60.遠足じゃ!
今年も秋の遠足じゃ。
去年は風光明媚な丘だったがの、今度は湖じゃな。
弁当を用意するのはあいかわらずおなごの役目じゃ。これがちと理不尽に感じてきたのはわしが人間に染まってきた証拠かもしれぬのう。
炊き出し実習で班の殿御が協力的でよく働くようになったし、少しはいいものを食べさせてやりたいのう。
そういうわけでの、何が食べたいか聞いてみたら驚かれたのう。
「殿御が飯に口出すでないと言ってたよな」と言われたわ。
わしそんなこと言うたかのう。
言ったな。はい。言いましたな。
まあそれでも班の殿御は嬉しそうじゃて。
「去年の弁当うまかった。また食べたい」全員そう申すのじゃ。
去年はおにぎりだったかの。あんなんでよいのかの。
それで今年は量も多めに、味付けもより多彩にと工夫したわ。
リュックが二つ分になったがの、みんなで交代で持ってくれたのう。
今回はちっとばかし山じゃな。
山歩きは慣れておらぬ者も多くてな、ヒイヒイ言いながら登っとった。
セコいちっちゃな沼に到着じゃ。これが湖とはのう。人間領の自然は実に貧相じゃ。つまらんのう。
リュックが二つになったのは、お茶を全員分用意したからじゃの。
去年人に囲まれて面倒だったのでの、わしらの班は他の連中から少し離れて布を広げてちっちゃいお茶会じゃ。
今年は緑茶を用意したのじゃ。ミルティーの店からもらってきた玄米茶じゃな。
これがおにぎりによく合うのじゃ。
「うまいなあこれ。しみじみうまい……」
わしもやっぱりおなごじゃの。そんなこと言われるとやっぱり嬉しいわ。
「どうやって作るんだ?」と言うのでの、説明したら驚かれたのう。
「凄い手間だな!」っての。
一個一個手で握るとか、具を何種類も用意するというのが驚きなのじゃの。
プラルの作っとったサンドイッチのほうが凝っていたように思うがのう。
アレは、貴族のボンボンの分だけやたら手間をかけておったがの、それは他の殿御が面白くなかろうて。いい手とは思えんのう――。
「ナーリンて、どこの村出身なんだ?」という。
「説明が面倒なので聞かんでほしいの」と言っておいたがの。
「きっといい所なんでしょうね」
その通りじゃ! あっはっは。
「正直、俺はナーリンが班にいてくれてよかった、っていうかナーリンの班になれてラッキーだったな」
一人がそう言うとな、俺も俺もとなったのう。
「ナーリンさんて卒業したらどうするんですか?」
「嫁の行き手はもう決まってんの?」
「結婚するならどんな男がいいんだ?」
うるさいわ。
「わしは自分より弱い殿御にはまったく興味が無い。それは言っておくの」
みんなきょとんとしておったのう。
「人間的な強さってことか」
「リーダーシップあるからなあ」
「ふむ、強い男か……」
みんな、納得したような、納得いかんような。
黙って聞いとったトラスタンがの、ぼそっと言うのじゃ。
「ナーリンは俺より強いぞ」
ぶほっと全員が噴出したのう。
「お前より強いって……、その、戦闘的な意味でかよ?」
「そうだ。俺が手も足も出ずに簡単に剣を奪われるぐらい」
「学園最強じゃん!!」
トラスタンは体育祭武闘会優勝者じゃからのう。
「ナーリンはプロの3級ハンターだ。今もしここでクマや魔物が出たら、ナーリンに任せて俺たちは逃げたほうがいい。覚えとこうな」
……みんな、そういう目でわしを見るのはどうかと思うのう。
てへぺろ。
なんで誰も反応せん。
いつもキャロルがやっておるじゃろ。
1029年9月12日 ナーリン。
次回「文化祭準備じゃ!」




