12 一級フラグ建築士
背後に迫る結界のふちから離れるように走っていると、周囲は密林から散発的な木々が立ち並ぶ平野に姿を変えていた。
「ちっと目立つが、まぁ好都合か」
そうして気配を隠さずに走っていると案の定、轟轟と燃える炎弾がこちらに向かって飛翔する。俺はそれを一刀のもとに切り伏せた。
刀剱式五段【逆撫】
異能による攻撃を霊気によって破砕する技であり、コレならばある程度の実体のない攻撃ですらも対処可能となる。そして、霊気の練度や相手の異能の程度によって、その難易度はどこまでも上下する技だったりもする。
そして、その炎弾を切って捨てた俺の感想はというと...
「重いな」
間違っても、Eだと断じられる練度ではない。それくらいには重い一撃だった。俺は足を止め、周囲に文字通り気を配った。そして、その炎を投げた者が木の上から姿を現す。
「いんや~ぁ。あたしの攻撃を防ぐとか、生意気な新入生ね! ワクワクしちゃう」
その腰部には半透明のしっぽが生えており、長く艶のある黒髪をなびかせた女性。こりゃあアタリ... いや、ハズレくじを引いたかもしれないな。
そんなことを考えつつ、俺はまたしても飛来する炎弾をいなしていった。そうして少しづつ距離を詰め、あと一歩で刀の間合いに狐女を捉えられる。そう確信していた俺の予想は、ものの見事に裏切られた。
「アハハ!」
空間に足場を築いたように、狐娘は空を踏んだ。霊気による空歩か? いや、アレはそう簡単に会得できる技ではない。十中八九は異能による障壁か何か。
ちょっと後ろ髪をひかれるが、ココは逃げるのが正解だな。あいつを相手にするのは割に合わない。
そう判断し、俺は平野から一気に離脱しようとする。しかし、その進路も既に障壁によって阻まれていた。【気感】という、霊気を周囲に薄く広げる感知の雑技によって周囲を調べると、どうやら円形の障壁が張り巡らされてもいるらしい。
「マジかよ」
【逆撫】で破るか? いや、これはあくまで斬撃であり、面の攻撃ではない。人一人が通れるだけの穴をブチ開けるには相応の規模と技量の攻撃が必要になる。そんな技を繰り出す学生がいたら、それこそおかしいどころの騒ぎでは済まないだろう。
「ふぅ..... はぁー」
深く深呼吸を行い、空中に陣取った狐娘のニヤケ面を俺は見つめた。守も言っていた通り、アイツを倒せば確実に目立つ。しかし、まだ二ポイントしか取っていない段階で脱落するのも論外だ。少しの思案の後に、俺は想定していた段位を引き上げる。
先生の前で見せた【居合】が、その応用を含めて刀剱式四段。次に、【逆撫】の難易度は相手によって天井知らずではあるものの、その段位自体は刀剱式五段に定められている。しかし、それ以下の段位には空中に陣取った狐娘を斬れる剱技は存在していない。
だが、刀剱式には唯一の遠距離攻撃手段があった。
刀剱式七段【駆撃】
刀剣式二段の【刀気】の発展であり、その霊力に指向性と実体を与える技である。しかし、これだけでは空を直線に切り裂くだけだ。威力の減衰によって、狐娘の足元の障壁で防がれかねない。
であれば、あらかじめ霊力の指向性に順序を与えれば良い。端的に言えば、弧を描くように斬撃を飛ばしたのだ。その不可視の斬撃は狐娘へと迫り、その体を空中に展開された障壁から追い落とす。
「回避された?」
直撃していれば、間違いなくアウトになっていたはずだ。であれば、回避されたというのは事実。 ....そうか、守の言っていた感知の異能によって直前に気づかれたんだな。
納得した俺は、狐娘の落下地点へと急行する。そして、その落ちる背中に最速の一撃をお見舞いした。
刀剱式三段【居合】
あくまでも、刀剱式での最速はこの技だ。鞘からの抜刀を霊力で加速する都合上、刃の初速はもっとも素早い。そして、その背に刃が食い込んだ。
もう一ポイント。これで計三ポイントか。しかし、やっちまったな。こいつはどう見ても例の曲者だ。明らかに学生である訓練兵のレベルを超えている異能を扱っていたし、結界や障壁に分類される異能は希少だ。そして、それを完封した俺は必然的に目立ってしまう。
「はー... 地道に序列を上げてくのはこれでオシャカと... しかたない。剱技だけは強い脳筋としてやっていくか」
そうして俺は、最終的に15人ほどの他生徒を倒していた。終盤にはかなりの頻度で敵に出くわしたため、多少の苦戦を演じつつも生き残った。
これで撃破評価の15点と、生存評価の5点が加算。あとは技量評価だが、これに関しては内訳が公開されていないので分からんな。だがまぁ、これでかなり上位には食い込んだだろう。
そう、多少の現実逃避にも似た自己評価をしているうちに、Eクラス戦の終了が告げられた。そして、今までの脱落者たちと同じように、手首のリストバンドが光を放ち、周囲の光景が森林から機械的な控室へと一変する。
「Eクラス戦はコレで終了だ。各自、自室に戻って他クラスの戦闘を観戦するなり、早めの昼食をとるなりして問題ない。では解散とする!」
そうして俺は、重い足取りで三人の待つ部屋へと向かった。




