19.夏休みじゃあ!
親愛なる父上様、母上様。
……成績表は届いたかの?
数学はトップじゃ! わしが学年一番じゃの。ま、当然じゃ。
理科はトップに近いわの。植物の季節が魔界とちと違うのじゃ。勘違いじゃ。
体育は並じゃな。手加減したぞ。目立ってはいかんからの。
音楽は赤点じゃ。ま、これは成績とは関係ないがの。
赤点の生徒は夏休みが終わったらダンスの実習を放課後十時間受けることになってしもうたの。最悪じゃ。
文系は……全部ギリギリじゃった。
父上は、そこが一番頑張らんといかんところと言うとったな。
そういえばわしは勉強を学びに来たのではなく、人間を学びに来たのだったのう。
というわけでの、補習こそ免れたがの、そのかわり夏休みに宿題として先生に、本を十冊読んでこいということになってどさどさと本を渡されたのじゃ。
そして最低三冊について読書感想文を書くのがわしの宿題じゃ。
これを抱えて帰るのかのう。うんざりじゃ。
もうさっそく一冊一番薄いやつを読んでみたがの。
「不思議の国のイリス」じゃ。
イリスがウサギの穴にとびこんでおかしな魔物でいっぱいの不思議の国で大冒険と言うやつじゃの。
シャチ猫とかボーボー鳥とか出てくるしダジャレ満載で言葉遊びが多いのう。
相対的に大きくなったり相対的に小さくなったりとか、ちと数学的な話も出てくる。なんでも著者は数学者らしいのじゃ。
女の子の夢がいっぱいのワクワクなお話で面白かったのう。
母上にも読んでもらいたいわ。
父上にはお勧めしないの。
父上がいつも「最低だ!」、「作家としてやってはいけない!」とのたまう夢オチなのじゃ。
この物語には続編があるのじゃ。「悪夢の国のイリス」というのがな。
あの楽しくて愉快だった不思議の国が狂暴化した魔物と化け物に支配されそれを元に戻すためにイリスが包丁を振り回して血まみれになって悪夢と闘うのじゃ。
……こちらは図書館で借りてきたがの、これ本当に同じ作者の作品なのかの?
作者は頭がおかしくなってしまったのではないのかのう?
これを感想文にして出すわけにはいかんのう。
夏休みの間はの、平民の子は半分は家に帰って家業を手伝う。
よいとこのボンボンや貴族の子はな、おなごは実家に帰るのじゃが、殿御は残って勉学やクラブ活動に励むものが多いのう。剣術やスポーツなど、夏休みに開かれる大会も多いのじゃ。
貴族はの三男四男が多く家に居場所がないというのも理由の一つじゃが、ガイコツの講演を聞いて貴族としての使命を新たにした、というのも理由のようじゃ。
今まで平民の生徒を無視してきたような貴族の生徒もの、態度がずいぶんかわったのう。一部だけじゃがの。まあそうなんでも急にはかわらんわ。
わしの隣の席のボンボンも帰らずにずっと剣術部での修行じゃ。
この平和な世の中で剣の修行をしても身を立てられるかわからんと思うがの。
勉強の方にせいをだしたほうがいいのではないかのう?
もう魔族との戦争はないのじゃからな。
殿御の考えることはわからんのう。
あのボンボンはの、貴族には珍しく学生寮に住んでおるのじゃ。
夏休みに臨海学校があって希望者は出られるのじゃが、わしはパスじゃな。
わしは背中に羽があるので、水着になったらアウトじゃの。
魔界で羽を伸ばすことにするわ。
わしの帰省をたのしみにしておるのだぞ。
話すことがいっぱいあるからの。
1028年7月29日 ナーリン
追伸
昨日はホロウの前でやんちゃ坊主が土下座をしておった。
ホロウもたまには動いたほうがいいかもしれぬの。
完全に無視しておったわ。
次回「二学期開始じゃ」




