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異能者の学園に潜入したので、異能を使わずに学園最強を目指します  作者: sei10


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13 漁夫の利を得る阿呆

◇Side ???


眼前で対峙する侍娘とドリル嬢。その目線で行われていた牽制を制したのは、刀を振り下ろした侍娘の方だった。


鋭い刃が空を切ると、ドリル嬢は知ったように横へ回避する。それとほぼ同時に、真向切りの線上には一筋の地割れが出来上がっていた。おそらくは不可視の斬撃を飛ばす【駆撃】の技。そして、それを回避したドリルは後隙を見逃さず、双剣を以て切り込んだ。


しかし、侍娘も剣に関する技量はすさまじく、残心により不意の一撃を受け止める。そうして鍔迫り合いに移行した剣戟は、意外な結果で終わりを告げた。


パキャッ....


その金属質な異音は、侍娘の刀から発されたものだ。彼女は乱暴にドリルへと蹴りを入れ、そのまま距離を取って刀を確認する。やはりというべきか.... 刀の根元には、大きな刃こぼれが出来上がっていた。


だが、【刀気】によって保護されていた刀がそう簡単に刃こぼれするわけがない。しかし、その答えは異能者同士の戦闘においては明白だ。


「それが貴様の異能というわけか」


「ふふ.... ですが、そのタネまでは理解できていない様子で」


破壊か、劣化か、無数に存在する異能の中から、刀を刃こぼれさせたという事実のみで異能を特定することは不可能に近い。常人であればその異能の不透明さに腰が引ける。しかし、侍娘は果敢な攻めを選んだ。


「当たらなければ良いだけのこと」


そんな言葉と同時、その刃は滑るようにドリルの首筋を捉える。そのまま振り抜かれた刀は、ドリルのバリアを切先で削っていた。しかし、まだ脱落の判定は下らない。


「浅かったか」


「ッう....」


悪態を吐きつつも、ドリル嬢は間合に入った侍娘を双剣で斬りつける。しかし、紙一重でその剣尖は空を切った。侍娘の体は不自然な動きで後退していたのだ。


「【宿地】ですか!」


「その通り」


【宿地】とは、自身の霊気を用いた移動術の三段。そして、その難度は他の戦闘術に比べてはるかに高い。その技を体得している点において、流石は士族と言ったところか。そうしてドリルと侍娘はまた読み合いに立ち返るが、その均衡を崩したのはまたしてもドリル嬢だった。


「.....あなたを相手に出し惜しみはするべきではありませんね」


そう言い放ったドリルは、手に持った双剣の背を擦り合わせる。すると、神経を逆撫でる音が周囲に響いた。しかし、それだけでは終わらない。その音は周囲の木々に反響し、まるで木々までもがその音を発しているような錯覚を覚えさせた。


「ぐぅッ」


その音波は脳を揺さぶり、侍娘は耐えきれずに膝をつく。かろうじて刀は手放していないが、しかしその隙は致命的だ。自身の異能ゆえに影響を受けていないドリルは、双剣で無防備な急所を狙いに距離を詰める。


そうして、勝負が決しようとする瞬間に....




「いただきィ!」


俺は茂みから飛び出して、勝利を確信したことで警戒を怠ったドリルのバリアを叩き割る。眩い光が周囲を照らし、ドリルは控室へと飛ばされた。そして、俺は続けざまに侍娘も脱落させる。


侍娘は根性で剣を構えたものの、俺の異能の前では防御は無意味だ。この身に宿る【開錠】という異能は、万物を開くことが出来る概念系の異能であり、俺はそれを用いて刀で斬った部分を”開く”という使い方をしていた。


異能としての申告は【切断】としており、これはCランクのありふれた異能ではあるものの、その圧倒的な切断力から異能練度は脅威のSランク。この使い方ならば、あの二人も文句は言えまい。





◇Side 光輝と健人


「アイツ、やらかしたな」


「あぁ、新入生の情報を全く仕入れていなかったらしい」


哲郎のやつは、見事に華族と士族の高飛車娘二人の決闘を搔っ攫っていった。そのあまりの行動に、司会進行役の二人は絶句してしまっている。うん、結構あの二人が決闘騒ぎを起こした話は有名だったからね。そりゃ上級生や先生も把握しているはずだ。


「俺しーらね」


「右に同じー」


やらかしの度合いが半端ないな。下手したら、夜襲されるんじゃないか? アイツ。士族の方はまだしも、華族の方はプライドも高そうだったしなー。


「どうすんだろ?」


「さぁ? ただ、今度の任務は謹慎させたい」


「でもさ、アイツがいないと遺骸の輸送は出来ないぞ?」


「...................知らんッ!」


天を仰いだ光輝は、力強くそう言った。別名、現実逃避とも言う。


これが守の方ならまだ良かったんだが、よりにもよって任務において最も重要な役割を果たす哲郎がやりやがったのが問題だ。収拾つかないってコレ。


「なぁ、健人がその場で処理しちゃうってのは...」


「無理」


「そうだよね」


組織の定期集会は月に一度であり、それは丁度二日前に終わったばかりだった。下手に連絡を取ると足がつくため、上に対応を仰ぐことは出来ない以上、ここ異能学園潜入組の現場指揮官は光輝だ。


つまりは、ここからの指示や行動の責任が全て光輝に降りかかるということ。そんな胃に穴が開きそうな光輝に向かって、俺はこんな言葉を投げかけた。


「ドンマイ?」


「......................」


光輝から返事が返ってくることは無かった。

リアクション 喜び Lv.1

ブックマーク 喜び Lv.2

評価     喜び Lv.3

感想     歓喜

レビュー   狂喜乱舞

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