ギルドショップ
よろしくおねがいします。
女王蟻とその取り巻き達を倒した秀平達の前には、多くのドロップアイテムが落ちていた。
最後に作った巨石を消してから、秀平が巨石が落下した中心付近からアイテムの採取を始める。
ひとみと奈緒も維持していた前線付近からアイテムを拾い始め、広場の中心で秀平と合流する形だ。
ドロップアイテムはアリのパーツにネズミのパーツ、そして女王蟻のものと思われるドロップアイテムは複数存在していた。
他のものより大きな魔石が一つと瓶に入った液体が二つ、女王蟻のものと思われる大きな触覚、そして蟻の繭だ。
液体の方は500mlのペットボトル程度の大きさの瓶に入っており、それぞれ薄黄色と緑に色づいている。
その液体を持ってみても、瓶の蓋は外れないようになっていた。
「これ、何でしょうね」
「片方はさっき女王蟻が攻撃に使ってた強酸かな。もう片方は分からないなぁ」
「蟻も蜂と同様花の蜜を集める種もいるらしいから、その蜜かもしれないわね」
奈緒の言葉になるほどと頷いて鞄へとしまう。そういえばアリの駆除用罠なんかは黒蜜が主成分だったりする事を思い出したのだ。
とりあえず液体二つは鞄の中で割れないように大事にしまい、他のアイテムを収集していく。
アリとネズミのパーツは相当な数に上っており、三人とも背負ってきたバックパックの中身がパンパンになっていた。
それでようやく全て回収が終わった所で、広場の奥を眺めると、その先に石碑があるのが見えた。
広場を通らなければ次の石碑に辿り着けない仕様になっているこの階層は、中々に冒険者殺しと言える構造だろう。
だから門番として、広場のモンスターが機能しているのだろうが。
その事を理解してから石碑へとやってきて、階層を選ぶ選択肢を頭に表示させる。
そこには第21階層への入場権がある事を示してくれたが、さてどうしようかと思考を巡らすのだった。
「今日は鞄も一杯ですし、次の階層はやめておきませんか」
「そうだねぇ~。何より荷物が一杯だしね」
「それに、島長君の武器もどうにかしないとね。手ぶらじゃ心配でしょう」
「そうですね、この六角棒はもう使い物になりませんし。ギルドショップでも見に行くしかないかな」
ギルドショップとは冒険者ギルドに併設された各種アイテムを販売している店である。
武器、防具、薬などを販売しており、以前述べた状態異常回復薬もこのギルドショップで販売されている。
このギルドショップは今の所各企業が一旦ギルドへ商品を卸して販売している、公的機関ではある。
将来的には各取り扱い企業が自ら出店してくるのではないかと言われているが、未だ定かではない。
そういう所謂冒険者向け商品を売っている店であれば、秀平の武器も何か見つかるかもしれないと思った。
「じゃあ帰りはギルドショップに寄ろうか」
「私も、この先もこの木刀でいいのか確認の為にも見ていこうかな」
「じゃあ、今日はもう外に出ましょうか」
こうして秀平達は、第20階層を無事に脱出するのだった。
外は昼時を過ぎそろそろ日が傾くかという頃合いの時間に、三人はダンジョンから抜け出す。
ゲートを潜りそのままの足で買い取り所へと入り、バックパックからドロップアイテムを取り出していた。
瓶に入った液体二つと蟻の繭も取り出してから籠へと入れて、他のアイテムと一緒に並べる。
そうして買い取りカウンターへ提出すると、カウンターの女性が慣れた手付きで金額の査定をしてくれた。
秀平の持つドロップアイテムだけで、買い取りについた値段は約200万になる。
一際高かったのが薄黄色の液体と蟻の繭で、その金額は繭50万、液体80万になっていた。
内心でその事に驚きを浮かべながら、買い取り証書にサインをする。
サインといっても電子サインであり、冒険者証と合わせてピッと認証するだけで終わる簡単なものだ。
そうして買い取られた金額は全て一旦冒険者証へと登録される。
冒険者証自体に現金の引き出し機能はついていないが、登録された金額は冒険者証を利用した電子決済などで利用可能だ。
秀平は冒険者証を手に持ちながらひとみと奈緒と合流し、買い取り金額を伝え合う。
「私の持ってる分だけで120万だったよ。やっぱり数が多いと稼げるねぇ!」
「私も同じ。大体そのくらいが20階層だと普通に稼げる感じかな」
