第12話:発散
学院長室から出てきたリリィを部屋に送り届け、俺は自分の荷物を持って従者専用の宿泊場所に向かった。
荷物を持つといっても、着替え等しか持っていないので、そこまで大荷物ではない。
「ここが従者専用の場所か」
仮にも貴族の従者専用の為、一見して清潔だが、ベットは二段ベットが両方の壁際にビッシリ並んでおり、広い部屋が狭く感じる。
まあ、普通に考えて個室なわけがないので別に不満などはない。
確かミルカの話では、俺のベットは部屋の一番奥の右側のものらしいので、俺はそれを目指して歩を進める。
ちなみに先程から、同室になった従者達の視線が突き刺さり、かなり不快なのだが、別段気にしないように、俺は自分のベットに着いた。
ベットに着いたのは良かったのだが、荷物を置く場所が無い。別に置けなくても困る事はないのだが、やはりベットは出来るだけ広い方が良い。だから俺は向かいのベットに座っている奴に聞く事にした。
「なあ」
「えっ!?な、なんですか?」
無駄にリアクションのデカい返事を返される。向かいのベットに座っていたのは気の弱そうな少年だ。少年と言っても俺と同じか一つ下くらいだろう。
「荷物ってどこに置けばいいんだ?」
「え、荷物?荷物なら荷物を置く場所が専用にあるからそこに皆預けてるよ」
別の場所にあるのか。・・・面倒だな。だがまあ、決められているものは仕方ない。
「そうか、分かった。ありがとな」
「え、う、うん。どういたしまして・・・」
そう言ってそいつは少しだけ照れたように顔を俯かせた。
変な奴。それが俺の第一印象。
と、思っていたら、この部屋にいる他の従者達が一斉に立ち上がり、半分は出口を塞ぐように立ち、残り半分は俺を取り囲んだ。
そしてそいつ等は見るからに良くない空気を醸し出している。
「何ですか先輩方?私に何か用でもあるのですか?」
十中八九俺に対して何かしらの危害を加えようとしているのは分かるが、一応そう言っておく。ゴミの相手など自分からしたくはないので、出来るだけ争いは回避したい。
俺の言葉を聞いて、周りの男共がバカにした様な笑みを浮かべる。
「おいおい、こんな弱虫が第三王女の従者なんてな。笑わせるぜ」
この中のリーダーっぽい男がそう言うと、周りが一斉に笑う。
「なあ。なんでお前みたいな身体強化魔法しか満足に使えない奴が王族の従者なんてやってんだよ。超ウザいんだけど。死んでくんね?」
メチャクチャ言いやがるなこのカス。
「は?なんでお前らみたいなクソの言う事聞かなきゃならないんだよボケが」
面倒だったので猫かぶりを速攻で捨て、俺は暴言を吐く。
当然暴言を吐かれた奴等は一斉にブチ切れ、口々に喚きだす。
・・・いくら王族の従者になった俺に嫉妬しているとしても、お前ら流石に品が無さ過ぎだろ。・・・それは俺も同じかと思ったが、そんな事は今は・・・いや、未来永劫どうでもいい。治すつもりもないしな。
「おいおい。お前舐めるのもいい加減にしろよ?今すぐこの場でころ―――」
ドスッ!!
俺は男が喋り終える前に、男の腹に拳を叩き込む。本当なら顔面にブチ込みたいところだが、一目見てすぐに分かるだろう所に傷をつけるのは後々面倒臭い。
「あ・・・か・・・ぁ」
口から胃液を吐きだしながら、リーダーであろう男は膝を付き、そして倒れた。
従者とはいってもこいつ等だって一般的に見ればそこそこの強さを持っている。だからこそ、こいつ等は理解する。自分達と俺の圧倒的なまでの力の差を。
まあ、従者如きがチートに勝てるはずもない。
男共は一斉に出口に向かって走り出す。
当然と言えば当然の判断。この狭い場所で身体強化魔法の達人と戦闘するなど自殺行為だ。それ以外の魔法で建物を吹き飛ばす事も可能だが、そんなのは出来る筈もない。だから逃げるという選択は一応は合理的だ。
「だが、―――――逃がさないけどな」
俺はその場から高速で移動すると、部屋のドアの前に立った。
こういう輩は今逃しても今度は陰湿な嫌がらせに走るもんだ。確固たる証拠が出なければ仮に力で黙らせても俺が不利になるだけ。
だが今なら、圧倒的暴力によってこいつ等を屈服させる。俺に逆らえばどうなるかを、徹底的に叩き込む。
「くそッ!窓は!?」
一人の男が叫ぶが、残念ながらこの部屋に窓はない。
俺も一瞬不思議に思ったが、恐らくこの部屋は寝る為だけの部屋なのだろう。だから余計な光を取り込まないように、敢えて窓を無くした、といった感じだろうか?
