78.炊き出し実習当日じゃ
父上、母上、今回の炊き出し実習、いろんなことがあって面白かったぞ。
まずわしは前日にシルベリアまで飛んで鶏ガラをもらってきての、タスランの朝市でソーセージの調達じゃ。二、三本試食しての、調達先の農家さんを変えてみたぞ。
他のメンバーは野菜市場で買いだしじゃ。
朝はようからスープ作りからはじめてのう。
浮浪者が集まってきよっての、「お、前にポトフ作ってくれたお嬢ちゃんじゃねえか!」とか言って声をかけてくれるのじゃ。
「今日もポトフじゃ。おぬしらコレ好きじゃろうと思うての」
「いやあ俺がガキの頃なんてオフクロが毎日これ食わしてウンザリだよ」
「でも食いたくなるんじゃろ?」
「なるなー。なんでだろな」
わははははとみんなで笑うのじゃ。おかしなやつらだのう。
前はこんなことなかったのう。みんなどんよりしておった。
「仕事はあるのかの?」
「ああ! 今、復興作業がいっぱいあってな。二日に一度は仕事にありつけるな」
「今日はどうしたのじゃ」
「……すいません、匂いに誘われてしまいました」
笑っとる場合でないわの。もちっと真面目にやらねばの。
班の殿御が市場から荷車押してきて、みんなで野菜の皮むきじゃ。
浮浪者が皮むき手伝ってくれるのじゃ。手伝わせてくれというてのう。
「手を洗ってからやるのじゃぞ」と言って宙にウォーターボール作ってやるとみんなびっくりじゃの。
「ナーリン魔法すげえ上手だな! ファイアボールもだけど、こんなこともできんのかよ! なんでこの学校にいるんだよ!」
それ前にも言われたわ。ほうっておくのじゃ。
野菜とソーセージ、グツグツ煮込んで、もうすぐお昼じゃ。
今頃になってピカピカが来おっての、わしらのポトフを見て「フンッ」とバカにするのじゃ。今にみておれなのじゃ。
もう列ができておる。
「味見じゃ」というて班の連中に少しだけ小皿についでやるとの、「うまいなーこれ!」と大評判じゃの。いい鶏ガラスープができたからのう。
「俺の母ちゃんより上手だよ。ナーリンいい嫁になるよ」
うれしいのう。
ピカピカは食いもせん。
腹立つのう。
十二時の鐘が鳴って配給開始時じゃ。
手伝ってくれた浮浪者たちが列の先頭なのでの、次々とついでやるのじゃ。
「……このソーセージどこで手に入れた?」
「タスランじゃ」
「どうやって? いや、たしかにタスランだな……。俺タスラン生まれなんだよ」
「わかるかの?」
「ああ……」
そういって、涙ぐんで食っておったのう。
食べ終わって、「帰りたくなった」と言うのじゃ。
「帰ってみてはどうかの?」
「親とケンカ別れしてさあ」
「ケンカのいいところは仲直りできるところじゃ。わだかまりを捨てて謝ってみてはどうじゃ」
「……そうだな。そうするか。もうちょっと働いて、金を稼がなきゃいかんけどな」
「頑張るのじゃぞ」
「おう!」
そんなふうに、浮浪者と話すわしをピカピカが驚いて見ておったな。
前の浮浪者はこんなふうに話しかけてくれることもなかった。大きな変化じゃ。
……またトーラスが並んでおる。
「へっへっへい……」
陛下と言いそうになったピカピカにの、トーラスがしっと口の前に指を立てて黙らすのじゃ。知り合いなのかの。
「さっきから見ておったが、みんな変わったな。明るくなった」
「復興作業で仕事が増えたそうじゃ。災難でもいいこともあるのじゃの」
「ナーリンちゃんのおかげだよ。楽しそうに話をしておっただろう。あんなふうに話す者など前はいなかった。ありがとう」
「どういたしましてなのじゃ。でも、これもみんな手伝ってくれたのじゃぞ」
「うむ」
トーラス、ふうふう椀を吹いてポトフを食べておる。
「うーん、うまい。料理は手間と愛情だな」
ピカピカ、あわあわしておる。
さっきからむさいおっさんがうろうろして他の班の鍋を見比べておる。
オートミールを馬鹿にしたように見て「へっ」とか、野菜の塩煮の鍋を見て「ふんっ」とか言ってのう。なんか腹立つ男じゃの。
「やばっ」
トーラスがあわてて逃げて行ったの。
「……あれ、教皇じゃねえの?」
班の殿御が言うので見ると、確かに教皇じゃ!
教会に破門され、賠償に全財産身ぐるみ剥がれて追放されたパスティール教会の教皇じゃの!
ピカピカがあわあわあわじゃ。
結局わしらの班のポトフの前に並びおって、またこれが実に不味そうに食うのじゃ。腹立つ男じゃ。
そんなことがあってのう。今日もわしらの班が一番に鍋が無くなったわ。
「俺ナーリンの班の炊き出し見て、いいなーって思ってたんだよ。一緒の班になれてよかった」
「僕もです。噂は聞いていました。手間暇かけて美味しい物を作ってる女子がいるって。こんなの作ってたんですね」
「俺炊き出し実習なんてめんどくさくてやだなーって思ってたんだけど、今日はなんか、やりがいあったな」
「いい点も取れそうだしな!」
「それ言っちゃうのかよ!」
殿御は美味い物食わすだけでコレだからちょろいのう。
ピカピカは思う所があったようじゃの。
「すまなかった。次からは僕もちゃんとやる。協力させてくれ」
……お前はトーラスが来ておったからじゃろうて。
まあ教皇でも浮浪者に落ちぶれるところを見れば、わかったこともあるかもしれんの。
「(さっき来てたの国王のトーラス陛下じゃなかったか?)」
小声でわしにそっと聞くのじゃ。
「そんなお方が来るわけないわの。おばかなことを言うでない」
母上も父上と出会った頃、うまいものをしこたま食わせたそうじゃのう。
殿御はの、単純で扱いやすいわ。
1030年5月3日 ナーリン
次回「ハンタークラブが大変なのじゃ」




