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95.最後の文化祭じゃ


 父上、母上、昨日は文化祭だったのじゃ!

 もう準備が忙しいわ事件がいっぱいあったわで大変だったわ!


 三年生はの、何をやっても自由なのじゃ。

 なので、なんにもやらんクラスもあるのじゃ。

 わしはそのほうが楽なのじゃが、わしのクラスは仮装行列になったわ。

 クラス全員、なにかに仮装して文化祭の日は一日中その格好のまま過ごすのじゃ。

 ……要するに個人個人に丸投げじゃのう。


 わしは面倒なのでもう「魔王」で行くことにしたわ。

 こちらの絵本にあるような魔王での、頭にツノ生やして、矢印みたいなしっぽ下げて、黒いドレス着て、(こん)持っての、背中にコウモリの羽をパタパタさせるのじゃ。

 羽は自前じゃ。

 今までずーっと隠してきた背中の羽を、「仮装じゃ」言うて堂々とヒラヒラさせて歩くのじゃ!

 実にいい気分じゃ!!


 魔王の武器がなんで棍? と思うじゃろ。母上がこっちの武闘会で優勝したとき使っとったからじゃ。

 あれ以来魔王と言えば武器は棍なんじゃ。

 絵本でもそうなっておるのじゃ。なんだかのう……。

 それだったら、角もしっぽも無くていいと思うがのう。妙なとこだけ忠実じゃの。


 クラスメイトは人気の舞台の登場人物に扮したり魔物に扮したりいろいろじゃの。

 うちのクラスで一番背の高い男がの、ホロウに扮しておったが、どうするのかのう。

 せっかくの文化祭なのに、一日中校門で立っておるつもりかの?


 うちの班のピカピカがのう、勇者をやるのじゃ。

 で、クラスのおなごがパーティーメンバーじゃ。

 今までアホ臭いので書かんかったが、ピカピカ、四人の貴族男子の中で一番家柄が良く見た目も良いのでクラスのおなごに大人気での、いつも取り巻いておるのだが、ほれ二十年前に現れたあの勇者とそのパーティーの仮装をやるんだと。

 目のやり場に困るようなきわどくてあざとい衣装でのう、乳をぶるんぶるんさせながらパンツちらちらさせて練り歩くのじゃぞ。

 パーシェルは白い僧侶服着て清楚ぶっておったがの、僧服のスリットがぱんつすれすれじゃ。

 勇者のパーティー、たしかおなごが三人ではなかったかのう?

 なんで四人いるんじゃ。


 それでこいつらがまた学園内で、魔王に扮したわしを見つけるとの、「魔王だ――――!!」と言ってかかってくるのじゃ。

 わしはそのたびに即興でやつらを蹴散らしてすたこらさっさと逃げ出すのじゃ。

 これを学校じゅうでやられるのだからおちおち展示も見てまわれんわ。

 面倒なので途中からピカピカを本当にボコボコにしてやったのじゃが、後半本気で目を血走らせてわしを探しておったのう。あっはっは。


 ま、そんな連中のことはほうっておいての、まずは科学部じゃな。

 わしが魔王のカッコして校庭に行くとの、もう準備整っていて、「おおーナーリンさんそれ似合いますね――!」とか言ってくれての。

 そりゃそうじゃ本物じゃからの。

「点火式行きまーす!」と言って、わしのファイアボールで魔石バーナーに点火じゃ。

 ごうっごうっと熱風送って、気球膨らませて、二人乗りの藤籠(ふじかご)を立ち上げての、ぷかりと気球が持ち上がると見学者から大歓声じゃの。


 科学部の部長が乗り込んで、「お客さんの第一号になってください」と言ってわしに手を伸ばすのじゃ。

 わしは「魔王だ――――!!」と言って襲ってきた勇者パーティー蹴散らしてから乗り込んで、部長が魔石バーナーひとふかしするとするすると上昇開始じゃ。


 部長と二人でしばらく空中散歩じゃ。

 学園が、ルルノールが、城塞都市の全てが見下ろせる。


「ナーリンさん、去年、ずっとこの風景を見ていたんですよね……」

「そうじゃ。楽しかったぞ」

「よかった。準備まにあって」

「おぬしらがみんな頑張ってたからじゃ」

「全部あなたのおかげです」


 嬉しいのう。


「さ、次のお客が待っておる」

 すごい列できとったわ。

 今年も科学部がイベント一位取りそうじゃの。

 びっくりしたのは降りたら父上がおったことじゃの。

 心配でわざわざ見に来たのかの。

「魔石バーナー、上手に出来たじゃないか」と言ってニコニコしておったのう。

「わしの父上じゃ。今まで気球と魔石バーナーの設計でずっと助言もらっていたのがこの人じゃ」と紹介すると科学部全員、ええ――っと驚愕しておった。

 父上、科学部のみんなから完成した魔石バーナーを説明受けて笑ってたのう。

 みんな、嬉しそうで、誇らし気で、いい男の顔じゃった。

 父上、どうせあのあと乗せてもらったんじゃろ。

 いつも自分で飛んどるくせにの。



 逆にどずーんと暗い顔しておったのがトラスタンじゃ。

 一応武神ツェルト様の仮装をしておったがの、むさい男が一段とむさいのじゃ。

 この後武闘会なのに朝からずっと不機嫌なんじゃ。ほうっておいたほうがいいだろうのと思っての、「魔王だ――――!」と言って襲ってきた勇者パーティー蹴散らしてから二年生の魔物喫茶の教室でスパゲティ食べておると生徒会長のクラウスが来ての、探しましたよと言うのじゃ。


