58.ヒールは貴重じゃ
二学期が始まって教室に行くとトラスタンがケガしておった。
頭と腕に包帯を巻いておるのじゃ。
どうしたんじゃと聞くと夏休みに一人で狩りに行ってヘマしたそうじゃの。
アホな男じゃ。身の程を知れと言いたいわ。
渋っておったがの、押さえつけて動けんようにしてヒールをかけてやったのじゃが、クラスが大騒ぎになったな。
「ナーリン! あんた、治療魔法が使えるの!!」
エーリスが驚愕じゃ。
いやクラスの全員が驚きなのじゃ。
それほど驚くことかのう。魔族は三人に一人は魔法を使うし、十人に一人はヒールできるからの。ま、傷とか怪我とか簡単なやつの。
「なんでこんな学校にいるの!!」
いやその言い方はないじゃろう……。
まあ騒ぎが収まって、Dが言うにはの、治療魔法ができるような子はまわりがほうっておかんそうじゃ。たちまち貴族の間で取り合いになって養子にするとかしての、教会のいい学校に入れて一流の治療師に仕立てるそうじゃ。
自分の領地に医者、治療師がいるというのは貴族のステータスだそうでの、治療師は貴重なのじゃ。医者は高給取りなのじゃ。
そういう技術は一部の者が独占して、高い金をとっていい暮らしができるはずなのだそうじゃ。
「それでは貧乏人は医者にかかれぬではないかの?」と聞いたら「そうですよ」とあっさり言うのじゃ。
病人やケガ人が金が無くて医者や治療師にかかれぬなど魔族ではありえんことじゃ。ケガ人が出ればみんなで治療し、病人が出ればみんなで薬草集める。それが普通じゃ。
それを商売にするとはちょっと思いつかんのう。
「(だからマズいと思ったんだよ……)」とトラスタンが小声で言うのじゃ。
「治ったかの?」
「まだ痛い」
「すまんの。効かんかったようじゃ」
クラス中がっくりじゃ。「ナーリンにそんなことできるわけないよな」ということになったのう。
「(ありがと)」
トラスタンはこっそりそう言って、一週間ずっと包帯巻いとったの。
あれでなかなか気を使うこともできる男なのじゃの。
すこーし、見直したわ。
ヘマをした分と相殺じゃがの。
男を上げたり男を下げたり忙しい男じゃの。
1029年9月7日 ナーリンより。
次回「ポトフを作るのじゃ」




