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三人パーティー

よろしくおねがいします。


 普段通りの土曜日。毎週通っている東京ダンジョンのゲート前広場で秀平は待っていた。

 

 広場内には他にも多くの人が待ち合わせを行っている。服装は様々で普段着のように見える者もいれば、探索用なのだろう作業着を着た者もいる。

 

 いずれも背中にはリュックサックを担いでいる事から、これからダンジョンに潜り稼ぐのが目的なのだと分かる姿だ。

 

 秀平もその例に漏れず動きやすい普段着に背中にはリュックサック、傍らには六角棒を袋に入れて持ち歩いている。

 

 そんな秀平の側に木刀を下げた奈緒と秀平の六角棒と似た棒を持ったひとみがやってきた。

 

「や、どうもどうもお待たせ」


「いえ、それほど待っていないので」


 秀平のその言葉に笑顔で頷いてからひとみが話を続ける。

 

「それで、今日から一緒にお願いするわけだけれど。13階層からでいいのかな?」


「お二人とも久しぶりでしょうし、13階層からで良いのでは。俺は15階層まで行けますけれど、二人はまだでしょう」


「そうね、14階層までしか開放していないから。13階層から潜って、15階層を今日中にクリアできれば良いかな、と」


「それではそれで行きましょう」


 こうして、秀平達三人のチームは共に13階層からダンジョンアタックを開始するのだった。

 

 階層に出現するモンスターは変わり無く巨大アリと巨大ネズミ、そしてコウモリの三種である。

 

 秀平にとってはもはや見慣れた相手であるが、久しぶりのダンジョンとなる二人には久々の相手なのでまずは慎重に動く事にした。

 

 秀平が魔法で片っ端から薙ぎ払っても良かったのだが、それでは三人で潜っている意味がないし、何より二人の為にならない。

 

 今回は秀平は二人のバックアップ要因として基本待機の姿勢を取り、奈緒とひとみの二人で対処してもらう事にした。

 

「行くよ、ひとみ」


「うん、奈緒」


 通路上に現れたアリとネズミの混成部隊に奈緒が木刀で吶喊を行い、ひとみが援護するように腕を胸の前で組む。

 

「ブレッシング!」


 その声と共にひとみと奈緒、秀平の身体が一瞬仄かに輝いた後、ひとみが棒を持って群れへと突っ掛けた。

 

「やぁあっ!」


 声と共にアリの頭を打ち据えて一匹沈める。奈緒は既に群れの半分のアリとネズミを無傷で斬り捨てていた。

 

 これなら俺の援護は必要ないなと秀平が警戒を怠ること無く観察しながら伺っていると、全部のモンスターがドロップアイテムへと変じるのだった。

 

 そのドロップを確認しつつ、秀平が自分達へクリアブラッドとピュリファイの魔法をかけていく。

 

「はい、これで病気の方は大丈夫です」


「ありがとう、助かる」


 ドロップを拾い終えた奈緒が礼を言う。実際奈緒達は前回はこの状態異常に対応する魔法が無かった為に詰みかけていた部分がある。

 

 その事を思い出すのか若干苦い顔をしたひとみに苦笑を浮かべると、秀平は素朴な疑問を口にした。

 

「俺達の場合、俺の魔法で鼠咬症には対応できる訳ですけれど、他の人達はどう対応してるんでしょうかね」


「状態異常を回復できるヒーラーを入れたりとか、ギルド併設のショップで売っている状態異常回復薬を使ってるみたい」


「へぇ、状態異常回復薬……薬事法とかどうなってるんでしょうかね」


「そこらへんはクリアしているんじゃないかなぁ……国の機関であるギルドが法律を無視しているとは思えないし」


「ヒーラーって、結構少ないんでしょうか」


「そんな事無いみたいだけど。魔法使い三人に一人はヒーラーってネットでは見たよ」


「魔法使いの1/3か……魔法使い自体、どの程度の数なんですか?」


「冒険者の半分は魔法使いだって。それもネット情報だけれど、政府の公表している調査結果を基にしてるから多分本当だと思う」


 なるほど、魔法使い自体は結構な数がいるんだなと思いつつ、秀平は自分がそこらへんの情報を収集していない事に今更ながら気付く。

 

