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Alive In World Online  作者: 一狼
第15章 Judgement
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78.アイと絆と電霊子支配の王神

「私のサプライズお気に召したでしょうか。

 助けようとした仲間が人質となった上に敵となって襲い掛かってくる。ああ、何と言う悲劇でしょう。とても素晴らしい演出と思いませんか?」


 日輪陽菜はとても楽しそうに俺達に敵意をむき出しにしている唯姫と親父を見ては笑顔でそう言ってくる。


「日曜創造神様。この人たちを排除すればいいんですね?」


「どういうつもりでこの城に潜り込んだかは知らないけど、見つかった以上勿論タダで済むとは思ってないわよね?」


 当の唯姫と親父は日輪陽菜の思惑通り、人質でありながら俺達の敵となる存在としていた。


「てめぇ・・・! 今すぐ唯姫達を元に戻せ!」


「あら、素直に開放すると思っているのですか? だとしたら貴方の頭は残念だとしか言いようがありませんわね。

 まぁ、貴方が吠えれば吠える程この演出が素晴らしいものになるのは間違いないでしょうけど」


 くそっ・・・! 合図があれば唯姫達は俺達を排除しようと襲い掛かってくるだろう。

 日曜都市に突入時の街中での戦闘とは違い、今度は逃げることは出来ない。

 もしここで逃げれば日輪陽菜は唯姫達の命の保障をしないだろう。わざとらしく唯姫達を「人質」と言ったのはその為だ。


「まずはその前に戦いの場所を改めましょう。このままここで暴れられると折角の研究資料が台無しになりますので」


 そう言って日輪陽菜は指を鳴らすと一瞬にして景色が辺り一面草原へと変わった。

 一瞬幻覚かと思ったが、足元の地面を踏みしめる感触が間違いなく本物の地面だと認識する。


 これはまんま時空魔法による瞬間移動じゃねぇか。

 時空魔法が使えるのは時空神である疾風--おじさんと『最強の正体不明の使徒』のソロしか使えないはずだ。

 まさか八天創造神だから――AIWOn(アイヲン)を設計した神だから時空魔法もお手の物って訳じゃないだろうな。

 だとしたらチートもいいとこだぜ。勝てる道筋が限りなく限定されてしまう。


 だが俺のそんな心配は直ぐに否定されることになる。日輪陽菜が手にした能力は全く別の物だった。

 しかし別の意味で日輪陽菜の能力は厄介なものだった。


「ふふ、驚きましたでしょう? 先程まで居た空間を別の空間に【繋ぎ】ましたの。

 ここは七曜都市の東にあるアンテンパランス砂漠よりもさらに東にあるグリーンコロナ草原です」


「【繋いだ】・・・? これは時空魔法じゃないのか?」


「そう言えば自己紹介がまだでしたわね。私は【繋ぎ】を司る八天創造神・日輪陽菜と申します。短い付き合いになりますがどうぞお見知りおきを」


 なるほどな。火曜創造神・赤坂烈火が【流れ】を、月曜創造神・藤見月夜が【心】を司るように、日曜創造神・日輪陽菜は【繋ぎ】を司るって訳か。

 そしてそれが日輪陽菜の能力の正体か。

 つまりこの瞬間移動も、唯姫達の記憶改竄も全ては【繋ぎ】の能力によるもの。


「そう、貴方方が今一番懸念している記憶改竄もこの【繋ぎ】によるものです。

 この者達の絆の【繋がり】を断ち切り、日曜都市の住人としての記憶を【繋ぐ】。もしくは私を信仰する記憶を【繋ぐ】。そうすればこのような私の従順な操り人形が出来ますの」