「なんかあったのかの?」と言うと、武闘会で不正が行われそうだと言うのじゃ。

「三年のエーリタスが卒業を前に武闘会で優勝したいということで、今年初めて武闘会に参加したんですが、他の出場者に負けろと圧力をかけているらしいのです」

「エーリタスってだれじゃ」

「侯爵、シュワルツ家の三男です」

「知らんわ」

「三年C組のあの貴族ですよ」

「だから知らんわ」

「女子の人気投票で一位になった」

「知らんて」

「生徒会会長選挙で落選した」

「ああ、あの男かの」

「なんでそこでわかるのです……」


 やることが露骨じゃのうー。

 トラスタンが不機嫌だったのはそのせいかの。


「そんなやつの言うこと聞くことないじゃろうて」

「侯爵家ともなれば……、貴族家の爵子や騎士は逆らえません。平民の出場者は勝てないぐらいの実力はまあありますし」

「この国では親の七光りも実力のうちじゃろう」

「ドライですねナーリンさん。僕はそんなこと、この学園にいる間ぐらいは無しにしたいんですが」

「なんでそれをわしに言うのじゃ?」

「最後まで聞いておいてそれですか……」

「で?」

「僕としてはね」

「うむ」

「家とか関係なしに一回戦で七光りをぶちのめしてですね」

「ふん」

「二回戦であっさり負けてくれて、優勝を他の真面目に努力してきた生徒に譲ってくれるような人がいたらなーと」

「だからなんでそれをわしに言うのじゃ?」

「僕の祖父がハンターギルド会長、ジョーウェルだからです」


 ……二年半学園におって一番しょうがないと思った頼みじゃのう。


「抽選箱はこれかの?」

「はい」

 わしの分も一枚入れて、全部の札に召喚術かけて待機じゃの。

 所属は「科学部」じゃ。どういう出場枠じゃ……。


 生徒会長が武闘会の開催を宣言して、まずはトーナメントの抽選じゃの。

 わしを見てトラスタンがぶほっと吹き出しおった。

「お前も出んのかよ!!」

「文句あるかの?」

「準優勝も無くなるのか……」

 トラスタン、天をあおいでおったのう。あっはっは。

 札をズルして召喚術で引いて、わしが一回戦で七光りの対戦相手じゃ。


「魔王だ――――!」と言って襲ってきた勇者パーティー蹴散らしてから闘技場に上がって待っておると、上がってきたのうチャラい銀髪が。

 またこれがメチャメチャ高そうな鎧着ておるのじゃ。


「一回戦、始め!」と声がかかってのう。

「僕は女性をいたぶるような趣味はありません。棄権していただけませんか魔王様」などと申して片膝ついて綺麗にお辞儀するのじゃ。

 キャーキャー女子どもの声援がすごいのう。


「わしは殿方をいたぶるのが趣味じゃからの。お断りじゃ」

「どうしても?」

「他の出場者に負けろと脅すようなヘタレは特にじゃ」

「その一言で手加減できなくなりました。お覚悟ください」

 一瞬、狡猾そうでいやらしい顔になったのう。本性が見えたわ。


 やあーと斬りかかってきたがの……。

 これでトラスタンより強いようなら優勝して当然の御仁じゃし、わしは降りたのじゃがのう――。

 棍でぶちのめしてから場外に放り投げたわ。

 あれは今日一日目が覚めんじゃろ。

 会場、シーンとなったな。


 二回戦、魔法使いでの、ビビりながらわしにファイアボール撃ってきおったが、わしそれまともに食らってきゃんっとか言って倒れてそのまま担架で保健室に運ばれたんじゃ。


 隣のベッドに七光りが意識不明で寝ておったのでさっさと退散して、残り時間のんびり展示を見て回ったのう。

 最後の演劇部、よかったわ。

 わし、「ロメロとジュリエッタ」誤解しておった。泣ける話じゃ。


 講堂を出ると、トラスタンがの、ニコニコ顔で優勝カップ持って走ってきおった。

「ナーリン、やっと優勝できたよ!」と言ってな。

「おぬし何度も優勝しとったような……」

「それ体育祭。文化祭の武闘会、一年の時は三年に負けたし、二年の時も三年に負けたし」

 ああ、そういえば兄上に一撃で叩き伏せられておったのう。あれは気の毒じゃった。

「お前のおかげだよ」

「なんでわしのおかげなのじゃ?」

「とぼけなくてもいいからさ」


 ふふ、いい顔じゃの。

「優勝のご褒美じゃ。ついてまいれ」

 そう言って校庭に行くとの、科学部が気球を片付け始めようとしておったな。

「もう一組乗れるかの?」

「もう魔石が無いんです」

「大丈夫じゃ。わしが自分でファイアボール出すからの」


 わしがぼわっとファイアボール出してトラスタンと一緒に乗るとの、科学部全員物凄いガックリした顔しておったのう。わしのファイアボールの方が魔石バーナーよりまだまだ強力だからかもしれんの。


「すげえ……」

 トラスタンが空からの風景を見て感嘆するのじゃ。

「俺ナーリンに嫌われてるかと思ってた」

「なんでじゃ?」

「ハンタークラブで迷惑かけたから」

 ああ、あの一件かの。


「どうでもいいんじゃ」

「よかないだろ」

「わしがどうでもいいぐらい、お主はまだまだわしにとってどうでもいい男と言うことじゃ」

「キツいなあ」

 あっはっは。


 三年間で、一番面白い文化祭になったのう。


     1030年10月2日  ナーリン



次回「文化祭その後じゃ」

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