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65.秋はやっぱり読書じゃの


 親愛なる父上様、母上様。最近、新しい研究だの、事業だの、なにか始めておるのかの。特に運河の建設は図面ぐらいはできたかの?


 兄上とキャロルは今三年生の修学旅行じゃ。

 海のある港町まで出向くのじゃ。海を見たこと無い生徒が多いからのう。

 船を見たり南国との貿易市場とかも見学するのだそうじゃぞ。

 そんなわけで学校は三年生がいなくて少し静かじゃ。


 新劇のチラシを送るのじゃ。

 これ送ると母上が魔王城からいなくなるので、もう大使館からも送ってくれぬそうじゃのう! あっはっは!

 毎日臣民の幸せのために働いておる母上じゃ。

 これぐらいガイコツも大目に見てやればよいのにのう。


 今度やるのは「西区下町物語」というやつじゃ。

 王都の西町に住んどるチンピラ共と不良共がの毎日ケンカしとるのだが、そのメンバーの弟と妹が恋に落ちてモメにモメるという、そんなこと勝手にやっとれとしか思えないしょうもないストーリーでの、それをまたミュージカルでやるというのじゃ。いくらなんでも無理が無いかのう……。

 不良とチンピラの兄ちゃんが足を高く上げて踊ったり、歌を上手に歌ったりしたらおかしいじゃろ。観客は疑問に思わんのかの?

 これどっかで見たことあるような気がするのじゃが、あれじゃ、ほれあの「ロメロとジュリエッタ」のパクリじゃな!!

 最後二人死んじゃうんじゃないかのう?

 こんなミュージカル人気出るのかのう……。


 学校が静かなうちに本をいろいろ読んでおるんじゃが、おもしろいのじゃ。

 空想科学小説というのを、御存じかの?


 フェール・ベルヌという作家なのじゃがの、科学的な知識と魔法を組み合わせて面白い空想小説を書いておる。

 「海底二万カーリン」という本でのう、潜水艦というやつがでてくるのじゃ。

 水に潜れる船じゃぞ?

 水が漏れないように鉄で作った船での、鉄で作った船など沈んだまま浮いてこんじゃろとおもうのじゃが、空気をポンプで圧縮して水を船内に入れたり出したりして浮力を調整するというのじゃ。なかなかのアイデアじゃの。

 これを発明した船長は貨物船など襲って海賊行為をするのじゃが、クラーケンに捕まって海底にひきずりこまれて水圧で船が壊れてしまうのじゃ。

 海って深くなるとどんどん水圧というやつが高くなるのかの?

 そのへんちとわからんのう。

 ま、どんなのを作っても、クラーケンには船ごときではそう簡単には勝てんじゃろ。

 よう考えてみるとわしはまだ海を見たこと無いのう。

 来年もわしの修学旅行で、海に行ってくれんかの。



 「推理小説」というのも最近できたジャンルじゃの。

 コーナン・ドリルという男が書いたのが評判なのじゃ。

 「名探偵ボームズ」シリーズが大人気じゃ。

 人が殺されるのじゃが、犯人がわからん。

 登場人物がいっぱい出てきての、その中から誰が犯人か当てるのじゃ。

 まあおかしな結末もたまにあって、「犯人はヘビ」とか、「犯人は犬」とかなったときはガックリきたわ。ま、それを操っておるやつがおるのだがの。


 あ、これは言ってはいかんのじゃ。


 推理小説というやつはの、人に読んでみれ面白いからと薦めるときは、絶対に「犯人は誰それだ」と言ってはいかんのじゃ。

 それを楽しむ本じゃからの。

 犯人がわかってみればなんじゃそりゃとなるのじゃがの、そこまでの経緯を楽しむ本じゃの。


 ボームズシリーズはの、名探偵のボーボッボ・ボームズがとにかく変わり者でのう、仕掛けとかよりも、その変人っぷりを楽しむのが王道かもしれんのう。

 流行っておるからの、似たような本も出てくるのだがの、仕掛けのち密さとか発想の斬新さとかを競っても物語は面白くならぬ。推理小説で一番大事なのは、実は探偵のキャラクターの面白さじゃ。わしはそう思う。

 ボームズはの、冷徹に犯人を追い詰める一方で、真犯人がわかっても、事情があるなら知らん顔して見逃すなんてこともするのじゃ。変人なくせにあれでなかなかユーモアもあって人情家なのじゃぞ。


 ……人間は犯人がわからんように殺さんといかんのだのう。

 魔族だったら、やったのは俺だ――と、大威張りじゃがのう。

 ま、その後母上にぶん殴られるのじゃがの。


   1029年10月28日 人間研究中のナーリンより。



次回「魔石窃盗団じゃ」

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