 そう言って日輪陽菜は再び指を鳴らす。

 唯姫と親父は一瞬硬直するものの、次の瞬間にはお互い弾けるようにその場から後退した。


「何ここ!? 貴方達は誰!?」


「やっと見つけたわ。あの人の仇!」


 唯姫はこの状況に至った経緯がまるでなかったかのように驚き、親父は何処の誰か知らないあの人とやらの仇を討つと殺気を撒き散らす。


 日輪陽菜は指を鳴らす。


「あ、あの、何なんですか。皆でよってたかって。あたし戦いなんて無理なんです」


「いや、いやよ! わたしこれまで人と争った事なんて無いのよ! それを無理やり戦わせるだなんて!」


 日輪陽菜は指を鳴らす。


「あー、あー、あたしおねーちゃんとあそぶー」


「あー? なんだってー? あたしゃぁ耳が遠くなってのー」


 日輪陽菜は指を鳴らす。

 記憶を次々【繋げ】られていた唯姫達は途端に動かなくなり目から光が消え、その場にだらりとただ突っ立っているだけの状態になった。


「どうでしょうか? 私の指先一つで彼女たちは文字通り操り人形ですわ。

 今も真っ白な記憶を【繋げ】て何も考えられないただのお人形さんです。何をされようが為すが儘。もしよろしかったら貴方も彼女の体を弄んでみますか?」


 そう言いながら日輪陽菜は俺達に見せつけるかのように唯姫の胸を揉みあげる。



 ブチンッ!!



 その光景を見た瞬間、俺はキレた。

 一瞬で鬼獣化しユニコハルコンを手に瞬刃で日輪陽菜に迫る。

 ただでさえ何度も記憶を弄られおもちゃにされた唯姫を見せられて頭にきていたんだ。

 こいつは絶対に殺す!


 ガキンッ!


 だが俺の怒りの一撃は日輪陽菜の間に割って入ったJudgementに阻まれた。


「ちぃっ! 邪魔――するなっ!」


【主よ、落ち着くのだ! 奇襲が失敗した以上、これ以上の不用意な飛び込みは危険だ。

 いや、寧ろ誘われていたんだろう。ワザとあしらうだけで敢えて見逃したのか】


 ユニコハルコンの声に再び斬りつけようと踏み出した脚を辛うじて抑え込む。

 確かにユニコハルコンの言う通り、日輪陽菜はワザと俺を挑発したのだろう。

 だからJudgementは簡単に俺の攻撃に割って入った。そしてカウンターを喰らわせることが出来るのに敢えて見逃した。これは余興だとばかりに。

 つまり舐められているのだ。


 ふざけやがって。


「あらあら、止めなくてもよろしかったのですよ? 折角ご招待したのだからゲストには快く楽しんでもらいませんと」


「陽菜様、お戯れは程々にしてもらわないと。俺は陽菜様を護る為にお仕えしているんですよ? 自らを危険に晒すような真似はお止めください」


「でも見てごらんなさい。彼は鬼と化すほど私を殺したいみたいです。あの苦悩と憤怒に満ちた表情・・・堪りませんわ。

 Judgement。これは私の遊戯でもあるのですよ。私の楽しみを奪わないで下さいませんか」


「はぁ・・・分かりましたよ。どうぞお好きになさって下さい」


「宜しい。さて、遊戯の続きといきましょう。

 ・・・そうですわね。先ほどJudgementが邪魔をしたお詫びを兼ねて私1人で貴方方のお相手を致します。

 このお人形さん達も使わないで差し上げます。お人形さんを理由に勝てなかったなんて言い訳をされたらつまらないですからね。

 さぁ、今なら私を殺す絶好のチャンスですわよ?」


 どこまでも・・・どこまでもふざけやがって!

