第8話「天使のようにかわいい幼女、降臨」
次の土曜日――俺は、自分が暮らしているマンションの近くにある公園で、ベンチに座って考えごとをしていた。
「結局、新しい手掛かりはなしかぁ……」
一応休み時間などにそれらしき情報が手に入らないか、とか、去年一年生を担当していた先生や、教頭先生などにそれとなく話題を振って探りを入れてみたが、全て空振り。
元々おとなしいため陰が薄くて、美堂さんが傍にいなければ注目されるようなこともなかった子のようなので、どうしても美堂さんが知っている以上の情報は出てこないという感じだ。
「困ったなぁ……」
「――なにが、こまったなのぉ?」
「――っ!?」
空を見上げて溜息を吐いていると、突然下から声を掛けられた。
視線を落としてみると、銀髪の幼女が小首を傾げながら俺の顔を見上げてきている。
というか、俺の股の間に入り込んでいた。
「佐奈ちゃん……どうして、ここに……?」
「それは、こちらの台詞なのですが?」
「…………」
俺は佐奈ちゃんに尋ねたのだけど、今度は斜め上から声がした。
顔を上げて見ると、美鈴ちゃんが目を細めて俺の顔を見降ろしている。
おぉぅ……。
「さなね、いつもこのこうえんであそんでるんだよ!」
美鈴ちゃんの冷たい目には気が付いていないのか、佐奈ちゃんが右手をあげて『はい!』と言わんばかりに元気よく教えてくれる。
とりあえず、明日からはこの公園に近寄らないようにしようと思った。
「そ、そうなんだね」
「おにいちゃんは、なにしてるのぉ? さなとあそぼうとおもって、まっててくれたのぉ?」
佐奈ちゃんは嬉しそうに笑みを浮かべながら、体を左右に揺らし、俺の顔を期待したように見上げてくる。
どう考えても、俺が佐奈ちゃんをここで待っていたはずがないのだけど、この子は自分の世界を展開する子らしい。
というかこれ、遊ぼうと言われているのだろうか?
「うぅん、考えごと――」
「……ぐすっ」
「――っ!? そ、そうだね! 佐奈ちゃんと遊ぼうと思ってたんだよ!」
否定しようとした途端、佐奈ちゃんが急に涙ぐんでしまい、俺は慌てて軌道修正する。
それにより、佐奈ちゃんの表情がパァッと輝いた。
「そっかぁ! さなもね、おにいちゃんとあそぶ!」
ニコニコになった佐奈ちゃんは、俺の隣にペタンッと座ってくる。
自由奔放な子だなぁ、と思っていると、美鈴ちゃんが『何やってるんですか……』とでもツッコミたい表情をしていた。
いや、だって……幼い子に泣きそうな顔をされたら、抗えないじゃん……。
彼女からすれば、元カレと自分の娘が遊ぶのは嫌なんだろうけど、俺にはどうしようもない。
それに、佐奈ちゃんを泣かせるの自体よくないけど、もしこの子を泣かせたなんて上条さんに知られたら……想像するだけで怖い。
下手しなくても、クラスメイトたちをけしかけてきそうだし。
「おにいちゃん、なにしてあそぶ? さな、なんでもいいよ?」
俺と美鈴ちゃんが目だけでやりとりをしていると、佐奈ちゃんがクイクイッと俺の服を引っ張ってきた。
この子、上条さんと違って周りを気にしない子なんだろうなぁ……。
「俺もなんでもいいよ。いつもは何して遊んでいるの?」
「ん~? すべりだいとか、ぶらんことか、おすなばであそんでる……!」
佐奈ちゃんは口元に指を当てて考える素振りを見せた後、公園にあるものたちを指さして教えてくれた。
幅広く遊んでいるな……。
お姉さんと違って、元気がいい子らしい。
「それじゃあ、ブランコで遊ぼうか?」
「んっ!」
砂場は服や手が汚れるからちょっと抵抗ある――というか、佐奈ちゃんの服を汚したりしたら、『洗濯が大変でしょ……!』と美鈴ちゃんが怒るんじゃないかと思い、俺は無難なブランコを選択した。
ベンチから立ち上がると、佐奈ちゃんが俺の手を取ってくる。
突然手を繋がれて驚いていると、佐奈ちゃんは俺の顔を見上げて『えへへ』とかわいらしい笑みを零した。
天使か……!?
と思うほどにかわいいのだけど、随分と人懐っこい子だ。
おそらく美鈴ちゃんが甘やかしながら、愛情たっぷりに育てているのだろう。
これ、佐奈ちゃんのお父さんに見られたら俺終わるんじゃ……?
と、恐怖が過るものの、幼女のかわいさには抗えなかった。
とりあえず、物言いたげな顔でこちらを見ている美鈴ちゃん。
そんな表情を向けてくるくらいなら、この子を止めてください。
――とは、思った。
「押してあげるね?」
「んっ……!」
ブランコに佐奈ちゃんを座らせると、俺は後ろに周り、ゆっくりとブランコを動かす。
佐奈ちゃんは自分で漕ぐようなことはせず、まるで俺に甘えるかのように、ブランコと共に体を預けてくるのだった。
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