第13話「幼女が放してくれない」
「――んんぅ……!」
あれから時間が経ち、美鈴ちゃんが食事を作り始めた後のこと。
もうすぐ料理が完成するということで佐奈ちゃんを起こしたら、とても不機嫌そうに顔をグリグリと俺の胸に押し付けられてしまった。
まだ寝ていたいというアピールだろう。
寝起きは、どうしても眠気が収まらないから、仕方がない。
「ずるい……」
なお、俺の前では相変わらず、上条さんが恨めしそうに俺の顔を見つめていた。
この子も、ブレないな……。
「佐奈ちゃんは、どうやったら起きようとするかな?」
「そこまで目を覚ましていましたら、後は料理の匂いに釣られて、勝手に起きます」
「嘘でしょ……?」
いったい上条さんは自身の妹をなんだと思っているんだ――と、思った俺なのだが……。
「ごはん……!」
美鈴ちゃんがおかずの一品をテーブルに持ってきた直後、俺の胸に顔を押し付けていた佐奈ちゃんが、急に元気よく後ろを振り返った。
本当に、料理の匂いに釣られて意識が覚醒したらしい。
そんな佐奈ちゃんに戸惑っていると、上条さんが『ね? 言ったでしょ?』と言わんばかりの目を俺に向けてくる。
さすがは、お姉さんだ……。
「佐奈ちゃん、膝から下りてくれる? 俺も運ぶから」
「やだ! だめ……!」
料理ができたのなら、運ぶのを手伝わないと――って思い、佐奈ちゃんを後ろから抱っこして下ろすと、俺が立つ前に抱き着かれてしまった。
そして、すぐさまよじ登ってくる。
まじか……。
「よほど懐かれていますね……」
「うん、だからそんな嫉妬にまみれた顔しないでよ……。俺一応、君の担任教師だよ……?」
「えぇ、私の担任教師であるにもかかわらず、私の大切な妹に手を出したんですよね?」
「だからその人聞きが悪いこと言うのやめて……! 絶対教室で言わないでよ!?」
彼女がもし学校で今のようなことを言ったりなどしたら、俺はとんでもない濡れ衣を被せられることになりかねない。
てか、多分上条さんの家に俺が上がったと知ったら、クラスの男子は滅茶苦茶羨ましがりそうだ。
見ている感じ、彼らにとって上条さんは、手を出せない高嶺の華、みたいな感じのようだし。
あと、生徒の家に用もなく上がり込んでいるなんて知られたら、俺が教頭先生あたりに凄く叱られそうだ。
少なくとも、ネチネチと嫌味を言われる気はする。
「そうなった佐奈はもう言うことを聞きませんので、おとなしく座っておられたらどうですか? 私と真凛で運びますので」
俺の膝に座り直し、ギュッと抱き着いてくる佐奈ちゃんに困っていると、美鈴ちゃんが少し刺々しい言葉を使いながら、俺にそう促してきた。
しかし、俺たちを見つめる表情は――どこか微笑ましそうであり、そんな彼女の顔を見た俺は、少し戸惑ってしまうのだった。