 いいさ、その驕りがてめぇを殺すんだ。


 Judgementが日輪陽菜から離れ、意思の無い人形と化した唯姫達も言われるがままにJudgementに付いて行く。


 日輪陽菜はいつの間にか【繋い】だのか手には刀――若干短いその刀身から小太刀と思われる――が握られていた。


 立ち位置としては、俺が挑発に乗って瞬刃を放ったので丁度俺とトリニティで挟むように日輪陽菜が居る形になっている。

 アイさんはトリニティの後ろに居るが、今はシーツ1枚の装備を何も付けていない状態だ。

 流石にこのまま接近戦をさせる訳にはいかないから後衛で魔法の援護をしてもらう形になるだろう。

 アイコンタクトでアイさんに視線を送ると分かっているとばかりに頷いていた。

 因みに未だ眠っているルーナと猪状態にされたアルベルトも一緒に連れて来られている形になっているのでその護衛の意味合いもある。


 これまでの八天創造神を見れば、戦いに関してはほぼ素人の強さでしかなかった。

 日輪陽菜も手には小太刀を持ってはいるものの、その強さは常人並みでしかないと思われる。精々現実世界(リアル)で武道をかじった程度だろう。

 それに比べ俺達は天と地を支える世界(エンジェリンワールド)神秘界(アルカディア)で様々な実戦を積んできた。

 特殊能力の【繋ぎ】も戦闘向けじゃないし、日輪陽菜が勝てる要素は無いはずだ。

 俺達を舐めた報いを味あわせてやる。


 さっきはJudgementに阻まれたが、お前には防げまい。


  先手必勝、俺は再び瞬刃を日輪陽菜に放つ。


「それはさっき見ました。確かに凄い技ですが、ほぼ一直線の攻撃ですので読みやすいです。それに軌道変更が困難のようですのでこのように足を置かれただけで転んでしまいます」


「――っ!?」


 渾身の一撃はあっさりと躱された。躱されるどころか投げられるというオマケまでついて。

 俺は慌てて転がりながら立ち上がりユニコハルコンを構える。


 落ち着け。こっちは鬼獣化した状態で身体能力も圧倒的上だ。舐めくさった日輪陽菜に一撃を入れればこっちの勝ちだ。


 日輪陽菜は俺が体勢を立て直す前に小太刀を振るおうとしたものの、トリニティの無弦モードの蛇腹剣とアイさんの魔法に阻まれて直ぐに後ろへ引いた。


「さっきはわざわざ瞬刃の解説までしてくれて余裕だな。だったらこれはどうだ!

 ――剣姫一刀流・瞬刃乱舞!」


 瞬刃が単発の技であるのに対し、瞬刃乱舞はあらゆる角度からの連続で放つ瞬刃だ。

 流石にこれには対処できないだろうと満身を込めて放つが――


「まるでなってないですね。相手に対し多角的に攻撃する為に無駄な移動が多すぎます。

 肝心の直線的な移動が解決していませんので移動先に障害物があればそのまま己の身にダメージとして返ってきますよ?」


 日輪陽菜はたった小太刀1本で俺の瞬刃乱舞を簡単に防いでいた。

 しかも瞬刃乱舞の軌道上に小太刀を置くだけで俺の体に傷が増えていき、止めに目の前に唐突に現れた岩壁に衝突し逆にダメージを負わされてしまった。


 (またたき)の移動速度での衝突だ。まるでダンプカーに追突された衝撃が全身に響き渡る。

 鬼獣化状態であるのと、ユニコハルコンの治癒能力によって辛うじてだが倒れる事は免れた。


「貴方は【繋ぎ】を戦闘向けじゃないと思っているのでしょうが、このように相手の攻撃を防ぐ壁を呼び寄せる事とかできます。

 要は使い方次第です。貴方はちゃんと自分の技を使いこなせているのでしょうか?」


 いちいちイラつく事ばかり言いやがって。

 剣姫流を使いこなせているかって? いるに決まっているじゃねぇか。師匠が命懸けで俺に伝えた剣姫流が俺以外に誰が使いこなすんだよ!


「言い忘れてましたが、こう見えても私現実世界(リアル)でも武術(・・)を習ってましたの。

 ささやかな小太刀術ですが、それなりの腕と自負しております。

 見たところ貴方も武術を習っているみたいですが、師匠が悪かったのでしょうか? 私程度で防げるのであれば大したことが無いのでしょう」


 ・・・おいこら。師匠の事を何も知らないくせにてめぇ如きに師匠を語るな!


