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第10話:逃げの一手。

ご指摘に多数あったので主人公を少し丸くさせる為のイベント?フラグ?的なものを後半書きました。


結構無理矢理感が出ていますが、素人なので許容して頂ければ。


 再生能力。


 それは文字通り傷ついても再生する能力の事だ。これは魔法ではなくモンスターのみが持っている特異体質。


 そして、この能力を持っているモンスターは、俺にとっては天敵だ。


 理由は単純。


 再生能力を持っているモンスターを殺す時は、跡形もなく消し飛ばすしかない。それ以外の方法では無限に再生してしまう。


 だから俺の攻撃ではこいつ等を倒す事は出来ない。


 俺の攻撃は斬撃。それを何回喰らわせても、消し飛ばすことなんて不可能。つまり俺では殺せないという事になる。


「うへー、メンドー・・・」


 こういう「負けもしないけど勝てもしない」みたいな状況が一番嫌いなんだよね俺。・・・それにこいつを殺す為にジャックとレオンに協力して貰うのも個人的には嫌なんだよな。


 あれだけデカい口叩いたのに勝てないからって手のひら返したように協力を求めるのって超ダサくね?


 しかし今はそんな下らないプライドを重要視する場合ではない。俺だけならともかく、後ろにはリリィがいるのだ。


「うえー・・・、なにあのミミズ。きっも・・・」


 確かにあのミミズは気持ち悪い。


 もしこれで俺がミスリルの剣を持ってなくて、自分の武器を使えって言われたら全力で拒否してたな。


 そこについてはリリィに感謝だ。性格最悪だけど。


「・・・ってなんでお前がここにいるんだ。馬車で待ってろって言っただろ」


 俺は何故か俺の後ろに立っているリリィに向かってそう言い放つ。つかこいつ何時俺の背後に立ちやがった。


 全く気付かなかったんだが。・・・暗殺者でもやれよお前。


「いいじゃない。気になったんだから」


「気になったって言えば何でもかんでも通ると思うなよ。ほれ、あのミミズの姿は見ただろ。大人しく馬車に戻れ」


 手を振ってリリィを帰そうとするが、一向に動く気配がない。


「おいコラさっさと戻れって言って――――」


「うっさい」


 ・・・このアマ。


「・・・はあ、わかったよ。でも絶対にそこから動くなよ」


 それだけ言って、俺はミミズに向かって突っ込む。そして、それと同時に剣を振り、斬撃を飛ばす。


 先程と同じように、ミミズを切断し、ミミズは緑色の体液を出すが、それも直ぐに再生し、元に戻ってしまう。


「やっぱダメか」


 俺は一旦距離を取り、ぼさっと突っ立ている守護騎士二人に言う。


「そこの二人、どっちでもいいから戦術魔法であいつぶっ飛ばせ」


 俺の言葉に、レオンは素直に従い、魔法を発動しようとするが、ジャックがそれを押し留める。


 そんなジャックは、俺をバカにしたような表情で見つめる。


「・・・何の真似だジャック?」


「お兄様だろ?愚弟」


 そこには嘲りが、嘲笑が確かに浮かんでいる。


 どうやら俺があのミミズを殺せず、その結果この二人に手助けを求めたのが嬉しくて、楽しくて堪らないらしいな。


 ま、気持ちは分からなくもない。今までバカにしてきた奴に馬鹿にされたら普通はムカつくに決まってる。しかもそいつは魔法が使えないクズときているのだから。


 でもせめて時と場合は考えて欲しいがな。


「今はお前の喧嘩を買っている時じゃない。早くしないと王女達にも危険が及ぶぞ」


 しかし、ジャックは一向に動こうとしない。


「おいおい。お前立場分かってる?お前は俺達にお願いする立場な訳よ。ならそれ相応の態度ってモンがあるだろうが」


 ニヤニヤ笑うジャック。・・・イケメンなので、見た目はかなり良いが、今はそのプラス面を打ち消して尚余りある気持ち悪さとウザさを発揮している。


 本当に昔以上にウザさが上がったなこいつ。


 そしてこいつは俺に頭を下げて「助けて」と懇願しろと言っているのだ。だが俺はこんな奴に頭を下げるのは御免だ。


 それに最悪、リリィだけ担いで逃げればいいだけ。


