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73.裁判じゃ


 父上様、母上様。

 あの後、いろいろ事情を聴かれたりだの、手間暇かけさせて悪かったの。

 母上はさっさとシルビスと帰ってしまったがの、父上は事後処理で延々とこちらにいたのじゃ。たまにはわしとも遊んでくれて、嬉しかったがの。


 今回の不祥事、国を挙げて裁判することになったのじゃ。

 全部公開じゃ。国民の前で、堂々と申し開きせいというトーラスの意向じゃの。

 宗教が絡むと何をやるにも厄介じゃ。いろいろ国民に疑惑を持たれるぐらいなら公開してしまうほうがいいということなのじゃ。

 まだ壁が崩れておる闘技場でやるのじゃ。まあ一番たくさん人が入れる施設だからの。

 母上は裁判傍聴しておらぬだろうの。

 詳しく書いて送るので長くなっても我慢するのだぞ。



 最初にな、検察官がの、罪状を読み上げるのじゃ。被告は生き残っておった大教皇パスツル11世と大司教四名じゃの。あの騒ぎでよく生き残ることができたのう。教会関係者七十五名、一般市民十八名が死亡、負傷者はその三倍という大惨事だったのじゃ……。


 要約するとの、勇者教会、大教皇パスツルは合法違法を問わず魔石を集め、勇者召喚の儀式を百名にも及ぶ神官を率いてパスティール教会大聖堂にて行い、その召喚において異世界の怪物を召喚、従属させることに失敗し、その怪物が暴れたことにより多数の教会関係者および市民を死亡、負傷させたことは許されざる罪でありここに罰する、というものじゃ。

 まあ当然じゃの。


 それに対する教会側の反論がまた最低での。

 なんか大司教の一人が、「あれは教会が召喚したものではなく、魔族が送り込んだドラゴンである。教会は魔族に攻撃を受けた被害者であり、このような暴挙に及んだ魔族に対し謝罪と賠償を要求する!」というものじゃ。まったくひどい言いがかり、責任のなすりつけじゃ。

「あれは明らかにドラゴンであった。ドラゴンを使役し、召喚できるのは魔族のみ。魔族が我ら勇者教会を攻撃する目的だったのは被害状況を見ても明らかである!」とのたまうのじゃ。


 これに対する反論をガイコツがやるのじゃ。

「魔族のドラゴンはよく知られているように金色ではありませんし、首も三つも無いのはいつも交易でこの王都の空を飛んでいる通りです。あのようなドラゴンこの世界にはいない。また、魔族はドラゴンを卵から育てて使役いたします。魔族で異世界より魔物を召喚するようなことはしておりませんし、また、その必要も無い。それにあの金色の化け物、大聖堂を崩して中から現れたところ、多くの市民が目撃したとおりであります。この件に魔族は一切関係しておりません」

 もっともじゃの。


 検察官が続けるのじゃ。

「警備兵らによって一連の『魔石盗難事件』、犯人を捕らえておる。その全員が、何者かに殺される前、パスティール教会の指示により、貴族、国有の魔石を入手せよと手引きされて動いておったこと、すでに証言済である。また、現場より運ばれた教会関係者の負傷者より、勇者召喚の儀式を行っていたところ怪物が現れたとの証言も多数得ておる」


「その証言は嘘です! 我々が行っていたのは通常の朝の祈り。勇者召喚ではありません! また、魔石を盗んだとの窃盗犯の証言など信用に値しませぬ! すでに死んでおる者の証言などいくらでもでっち上げることができましょう!」


「その証言をした窃盗犯を、詰所を襲撃して全員殺したのはどこの手の者か? それは別としても、朝の祈りと言うのであれば、各支部にいたるまで通達を出し地方の高位神官を王都に集め、前日より教会の門を閉じ、一般市民の参拝をすべて中止してまでいったいなにをやっておったのだ?」