 語っている間にも俺は日輪陽菜に攻撃を仕掛けているが、小太刀を片手に日輪陽菜は俺の攻撃を簡単に躱している。

 時折【繋ぎ】で武器を呼び出し、俺を嬲るように急所を外した攻撃を仕掛けてくる。


 そんな中で師匠を貶された事に俺はキレそうになるが、いつの間にか来ていたトリニティに止められる。


「鈴鹿、深呼吸をして」


「どけ! あいつをぶっ殺してやる!」


 トリニティは叩きつけるように両手で頬を挟んだ。


「鈴鹿! いいから深呼吸をして!」


「お・おう・・・」


 あまりの剣幕に俺は思わず素直に頷き深呼吸をする。

 深呼吸をすることで今まで一直線に日輪陽菜に向いていた視界が一気に広がったような気がした。


「そんなに頭に血を上らせて日曜創造神の思うつぼじゃない」


 言われて気が付く。

 日輪陽菜は俺を煽り怒るように仕向けていた。その所為で視野が日輪陽菜だけに向けられ狭まっていたのだ。


「いい? あたし達は負けられないのよ。ここで負けたらユキはどうなる? フェンリルさん達は? 怒りを捨てろとは言わない。冷静に怒るのよ」


「おま・・・それ矛盾してねぇか?」


「あら、鈴鹿なら出来るわよ。何てったって今や怒りの化身である鬼獣を見事飼いならしているじゃない」


 ・・・確かに最初の頃は怒りに呑まれ暴れまくっていた鬼獣化だが、今はこうして自分の意思で動いている。

 それはトリニティや他の者達の協力があってこそだが。

 だがトリニティの言う通り今の俺は怒りを内に秘めた理性ある鬼獣(冷静な人間)だ。


「トリニティ、もう大丈夫だ。日輪陽菜の言葉にはもう惑わされない」


「頼りにしているわよ」


 トリニティはそう言って俺の頬を挟んでいた両手を放し、地面に刺してあった蛇腹剣を手に取り日輪陽菜に向かって行く。


 よく見れば、トリニティが俺を冷静にさせるためにその間にアイさんが魔法で日輪陽菜を牽制していた。


 ・・・ははっ、どうやら俺は仲間にも恵まれたらしいな。


 今や相棒として欠かせない存在になったトリニティ。そして突出した実力を持ちながら敢えて前に出ることは無く、後ろから指導するように見守ってくれいているアイさん。

 久々のトリオの復活だが、永い間組んでいたパーティーのようにしっくりくる。


 再び繰り広げられた日輪陽菜との戦いは視界がクリアになったことにより劇的に変わった。

 具体的に戦闘力が上がった訳ではないが、トリニティやアイさんの動きを把握する事で互いの連携がこの上なく嵌まっていたのだ。


 トリニティの俺の攻撃の隙を埋める様な援護に蛇腹剣を用いた奇襲。おまけに無限増殖モードの八岐大蛇による大技の攻撃。

 アイさんも現在は遠距離魔法一択の攻撃だが、流石Angel Inプレイヤーであり元魔王であったその腕は親父達七王神に引けを取らない。と言うか、魔王1人で七王神を相手していたんだから寧ろ親父達よりも強い?


