72.勇者討伐じゃ!
父上、母上、助太刀ありがとうございました。
シルビスにも礼を申してくれ。みんなが来てくれなかったら、どうなっていたか……。考えるだけでも恐ろしいのじゃ。
何があったか、わしにわかるだけ教えるわ。
長い手紙になるがの。
学校の授業中にの、突然ずしーんと音がしての、窓がびりびり響いたのじゃ。
何があったのかとみんな一斉に外を見るとの、街の真ん中あたりで土煙が上がっておる。
呆然とクラスで眺めておると、金色の首が持ち上がり、ぎゃあ――――と啼きよるのじゃ。ドラゴンじゃった。
街のド真ん中にドラゴンじゃ!
明らかに魔族のドラゴンではないぞ。金色で、三匹おるのじゃ!
ぶわっと火を噴いて、ガラスが何枚か割れたのじゃ。
先生、びっくりしとって口が大開きなのでの、「先生! 避難じゃ! 生徒全員を逃がすのじゃ!」と言うてわしは二階の窓から飛び降りたのじゃ。
走って街の中央部に行くとの、人が悲鳴を上げながら大勢逃げてきよる。
これは大変なことになったわ。屋根に飛び上がっての、屋根伝いに跳ねて接近すると後ろから兄上が追ってきたわ。
「兄上! なんじゃあれ!」と言うと、兄上もわからんと言う。
「わからんが、一匹だ」
ふざけるでないと言おうとしたがの、首が三本、頭が三つじゃった……。
場所は中央広場、パスティール教会大聖堂じゃ。もう聖堂が大きく崩れておる。
みっつの首がそれぞれファイアボールを吐いての、あのでっかい女神パスティール像がバラバラじゃ。
兄上はドラゴンの吐く火をファイアボールで撃ち落としながら、「父上と母上に連絡しろ!!」と叫ぶのじゃ。
そうじゃった。わしは送召喚で手紙を送り付けるのができるのじゃった。
生徒手帳にこのことを書いての、むしり取ってすぐに送ったのじゃ。
母上の顔に貼り付くようにの。
わしもファイアボールを出して、ドラゴンを撃とうとしたらの、兄上が吹っ飛ばされてわしのところに飛んできおった。
妙な仮面をかぶった男が、「邪魔をするな!」と言って塞がったのじゃ。
剣をもっておった……。兄上、どこか斬られたかの。
すこし血を出しておった。
「貸せ!」
兄上がわしのふところから十手を引っこ抜いて構えたら男、少し驚いたの。
「……お前、魔王の子供か」
わしはあんな物凄い憎悪、信じられんような殺気、初めて見たわ。
世界が黒くなるような……。そんな闇を膨らませてくるのじゃ。
「ヤバそうだ。逃げろ」
兄上は十手でかばいながらわしを屋根から突き落としたわ。
わしは足をガクガクさせながら屋根を見上げた。
物凄い斬撃音がしておる。兄上が叩きつけられておる。
ドラゴンは止まらん。暴れておる。
兄上があんなふうにやられるの、信じられん。
わしはあんな怖かったの初めてじゃ。
「ナーリン!」
いきなり肩を掴まれた。
振り向いたら父上じゃった。
母上もおる。シルビスも。わしのもとに転送してきたのかの。
ちょうどシルビスがおって本当によかったの。
「父上! 兄上が危ないのじゃ! 仮面の男と闘っておる!」
わしはあんな父上初めて見たの。
「サブロウ!!」と声を上げて、一瞬で飛び掛かって男の首をすぱんと刎ねたの。
あんなに人を殺すのをいやがっておった父上が、何の躊躇もなくいきなりじゃ。
びっくりしたわ……。
男、首を転がし、屋根から転がり落ちて……、そして、消えたのう。
なんだったんじゃあれ。
母上はもう剣を抜いて、羽を広げてドラゴンに向かって飛んでおる。
わしは本気の母上、初めて見たかもしれん。
ツバメのようにひゅんひゅんと飛び回って、ドラゴンに斬りつけておったのう。
ぼろぼろの兄上を抱えて父上が降りてきた。
「シルビス、回復頼む」
「父上、あの男は?」
「勇者さ」
勇者ってなんじゃ。
勇者がこんなことをしとるのか。
勇者がドラゴンで街を襲わせておるのかの? わけがわからんわ。
シルビスが必死に兄上に回復かけとる。
「分が悪いな」
闘っておる母上を見上げると、持ってきた剣じゃまるで斬れん。
なんなんじゃあのドラゴン。
「貴之、動けるか」
「OK」
「ツェルト教会行って祭壇の上に飾ってあるツェルトの剣ぶんどってこい。カーリンに渡せ」
「了解」
兄上、すっ飛んでいきおったのう。
父上と兄上には、わしとは違う、なにかの絆があると思うのじゃ。
殿御同士じゃからかの。
「ナーリン」
「はい!」
「シルビスを闘技場に連れて行って罠を張れ。魔法陣だ。強制召喚解除!」
「わかったのじゃ!」
「わかりましたあ!」
わしはシルビスを抱えて闘技場を思い浮かべて、すぐに送召喚で闘技場の中央に飛んだのう。シルビスは闘技場なんて行ったことないからのう。
「魔力全部使うから! 私ぶっ倒れるから! あとはお願い!」
シルビスが無人の闘技場全部に広がる魔法陣を展開するのじゃ。
あのちんまい体から、どんだけ魔力放出できるのじゃ。凄すぎるわシルビス。
母上が闘っておるのが見えた。
あんなスピードで飛べるんじゃ。
わしもあんなふうに飛べるのかの。
わしの翼はまだちっちゃい……。
はよう大きくなりたいの。
なんとか首を一つ斬り飛ばしたところで、剣が折れたわ。
首が……。
生えてきよる。
なんなんじゃ。
不死身なのかの?
