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【祝コミカライズ】魔王が俺の部屋に飯を食いに来るんだが~腹ペコ魔王と捕虜勇者~  作者: ちょきんぎょ。


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☆勇者さん、魔界を見る

「おお……」


 鉄兜の中で、俺は唸った。

 なにせ魔界を、本当の意味で見渡すのは初めてだからだ。

 城下町を行き交うものたちは、人間ではなく魔族たち。

 ヒレがあったり、爪があったり、毛むくじゃらだったり、人間とはまったく見目の違う住人たちが、生活を営んでいる。


「魔剣士様、あまりきょろきょろなさらないように」

「あ、ああ、悪い」


 メイドに指摘されて、俺は慌てて気を引き締めた。

 外で『勇者』呼びは危険すぎるので、今の俺は『魔剣士』ということになっている。


「こんな全身鎧で目立つかと思ったが、案外気にされないもんだな」

「魔界は危険地帯や危険な生物が多いので、装備が厳重なひとは結構いますからね」

「……魔王(おまえ)も、全然気にされてないな」

「いえ、私はこのマントに認識阻害の魔法をめちゃくちゃにかけてますからね。今の私は通りすがりのいっぱん魔族です!」


 そう言って、魔王はいつも『そうび』しているマントをひらひらさせた。


「なるほどな。だからみんな気にしないのか」

「ええ、だって私がふつうに町をウロウロしてたらそれだけで大騒ぎですからね。ちなみにメイドちゃんもかなり有名人なので、同じように魔法で存在を隠蔽しています」

「……さすがにそういう自覚はあるんだな」

「ゆ……魔剣士さん、私をなんだと思ってるんですか」

「めちゃくちゃ仕事できるけど、なんか隙が多いやつ」

「適切な評価ですね、さすがは魔剣士様です」

「あれぇもしかしてこの話題ふたりとも敵ですかぁ……?」


 俺だけじゃなく側近もそう評価してるので、問題ないだろうと思った。

 不満そうな魔王を、どうどう、と宥めるメイドに任せて、俺は改めて町の様子を眺めてみる。


 ……ふつうだな。


 歩くものたちの格好は人とは大きくかけ離れているが、町の様子は人界とそう変わらない。

 石材、あるいは木造の家が並び、石を並べて整備された道の上では話し声が行き交う。

 ただの平和な町のすがたが、そこにはあった。


「…………」

「どうかしましたか、魔剣士さん?」

「いや……なんていうか、めちゃくちゃ平和だなぁって思って」

「それはもちろん、長年の魔王様の治世のおかげですね。最近では戦争も終わって資源の消費も減りましたので、国民の生活水準も全体的に上がっています」

「……そっか」


 素直に、良いことだと思ってしまった。

 元は敵国だったはずの場所で、生きている人が平和なことに、安堵してしまった。


「…………」

「魔剣士様?」

「いや、なんでもない。悪いな、ぼうっとして」


 なにも考えずに剣を振っていたころには、もう戻れないだろう。

 自分が今まで戦ってきた魔族というものたちにも、愛すべき日常というものが存在したのだと、自分の目で見たことではっきりと自覚してしまったから。

 だけど、そのことを苦しいとは感じなかった。


「……同じなんだな」

 

 俺は人類を守るために剣を握っていたように、魔族も同じように大切なものを守るために頑張っていたのだと、分かったから。

 お互いにお互いのために戦って、どちらもきっと悪ではなかったのだと分かって、少しだけすっきりした。

 