 そんな連携を駆使した俺達にこれまで余裕だった日輪陽菜も手古摺り始めてきた。

 攻撃の間にも口撃を挟んでいたのだが、どうやら矛先をアイさんに変えたらしい。

 俺達の攻撃を防ぎながらも日輪陽菜はアイさんに口撃を仕掛ける。


「一之瀬愛。それだけの力がありながら貴女はそちら側に付くのですね」


「何が言いたいのかしら?」


電脳仕掛けの神デウス・エクス・マキナ。確かにその力は脅威です。まぁこの神秘界(アルカディア)ではその力は発揮できませんが。

 ですが貴女はその力を取るに足らない人間の為に奮う。何とも愚かな事です」


「私のこの力は弱い人を助けるために生まれて来たの。その為の力なの。それの何処が行けないのかしら?」


「その助けられる者共が屑なのですよ。屑を助けたところで屑は屑です。彼らは私達が支配してこそようやく世の役に立つのです。

 そして私達は支配する側。貴女もその資格を持つ者のはずです。

 さぁ! 私と共に神秘界(アルカディア)現実世界(リアル)の支配者となりましょう」


「・・・私を拘束した者のセリフとは思えないわね。最終的に私をも支配に置こうとするのが目に見えているわよ。

 それに見解の相違ね。私はそれでも弱い人、困っている人を助けるわ。私の力が及ぶ限りね」


「・・・そうですか、残念です。ならば私に逆らう事の愚かさをその身を持って味わってもらいます。

 貴方方は決して私には勝つことが出来ないのですから」


 そう自信たっぷりに言い放つ日輪陽菜だが、確実に追い詰めている。

 【繋ぎ】を上手く使われ攻撃を回避されているが、その防御も大体パターンが掴めてきた。

 これまでの八天創造神とは違い武術を習っていることに驚いたが、日輪陽菜と俺達は決定的な差がある。

 それは実戦経験だ。


 日輪陽菜はあくまで武術を習っていただけ(・・)に過ぎない。だからこそ攻撃のパターンが限られている。

 俺達は既に日輪陽菜の攻撃パターン・防御パターンをほぼ掴んでいた。


 そしてその隙をついた攻撃が決まる。


 アイさんが弾幕のような水の矢で攻撃し、日輪陽菜は空間を【繋ぎ】避ける。その場合俺達3人の誰かの背後に【繋ぐ】のがパターンとなっていた。

 そして最も多いのがトリニティの背後だ。


 鬼獣化状態の俺との接近戦、武器は無くともアイさんとの接近戦も心理的に避けていたのだろう。

 そうすると自然に多くなるのがトリニティの背後になる。


 だからトリニティは自分の背後に無弦モードの蛇腹剣を上から降らせ日輪陽菜の意表を付く。

 その事気が付いた日輪陽菜は慌てて頭上に盾を【繋ぎ】ながら空間を【繋ぎ】避ける。

 日輪陽菜はそう言った予想外な事に対し一瞬パニックになり安全を確保するために俺達3人から距離を取ることがあった。


 そして俺はその位置を目がけて瞬刃を超えた瞬刃――鬼獣化の状態で放つ光速(正確には音速)での瞬刃――閃刃を放つ。


 音速を超えた衝撃波を周囲に撒き散らしながら俺の一撃は日輪陽菜の首を斬り落とす。


「やったっ!」


「っしゃぁ!」


 トリニティは歓喜の声を上げ、俺は残心の構えをしつつ全ての元凶である日輪陽菜を殺したことに喜んだ。

 流石に命の危機ともなればJudgementに介入されるだろうと思ったが、どうやら閃刃の速度には対応できなかったみたいだ。


 だが当のJudgementは日輪陽菜が殺されたのに未だ動く気配すらなく、面白そうに俺達を見ている。

 そしてアイさんも険しい表情を見せながら構えは解いていない。


 いや、まさかまだ終わってないのか?