「俺の買い取り金額はボスドロップもあったので、200万でした。お二人に分配しますのでちょっと待っててください」
そう言って冒険者証にガジェットでアクセスして二人に25万ずつを振り込んでいく。端数は切り捨てだ。
そうして金額を均した所で、秀平は冒険者証に残されている残高に思いを馳せる。
この金額は自分で苦労して稼いだ額ではあるが、それでも一介の高校生が持つには多すぎる金額が残高として残されていた。
さすがにこれじゃ扶養控除は無理だよなぁと思いつつガジェットをしまう。
「さて、それじゃあギルドショップへ行きましょうか」
「そうだね、レッツショッピング!」
「良い武器があるといいんだけれど」
買い取り所を出てすぐ向かいに並ぶプレハブ小屋の一つに入る。そこがギルドショップと言われる店だった。
店内は綺麗に整頓されており、壁には剣から槍、盾もかけられており、様々なアイテムが並んでいる。
防具として服も売られている為、更衣室もいくつか設けられている。
店内は衣類の匂いと金属の匂い、それに使われている油の匂いとが混然となっていた。
秀平はその中で杖の並ぶ棚の前へとやってくる。
杖に関しては冒険者の半分が魔法使いであるという理由もあってか、多くの種類が取り揃えられている。
武器としてポピュラーな剣と槍と同じくらい品揃えは良いが、秀平は並べられている杖を見てうーむと唸ってしまった。
目の前に並んでいる杖に関しては、どれも大きさがバラバラであり、短いものでは指揮棒のようなものから、いかにもファンタジーに出てくるような大きな宝珠を埋め込んだ杖まである。
説明を見れば宝珠は魔力増幅効果のあるちゃんとした機能の一つなのだが、いかんせん大きい。
そして指揮棒のような杖に関しても指揮棒の底に魔石が埋め込まれており、これも魔力増幅の役割を果たすものであった。
だが秀平の杖の使い方は杖術を考慮したものになる。それを考えるとこの指揮棒など問題外であり、宝珠のついたものはその宝珠部分を叩き壊しそうでとてもではないが使えないと思った。
秀平の横ではひとみがまるで魔法少女のような星の形をしたアクセサリーのついた杖を嬉しそうに持っており、奈緒は剣の棚を一つ一つ吟味している。
どうもこの場に売っているものの多くは、大きさの大小はあれどほとんどが宝珠のついた杖になるようだ。
宝珠の魔力増幅機能というのは大事だとは思うが、杖術も考慮してくれないかなぁなどと思いつつ棚を眺めていると、棚の一番下にそれは置いてあった。
まるで枝からそのまま切り落としてきたように見えるその杖は、微妙に捻れているがしっかりと皮を剥ぎ乾燥させてある一本の枝だ。
装飾も何もない、宝珠もついていないその杖に興味を惹かれて設置されているPOPの説明文を読むと、どうやら一部ダンジョンに出現するモンスター、トレントのドロップアイテムである枝を加工したものらしい。
本来であればその枝に宝珠をつけて魔力増幅効果を高めるのだが、加工の段階で乾燥、火入れ・低温殺菌を行い低階層帯の小さな魔石を粉末にして顔料に織り込んだものを塗るという特殊加工を行ったそうだ。
その魔力増幅効果は狙った程の効果は見込めなかったが、枝に宝珠を埋め込むよりも頑丈な杖に仕上がった事から杖の本来の用途である何かを支える用途などに使えるのではないかと商品棚に並べられたようだ。
この杖は同様の見た目の杖が2本並んでおり、価格は安かった。
宝珠の有無に価格が左右されるんだなと納得しながらその杖を2本手に取る。長さも1メートル程度、重さも六角棒と変わらない。少々見た目がまんま木の枝にしか見えないのが難点だが、性能的には問題なさそうだ。
秀平はこれを2本買う事に決めて、他の二人に声をかける。
「二人とも、俺はこれ買いますけれど二人はどうしますか」
「私これ買うわぁ」
そう言ってひとみが手にとっているのは例の魔法少女のような星のアクセサリーのついた杖だ。どう見ても実用性度外視の趣味杖にしか見えないのだが、本人がそれで良いのなら良いのだろう。
対して奈緒は何も持たずため息をついていた。
「家にある刀の方が良いわね。やっぱり西洋剣と刀では全く違うわ」
「まぁ、そりゃそうでしょうね」
奈緒の愚痴ともつかない言葉に同意しつつ、秀平は2本の新しい杖を購入するのだった。