 ただもう二度と、戦争が起きるべきでは無いのだとは、改めて思った。

 今まで戦って、殺してきた相手が、俺と同じだと、知ってしまったから。

 魔族と人間、どちらが傷ついても、もう無関係だとは思えなくなってしまったから。


「大会は午後からですし、魔剣士さんさえよければ少し町を見てまわりますか?」

「……良いのか?」

「もちろんですよ、むしろぜひ見てほしいです。構いませんよね、メイドちゃん?」

「はい、ぜひお楽しみください。時間が近づきましたら、私の方から声をかけますので」

「……そう言ってくれるなら、ありがたくそうさせてもらおうかな」

「ええ、ご存分に。では、私は少し遠くに離れていますね」

「え?」

「近くにいるより、離れていた方が対処しやすいこともありますので。ガイドにはうちの主人をおつけしますので、ごゆっくり街を観光してください」

「あ、ああ……」


 こちらにだけ見えるように親指を立てて、メイドはその場を離れていく。

 明らかに気を使われた、というのは理解できる流れ。ちらりと視線をやると、魔王は張り切った様子で、


「ガイド……これは責任重大ですね、ゆ、じゃない、魔剣士さんにぜひ案内したいところがたくさんありますから!」

「お、おう、そうか……」


 前々から魔界を案内したいと何度も言っていたが、思った以上の張り切りぶりだった。


「……俺もお前もうっかりバレたら困るから、ほどほどで良いからな」

「分かってます、分かってますよ♪」


 本当に分かってるのかよ、と思うが上機嫌な魔王の顔を見るとなにも言えなくなってしまった。

 先を行く魔王を追っていくと、そう時間はかからずにある場所に到着した。


「ここは……?」

「城下町市場です! 魔界のあちこちから面白い品や美味しいものが集まる場所で、ぜひ魔剣士さんを連れてきたかったんですよ!!」


 屋根のない空の下で、無数の出店が並んでいる。

 町中で見た以上に多くの魔族が行き交っていて、常に声が飛び交っている場所だった。


「……なんというか、お前が好きそうだな」

「はい、凄く好きですね。いろんなものが売っていて、歩いているだけで面白いところですよ。なにより、活気がありますからね」


 好奇心旺盛な上に食いしん坊で、なにより民のことを大事にしている魔王にとっては、楽しいところだろう。


「まあ、場所柄すこし治安が悪いというか、値下げ交渉で最終的に喧嘩になったり、ちょっと危ないものを売っていたり、万引きとかスリの被害が多いですが……でもでも、個人的にはおすすめスポットですよ!」