こいつ等も、俺が逃げ出さないようにこの部屋を選んだのだろうが、完全に裏目に出たな。
「ま、とりあえず俺のストレス解消の道具になってもらう」
そう言って、俺は行動を開始した。
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俺の周りには床に横たわる無数の男達。
一見して外傷はないが、全員痛みの呻き声を上げている。
「お前ら雑魚過ぎだろ。もう少し頑張れよ」
そう呟きながら俺は適当に横たわる男の元へと行き、しゃがみ込む。そして男の髪を掴み上げる。
「あ・・・・が・・・ぁ」
「・・・少しやり過ぎたか」
ストレスの発散と相まってボコスカやり過ぎたらしい。痛みで完全に意識が混濁している。気を失ったらつまらなかったので、意識を保てるギリギリの攻撃を何十回も行ったのが最大の原因らしいな。
俺は持ち上げた状態のまま、掴んでいた男の髪を放すと、そのまま立ち上がり、奥の方で縮こまっている少年の方へ視線を向けた。
ビクッ。
と、少年は身体を震わせ、その瞳に涙を一杯に溜めはじめた。おいおい、お前腐っても男だろうが。
もうヘタレが人気な時代は過ぎ去ったぞ?
「なあ、お前名前なんて言うんだ?」
「え?ぼ、僕ですか?僕はアラン=アラステアと言います・・・」
ビクビクとした言い方でそういうアラン。
「アランね。俺はウィーク。ウィーク=ツァーリだ。今更だが、今日からよろしくな」
「あ、はい。よ、よろしくお願いします」
俺はそれだけ言うと、部屋から出て行こうと、ドアに手を掛け、俺は部屋を出て行こうとした。
「あ、あの!待ってください!」
アランが俺を呼び止める。
「なんだ?別にこれ以上話す事はないんだが」
もし、「今の事を問題にされたくなかったら言う事を聞け」みたいな事を言いだしたら、残念だがこいつには消えて貰う事になる。まあ、アランの感じを見る限り違うみたいだが。
「あの・・・、どうしたらウィークさんみたいに強くなれるんですか?」
「なんだお前、強くなりたいのか?」
見た感じそこまで弱くはない、と思う。自分より強い奴に出会った事がないから他人の実力を正確に計るのは苦手なのだ。
訓練すれば出来るようになるが、雑魚の実力など計れた所で一ミリも得はないので訓練するつもりはない。
「はい。僕は弱いので、あなたみたいに強くなりたいんです・・・」
と言われても俺のこの強さは努力で手に入れたものじゃない。神様に貰ったズルい力だ。だから何かアドバイスを送ることなど出来ない。
「俺が言う事はなにもない」
そういって踵を返す。
「あ、あのっ!待ってくださいッ!!僕本当に強くなりたいんですっ!」
「知るか。お前が強くなりたい事が俺にどう関係すんだよ」
今度こそドアを開け、部屋から出る。
後ろからアランが付いてくる気配があるが、無視する。俺はこれからリリィの所に行かなきゃならない。そうなればこいつはいずれどこかで帰らざるをえなくなる。
それまでの辛抱だ。
学院内の歩きながら女子寮を目指す。その時、複数の気配が近づいてくるのが分かった。
「よおアランくーん。元気にしてた?」
いかにもヤンキーですといった感じの男達。腰に剣を差しているので、騎士見習い達だろう。そんな奴等が貴族の従者になんの用だ?と一瞬思ったが、アランがどうなっても俺には関係ないのでそのままスルーしてリリィのもとへ向かった。




