7.美刃と火竜と風竜
――AL103年3月19日――
俺達は朝一で飛竜の渓谷に入り、美刃さん達を探して走竜で駆け抜けている。
今のところアイさんのナビのお蔭で飛竜に会わない様に陰に隠れたり迂回したりと進んでいるが、そのせいか未だに美刃さん達に追いつくことが出来ていない。
「っ! 9時方向! 避けて!」
突然アイさんが叫ぶと同時に横から大きな黒い影が横切った。
飛竜だ。
アイさんは慌てて走竜を止めて、トリニティは大きく道をそれながら何とか回避する。
「どうやら気配を殺して隠れてたみたいね」
ああ、そりゃあ息を潜めて隠れていれば気配探知でも見つからないか。
この場合アイさんの気配探知能力より飛竜の隠蔽能力の方が上回っていたって事だろう。
「仕方がない。迎え撃つか」
俺とアイさんは走竜から降りて剣を抜く。
トリニティも目の前の飛竜に怯えながらも走竜たちを後ろに下がらせる。
そりゃあ俺だって怖いよ。
目の前の飛竜は昨日のキマイラよりも巨体で竜に相応しい威圧を放っている。
これに生身で立ち向かうのは馬鹿なんじゃないの?と思うくらい圧倒的な存在だ。
だがここで引いていては唯姫を探すことなんて到底無理だ。
俺は何とか恐怖を押し殺し毅然とした態度で飛竜を睨みつける。
このAIWOnでは唯姫の言っていた習得率100%――鍛えれば鍛えるだけ身体能力が上昇する身体があれば飛竜討伐は不可能ではないはずだ。
「来るよ!」
飛竜は飛び上がり、そのまま急降下して足による爪攻撃を仕掛けてきた。
俺達はそれぞれ左右に避けて躱すが、飛竜は再び上昇して俺達の攻撃範囲から逃れる。
・・・マズイな。このまま上空からの攻撃を連発されれば俺達は為すすべもなくやられてしまうぞ。
そう思っていたが、アイさんの放った魔法によって飛竜の空中殺法はあっさり潰されてしまった。
「悪いけど急いでるの。早めに片を付けさせてもらうわ。
――アイシクルランス!」
アイさんが放った氷の槍は飛竜の翼の根元に着弾しそのまま抉り取ってしまう。
翼の片方を失った飛竜はそのまま地上へと墜落する。
「ガァァァ!」
「うわー、アイさんにかかれば飛竜も形無しかよ・・・」
後ろではさっきまで怯えていたはずのトリニティが逆に悟りきった表情でつぶやいていた。
まぁ気持ちは分からんでもない。
だがアイさんばかりに任せてられない。
いざという時アイさんが居なくても俺達だけで戦えるようになっておかなければならないからな。
「ウォーターボール!」
飛竜にとって大したダメージにはならないが、俺は昨日アイさんに倣ったばかりの魔法を解き放ちそのまま飛竜へと距離を詰める。
「二連射!」
「グルァァ!」
そこへトリニティの投擲戦技の援護が入る。
トリニティの放たれた投げナイフは俺を標的に見定めていた飛竜の目を貫き俺の接敵を容易にした。
「ダブルラッシュ!」
俺の放った剣戦技により飛竜の顔に2本の剣閃が走る。
ルナメタル鋼はかなり上質な素材らしく、俺の戦技を放った剣は飛竜の鱗を容易く斬り裂きダメージを与えた。
「止めよ! ダークボール!