「……まあ、確かに楽しそうなところではあるな」


 人界から来た俺にとって、並んでいるほとんどの出店がよくわからないものを売っている店だ。

 異国に来た時とおなじワクワク感のようなものが、目の前の景色にはあった。


「ふふふ、そうでしょうそうでしょう。ささ、まずは軽くなにか食べてから見て回りましょう。安心してくださいね、お金はしっかり持ってきてますから!」

「うおっ……」


 上機嫌な魔王に手を引かれて、俺は市場に足を踏み入れる。

 自然と手を繋がれてどきりとしたが、魔王は気にした様子もない。ただの迷子防止、という感じだ。

 魔王は俺の手を引いたままで、するすると人混みを抜け、いい香りを立てている屋台の前へと向かう。

 屋台では、人間に近い姿をした耳長の魔族が、串に刺した肉を焼いていた。


「おお……」


 魔法によって生み出された炎と、同じく手ではなく魔法を使って操られ、空中で踊る串。

 自由自在に動くその姿は、魔界パズルを思い起こさせる。


「ここ人気で、美味しいんですよ。少し並んでますけど、お客さんをさばくのも早いのですぐ順番が来ますから」

「お、おう。わかった」


 魔王の言う通りに、順番待ちはものすごい勢いで消化されていく。

 そう時間が立たないうちに、列の先頭までやってきた。


「すみません、ふたつくださいな」

「はいよ、ふたつね」


 注文が通されると、店主はかるく指を振る。

 魔王の手から一枚の硬貨が離れ、対価として肉の刺さった串と、おつりであろう数枚の硬貨が返ってくる。


「よしよし、無事買えましたよ。歩きながら食べましょうか、はい、魔剣士さん」

「……ありがとう」


 金も持ってなければ勝手も分からないので、俺は素直に串を受け取った。

 大ぶりの肉を豪快に串打ちした肉を、魔王はきらきらした目で見てからかぶりついて、


「むぐ、むぐ……ふはぁ、おいしいです」


 なんの肉なのかは分からないが、こっちに渡してきた以上、人類が食えるものだろう。

 いきなり外出の予定になったこともあり、今日はまだなにも食べていない。

 あたたかく、香ばしい煙が立ち上る大ぶりな肉は、見ているだけで自然と唾液があふれるものだった。


「……あむ」


 鎧の空いた部分から一口かじってみると、塩気とスパイスの刺激を感じる。

 肉自体はしっかりとしたうま味と歯ごたえがあり、強気な味付けに負けていないどころかうまくバランスが取れている。ちょうど、牛肉のモモに近い味と食感だった。

 大げさに肉を焼くパフォーマンスだけがウリではない、焼き加減や味付けの濃さに拘りを感じる仕上がりだ。行列ができているのも納得できる。


「……うまいな、コレ」

「でしょう? 見た目も面白いんですけど、味もしっかりしていて、行列ができるのも納得ですよね」


 上機嫌に言葉を作りながら、魔王はもう一口、肉を頬張った。


「さ、行きますよ魔剣士さん。のんびりしてるとすぐに時間が過ぎちゃいますからね」

「……なんか手慣れてるな、案内」

「ええ、実は結構お忍びで外出してるし、いつかこんな日が来ると思って予定は立ててましたから!」

「どんだけ楽しみだったんだよ」

「んー……それはもう、凄く」

「……そうか」


 まっすぐな目で明るく言われると、照れ隠しすら言えなくなってしまう。

 黙って肉をかじって、俺は彼女の案内に身を任せることにした。


「あ、他に欲しいものがあるならなんでも言ってくださいね、こう見えておかねもちですからね!」

「いや、俺の立場的になんでも買うのはまずくないか……?」

「私の私物ってことにして買えば問題無いですよ! ほら、あそこの包丁とかよく切れそうですよ! 店主さんの手作りですって!」

「よりによって刃物を勧めるなよ……」


 こいつ、俺が捕虜だってすっかり忘れてないだろうか。

 そもそも甘えるのがよくない気がするが、なぜか魔王はサイフらしい皮の袋を取り出してうきうきした様子だ。


「……あー、それなら、なんかいっしょに遊べそうなボードゲームでも買っていこうぜ。そろそろ人生ゲーム以外にもあったらいいなって思うし」

「……! それは良い考えですね! そういうお店もたくさん出てますから、いっしょに見て回りましょう!」

「……ああ、わかったよ」


 ボードゲームは元々魔王の趣味のものでもあるので、彼女の私物ということで問題無いだろう。ただ、置き場所が俺の独房になるってだけだ。

 市場を見て回りつつもはぐれないように気をつけつつ、魔王についていく。目に映る品物はどれも人界では見たことがなく、なんとなく用途のわかるものもあれば、なにに使うのか皆目見当がつかないようなものもあった。

 途中で食べ終わったあとの串を、道すがらに設置されているゴミ箱に捨てて、魔王と俺は市場の奥へと入っていった。


「いつもこのあたりが玩具をよく売ってるんですよ。たまにオリジナルのゲームも売ってて、ゲームバランス崩壊してたりもしますが、作り手の趣味がつまってて面白いですよ」

「ほー……見てて思ったけど、こういう個人出店ばっかりの自由市場でも、結構同じジャンルで固まるんだな」


 食べ物屋はあちこちまばらにあるが、服を売っているやつの隣で同じように服を売ってたりすることが多かった。

 当然ラインナップは違うのだが、わざわざライバルの隣で店を構えているのには、なにか意味があるんだろうか。


 人界では有名人だったためにこういう人が多いところは避けていたので、そのへんの知識に俺はあまり明るくないのだった。


「治安維持のための兵士を多めに配備するのと、各所にゴミ箱を設置したり掃除役を雇ったりして美化する以外は特に大きく公的な管理はしてないんですが……お客さんの目的が明確なら自然と集まりますし、同じ系統の商品を扱っているもの同士で情報交換とかもスムーズなので、自然とそうなっているみたいですね」