「……き、教会、二教会合弁のための会議でございます。朝の祈りの後に」


「勇者教会が各商会、ハンターギルドなどから購入した魔石の取引記録から現在教会が保有する魔石の総量は既に掴んでおる。その魔石、今はどこに保管しておる? あるなら出してみよ。また、勇者召喚していたと証言しているのはそこのパスツル大教皇の弟君であるぞ」


「魔石は未だガレキの中で行方不明でございます。また、弟君はまだ重傷より回復せぬ意識もうろう状態。そのような証言……」


「現在負傷して療養所に収容されておる教会関係者全員がそのように証言しておる。実際に召喚を行った神官が、化け物が現れて逃げ損ねたとも言っておるが?」

「それは嘘の証言をさせられているのだ!!」


 検察官の話はまだ続くのじゃ。

此度(こたび)の騒動の元、怪物を討伐してくれたのは外ならぬ魔族の魔王カーリン陛下である。怪物を相手に果敢に戦う姿、この街の全市民が目撃したと言ってよい。魔族が人間に攻撃する意志あらばなぜそのようなことをする。なぜ市民を守り、怪物を止め、被害の拡大を防いでくれたのだ? また、常日頃友好を説いて教会の不義も不問にした魔王陛下がなぜ今更教会にこのような攻撃をしかける。恩義こそあれ罪を擦り付けるなど、我ら人類の不義、末代までの恥となろう。罪を認めなされ」


「それこそが魔族の策略、教会を潰し、勇者教会の信頼を貶め、魔族の株を上げ、民衆の信頼を得ようとした自作自演の暴挙であることすでに明白である! なぜドラゴン出現からあれほど間を開けずわが国に現れることができたのか! 討伐するまでの時間があまりにも短すぎるわ! 事前に計画しておったものとしか思われぬ!」

 ものは言いようじゃな。


「異議あり」

 ガイコツが発言するのじゃ。

「市民にも良く知られている通りわが魔王カーリン陛下は観劇がご趣味です。王都で新舞台あらばお忍びで駆け付け一般市民とともに観劇なさっておいでです。この度はたまたまその場に居合わせただけのこと。そもそも魔王様はそのような面倒な作戦を立てるような方ではございませぬ。魔族の評判、友好、上げたかったらほかにいくらでも手段はございます」


 召喚で呼びよせたと言ったら話がさらにややこしくなるからの。

 ……母上の趣味がこんな言い訳の役に立つとはの。

 

「その通りだ。余はカーリン殿に誘われて平民のふりをして一緒に桟敷席(さじきせき)で何度も舞台を観ておるぞ。貴賓席は遠い、前の列で観るほうが断然いいと言うのでな。余らはそうして友好を深めておる。こんな騒ぎ起こす必要などまったくない」


 トーラスまでそんなことやっておるのかの。

 二人ともなにをやっておるんじゃまったく……。


「騙されてはなりませぬぞ! 魔族など常日頃から人類を支配せんと狙っておるやからなのは明らか! 国王自らそのような……、直ちに兵をあげ、魔王を討伐に向かうのが王たる者の使命であろう!!」


「あれほどの化け物、たった一人で討伐できる魔王殿が人類を支配するのにこんな小細工が必要か! そんなこともわからぬか!!」

 うぉう! トーラス、キレたわ!


「余から証拠を提出させてもらおう」

「どのような証拠が!」

「大教皇パスツル殿自らが儀式の指揮を執ってあの怪物を召喚したという証拠だ」

 ざわざわざわと闘技場が騒がしいのじゃ。


「首を持て!」

 母上に切り落とされた金色のドラゴンの首が持ち込まれたぞ。


「パスツルから杖を取り上げろ!」

 抵抗しても所詮ジジイじゃ。あっというまに杖を取り上げられて、ドラゴンの首の上に置かれたのう。

 ツェルト教会の大司祭が進み出ての、同じく自分の杖を置いて、王室の魔法士が念じたらのう、魔法陣と共にドラゴンの頭の上にパスティール教会の紋章が浮かび上がったのじゃ。