――ダークストライク!!」
アイさんは闇属性魔法の闇球を唱え淡い闇色の光を剣に纏い、剣戦技・スラッシュストライクを飛竜へと叩きつける。
「ガァァァァァ!!」
アイさんの放った剣はあっさり飛竜の体を貫き、その一撃は致命傷となり飛竜はその動きを止めた。
「ああ、もう。何でこうあっさり『魔法剣』が使えるんだよ・・・」
そう、トリニティの言った通りアイさんは三大秘奥の『魔法剣』を使って飛竜を倒したのだ。
秘奥と言うだけあって普通ならそう簡単に使えるものではない。ましてや初心者なんかには。
「まぁ、そこはアイさんだと思って諦めな。
つーか、殆んどアイさん1人で倒しちまったな」
「・・・そうだな。なぁ、アイさん1人でその幼馴染を探した方が早いんじゃないのか?」
「・・・それは言うなよ」
俺達がぼやいている間にもアイさんはシャドウゲージで飛竜を影の中に仕舞う。
「ほら、早くいくわよ」
アイさんが催促をし、俺達は何とも言えない気分になりながら美刃さん達の捜索を再開した。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
あの後上手くルートを選びつつ飛竜を回避して何とか竜の巣へとたどり着いた。
竜の巣はなだらかな傾斜の山が幾つも連なった山脈だ。
岩肌が剥き出しの所もあれば森林が多い茂った所もある。
俺達は今森林部分をドラゴンと思わしき気配を回避しながら美刃さん達を探している。
「結局、竜の巣まで追いつけずじまいか。S級冒険者は移動手段までS級と言う事なのかな」
「そりゃあ、戦闘能力だけでS級になれるわけじゃないからな。その他の能力も鑑みてS級の称号を与えられるんだよ」
まぁ、そりゃあそうだろうな。
ただの戦闘狂だけがなれるほど冒険者も甘くは無いってことか。
もっとも最高ランクであるS級になれると思っている冒険者は一握りだろうから、そこまで考えてる冒険者は居ないだろうけど。
「それはそうと・・・この広い山々が竜の巣か・・・探すのは一苦労しそうだな」
ドオオオオオオォォォォォォォォンンンン!!!
と思っていたところ、俺達の居る山の遥か向こうで突如火柱が立ち上がった。
「なっ!?」
「何だありゃあ!?」
火柱は天まで届くのではないかと言うほど高々と上がっており、俺達の居る山からも見えると言う事はかなりの規模での炎と言う事だ。
俺とトリニティは火柱を見て驚愕していたが、アイさんは冷静に分析をしていた。
「もしかしてあそこに美刃さんが居るんじゃないかしら?」
既にあそこで火竜と遭遇していると言う事だろうか。
アイさんの気配探知は流石に山の向こうまでは探知できないので、火柱のところで何が起こっているかまでは分からない。
「つーか、それしかないんじゃないのか? あんな火柱、火竜じゃなきゃ無理だろう」
確かにあれほどの火柱だ。並大抵の攻撃力じゃないだろう。ここが竜の巣と言う事を考えればあの火柱の原因は火竜と見て間違いないはずだ。
「そう・・・だな。よし早く美刃さん達の所へ向かおう」
「へ? 別に早く向かう必要は無いだろう? 何でわざわざ火竜と戦闘中の所へ飛び込まなきゃならないんだよ」
トリニティは何言ってんの?と言った表情で俺を見てくる。
言われてみればその通りなのだが、俺達が向こうにたどり着くまでに火竜を仕留めて居なくなってしまうのはマズイ。
直ぐ決着が着くとは思えないが、なるべく急ぐのに越したことは無い。
「向こうに着いてからもう誰もいませんでしたじゃ来た意味が無いだろ。怖いのは分かるがとっとと行くぞ」
「ちょっ! 誰がビビってるってんだよ! つーか、鈴鹿の方こそ今の火柱見てビビってんじゃねぇのかよ。
アイさんの腰にしがみ付いているくせに偉そうに指示すんなよ」
確かにアイさんと走竜に二人乗りしている姿は情けないが、そんな俺に怖がっているのではないかと指摘されたのがトリニティの気に障ったらしい。
「っ! 0時! 正面上空!」
突如、アイさんの警告に俺とトリニティは慌てて警戒態勢に入る。
それと同時に空から巨大な何かが降りてくる。
いや、降りてくると言うよりは落ちてくると言った方が正しいだろう。
巨大な何か――10mは超える赤い鱗に爬虫類の羽、頭には角が雄々しく生え鋭利な牙を生やした咢を持つ生物――火竜が俺達の目の前に墜落した。
周りの木々を薙ぎ倒し、火竜は墜落の態勢から身を起こし辺りを警戒する。
そして俺達を見つけると殺意を剥き出しにした咆哮を轟かせた。
「GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA―――――!!!!」
うおおおおおおぉぉぉぉっっ!!?
なんだこれっ!? めちゃくちゃこえええええっ!!
さっき倒した飛竜何か目じゃないくらいの迫力と威圧だ。
これ人の身で敵う生物じゃないよ。
隣を見ればトリニティが俺と同じように恐怖に身をすくませていた。
アイさんの顔はこちらから見えないので分からないが、多分平気な顔をしているのではないだろうか。アイさんの事だから・・・
俺達に標的を見定めた火竜は、そのまま突進しようと身を屈ませる。
ヤバいと思った時には遅く、火竜は大地を蹴り俺達に向かって周りの木々を薙ぎ倒し向かってきた。が――
ヒュッンッ!
