってもすぐに正解に辿り着ける訳でもない。
しらみつぶしに探索を行っているが、3ルートを辿った結果どれも外れた。
そんな風に時間を消費してはいたが、別に急ぐ旅でもない上に、秀平達からすれば現状でも十分楽しんでいるという状況だった。
今は4つ目のルートを辿りやってきた引き返しポイントに腰を落ち着けて昼食を摂っている所だ。
4つ目のルートも外れルートで、この先に行っても何も無さそうな雰囲気しかしない。
これで4つはハズレ、という事が分かった事が今日の収穫だった。
勿論外れルートだからといってモンスターが沸かない訳では無く、ちゃんとウサギがやってくる。
そのドロップアイテム自体は収入になるのできちんと拾っておく。
雑談をしながら食事をしている時に、ふと奈緒が思い出した事を言った。
「そういえば、来週からのお盆、私は田舎の従兄弟の家に行くからダンジョン探索には参加できないわ」
「あぁ~、そういえばお盆か。了解、なおの予定は理解したよ」
「大崎さんはどこか行く予定ないんですか?」
「ウチ? 無いねぇ今の所。シーズン中は家でのんびりするから両親」
「そういう島長くんはどこか行かないの?」
「ウチも特に予定ないですね。じいちゃんばあちゃんの墓参りするくらいですけど、墓は都内にあるので」
典型的都市型生活者の秀平の家は遠出する機会は基本的に旅行くらいしか無かった。それはひとみの家も同様で、今の世代では奈緒の家のように田舎に住んでいる親戚が居るので田舎へ行く、というのが結構珍しかった。
勿論これは都内住みの人間に多いタイプで、都内に勤務地や住居が無い世帯には普通に田舎に親戚が居たりするのだが、ここでは割愛する。
そんな雑談を織り交ぜながら食事を食べ終わり、再びダンジョンの探索へと戻る。
今日は後は引き返して終わりだ。
次の探索は奈緒が親戚の家から帰ってきてからという事で、この日は解散した。
* * *
ダンジョン探索の無いお盆の日の事。
秀平は宍戸と平阪と一緒に駅前のカフェでお茶をしていた。
もう一人の友人野村は家族旅行でこの場には居ない。
毎日チャットアプリで家族で訪れている観光地の画像が送られてきているから、それなりに楽しんでいるのだろう。
そんな話題を話しつつ秀平達三人は冷たいカフェラテをストローで飲むのだった。
「それにしても、お盆は暇だな」
「お盆だからなぁ。世間の社会人は一般的にお休みだ」
「拙者達は受験があるから暇暇と言ってられないでござるが」
「まぁ勉強はそれなりにやってるけどさ。今ダンジョン探索のメンバーが一人田舎行っててダンジョン潜れないんだよね」
秀平のその言葉に宍戸と平阪がほぉ、と呟く。
そう言えばこの話をするのは初めてだったな、と思いながらカフェラテをストローで吸い上げる。
「島長は他の人とパーティ組んでるのか」
「まぁ。よく考えるとダンジョン探索を一人でするのって危ないしね。パーティ居ると結構気が楽だよ」
「なるほど。拙者達もダンジョン潜れれば良かったのでござるが」
「まぁそこはしょうがないでしょ。今の所未成年には家の許可が必要な以上、家の方針には逆らえないし」
「18歳未満は問答無用でダメだからな。早く成人したいぜ」
宍戸の言葉に平阪が頷きつつ、セットで注文したケーキをパクつく。
二人共ダンジョン探索にかなりの興味があり、何とかダンジョンに潜れないかと日々手段を探しているのだった。
「そう言えば島長は今どの階層まで進んでいるんだ?」
「今第21階層を探索中。見渡す限り草原で道に迷ってる所」
「おぉ、20階層のボスフロアは突破したんでござるな」
「ま、何とかね」
「21階層か。確かに21階層以降は開けた場所で目印も無いから探索範囲が広すぎて時間かかるという情報があったな」
「ネット情報か」
「まぁな。島長はネットで情報収集はしてないのか?」
「俺は攻略サイトとか見ない主義。やり込みプレイとかするんだったら別だけど、初見時には前情報無しで攻略したいからな」
「なるほど。であれば拙者達もネットでの情報は島長には伝えないようにするか」
「それがいいかな。ダンジョンの攻略に関する情報以外は共有するかもしれんが、それならいいだろ」
「それならね」
宍戸の言葉に同意を示した秀平に、宍戸が早速ダンジョン関連の情報を提供してくれた。
「ギルドショップで販売してる状態異常回復薬あるだろ。あれ栄養ドリンクとして販売しようと医薬品メーカーが製品開発してるらしい」
「あー。確かに病気も含め治るのなら汎用性高いからなぁ」
「栄養ドリンクにする以上はある程度効果が落ちるかもしれないけれど、それでも効果は画期的でござるから」
「どうも材料は31階層以降の密林フィールドで採取できるそうだけれど、そこまで行ってる冒険者自体少ないけどどうするんだろうな」
「動員かけて大量に採取可能な人員を養成するとか。製薬会社が専属の冒険者と契約して採取するっていうのもアリか」
「何にしても一日二日ではどうにもならなさそうな話でござる」
「まぁなぁ。大量生産までは時間かかるだろうな」
ずずーっとカフェラテを吸いながら言う宍戸の言葉に頷きながら秀平もカフェラテを飲む。
「じゃあ、今材料は高値で買い取りされるのかな」
「そうらしい。島長の一攫千金チャンスだな」
「現状でも大分稼いではいるけどな。まぁ冒険者の苦労が金銭という形で還元されるのは良いことだと思うよ」
現状の冒険者の稼ぎの平均を秀平は知らないが、それでも冒険者が苦労して得た成果がどのような形でも還元されるのであれば、それは冒険者にとって良い事だな、と秀平は思っていた。