 ・・・いや、そんな事をしたら後でこの男になんて言われるか分かったもんじゃない。


 なら頭を下げるのが最善手ではある。俺では殺せない以上、他の手助けを借りるのが普通だ。


 だが俺はこいつ等・・・というかジャックに頭を下げるのだけは絶対に却下する。


 なら残った手段は、―――――自力でどうにかするしかないか。


 勿論戦っても倒せない事は分かっている。でも逃げるのに十分な時間を稼ぐ事は出来る。


「もったいな・・・」


 俺はミスリルの剣を構える。そしてミミズに向かって歩き出す。


 ―――俺の攻撃は大きく分けて二つ。


 一つは剣圧によって対象を吹き飛ばす攻撃。もう一つは剣圧を斬撃に変えて放つ攻撃。前者は破壊力を、後者は殺傷力に力点を置いている。


 基本、魔法等の攻撃を防ぐ場合において、剣圧による攻撃を行うが、それは普通の力で剣を振るった場合。それ相応の力を込めれば、あのミミズをどうにかする位は出来る。


 ・・・大抵の剣ならぶっ壊れるが。


「おいミミズ。二度とその気持ち悪い姿みせるんじゃねえぞ」


 そう言いながら、俺は力を込める。


「―――ぶっ飛べ」


 そして、俺は剣を振るう。


 その瞬間、剣から剣圧が噴き出て、その奔流がミミズを呑み込む。眼前に広がる大地は割れ、砕け、そして吹き飛ぶ。


 そして、それと同時にミスリルで出来た剣が柄ごとバキィンと甲高い音を立てて砕けた。


 俺のこの攻撃は、破壊力だけなら並の戦術魔法を普通に凌ぐ。レオンが前の戦闘で使った“スカイ・エア”とは比べ物にならない。威力だけなら下手したら“インペリアル・ブレイク”を超えているだろう。武器さえ壊れなければ文句無しなのだが、そう都合よくはいかない。


 そしてそれ程の攻撃を喰らったのだ。あのミミズは吹き飛び、俺達の眼前から完全に姿を消している。


「殺したのか?」


 レオンが俺に尋ねる。


 声音だけ聞けば、茫然・・・といった所か。そりゃそうか、魔法を使えない人間が眼前に広がるこの光景を作り出したんだからな。


「いや、殺していない。吹っ飛ばして、恐らくグチャグチャになってるから再生には数時間くらいかかるはずだ」


 そう言って、俺は改めて目の前に広がる、大地を見る。


 美しかった草原は跡形もなく、“崩壊”の一言が似合うような姿に変わり果てている。地面は砕け、吹き飛び、一見して岩の塊となったものが、あちこちに散乱している。


 自分でやってみて何だが、完全にやり過ぎた。


 もう少し力をセーブするべきだっ――――いや、どっちにしろあのミミズを吹き飛ばす攻撃を生み出せば似たような結果になる事は分かり切っている。


 下らないプライドを捨てればいいのだろうが、残念ながら今まで俺をバカにし続けた奴に頭を下げるなんて嫌だったのだ。


 まあ結局は単なるガキの我が儘なのだが。


 そして、未だ茫然としている兄・・・ジャックに視線を向ける。それだけでジャックは、俺の視線に即座に気付き、そして恨めし気に俺を見てくる。


 そんな目で俺を見るなよウザったい。どうせなら俺より先にさっさと倒して手柄を自慢して、同時に俺もバカにすれば良かったじゃねえか。と思ったが、まあ、思っただけだ。


「さて、さっさと行こうぜ。学院まではもう少しだからな」


 とは言ってもまだ二時間くらいかかるが。


 それを煩わしく思いながら、俺はリリィの方へ歩いていく。


「よお、ズバッと退治してきたぞ」


 そう言うと、リリィは呆れたような顔を俺に向ける。


「ええ、見てたわ。凄いわねー!って言いたい所だけど流石にやり過ぎよ。他に方法なかったの?」


「無い。あの二人・・・というかクソ兄貴が俺の言う通りに従っていればもっとスマートに片付いたんだがな」


「・・・なんでそんな上から目線なのよ。・・・まあいいわ。もう色々疲れたからさっさと学院に向かいましょ」


 リリィはそれだけ言って、馬車に乗り込んだ。


 いやお前何もしてないだろ。と思ったが、口に出せば面倒しか起きないので自重する。


 馬車に乗り込んだリリィを見て、俺もそれに続く。その時ふと自分が起こしてしまった惨状をもう一度見て、次はもっとまともな方法を取るか・・・と、頭の片隅で思う俺だった。



