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対第20階層フロアボス

よろしくおねがいします。


 第19階層までの探索を終えた秀平達は、若干の休憩に入っていた。

 

 秀平の学校が終業式を終え夏休みとなり、時間に余裕が出来たのだが、逆にひとみと奈緒がテスト期間に入り夏休みまで手が空かなくなってしまったのだ。

 

 秀平は日中は自己勉強を行い、決められた日に奈緒の実家の道場へと通い、ダンジョンへ潜る生活を送っている。

 

 そんな夏の日に、ようやくテスト期間の終了したひとみと奈緒が纏まった時間を確保する事ができ、20階層へと挑戦する事が決まった。

 

 そうして集まった三人は意気揚々と第20階層へと侵入し、モンスターを狩っていく。

 

 20階層まで来るとモンスターも種類ことそこまで変わらないが大きさが変化し、アリとネズミは中型犬ほどの大きさの生き物となっていた。

 

 飛来してくるコウモリも大きさこそ変わらないが群れの数は増え、蛇とイモリも数が増えている。

 

 道中で何度も遭遇戦を行い都度叩きのめして素材を美味しく頂いてはいるが、中々高い遭遇率にダンジョンへ入ってから三時間ほどで一旦スタミナが切れかけていた。

 

 そこで秀平が結界魔法により結界を貼って休憩を行う。

 

「いやぁ、さすが20階層。モンスターの密度が凄いね」


「誰も潜っていないからなのか、遭遇するモンスターが多いわね」


「ボスフロアっていうのも理由なんでしょうか。中々手強そうですね」


 ペットボトルの水を飲みながら各々感想を言いつつ、今後の事を検討する。

 

 休憩を挟んだので回復したスタミナを感じて秀平が結界を消して道を進む。

 

 ここがダンジョンで外の気温と同期していない事が幸いし、内部はひんやりと涼しいくらいで、ダンジョンの外の東京の湿度と気温がダンジョン内にも影響していたら、今よりひどい状態になっていただろう。

 

 そんな事を考えつつ道を先へと進み、モンスターを撃破していく。

 

 すると、奥へ進むにつれてモンスターとの遭遇頻度が減ってきており、おや、と疑問に思う。

 

「モンスター、減ってきてますね」


「そうだね、楽といえば楽なんだけれど」


「この先にボスモンスターという事であれば、ボスがいるから減っている、という事なのかな」


 ひとみと奈緒の言葉に理解を示すと、道の先にそれは現れた。

 

 両開きの漆黒の扉。文様の彫り込まれたその扉からは、触れなくても分かるくらいにひんやりとした空気が漂ってくる。

 

「この先、ボスでしょうね」


「そうね」


「ご丁寧に扉があるとは」


 秀平の言葉に同意する二人に目配せを行い、三人で扉に手をかける。

 

 そうして、押し開くとゴゴゴ……と音を立てて扉は開いた。

 

 内部は大きなフロアになっており、そこには大きなアリとネズミの団体が鎮座している。そしてその中心にいる、一際腹の大きな、独特の見た目をした巨大アリの姿。

 

 黒と黄色の縞模様を腹に賛えたその姿は、見た目には女王蟻に見えた。

 

 そんなアリとネズミの団体が、扉を潜ってきた秀平達に気付き、威嚇と共に攻撃を仕掛けてくる。

 

「中央、女王蟻!」


「まずは間引きします、東雲さんはその後で突撃してください!」


 言うが早いか、秀平は早速竜巻を杖から射出してアリとネズミの団体へと突っ込ませる。秀平達に突っ込んできていたアリ達はそれに巻き込まれ、切り刻まれていた。

 

 そこへ奈緒が木刀にオーラを纏い吶喊する。

 

「ブレッシング! ヘイスト!」


「助かる!」


 ひとみが補助魔法を使い三人の基礎能力と素早さを上昇させた後、さらに向かってくるアリ達と交戦に入る。

 

 奈緒が一番前線で木刀で接近戦を行っているが、相手は中々数を減らさない。元が多すぎたのだ。

 

 さすがにこれはラチがあかないと秀平は決断し、自身も奈緒に並んで魔力を纏い接近戦へ繰り出す。

 

 杖で殴打し、それと同時に魔法を射出。風の刃と石の礫でモンスターを倒していく。

 

 奈緒も木刀で数多の敵を切り裂いていく事で、前線が前へと押し上がった。

 

 そこへ、中央に陣取っていた女王蟻が甲高い鳴き声をあげると同時に、自身の尾の部分を秀平達へと向ける。

 

 それに嫌な予感を感じた秀平は一旦背後へと飛び退いた。

 

「二人とも、退避!」


「えぇ!」


「わかった!」


 秀平の言葉にひとみと奈緒が後ろへ下がると同時、女王蟻の尾から液体が吹き出し、広範囲に撒き散らされる。

 

 その液体を被る事は回避できたが、液体を受け止めた地面はジュウと音を立てて崩れた。

 

「どうも、強酸性の液体って事かな」


「飛び道具は厄介だね」


「さて、あの攻撃を仕掛けられると一々下がらないといけないのが難点か」


 奈緒達の下がった隙間を詰めるようにアリ達が再び前進してきて攻撃を仕掛けてくる。

 

 それを捌きながら、女王蟻の強酸攻撃を防ぐというのは中々厄介なものだ。

 

 まずは女王蟻を叩くか、と秀平は決意して二人へと言った。

 

「二人とも、俺が魔法で広範囲を攻撃するので二人は前線を維持してください」


「了解、任せたよ!」


「今の所広範囲への攻撃は島長君だけが可能だ、どうか頼む」


「頼まれました」


 その言葉と共に秀平がトン、と空中へジャンプを行う。それと同時に秀平の足元に一枚の薄い板のようなものが浮かび上がると、それを足場に秀平がさらに飛び上がる。

 

 秀平の魔法の中に、空を飛ぶというファンタジーの定番とも言える魔法は無い。だが秀平は、空中を足場にできる術を持っていた。

 

 それが本来防御に用いられる初期魔法マジックシールドを足元に展開して足場とする方法だった。

 

 そうして空中高く跳んだ秀平は握った六角棒に今まで以上の魔力を集中。練り上げてマジックサークルを発動させると、それを敵の集団へと解き放った。

 

「ソニックブラスター!」


 衝撃を束ねて射出する広範囲魔法。上空からそれを受けたモンスター達は上から押しつぶされてひしゃげる。

 

 それは女王蟻も例外では無く、他のアリよりも多少粘ったが結局衝撃に押され地面へと突っ伏し、身体をひしゃげさせた。

 

 秀平はソニックブラスターを撃った後にダメ押しとばかりに中空にマジックサークルを形成、そこから勢いよく射出された巨石に乗り地面へと落下した。

 

 ドゴンッ! と激しい音を立てて落下した巨石は丁度女王蟻を踏み潰し、周囲に居たモンスターも纏めて轢き潰した。

 

 大半のモンスターがそれで片付いた。後はひとみと奈緒が、維持した前線でモンスターを倒しておしまいだ。

 

 それより、と秀平は思いつつ手の内の六角棒を見る。どうやら魔力を注ぎ過ぎたらしく、内側から罅が入り割れていた。

 

 ひとみと奈緒が最後の一体を倒す様を見ながら、さてどうしようかなと頭を巡らすのだった。

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