ボンッッッ!!
何処からともなく飛来した矢が火竜の頭に当たり、瞬間見えない何かが弾けて火竜の頭を弾き飛ばし突進を止めた。
それと同時に火竜に向かって何者かが突進してきた。
その何者かは全身白の武者鎧に身を包んでいるが、頭だけは兜をかぶっておらず素肌を晒している。
その鎧武者は女性だった。
鎧武者の女性は後ろで結んだだけの金の長い髪をなびかせて、火竜に向かって手に持った刀で斬りかかる。
「・・・ん、桜花一閃」
鎧武者の女性は刀戦技と思わしき技を放ち桜のエフェクトを放ちながらやすやすと火竜の鱗を斬り裂いた。
よく見れば火竜の体にはあちこち刀傷がついている。
さっきの墜落もこの鎧武者の女性との戦いで落とされたと言う事なのか?
ああ、そう言えば矢を放った人物もいるな。
そこまで気が付いて俺はある可能性を思い出した。
その可能性を裏付けるかのように、アイさんが鎧武者の女性の正体を叫んだ。
「美刃さん!」
なんと、この鎧武者の女性が美刃さんなのか?
身長170cmほど、武者鎧姿とは言え体つきは細身、美人顔でありながらその無表情な顔によりぱっと見、男装の麗人に見える。
「GAAAAAAAAA!!」
体を傷つけられた火竜は今度は美刃さんに標的を定めて大きく息を吸い込んだ。
ブレスの予備動作だ。
いや、ちょっと待て! 火竜のブレスと言う事は・・・!
ゴゥッッ!!
火竜は巨大な火炎弾を美刃さんに向けて吐き出した。
美刃さんは人間の限界を軽々と越え5mもの大ジャンプを持って火炎弾を躱す。
火炎弾を躱された火竜は待ってましたと言わんばかりに前足の爪を持って空中に居る美刃さんに攻撃を仕掛ける。が――
何と美刃さんは空中を蹴って更に火竜の頭上へと跳びあがりそのまま落下の勢いで刀を振るう。
「・・・ん、剛閃」
放たれた刀戦技によって火竜の角が切って落とされた。
って、それより躱された火炎弾が地面を抉り、炎を撒き散らして辺り一面を火の海に変えてるじゃねえか!
そりゃあこんな木々の中で火炎を使えばこうなるのは当たり前だ。
こりゃあこのフィールドは美刃さん達にとって不利じゃねぇか?
だが次の瞬間、火の手が周りに広がる前に放たれた魔法により火は鎮火する。
「ダイヤモンドミスト!」
辺り一面に氷の霧が発生し視界を一瞬奪うが、氷の霧は炎に向かって収束していき次々と消化していった。
声のした方を見ると白色のローブを身に纏った魔術師らしき男が杖をこちらにかざしている。
その隣には弓を構えた女性が居た。
この2人が美刃さんの仲間なんだろう。
つーか、たった3人で火竜に立ち向かっているのか?
幾ら美刃さんがS級とは言えたった1人で立ち向かえるほどドラゴンはそう甘くは無いはず。となればこの2人もそれなりにランクの高い冒険者と言う事だ。
それを証明するかのように弓使いの女性は3本の矢を番えて火竜に向かって解き放つ。
「クリストファー必中流・三連星!」
3本の矢は火竜の左目、左翼、左前脚に突き刺さり、それぞれ火炎、雷、氷結の効果をもたらした。
察するところ、3本の矢それぞれに『魔法剣』ならぬ『魔法矢』の効果を付随したと言う事か。
「おい、そこの3人! ここは危険だ! 速やかにこの場を離れるんだ!」
魔術師の男が火竜がひるんだ隙にこちらに向かって避難の警告してくれる。
その間にも美刃さんと弓使いの女性は火竜に向かって攻撃し、注意がこちらに向かないようにしてくれている。
避難を勧めてくれるのは嬉しいが、俺達の目的は美刃さんだ。
一瞬、どうしようか巡考し迷いを見せるが、その前にアイさんが新たな気配を探知したのか空を見上げた。
俺もそれにつられ空を見ると緑色の何かが急速にこちらに向かっている。
狙いは弓使いの女生と魔術師の男だ。