 間違いなく日輪陽菜の首は転がっている。

 首を失った体は未だ立ったままだが、首からは大量の血が溢れ出している。

 これで死んでないとは言わせないぞ。


 そこで俺は思い出す。


 八天創造神の、日輪陽菜の目的が何であったのかを。


「だから言ったでしょう。決して私に勝つことは出ませんと」


 声は地面から聞こえた。生首状態の日輪陽菜の口から。


「ひっ!」


 あまりの光景にトリニティは小さな悲鳴を上げる。

 俺も信じがたい光景にただ茫然と生首状態の日輪陽菜を見ていた。


 そんな俺達を面白そうに見つめながら首の無い日輪陽菜の体は地面に落ちた頭を拾い、首に頭を添えて何事も無かったかのように振る舞う。


「私は遂に手に入れました。不老不死を。最早私を殺すことは出来ません」


 ・・・そうか。日輪陽菜が1人で俺達を相手すると言ったのはこれがあるからか。

 日輪陽菜を殺せば全てが終わると思わせておきながら、その実、決して殺す事が出来ないという絶望を突きつける。

 本当にいい趣味してるぜ。


「待って、おかしいじゃない! 不老不死の法は秘宝の欠片が全て揃わないと手に入らないんじゃ・・・!」


 秘宝の欠片は全部で8つ。

 確かにブルブレイヴが奪った3つの秘宝の欠片は日輪陽菜の元にあるだろうが、残りの5つは俺、親父、美刃さん、アッシュが持っていて、最後の1つは謎のジジイの中にある。

 3つだけじゃ不老不死の法は解明されない。


「何も秘宝の欠片を手にしなくても不老不死の法は手に入ります。不老不死の法を手に入れた榊原源次郎が行った方法を取れば簡単な事ですわ」


 その言葉に俺はアイさんを見る。


 八天創造神と別のアプローチで不老不死の法を手に入れた榊原源次郎が取った方法、それは『人間』に進化したAIであるアイさんのプログラムを解析する事によって得られる。

 つまり日輪陽菜がアイさんを攫ったのは不老不死の法を手に入れる為か!


「確かに一之瀬愛のプログラムは既に既存のものとかけ離れていましたが、元がプログラムだけあって解析しやすく、これまでに解析した魂魄データのノウハウがあったからとっても見つけやすかったですわ」


「じゃあ何でブルブレイヴに秘宝の欠片を奪わせたんだ?」


「一之瀬愛を手に入れたので私には必要はありませんでしたが、他の者が集めては困りますからね。ブルブレイヴには隙があったら奪うように言っておきました。

 秘宝の欠片揃わないうちは不老不死に至る事を防げると思わせる錯覚させることも出来ましたし」


 確かに秘宝の欠片が揃わないうちは誰も不老不死に至ることは出来ないと思っていたからな。

 俺達はまんまとその油断を突かれたわけだ。


「そう言う意味ではそこの永遠の巫女も必要なかったのです。

 The Worldに連れてくるように命じてましたが、どうも彼は失敗したみたいで、代わりにThe Hermitが連れてきてくれました。

 その前に一之瀬愛を手に入れたので必要しなくなったわけです。まぁ折角ですので榊原源次郎が試験で行った不完全な不老不死を解析するのも今後のいいデータになるでしょう」


 日輪陽菜は最早俺達に眼中が無いのか余裕をかましながら今後の事を考えていた。


 不老不死に【繋ぎ】の能力と多少の武術の小太刀術。おまけにJudgementと言う悪意敵意を敏感に察知する護衛。


 ・・・やべぇ、どうやっても勝ち筋が見えない。

 【繋ぎ】の能力は厄介だが、強いだけならまだ何とかなる。だが不老不死だけはどうしようもねぇ。

 いや、不老不死も殺せはしないがマンガやゲームを参考にすれば対応手段が見つかるかもしれないが、Judgementがそれを邪魔をする。


「気分が良いところ申し訳ないけど、貴女には未来は無いわ。ここで私達が貴女を終わらせるもの」


 そんな攻めあぐねている俺を余所にアイさんの声が届く。

 アイさんが俺達の方を見て微笑む。私に任せてと言った風に。


「あら、面白い事を言うのですね。どうやってこの私を終わらせるというのでしょうか?」


「私もただ黙って貴女に捕まっていたわけじゃないわ。最悪の事態に備え切り札を密かに作っていたのよ」


 そう言えば日輪陽菜に対する切り札を手に入れたって言ってた。

 ははっ、流石アイさんだ。まさかこういう事態に備えていたとは。


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・いや、待て。その切り札とはなんだ? すげぇ嫌な予感がする。


「あの状態でどうやってその切り札とやらを作っていたのでしょうか?」


「まぁ確かにあの状態で出来ることは何も無いわね。でもね、私には『電脳仕掛けの神デウス・エクス・マキナ』がある」


 待て、アイさん、それはダメだ!


