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【祝コミカライズ】魔王が俺の部屋に飯を食いに来るんだが~腹ペコ魔王と捕虜勇者~  作者: ちょきんぎょ。


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☆魔王様は今日も

 足音を響かせて、私は城内を歩く。

 既に業務は終えているので、行く先はひとつだけだ。


「え、ええっと……」

 

 部屋の前に立ち、異空間から取り出した手鏡で身だしなみをチェックする。


「すぅ……はぁ……」


 息を整えることで、心のざわめきを抑える。

 この扉の向こうにいる彼のことを想うだけで高まってしまう熱を、まだ彼に知られたくないから。


「……勇者さん、こんにちわ」


 努めていつも通りの声で、私は部屋の扉を開ける。

 そこにいるのは、椅子に腰掛けてのんびりとお茶を飲んでいる、私が恋した人。


「おう、来たか。お疲れさん、魔王」

「は、はい。勇者さんも、お疲れ様です!」

「いや俺は別に疲れてはないけどな……とりあえずお茶淹れてやるよ、座っててくれ」

「……ありがとうございます」


 顔を見るだけで、声を聞くだけで、微笑みかけられるだけでドキドキしてしまう。

 胸の音が聞こえてしまっていないだろうかと不安になりながら、私は椅子に腰を下ろした。


「ほい、お茶。さっき淹れて少し冷めてるけど、一応気をつけてな」

「あ、ありがとうございます。んく……」


 渡されたお茶を一口飲むと、少しだけ心が落ち着いた。


「えっと……その、この間は、夜遅くまでお邪魔してしまって、すみませんでした」

「ん? 気にすんなよ、俺だって、楽しかったんだから」

「えへへ……はい」


 投げかけられる言葉も、勇者さんがこちらを見てくれることも、一緒にいられる時間も、ぜんぶが愛おしくて、顔がほころんでしまう。


 ……好きだなぁ。


 顔を見て、改めて自覚してしまった。

 私は、彼のことが好き。

 今はまだ、それを正面から伝える勇気はないけれど。


「あ、あの、勇者さん」

「ん、どうした、魔王」

「……今日も晩ご飯、食べていって良いですか?」


 あなたと一緒に過ごしたいと、遠回しに伝えるくらいは、したいと思った。


「おう、もちろん良いぞ。今日は肉にする予定だけど、それでいいか?」

「っ……は、はい! 宜しくお願いします!」

「なんだ、改まって……まあ良いけどよ。感想は聞かせてくれよな」

「えへへ、任せてください。食べるのは得意ですよ! 料理とか片付けは一切出来ませんが!」

「後半は胸張って言うことじゃないけどな」


 呆れた顔で笑って、勇者さんはチェス盤を持ってきてくれる。

 恋心を伝えることも、彼をもっと自由にしてあげることも、まだ先になるけれど。

 今はまだ、この距離感が心地良いと思う。


 ……でも、いつか。


 叶うのならば、この小さな部屋の中だけでなく、もっといろんな景色を彼と見たい。

 魔界のあちこちを、人界の隅々を、彼と一緒に歩きたい。

 そしてそのときに、私と彼の手と手、心と心が繋がっていたら。


「……えへへぇ」


 想像するだけで、幸せすぎて顔がにやけてしまう。


「ん、なんだ機嫌良さそうだな。なんかあったのか?」

「なーんでもなーいですよーう」


 大好きなあなたと一緒にいられるからですよ、という言葉を飲み込んで。

 いつかきっと、彼に気持ちを伝えることを、ひっそりと誓いながら。

 私は今日も、許される限りの時間を勇者さんと過ごすのだった。

      

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