106.わしの卒業式じゃ
今日はわしの卒業式だったのじゃ。
寮の荷物をまとめての、最後にこれを書いておる。
いらない物は袋にまとめて縛って送るのでの、わしの部屋に放り込んでおいてくれ。
卒業証書は筒に入っておる。居間に飾るとよいぞ。
わしの成績は最後まで普通だったのう――。
理系はトップを維持しておっても、文系がアレだからの。
しょうがないわ。
ピタラコスは「科学アカデミーに来たかったらいつでも声をかけてください」と言ってくれたのでの、まあ考えてみようかの。三年になったときクラス替えがあったじゃろ。わし理系クラスにまわされておったのじゃ。そのことに気が付いたのは最近じゃがの。どうりで理系の科目が多かったわけじゃ。
友達もたくさんできた。
人間の友達じゃ。
わしの班の殿御どもはすっかり仲良くなっておったの。
卒業してもまた会う約束、遊ぶ約束をしておった。もちろんわしもじゃ。
貴族のボンボンもおったのに、すっかり平民と普通に友達になってたの。
トーラスが入学式の時に言っておった。
「貴族は平民の友を作れ、平民は貴族の友を作れ、願わくば卒業後もずーっと友であれ」とな。
言うはやさしいがやるは難しい。
他の班では、貴族のボンボンが最後まで威張りくさっておったとこが少なくないのじゃ。
わしらの班は、それが実現できた、数少ない班だったと思うぞ。
最後の最後まで、わしが魔族じゃということは言えんかった。
言ったらみんな驚いたかのう? それとも納得したかもしれんのう。
卒業後も、いくらでも会えるのじゃ。
いつか、言うこともあるかもしれんの。
たくさんの思い出と、たくさんの友人と、
この学園に通わせてくれた父上と母上に感謝じゃ。
なんか、泣きそうじゃ。
帰るのはちと遅くなるのじゃ。
わしはの、人間の世界、まだ見ておらん所がいっぱいある。
夏休みに旅したみたいにの、ゆるゆるとあちこち回って帰るのじゃ。
もうこの国を全部な!
ハンターギルドで稼いだ金をギルドに払って、メビウスを譲ってもらったのじゃ! 今日からわしの馬じゃぞ。嬉しいのう!
明日さっそく出発じゃ。
あちこちでハンターの仕事をしながら、旅するのじゃ。
なんにも心配いらん。なにかあったらすぐに魔族領に飛ぶからの。
母上がいきむ前にはちゃんと帰る。それは約束するの。
わしも弟か妹の顔見たいし、世話もしたいからの!
手紙も、ちゃんと送るからの!
長い夏休みじゃおもうて、今しばらく、待っていてほしいのう。
今より、もうちっと、大人になったわしを、見てもらえると思うからの。
1031年3月10日
敬愛する父上と、
わしの自慢の母上と、
尊敬する兄上に。
まだまだ子供の、ナーリンより。
――――――――――――END――――――――――――
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
作風をガラっと変え日常系に挑戦、ダラダラと学園生活を書き綴るというお話でした。
リアルタイムで読んでいただけた読者の方には、一話がとても短かったり、次の展開を待たされたり、イライラすることがあったかと思いますが、それも手紙というものの味のうちかと思います。
今はケータイでどこにいても電話できる、すぐにメールの返事が来る。
手紙のやり取りなんて、もう異世界でしか書けない世界なのかもしれません。
また、前作を読んでいただいた読者の方から、「後日談を」「子供たちの話を」「日常系でも」と多くのリクエストをいただきました。それらを詰め込んだ欲張りな内容ながら、両親への手紙としたことで非常にシンプルな文章にでき、話が書きやすかったと思います。アイデアやリクエストをいただけた方たちに感謝を申し上げます。
次回作、世界がガラッと変わり、完全な新作となります。
タイトルは「エロゲの魔王様は勇者ハーレムに殺されたくない」
いろいろと最悪な作品です。大目に見てください。




