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59.ポトフを作るのじゃ


 父上様、母上様。

 わしが人間の料理、研究しておるの覚えておるかの?

 いよいよその成果発表なのじゃ。炊き出し実習じゃ!


 まずシルベリアまで飛んで大量に鶏ガラを農家さんからもらってきた。

 次にタスランでソーセージの調達じゃ。

 班のメンバーは市場で買いだしじゃ。


 先生に頼んでわしらの班は早めに鍋を用意してもらっての、朝から貧民街で大鍋でぐつぐつと鶏ガラとセロリと月桂樹、玉ねぎをとろ火でじっくり煮込むのじゃ。

 灰汁が凄いのじゃが、根気よくすくって透明なスープにするのが大変じゃ。

 浮浪者がもう匂いに誘われて遠巻きに見ておる。

 掴みはオッケーというところかの。


 途中で、人参、キャベツ、カブ、そしてタスラン特産ソーセージじゃ。

 味付けは塩だけなのじゃがの、それでもいい匂いが漂っておるのじゃ。これは我慢できんじゃろ。

 他の班も集まってきてのう。ぐつぐつオートミールを作り出すのじゃが、エーリスがつかつかとわしらの鍋を見に来ての。

「……いまさらポトフなんて」とバカにしとったな。

 今にみておれなのじゃ。


 12時の鐘が鳴って配給開始じゃ。

 凄い列ができておったぞ!

 椀についでやった浮浪者の反応がまるで違うのじゃ。

 いつも盛られてすぐガツガツ食うあの浮浪者共がの、ポトフの椀を手にしたまま、ずっと眺めて、匂いを嗅いで、なかなか食わんのじゃ。こんなことは初めてじゃの。

 それをすくって食べて、涙ぐむのじゃ。

 みんなそこらじゅうで、ぐずぐず泣いての。気持ち悪いわ。


「……これはどうしたことだ」

 列に並んでおったトーラスがびっくりしておるわ。

 わしがびっくりするわ。今日は一段とひどいかっこじゃの、国王陛下。


「かの国の料理ではないのか。がっかりだが、考えあってのことなのだな? ナーリンちゃん」

「もちろんじゃ」

「説明してくれるんだろうね」

「後での。さ、食うのじゃ」

 そう言って、トーラスの椀にもついでやる。


 トーラス、石畳の上に座って、ポトフをすすり、首をひねって、周りを見回し、そしてまた首をひねるのじゃ。

 まあ、王族ではわからんかの。極々普通の、ポトフじゃからの。


 そんなわけで、今回はわしらの班が一番に無くなったぞ!

 他の班もみんな不思議がっておったのじゃ。ポトフなんぞより、オートミールのほうが断然腹も膨らむからの。

 わしは片づけを班の殿御に任せての、トーラスと二人でベンチに座り込んで話したのじゃ。浮浪者と話し込むわしにクラスのみんなの目があきらかにヘンじゃがの。


「浮浪者と言うのはの、最初から浮浪者だったのではないのじゃ。職を失ったり、家族を失ったりして浮浪者になった者も多いであろう。だからの、わしはその浮浪者たちが子供の頃、母親に作ってもらったような、別れた妻が作ってくれていたような、そんな料理を出して、幸せだったころのことを、少し思い出してもらおうと思ったのじゃ」

「そうだったのか……」

 トーラスが驚くわ。

「浮浪者が浮浪者なのはそれを望むからなのだ。自分で浮浪者から抜け出そうとせぬ限り浮浪者問題は解決しないんじゃないかと余は思う。だからこそ手を付けるのが難しい」

「そうであろうの」

「人生はやり直せる。そんなことは子供でも知っておるのに、仕事を用意して、どんなに間口を広げても、浮浪者は自らはやって来ぬ。途方に暮れておったのだ。魔族では浮浪者はどうしておる?」

「食いもんが無くなったら誰でもさっさと狩りに行くわ」

 あはははははとトーラスが笑う。

「うらやましい。魔族では自殺する者などおらんのだろうな」

「当然じゃて」

 トーラスが頷いて言うのじゃ。


「浮浪者問題、まだまだ時間がかかるのは許してくれ。余も、考えを改める。ナーリンちゃんにも苦労をかけるが、今日は勉強になった。ありがとう。ポトフ、うまかったぞ。普通にな」

 そういって、立ち去っていったのう。


 真面目だのう、トーラス。

 そういうところが、好きだがの。


   1029年9月9日 ナーリンより。



次回「遠足じゃっ!」

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