「何かと思えば神秘界(アルカディア)では役立たずの能力ではないですか」


「そうね。私の『電脳仕掛けの神デウス・エクス・マキナ』は電子にしか効果が無い。

 電子と霊子が合わさったこの電霊子の世界・神秘界(アルカディア)では効果はほぼ期待できない。

 でもね、電子には効果があるのよ。そして電霊子は電子を含む。じっくりと時間をかけて電子を介しながら霊子をも解析し支配下に置いた。

 今の私の『電脳仕掛けの神デウス・エクス・マキナ』は電霊子さえも自在に操ることが出来るわ。

 差し詰め『電霊子支配の王神デウス・エクス・マキナズ』って言ったところかしら」


 だって、アイさんの寿命はもう・・・!


「・・・あり得ないです。そんな事はあり得ないです! 例えそうだとしても今の私は不老不死です。そこに干渉することは不可能です!」


「そう思うなら私の『電霊子支配の王神デウス・エクス・マキナズ』を受けて見なさい」


「ダメだ! アイさん! トリニティ、アイさんを止めろ!!」


「え・・・? ・・・あっ!」


 トリニティも俺の慌てた声にアイさんの寿命に気付くも既に遅かった。

 アイさんは『電霊子支配の王神デウス・エクス・マキナズ』を発動し、眩い光に包まれる。

 その光は辺り一面を覆い、更に光は増幅しまるで世界を包んでいるかのように見えた。


 光が収まると俺は慌ててアイさんに駆け寄る。

 ただでさえ残りの寿命が1年も無いのに不老不死をキャンセルするほどの『電霊子支配の王神デウス・エクス・マキナズ』を使えばどうなるか。


 『電霊子支配の王神デウス・エクス・マキナズを使い終えたアイさんはその場に倒れ込む。

 慌ててアイさんを支えるも、それは既に意味のない事だと気が付かされる。


「そんな・・・うそだ、アイさん・・・!」


 支えたはずのアイさんの体は薄っすらと透けていた。

 まるで世界に溶け込むようにどんどん透けていく。


「アイさん! やだよ、死なないでよ! まだ私アイさんに教わりたい事沢山あるんだよ!」


「トリニティ・・・もうあんたは立派な1人前よ。私が居なくても十分やって来れたでしょう?

 私の代わりに鈴鹿くんの事を頼むわね。もしよければ異世界(テラサード)でもね。私の体を使ってちょうだい。トリニティの魂が馴染むように調整してあるから」


「何を言っているんだよ、アイさん! まだ大丈夫だろ。なぁ! そうやって俺達の事をからかっているんだろ!?」


「もう、そんな事を言わないの。私の寿命はもう長くは無かったのよ。だからこれは必然だったのよ。

 私の事より唯姫ちゃんの事を心配しなさい。鈴鹿君は唯姫ちゃんを助けるんでしょ?

 日輪陽菜の記憶改竄は『電霊子支配の王神デウス・エクス・マキナズで元に戻しておいたから、もう大丈夫よ。他の皆もね。

 後の事は頼んだわよ。本当はお義父さんを嵌めた日輪陽菜に一撃を与えたかったんだけど、その役目は鈴鹿君に譲るわ」


 そう言ってアイさんは透けて行く手を俺の頬に添えて微笑む。


「そんな、アイさんが居ないと駄目だよ・・・これまでずっとそばに居てくれたじゃないか。だから・・・だから死なないでくれ・・・!」


「大丈夫よ。鈴鹿君は1人じゃない。トリニティも居るし、唯姫ちゃんも居る。大河さんも居る。これまで旅をしてきて出会った友が居る」



 ―――だから大丈夫よ。日輪陽菜を倒して私を安心させて―――



 最後の言葉と共にアイさんは光の粒子となって消え去った。


「アイさん・・・! うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」











次回更新は3/13になります。

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