「ああ、なるほどそういうことか」

「特にこういう玩具系は、店主同士が売り物で遊んでることも多いので、ほぼいつも同じ区画にかたまってますね」

「青空ボドゲ大会……ちょっといいな」


 今日の目的はチェス大会だが、時間があったら大人数でできるゲームをやるのも良い、とか思ってしまった。メイドを交えて三人で、というのもありだろう。


「ところで……魔剣士さん、なにか気になるゲームはありますか?」

「気になるものと言われてもな、字読めねえし」


 メイドが用意してくれた鎧につけられた宝珠の翻訳魔法は、あくまで聞こえてくる声と自分が発する声にだけ効果があるようで、ゲームの箱に書いてある文字はいつも通り『なんだかよくわからない』文字だ。


「良いんですよ、なんとなくで。せっかく来たんですし」

「なんとなく、ねえ……まあ確かに、箱のイラストとかで雰囲気はわかるが」


 ようするに、フィーリングで選べ、ということだろう。

 多くの店があり、その中で並んでいる商品のうち、なんとなく気になるものを探す。


「……これは?」


 ひとつ、見覚えがあるものがあった。

 前に魔王と一緒に魔界パズルで作った、魔王城にデザインの似た城が描かれた箱だ。


「あー……それはあれですね、国を経営する系のゲームですね、最終的にどの国がいちばん発展したかで勝敗を決めます」

「ああ、だから魔王城が描いてあんのか……」

「魔界人生ゲームはルーレットでしたが、このゲームは大陸を模した盤上にどんな施設を置くかや、直接的に他のプレイヤーに干渉することもできるので戦略性が高いですよ。もちろん、サイコロを振ったりカードを引いたりして、運の要素もあります」