 秀平の現在の情報源は、主にギルド発行のダンジョン案内小冊子のみだ。

 

「もしかして冒険者の情報って、ネットに潤沢だったりするんですかね」


「そうねぇ~。大体の情報はネットで分かると思うよ。最近話題の冒険者とかも紹介されてたり、そろそろ冒険者向けの専門誌が発行されるとかいう話もあるけれど、活発に情報交換がされてるのはネットなんじゃないかな」


「なるほど、冒険者向けの専門誌か……購読してみるかな」


 そんな雑談を行いながら先へと進行し、13階層の石碑へと到達する。

 

 すぐに14階層へと移動して、先へと進むのであった。

 

 10階層以降、他の冒険者とは中々遭遇しない理由に10階層以降を進行する冒険者が少ないという分かりやすい理由がある。

 

 10階層以降で出現するネズミに対応する術を持たない、もしくは状態異常回復薬を購入したくない層が多く、危険度が跳ね上がるからだ。

 

 冒険者と言えども危険を冒したくない、安定して収入を得たいという意識が強い者は、10階層以下を探索して数を稼いでいる。

 

 それが10階層以下の混雑と、10階層以降の閑散ぶりに繋がっていた。

 

 この日も例に漏れず14階層には秀平達以外の冒険者はおらず、モンスターを狩り放題となっている。

 

 秀平は次の石碑までのルートを覚えているが、ここはあえて寄り道も行い、モンスターの撃破数を稼ごうと思っていた。

 

 そうして14階層も無事に消化し、15階層へ到達。

 

 大きくなったアリとネズミの姿に、けれども思考回路の変化が無い事から今までと同じ対応で消化されてしまう。

 

 奈緒もひとみも行動パターンが変わらないのならばと積極的に前に出て敵の殲滅を行った。

 

 そんな中でひとみがアリを倒して一息ついた時に、ある事に気付く。

 

「あ、魔法が増えた」


 ポツリと言った言葉に奈緒がにこやかな笑顔を向ける。

 

「そうか。どんな魔法?」


「うん、キュアっていう、状態異常回復だね。病気、毒、麻痺を治療する魔法だよ」


 見てて、と言ってからひとみが魔法を呟くと青白い光が奈緒へと飛んでいく。その光を受けた奈緒が全身を一瞬青白く発光させる。

 

「……なんともないみたいだけれど」


「そりゃ、奈緒が状態異常じゃないから。状態異常には効果があるんだよ」


 そう言うひとみの言葉に疑問を覚えた秀平がひとみへ問いかける。

 

「大崎さん、魔法を覚えたって言ってましたけれど。段階的に魔法を覚えるんですか?」


「え、普通そうなんじゃないの?」


 そう言われると、秀平には何とも言えなかった。

 

「俺の場合、魔法を習得したと同時に、全部の魔法を使えたんですけれど。大崎さんだけそうじゃないんですか?」


「ん~、ネットで見た話だと段階的に魔法を覚えるのが一般的みたいだけれど。みんなモンスターを倒していたらふと魔法を覚えて、効果が分かるようになったっていう話なんだけどな。島長君は違うんだ」


「案外、システムの違いという奴ではないのかな。島長君の使う魔法は、NFOのプレイヤーとは違う魔法なのだろう?」


「確かに、その可能性はあるよねぇ。でも奈緒もNFOやった事ないけれど、奈緒の使うオーラ系統の能力はNFOの近接職パッシブスキルだよ」


「そこの違いはなぜかは分からないが、な。島長君のやっていたというゲームは魔法はどう覚えたんだ?」


「キャラクター作成の時に初期魔法を覚えて、後は自作ですね。効果を上げたり混ぜたりして」


「うーん、やっぱりNFOとはシステムが違うから、その結果が島長君と私の魔法の違いなのかな」


 そう話していると、先日秀平が到達したこげ茶色の扉へと到達する。

 

 ダンジョン内宿屋への入り口だ。

 

 とりあえず、丁度良い頃合いだし昼食でも食べながら話の続きをしようと言うと、三人で揃ってダンジョン内宿屋へと入場するのだった。

 

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