俺とアイさんはすぐさま行動に移した。
走竜を降りて2人に向かって駆け出す。
アイさんは今まで1本しか抜かなかった剣を2本、水色と青色の剣を抜いて2人の前に立ち、上空より襲い掛かる緑色の生物――風竜に向かって剣を交差する。
俺はアイさんと同時に駆け出して2人を地面に引きずり倒す。
弓使いの女性は攻撃を邪魔されたのを非難した目で見たが、頭のあった位置を風竜の爪が通り過ぎたのを見て目で感謝の合図をする。
アイさんは風竜の爪を剣を交差して弾き飛ばし、俺達が風竜に地面に叩き付けられない様に防いでくれていた。
攻撃を弾かれた風竜は俺達のすぐ背後に降り立ち鎌首をこちらに向けて威嚇してきた。
「GRUURURURURURUURU・・・!」
火竜程ではないが、この風竜もかなりの威圧を放ってきている。
「この風竜は俺達が足止めする。あんた達は火竜の方を早く倒してきてくれ」
俺の言葉に2人は驚いたものの、「分かった、火竜を倒して直ぐこちらに向かう」と言って美刃さんの援護へと向かった。
「さて・・・と、今度は風竜が相手か。
ウサギ、狼、合成生物、飛竜と来て、今度はガチのドラゴン。初心者にしてはあり得ない戦歴だな」
「確かに初心者にしてはあり得ない戦歴ねー
まぁでもドラゴンと言っても風竜は飛竜に毛が生えたものだと思えば気が楽にならない?」
「言われてみればそうかもな」
俺とアイさんは冗談のように言い合いながら目の前の風竜相手に戦闘準備をする。
「トリニティは走竜を連れて隠れていろ」
「ちょっ! あたしを役立たず扱いするんじゃねぇよ!
あたしより初心者の鈴鹿が前線に立つのにあたしが逃げるわけねぇじゃんか!」
流石にガチのドラゴンを相手に出来ないだろうと避難を勧めたが、トリニティは何故か対抗心を燃やして俺達の戦列に加わる。
どうやらドラゴンへの恐怖心より俺への冒険者としてのプライドが上回ったようだ。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「さて・・・と。まずは風竜の空中機動を封じましょうか。
――インフィニティアイスブレード!」
アイさんが青色の剣を振り下すと、風竜の上空に氷で出来た剣が数十生成された。
氷の剣はそのまま風竜の翼に降り注ぎ、無数の氷の剣に抉られその役割を奪われる。
つーか、何だあの剣。マジチート武器じゃんか。
祝福装備と言うのはこれ程なのだろうか。
俺はアイさんの剣の威力に驚きながらも呪文を唱え攻撃の準備をする。
だがその前に翼を潰された風竜が怒りを露わにし、俺達に向かって無数の拳大の風弾を飛ばして来た。
見えないはずの風が見えると言うのもおかしな話だが、俺達は向かって来る風弾を躱す。
アイさんは華麗なステップを駆使して躱しつつ、左右の剣を振るいながら風弾を弾き飛ばす。
トリニティはロープを周りの木の枝に撒きつけ、ロープアクション宜しく反動で上空へと逃れる。
俺も疾風迅雷流の歩法で風弾を躱していく。躱しきれない風弾は左腕に固定されたミスリルウッドの円盾で防ぐ。
ガンッ!
思ったよりも威力がある風弾に左腕が痺れた。
これはまともに食らったら大怪我どころじゃ済まないかもしれない。
風弾に注意しつつ、俺は唱えていた呪文を解き放つ。
「アイスブリット!」
アイスブリットはウォーターボールと同じく氷属性の初級魔法だ。
当然このまま放っても風竜にはダメージは与えられないだろう。
だからここでイメージする。
この世界は『イメージ効果理論』により、かなりの応用が利く世界だ。
目の前に現れたピンポン玉サイズの氷の塊を銃の弾丸の様な楕円形にイメージし、ライフリングの刻みも付けて回転させ風竜に向かって撃ちだす。
キュィンッ!!