剣が飛んできた。ツェルトの剣じゃ。兄上が投げたのじゃな。
母上が受け止めて構える。
三つの首が吐く火の弾が爆散しておる。
父上の防御結界かの? 闘技場に誘うように壁を作っておるのかの?
母上を追ってずしんずしんと闘技場に近づいてくる。
シルビスがぱったんと倒れたのじゃ。
闘技場いっぱいに、物凄い魔法陣ができておる。
わしがシルビスをかかえて叫んだの、聞こえたかの?
「母上――――!! こっちじゃ――――!!」
とんでもない剣じゃの!
ドラゴンの首が一撃で落ちたわ!
じじ様の剣が折られるわけじゃ。母上の武器強化魔法をそこまで受け止められるツェルトの剣ってなんでできとるのじゃ?
切り口をファイアボールで焼いてもダメなのかの?!
また生えてきよった。
母上が炎弾を食らって飛んできおった。
ぶわさっと羽を広げて持ちこたえる。
ガラガラと闘技場の壁が崩れてドラゴンが闘技場に入ってきた。
もう一度、母上がドラゴンの首を落とす。
生えてくる前にもう一つ。
三本同時に落とす気かの?
ドラゴンが立ち上がり、母上に掴みかかる。
母上がそれをかわして、最後の首を落とした。
金色のドラゴンが、シルビスの魔法陣に倒れこんで……。
全部金色の光になって、渦を巻いて消えたのじゃ。
いやあ、すごかったのう。
母上がふらふらと降りてきたわ。
「はー疲れた」
言うことはそれだけかの?
「シルビス、ようやった」
そう言ってわしが抱きかかえとるシルビスの頭を撫でたのう。
父上と兄上がやってきた。
「マサユキ、なんでおぬしがやらん。やりようはなんぼもあるじゃろ」
「カーリン、勇者と闘いたいっていつも言ってたじゃないか」
「あれが勇者?」
あのドラゴンが勇者なのかの?
「だから、教会が召喚したんだろ? あれ。だったら勇者だろ。よかったな勇者と闘えて」
「あんな勇者がおってたまるか――――――――!!」
いやあ、笑った笑った。
涙が出るほど笑ったわ。
兄上も笑っておった。
父上も大笑いしてたの。
母上もしまいには笑っておったではないかの。
シルビスは寝てたがの。だらんとして重たいわ。
みんな集まってきたわ。
ホロウなにやっとったんじゃ。ボコボコではないかの。動いておるとこひさびさに見たのう。おぬしを動かすにはドラゴンが暴れるほどの大事件が必要なのかの。
王都の巡回兵も、騎士団も、近衛兵も、みんな来たの。
母上が「ちと借りた。さすがはツェルトの剣じゃ」と言って剣を返しておったのう。
事情を聴かれたってわからんわ。
わしらだってあんなの初めて見たわ。
なにがなんだかさっぱりわからん。
なんだかわからんことだらけだけどのう、
一つだけわかるのはの、
わしら、魔王一家は、最強ということじゃ!
偉大なる魔王である母上と、その最高の伴侶である父上と、
尊敬する兄上、友人で、わしの師匠であるシルビスに、愛をこめて。
1030年2月5日 ナーリン
次回「裁判じゃ」




