第12話「幼女を甘く見てはならない」
「――えへへ」
リビングに連れて行かれた俺が上条さんに言われるがままソファに座ると、すぐさま佐奈ちゃんが俺の膝の上に座ってきた。
この子、もうやりたい放題だ。
かわいいからいいのだけど。
「…………」
いや、良くなかった。
佐奈ちゃんを俺に取られていることで、上条さんが凄い顔で俺のことを恨みがましそうに見ている。
上条さん、本当にこの子のことが大好きなんだな……。
まぁ、天使のようにかわいいので、無理もないのだけど。
「んっ……」
「あれ?」
女の子がしたら駄目な顔で俺を睨んでくる上条さんに愛想笑いを返していると、突然佐奈ちゃんが体勢を変え、俺に対して横向きになってしまう。
そのまま、横顔を預けるように俺の胸に体ごと顔を倒してきた。
まるで、電池が切れたかのようにおとなしくなっており、目も閉じてしまっている。
「あぁ……取られた……」
そして、そんな佐奈ちゃんを見つめながら、上条さんがガクッと項垂れてしまった。
どうやら、俺が椅子代わりというかベッド代わりみたいになっているやつは、いつもは彼女の役目のようだ。
「普段からこんなふうにいきなり寝ちゃうの?」
「まぁ、幼いからか持っている元気を全力で放出して、尽きると本当に電池が切れたように眠ってしまう子ではありますね。とはいえ、いつもはもっと予兆があるのですが、大はしゃぎした後はこんなふうに突然寝てしまいます」
つまり、外で遊びまくったせいで疲労感が溜まり、寝てしまったということか。
ほんと、よくこれだけはしゃげるなってくらい元気よく遊んでいたもんな……。
大人の俺が疲れているんだから、幼いこの子が疲れないはずがなかった。
俺はかわいい寝顔に癒されながら、ソッと優しく佐奈ちゃんの頭を撫でる。
「――で、元カノの家であり、教え子の家でもあるところに来て、食事までしていくだなんて、先生は見た目に寄らず鋼のメンタルでも持っていらっしゃるんですか?」
彼女にとって、嫌われたくない妹が寝てしまったからだろう。
上条さんは顎に手首を添えながら、とても意地悪なジト目で俺を責めてくる。
「断ると佐奈ちゃんが泣きそうになるから、抗えなくて……」
「はぁ……その子、幼くても賢いですからね? 一度言うことを聞いてしまった以上、もう絶対逃がしてくれませんよ?」
「なにそれ、怖い」
俺は変なキャッチにでも捕まったのか?
と思うくらいに、恐ろしい忠告をされてしまった。
というか、幼女のしていることに言うことではない。
「今日だけだと思いましたか? 食べ終わった頃には、明日もこい、明後日もこいって言い出しますよ、きっと」
「はは、まさか――」
と笑う俺なのだけど、このあと本当にそんな事態になるとは思いもよらないのだった。