「これでもまだとぼけるか!」


 ジジイ、がっくりじゃ。

 あんなので証拠になるのかのう? ま、なるんじゃろうの。

 わしにはよくわからんがの。


「此度の騒動、鎮めてくれたのは外ならぬ魔王カーリン殿だ。この裁き、カーリン殿に下してもらう。書簡を持て」

 縛り首じゃな。

 ジジイ、真っ青じゃ。


 ガイコツが書簡をトーラスに手渡し、トーラスが封印を解いて開く。

 それを見てトーラス、びっくりしてのう、そして、感心したように頷くのじゃ。


「おかまいなし」

 無罪かの!!


「魔王はいついかなる時であろうとも、勇者の挑戦を受ける。いつでもかかってまいれ。魔王カーリン」


 ……ざわざわざわ……うおおおおお――――――――!!

 大歓声じゃ!

 割れんばかりの大拍手じゃ!

 おいしいところを持っていくのう、母上。

 最高じゃ!!


 トーラスが手を伏せて会場を抑えておる。

 闘技場がまだざわついておる。

「此度の三つ首の化け物、教会より召喚された勇者であると認める。また、勇者と魔王の間で私闘が行われたことも認める。余は魔族に対して遺恨無きことをここに誓い、魔族の友好に嘘偽りなきことを認める。そして、此度の騒動速やかに鎮め、余の臣民をお守りいただいたことに対し魔王カーリン殿に心より礼を申し上げる。ただし、多数の犠牲者を出した責任は教会にある。余からの裁きを申し渡す」

 会場が静まり返るわ。


「教会の罪は教会の法によって裁く。今回の勇者召喚に参加した全員の、破門申しつける」

 うおおおお――――っと会場が大騒ぎじゃ。

 大教皇が教会を破門されたぞ!

 破門するほうの立場じゃろうて!

 大どんでん返しじゃ!


 教皇、うーんとうなって倒れてしまったわ。

 あっはっは。



 そんなわけでの。

 クズどもが一掃されて、勇者教会は一からやり直しということになったのじゃ。

 実際にはの、国王に教皇を破門する権限があるわけじゃないのじゃ。

 強制力のない命令じゃの。

 しかし、だからと言って勇者教会がそれを無視すると、国と国民から縁を切られるも同然なのじゃ。

 やらねば教会の存続は無し。身を切らせて反省させるということじゃの。

 国王、見事な裁きであったと思うぞ。

 母上もご苦労じゃった。

 この件はこれで一件落着じゃ。よかったのう!



 わしはもう一つどうにもわからんことがあっての。

 父上に聞いてみたのじゃ。

「あの父上が斬った仮面の男、なんだったんじゃ」とな。

「勇者だよ。十九年前に魔王領に攻めてきた、鈴木三郎」

「あの男なにがしたかったんじゃ?」

「たぶん、復讐。魔石を集める片棒を担いで、化け物呼び出すような細工したのもあいつかもしれんし、教会に入れ知恵したのも魔石窃盗団斬ったのもあいつかもしれん。教会に、国に、魔王に、あらゆるものに復讐したかったか、それとも自分が化け物退治して勇者に戻りたかったのか、あるいは全ての罪を魔族に押し付けて、再び魔王を倒す口実にしたかったのか、もうわからないけどな……」


 あの憎悪は怖かったの。

 人間という奴は、あんな闇を心に抱えることができるものなのかの。

 わしはこの事件、一番怖かったのが、あの仮面の男じゃ。

 父上が躊躇(ちゅうちょ)なく殺しておらねば、さらなる災いの元になったであろうのう。

 あの一件、無かったことになっておるが、そのほうがいいだろうの。


   1030年3月2日   ナーリン



次回「卒業式じゃ」

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