「……ふむ」


 魔界人生ゲームはほぼ運のゲームだ。止まったマスでの選択肢はあるが、どこに行けるかはルーレット次第になる。

 聞いた感じだと、このゲームはもう少しプレイヤーの戦略や思考が入る余地があるようだ。


「……じゃあそれにするか」

「魔剣士さん、お目が高いですね。このゲームは大人気で、界隈を知らない人でも、名前とか箱は見た事あるくらいには有名なんですよ」

「見覚えがあるもんが描いてあったから、たまたま目に止まっただけだよ。聞いた感じ、人生ゲームよりはまだ俺に勝ちの芽がありそうだしな」


 元々の運気の差なのか、俺と魔王の人生ゲームでの対戦は、彼女が九割勝っているという状態だ。

 逆に魔界チェスはほぼ俺の勝ちなので、もう少し拮抗できる勝負事が欲しかったところでもある。


「というか、そんなに有名ならお前も持ってるんじゃないのか?」

「もちろん初版から買ってますが、これは最近でてきた最新版で……なんとパッケの魔王城デザインが、戦争終結後のものになってるんですよ!」

「ああ、終戦記念版みたいな感じなのか……」


 有名どころということで心配したが、バージョン違いということで良いのだろう。

 魔王は俺が選んだ箱を、上機嫌な様子で持ち、店主に硬貨を渡す。


「はい、無事買えましたので、いったんマントにしまっておきますね」

「……その魔法、ほんとに便利だな」

「……各地を旅してるときに覚えたかったなぁ、とか思ってません?」


 ちょっと思ってた。


「ええと……まだちょっと時間はありそうですね。魔剣士さん、もう一ヶ所いきたいところがあるんですけど、良いですか?」

「ガイドに任せるよ。ここまで充分楽しかったしな」

「ふふ、はいっ。任せてください。それじゃあ、こっちの方から市場を出ましょうか」


 魔王の案内で、入ってきたのとは違う方向へと出る。

 整理された町並みに感心しつつ、俺は魔王に導かれるままに歩いて行く。

 人混みを抜けたからかもう手を繋がれないことを少しだけ寂しいと想うのは、ちょっと我が儘すぎるだろうか。


「……ここです」

「ん……おぉ」


 連れてこられたのは、展望台、というわけでもないが、少し高い位置だった。

 落下防止だろう、木で作られた柵があり、開けた場所。

 市場のように特に店があるわけでも、公園のように遊具があるわけでもない。

 ただいくらか人が居て、町並みを見ているあたり、観光スポットのような場所ではあるのだろう。


「……景色、良いな」


 高い場所なので、見える景色は綺麗だった。

 整った町並みの中、行き交うひとびとが見える。

 遠くに見える魔王城は、先ほど買ったボードゲームの箱に描かれていたものと同じシルエットだ。


「市場で活気は充分に見て貰えたと思いますし、魔剣士さん、景色を見るの凄く楽しそうだったので……どうですか?」

「……うん、凄いな、これは」


 凄いと思うのは、魔界の暮らしぶりだけではない。

 魔族が、人間と同じように生活を営んでいる驚きは、既に過ぎている。


 俺が凄いと思うのは、この景色を積み上げた時間と、それを成した魔王のこと。

 かつては戦ってばかりだったというこの世界に、これだけの都市を築いて、『平和』を当たり前にした。そうなるまでに、何千年も時間をかけて。

 今、俺の目の前に広がっている景色は、彼女が何千年も追い求めた夢だ。


 それを見れたことが、嬉しいと思う。

 話を聞くだけではなく、実際に自分の目で見ることで、魔王の過去に本当の意味で近づけたような気がしたからだ。


「……確かに、この景色をちゃんと知っていたら、戦うなんてしんどくなるばっかりだな」

「ふふ、そうでしょう。……活気のある市場の中心にいくのも、こうして静かに町を見るのも、好きなんですよね」


 屈託のない笑顔からは、何千年の苦労なんて微塵も見えない。

 それでも、町並みを愛おしそうに見る目が、すべてを語っている。

 自分がしてきたことを肯定して、これからも平和を守り続けたいという気持ちが、わかる。


「……綺麗だな」

「えへへ、ありがとうございます。私もお気に入りなんですよ。だって、とっても綺麗で……がんばって良かった、これからもがんばろうって、思えるから」

「……そうか」


 綺麗だ、という言葉は、町並みだけではなく、彼女の瞳にも向けたものだった。

 魔王はそれに気付いた様子はなく、ただ嬉しそうにはにかむ。

 俺も今は、届いて無くてもいいと思った。魔王の笑顔を見ているだけで、充分に気持ちが満たされているから。


「……おふたりとも、そろそろ移動した方がいいかと」

「うおっ」

「あ、メイドちゃん。もう時間ですか?」

「はい、会場までの距離を考えますと、今からの移動がベストです」


 唐突にメイドに声をかけられて、驚いた。

 気配が一切無かったが、やはりずっと近くで見ていたのだろう。

 実際、魔王は驚くこともなく対応している。


「それじゃ、案内をお願いします。さ、行きましょうか、魔剣士さん」

「……おう」


 もう充分に楽しんだという気持ちもあるが、ふたりきりの時間が終わってしまうことには、少しだけ名残惜しさがあった。

 ただそれを表に出すわけにはいかないので、俺は素直に頷くことにした。


「……また、いっしょにお出かけしましょうね」

「……ああ、機会があればな」

「ありますよ、きっと。いつか『機会』なんて言わずに、当たり前にそうできる日が来ますからね」

「……そうか。楽しみにしてる」


 また前向きなことを、なんていつもの照れ隠しをする気にはなれなかった。

 既にそのときのことを楽しみにしている自分がいるし、なにより、彼女は何千年と平和のために奔走できるような我が儘な王なのだ。

 そのときが来るまできっと、彼女は諦めないのだろう。

 だったら自分も、信じていればいい。


 前を行く魔王のことを、少しだけ眩しく感じながら、俺は彼女の後を追うのだった。

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