@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@



「ウィークちょっといいかしら」


 リリィは、馬車に乗ってしばらく経ってからウィークに声を掛けた。


 ウィークは、馬車にある椅子に横になって寝ていたが、リリィに声を掛けられたので、姿勢を正した。


(・・・普通は主の目の前では寝ないものなのだけれど)


 そう思うが、既にこの男に小言を言っても意味が無いと思っているリリィは、特に何も言わない。それに、今から話す内容の方がよっぽど重要だ。


「ねえウィーク。貴方、その周りを敵に回ような発言を控えなさい。これ以上敵を作っても意味ないでしょ?・・・もう手遅れかもしれないけど」


 その言葉に、ウィークの表情は一瞬だけ変化したが、直ぐにいつもの余裕な感じのものに戻った。


「それはアレか?俺にあいつ等に対して最低限の礼儀を払えって事か?」


「そうよ。せめて表面上は普通に接しなさい」


 リリィの言葉に、ウィークは小さく笑う。


「アレが俺の普通なん――――」


「そんな事を言っているんじゃない事くらい分かってるでしょ?」


 リリィは今までに無いくらい瞳を鋭くしてウィークを睨む。その真剣な眼差しに、ウィークは押し黙る。


 今までリリィの小言に対して、何かしら言って躱していたウィークだが、向けられる眼光がそれを許さない。


 重い沈黙が馬車内を支配する。


 そんな中、リリィが口を開く、そこには既に鋭い眼光は無くなっていたが、それでもウィークに逃げる気は起こらなかった。


「貴方が魔法至上主義のこの国を、そしてそれを疑いもなく享受している人間達を嫌っているのは分かってるわ」


 この国はウィークの存在を否定した。魔法が使えないという理由で、ウィークを「奴隷以下」だと罵った。その結果ウィークは家を追い出された。その後、どんな事があったのかはリリィは知らないが、それでもウィークのこの国に対する嫌悪感は本物だ。


「・・・貴方は歪よね。化け物染みた戦闘力を持っているのに精神がそれに釣り合っていない。・・・私にとってはそこが貴方の魅力でもあるけれど」


 最後の方は薄く頬を染めて小さく笑うリリィ。


 そんなリリィの変化には気付かず、ウィークは珍しく動揺する。


「―――っ、ふざけんな。何で俺があんな奴らに―――」


 尚も頑なにリリィの言葉を拒むウィークにリリィの中で、一気に怒りがこみ上げる。基本リリィは沸点が低いのだ。


「ごちゃごちゃ言ってないで黙って主の言う事聞きなさいこの使用済みッッ!!」


 そう叫び、ウィークの肩をガシッと掴む。見方によってはリリィがウィークを襲っているように見えなくもないが、醸しだしている雰囲気がそんな甘い内容では無い事を物語っている。


 そして、何が使用済みなのかは分からないが、とりあえずリリィがキレているのだけは分かったウィークは、その気迫に一瞬だけ怯む。


「あんたも今日分かったでしょう!?もしこれから先今までみたいに何の意味も無く辺りに暴言吐き散らしてたらいつか取り返しのつかない事が起きるかもしれないじゃないッッ!!今日のあんたのお兄さんとのアレはその始まりみたいなものでしょッ!?あんたならそれが分かってるはずよ!」


 リリィの本気の言葉に、ウィークは初めて・・・少なくともリリィと出会ってから初めてその余裕然としていた表情を崩した。


「だからなんだ?だから俺を否定した奴らに敬意を払えって?俺が敬意を払ったってこの国の俺に対する評価に何一つ変わりはないだろう・・・ッ」


 今度はリリィがウィークの気迫に押し黙る。出会ってまだ全然時間は経っていないけれど、目の前の男がここまで感情を出した事は初めてだったからだ。


「・・・・・・俺だって最初は大丈夫だと思ってた。いくら魔法が使えなくても俺が良い奴でいれば大丈夫だと。でも、現実は違った」


 転生者であったウィークは、すぐさまこの世界の現状を知り、そんな中で良く思われようと自分なりに頑張った。そんなウィークを、両親はゴミの様な目で見つめ、兄は自分を「実験台」と称して魔法の練習台として好き勝手使った。もちろんチートのおかげで身体は痛くは無く、そして傷もそこまで追わなかったが、心は酷く痛んだ。

