48.ハンター見学じゃ
父上、母上、魔物退治の仕事など、最近はやっておるかの?
休み前にの、トラスタンが「ハンターの仕事見せてくれ」と言うのじゃ。
相変わらず週末にわしは一人でイノシシとか野牛とか獲ってハンターギルドとミルティの店に卸しとるのだがの、それを一緒にやりたいと申すのじゃ。
ギルドにも店にもすっかりあてにされとっての、このバイト休みたいから今日は休むというわけにいかんくなってきておるのじゃ。
んーんーん――……、面倒なので断りたいのじゃが、ボンボンは真剣なのじゃ。
しょうがないの。
あきれたことにこのボンボン、騎士見習いのくせに魔物一匹倒したことがないそうでの、実戦経験がまるでないのじゃ。
「このままでは俺は実戦で使えんダメ騎士になる」というのはわしもまったく同感じゃの。
朝早くから城門前で待ち合わせての、「日帰りで行けるとなると双子山か」などと生ぬるいことを申すのじゃ。あんなウサギだのキジバトだのしか出ん山歩いてなんの修行になるのじゃ。
城塞門を出て木陰に引っ張り込んで送召喚で一瞬でバララ沼に転送じゃ。
目を丸くしておったぞ。
「実戦の習いはやっぱりスライムからじゃ」と言って中州にいきなり着地しての、うねうねうねうね寄ってくるスライムと有無を言わさずいきなり戦闘じゃ。
あわてて剣を抜いて振り回しておったわ。
わしはトラスタンの背中を守ってファイアボールじゃな。
一面のスライムを全部倒してやっと一息じゃ。
「初めての魔物との戦闘はどうじゃった?」と聞くとの、「最初は驚いた、次に怖かった、しかし、剣が通用するとわかると、楽しくなった」と言う。
正直じゃの。じゃがこんな水風船などまだ序の口じゃ。
次は洞窟じゃの。
血吸いコウモリがいっぱいおる。
中をライトボールで照らして飛んでくるコウモリを二人でばっさばっさと斬り倒すのじゃ。少しやられて血が出ておったのう。まあ血の匂いに誘われて一斉にかかってくるからの。
ヒールしてやるとこれも驚いとったのう。
「治療は教会の加護なのになんで魔族ができるんだ」と不思議がっておったが、こんなの普通の魔法じゃ。教会はいい加減なことを言うのう。
もっと奥に行ってみたかったのじゃが、まあそこまでやるのもかわいそうかの。
次に木に登っての、二人で昼飯に弁当を食ったのじゃ。
そうすると匂いに誘われてイノシシが来るのでの、これを電撃で気絶させるのじゃ。今日の分じゃの。
下に降りて、ロープで逆さに吊るしての。
わしが滑車を使ってするすると持ち上げるのを見て驚いておったが「理科で滑車はやったであろう。習ったことを知っているだけではダメじゃ。使えるようになってこそ勉強なのじゃ」というと感心しておったのう。
首筋を斬って血抜きをしてザクザクとその場で解体するのじゃが、血の匂いに誘われてこんどはオオカミに取り囲まれたのじゃ。
「わしは手が離せんのでおぬし追い払え」というとビビっておったの。
まあ初めてじゃ最初は三匹目ぐらいでやられるかの。
「気迫で追い払え」と言うと「無理だ!」と言うのでの。
わしが気を撒いたらみんな逃げていきおった。
ポカーンとしておったがの、「野生動物というのは自分より強いやつにはかかってこんのじゃ」と言うと納得したような納得いかんような、なんとも面白い顔をしておったの。
オオカミの皮を剥げというとの、まあ四苦八苦してやっとったの。
オオカミの毛皮も売れるからの。
クマが近くまで来とったが、逃げていったのう。
トラスタンは気が付かんかったようじゃがの。
あちこち血だらけなので水の玉を作ってかぶせてやって、風魔法で乾かしてやったわ。
「血を浴びると後が面倒じゃ。斬りつける方向を考えよ」
「そんな余裕まだねえよ!」
はっはっは。まだまだじゃの。
肉の入った袋を持たせてミルティーの店に飛んでの、そこで肉を卸して、そこからハンターギルドまで歩いて行って、「おぬしの分じゃ」といってオオカミの毛皮を引き取らせたのじゃ。
学生は登録料はいらんし、せっかくなのでトラスタンもハンター登録しとったな。
当然、8級じゃ。
毛皮いいとこ斬られておったのであんまり値段が付かなかったのう。
今度からはもう少し考えて斬るようにしないとの。
「わしはこの後ハンターギルドに卸す分も獲ってこないといかんのでの、今日はここまでじゃ」いうて別れたわ。
最後まで驚きっぱなしだったのう。
「俺お前の事、女として見られないかと思ったことあったけど、やっぱ無理だわ」と言って笑っておった。
「わしはいつもおぬしらの事、殿御殿御と言ってるであろう」と言うと「そういう意味じゃないんだが」と言って苦笑いしとったな。
こんなんでも鍛えればツェルト並みに強くなるのかの?
まあやってみんとわからんのう。あと五十年ぐらい修行すれば、母上ともいい勝負になるかもしれんの。
1029年6月9日 ナーリンより。
次回「ウワサ話じゃ」




