第6話「不登校の少女」
上条さんに脅されてから数日が経ち、俺は美鈴ちゃんのことが少し気になるものの、それ以上に気になることが出来ていた。
というか、看過できない問題だ。
「今日も、村雲さんは休みか……」
始業式から一度も見ていない生徒がいる。
村雲瑠美さんという子なのだけど、初日に連絡がなかったにもかかわらず欠席をし、以降一度も学校に来ていない。
初日では、村雲さんが無断欠席したことを気にしていた俺に対し、教頭先生が《あ~、気にしなくていい。君はそれよりも、あのクラスをまとめることを考えなさい》と言っていたので、俺も気にしないようにはしていたが……。
さすがに、まずい気がする。
でも、教頭先生が知っているということは家庭事情なのかもしれないし、そもそも俺はこの子がどういう子なのかもわからない。
問題児ばかりが集まっていそうな、E組が嫌でこなくなった――という可能性はさすがにないだろう。
なんせ新学年のクラス割りは、当日の朝学校で発表されていたので、学校にこないとわからないのだから。
……いや、朝クラス割りの紙を見て、即行帰ったパターンもありえるのか……?
わからない。
とりあえず、村雲さんについて情報がほしかった。
そう思った俺は、昼休み――上条さんを、校舎裏に呼び出した。
「あの……あの人の件で仲良くなったと思われるのは、大変心外なんですが? あの人と先生がどういう関係であろうと、私、先生のことなんとも思っていないので」
校舎裏に来てすぐ、氷のように冷たい表情で上条さんは俺に文句を言ってきたのだけど、俺はそれを笑って流す。
「いや、美鈴ちゃんとは関係のない件で、教えてほしいことがあるんだよ」
「人気のないところに呼び出すなんて、怪しいですね……?」
上条さんは俺の言葉を聞くなり、目を細めて自身の体をギュッと抱きしめた。
「最初にここに連れてきたのは君だろ!? 他の生徒に聞かれないほうがいいかな、と思って配慮しただけだよ……!」
「つまり、告白ですか? 困ったものですね、通報案件でしょうか?」
「誰もそんなこと言ってないよね!? 教えてほしいことがあるって言ってるでしょ……!」
スッ――とスカートからスマホを取り出した上条さんを、俺は慌てて止める。
この子、クラスではおとなしくてあまり喋らず、クールで過ごしているのに、二人きりになった途端別人のように俺を弄ってきている気がする。
「……それで、私に聞きたいこととは?」
満足したのか、途端にクールな少女に戻る上条さん。
なんだろう。
この子、本当に美鈴ちゃんの娘か、と思うほどにやりづらい。
……いや、実の娘ではないみたいだけど。
「クラスメイトの村雲さんってわかるよね?」
俺が名前を出すと、途端に上条さんは眉を顰める。
面倒事を振ってきた、とでも思っていそうな顔だ。
「まだ二年生になってから一度も来てないんだけど、何か理由を知らないかな?」
今年度この学校に来たばかりの俺より、去年からいる上条さんのほうがこの手の事情は詳しいだろう。
意外と周りをよく見ている子のようだし、何か手掛かりでも入ればいい――そんな気持ちだった。
「はぁ……その子、去年の三学期の途中に急にこなくなった子ですよ。それ以来、ずっと学校に来ていない――要は、不登校です」
上条さんは溜息を吐くと、淡々と説明をしてくれた。
その可能性も考慮していたが、やはりそうなのか……。
まぁ、上条さんが『それくらい、去年の出席簿を確認しろ』という目で見てくるが、ごめん。
聞いたほうが早いと思ったんだ。
だって去年も休んでいる事実よりも、休む理由のほうを俺は知りたいのだから。
「どうして休んでるの?」
「そんなの、知りませんよ。私が知るわけないでしょ。と言いますか、誰も知らないはずですよ」
上条さんはめんどくさそうに首を横に振る。
しかし、俺はその答えに違和感を抱いた。
「なんで誰も知らないってわかるの?」
上条さんが知らないのは、まだわかる。
というか、同級生が不登校になったからといって、事情を知らなくても全然不思議ではないだろう。
だけど、どうして誰も知らないと言える?
「あの子は元々おとなしい子でしたし、交友関係も狭かったです。学校にこなくなって、他の先生が交友関係があった子たちに尋ねていましたけど、みんなわからないって答えてました」
やはり、上条さんは周りに関心がなさそうにしていながらも、よく周りを見ている子だ。
それならば、確かに『誰も知らないはず』と答えるのもわかる。
なんせ、仲がよかった子たちが知らないのに、ほとんど絡みがなかった子が事情を知っているとは思えないからだ。
となると、どうするべきか……。
村雲さんが仲良かった子たちに聞いても、きっと『知らない』と返されるだけだろう。
家に訪問する?
いや、事情を知らない俺が押し掛けるのはまずい。
それが却って村雲さんへのプレッシャーになるかもしれないし、彼女の問題が家庭事情の可能性もあるのだ。
そうなった場合、村雲さんの保護者から警戒をされかねないし、せめて動くならもっと情報を得てからにしたい。
まだ探れる部分はあるだろうし、ここは焦らず――。
そう考えている時だった。
悩んでいる俺をジッと見つめていた上条さんが、ゆっくりと口を開いたのは。
「ですが……こういう噂はありました。いじめられて、こなくなったんじゃないか……と」







