第22話「幼女のお願いは絶対」
「ゆ、遊園地? どうして……?」
いろいろと思うところがある俺は、震える声で佐奈ちゃんに確認を取る。
すると、それが否定しているように聞こえたのか、佐奈ちゃんはシュンとしてしまう。
「ゆうえんち、いきたい……」
「――っ!? そ、そうだね、行こうね!」
目に涙が浮かびかけた佐奈ちゃんを見た俺は、反射的に口からその言葉が出ていた。
あぁ、俺はまた……。
どうやら俺は、幼女の涙に弱いらしい。
――というか、普通こんな幼い子供に泣きそうになられたら、親はともかく赤の他人が動揺しないはずがないのだ。
「ほんとぉ……!?」
佐奈ちゃんは俺の言葉を聞くと、いつぞやのように表情がパァッと輝く。
今更『やっぱりやめておこう』なんて言おうものなら、大号泣されそうなほどに喜んでいた。
「保育園のお友達が、先週の休日にご両親と遊園地に遊びに行かれたようで、それを聞いた佐奈は遊園地に行きたがっていたんです」
喜んでいる佐奈ちゃんの頭をソッと優しく撫で、美鈴ちゃんが佐奈ちゃんの代わりに説明をしてくれる。
お友達の自慢話を聞いて、自分も行きたくなった、という感じか。
俺は佐奈ちゃんが嬉しそうに胸に頬ずりをしてきたところで、美鈴ちゃんの耳に口を寄せる。
「でも、俺と行くのはまずくない……?」
佐奈ちゃんに聞き取られない程度の声で、暗に『旦那さんに連れていってもらいなよ』という意味を込めて言ってみた。
なんせ、見方によっては子連れの遊園地デートをしているように見えなくもない。
知り合いに見られた場合、完全にアウトだ。
ましてや俺の場合、学校関係者に見つかろうものなら、生徒の保護者と個人的に仲良くしていると捉えられて、新しい職場から早々に去らないといけなくなるだろう。
いろんな意味で、遊園地に彼女たちと俺が行くことは、リスクが高かった。
しかし――
「こうなっては、佐奈は言うことを聞かないので、仕方がありません……。えぇ、私があなたと行きたいんじゃなく、佐奈が行きたがるから行くんです」
――何やら、『私があなたと行きたいわけではない』と強調をされた上で、『行くしかない』と言われてしまった。
なるほど……佐奈ちゃんが父親ではなく、俺と行きたがっているから、美鈴ちゃんも仕方がなく俺と行こうとしているわけか……。
それ、旦那さんに知られていた場合、俺恨まれているんじゃないか……?
もしくは、旦那さんには内緒とか……?
いやいや、あの誠実な美鈴ちゃんがそんなことをするとは思えないし、俺と行く以上は話していそうだけど……多分、前は旦那さんの許可なく俺を連れ込んでいたしな……。
高校時代と結構雰囲気変わっているし、話していない可能性もあるのか……?
どちらにせよ、旦那さんのことは聞きづらいし、悪いことをしているようで胸が痛いんだが……。
でも、佐奈ちゃんを泣かせるわけにはいかないし……。
「ちなみにですが、真凛にも声をかけたのですけど、あの子は行きたくないそうです」
俺が困っていると、美鈴ちゃんはそんな補足をしてくれる。
そりゃあそうだろ!
と思った俺だが、足の上にいる幼女を泣かせるわけにはいかないので、ツッコむことはできなかった。
あの妹大好きシスコンな子が、遊園地で妹と遊べるのに一緒にこないのは、誰かに見られて誤解されたくないという気持ちと、教師と一緒に遊園地になんて行けるか、という気持ちがあるのだろう。
俺だって、佐奈ちゃんが泣きそうにならなかったら断っているしな……。
なお、遊園地に向かう道中では――
「ゆ・うえん・ち! ゆ・うえん・ち!」
――と、俺と美鈴ちゃんと手を繋ぎ真ん中で元気よく腕を振る佐奈ちゃんは、とてもご機嫌そうにしていた。
幸せいっぱいという感じで、他の人から見たらまさに親子と思ってしまうだろう。
まぁ……この子が喜んでくれるのならいいか……。
俺が美鈴ちゃんと間違いを起こさないようにすることで、旦那さんに対して義理を通すしかない……。
美鈴ちゃんの旦那さんには申し訳ないな、と思いながらも、俺はそう割り切るしかなかった。
幼女って、最強なんだな……。