 だからウィークは平民の子供達と仲良くしようと考えた。最初は公爵家の人間として恐縮され敬遠されたが、根気よく接する内に徐々に仲良くなっていった。その時ウィークは「俺は一人じゃない」と、この世界に来てから初めてそう思った。

 だが、ウィークが魔法が使えないという事が分かると、子供たちは一変した。その時の眼をウィークは一生忘れないだろう。それは両親が、兄が見せた、奴隷を・・・いや、それ以下のものを見るような侮蔑の眼。そしてウィークは、馬鹿にされ、罵られ、泥をかけられ、唾を吐かれた。

 その後、ウィークが平民の子供に魔法が使えない事がバレたという事実を知ったウィークの両親が、その子供達と、そしてその家族を見せしめに皆殺しにし、口封じを行った。ウィークが魔法を使えない事は、その子供達しか知らなかったので広まりはしなかった。そしてウィークは二度とツァーリ家に迷惑をかけないように、家を追い出されるまでの間、家に軟禁される事になったのだ。


「そんな奴らに何を言ったって俺のかっ――――」


「それでもよ!それでも私の言う事に従いなさいッ!!」


 ウィークにしてみれば、完全に理不尽な言葉に、ウィークは遂に激昂する。普通に考えれば、主の言葉には絶対服従なのだが、冷静ではないウィークはそんな事を欠片も思っていない。平常時でも思っているかは怪しい所だが。


「ふざけんなッ!!なんでそこまで――――」


「私がッッ!!!」


 今までで一番大きい声に、ウィークの口は塞がれる。王女の気品の欠片もない感情に任せての叫び。そしてだからこそウィークは口を閉ざす。


 そして、リリィの瞳から涙が零れ落ちる。


 それを見て、ウィークは息を呑む。


「私が・・・、あんたと・・・・・・ウィークと一緒にいたいからよ。もしこれから先ウィークが今のままでいったら、確実に貴方は私の従者・・・守護騎士を解任させられる。・・・そんなの、・・・そんなのわたし・・・嫌だよ・・・」


 ぽろぽろと涙をウィークの顔に落としながら、リリィは言う。涙声で、最早呟きに近いものだったが、それでもウィークの耳はその言葉を確かに捉え、そして心を確かに揺さぶった。


「ぐすっ・・・っ・・・ぁぅ・・・えぐっ・・・」


 リリィの嗚咽だけが馬車を支配する。


 重い沈黙が張り詰める。


 それが幾ばくか続いた時、ウィークが口を開いた。


「・・・・よ」


「ぐすっ・・・えぐぅ・・・え?」


「・・・わかったよ。お前の言う通り、これからは意味のない発言は避ける。・・・・それと・・・ありがとな」


 柄にもなく照ればがら、ウィークはリリィに感謝の気持ちを述べた。


 感謝の気持ちを述べたのは何年振りだろうな、と何気に凄い事を考えながら、ウィークは軽くなった心を感じながら、リリィの言葉を待った。




「え?そう?なら良かった。あ~、泣いた意味があったってものね」




 コロッとリリィは、涙を引っ込め、今までとは打って変わって平然とした様子でそう言った。


 ―――その言葉を聞いてウィークが完全にフリーズする。


 例えるなら、幼稚園から一緒にいた幼馴染と、高校に入って付き合い、いざ初Hって時に、「俺初めてだけど優しくするから」と紳士ぶったら、「あ、私慣れてるから好きに動いて大丈夫だよ?」って言われた時みたいな反応である。


 正に驚愕。


 そしてブチッと、ウィークの中で何かが切れる。


「ふ、ふ――――」


「ふ?」


「ふざけんなよ!バージンプリンセスがぁぁぁぁ!!」


 ワイワイガヤガヤしながら、リリィとウィークを乗せた馬車は学院に向かって行く。


誤字脱字の多さと、文章表現は気を付けたいと思います。

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