放たれた氷の弾丸は風竜の体を抉りながら貫いた。
「GAAAAAAAAAAAAAAAA!!」
おお! まさか初級魔法でこれほどのダメージを与えるとは。
その隙にトリニティが風竜の背後に跳びあがり短剣戦技を繰り出す。
「バックスタブ!」
トリニティのショートソードは風竜の背中を貫きダメージを与える。
トリニティはそのまま追撃しようとショートソードを振り上げるが、風竜は背中のトリニティを振り下そうと暴れ回った。
「トリニティ! 攻撃したらすぐ離れて!」
アイさんの指示を受けてトリニティはロープを伸ばしすぐさま離脱する。
そしてアイさんは青色の剣――インフィニティアイスブレードで空中に段差を付けて氷の剣を生み出す。
生み出した氷の剣を踏み台にして階段の様に駆け上がり風竜の頭上に跳びあがる。
「二刀流戦技・十字斬り!!」
アイさんの放った戦技は風竜の頭に直撃し、追撃とばかりに階段に使った氷の剣をそのまま風竜に解き放つ。
「GURAAAAAAAAAAAA――!!」
氷の剣の攻撃を受けながらも風竜はアイさんの着地する直後を狙って尻尾の薙ぎ払いを仕掛ける。
「ちっ!」
流石に空中で身動きが取れないアイさんは2本の剣を交差して尻尾の攻撃を受けそのまま弾き飛ばされた。
「アイさん!」
アイさんを払いのけた風竜は今度の標的を俺に定めてその巨大な咢で噛み付こうと突進してくる。
そこへトリニティの投げナイフが飛んでくるが、堅い鱗に弾かれてダメージは与えられない。
だが一瞬風竜の意識がそちらに向いた隙に疾風迅雷流の足捌きで巨大な咢を躱し、すれ違いざまに剣戦技・スラッシュを叩き込む。
「セイッヤァ!」
「GURAAA!!」
俺の放った剣は風竜の片目を斬り裂き視界を奪う事に成功した。
風竜は攻撃を受けて警戒したのか、空は飛べ無いものの風の力を利用して総べるように俺から距離を取った。
俺は距離を取った風竜にチャンスとばかりに、追撃の為の氷の弾丸の呪文を唱えた。
だがこの時俺は何故風竜が距離を取ったのかもう少し考えるべきだった。
「鈴鹿くん! 避けて!」
アイさんの声で風竜が何をしようとしていたのか見て取れた。
大きく息を吸い込み口を閉じている。
ブレスの予備動作だ。
俺は氷の弾丸のイメージに集中していた為気が付くのが遅れた。
「GOAAAAAAAAAAAA―――!!」
放たれた風竜のブレスは暴風の嵐となりて周りを抉り取りながら俺を巻き込んだ。
「ぐぁぁぁっ!?」
俺は暴風の嵐に巻き込まれ、体が捻じり切られそうになりながら周りの木々を薙ぎ倒し地面へと叩き付けられる。
がぁぁぁぁぁっ!? いってぇぇぇぇぇぇぇ!?
なんつー痛みだ、これ!?
VRの痛覚規定レベルを遥かに超えてる痛みじゃねぇか!?
痛みをこらえながら風竜を見てみると、何となくだがしてやったりとした表情で俺を見ているのが分かった。
この野郎・・・!
止めとばかりに風竜は風弾を俺に向かって撃ちだす。
アイさんとトリニティはそうはさせまいと氷の剣や投げナイフで邪魔をするが、風竜は目を傷つけられたのが気に障ったのか、ダメージを受けるのにも構わずに俺を標的として攻撃してきた。
「ぐぁぁっ!」
暴風の嵐でダメージを受けていた俺は風弾を躱すことも出来ずにぼろぼろにされてしまう。
くそ・・・! ここで終わりか・・・?
俺は今もなお降り注ぐ風弾に身を晒しながら命の限界を感じる。
少々未知な要素はあるものの、AIWOnはデスゲームではないのでこの世界での死は現実での死ではない。
だが、ここで死んでしまえば1か月はログインが不可能になってしまう。
そしてそれは1か月も唯姫を放置することと同意だ。
ふざけるな・・・!!!
1か月も待ってられるかよ・・・!!
俺はぼろぼろの体を何とか立ち上がらせ剣を風竜に切っ先を向けた。
その様子に風竜は驚き、風弾の攻撃を止めていた。
「おら、掛かってこいよトカゲ野郎・・・!」
俺の挑発にビクリと身を震わせ、気迫に呑まれたことを自覚した風竜は怒りを露わにし、大きく息を吸い込み再びブレスを放とうとした。
2度も暴風の嵐を受ければ間違いなく死ぬだろう。
だが俺は死ぬ気はこれっぽっちもなかった。
助けを期待していたわけではない。俺はこの時この状態でありながら風竜に勝つつもりでいた。
まぁ、結果的には助けてもらう形になったが。
アイさんが俺を助けようと駆けつけてくるが、それよりも早く風竜のブレスが放たれる直前に俺の目の前に美刃さんが立ち塞がる。
「ん、いい気迫。後は任せて」
火竜の方はどうなったのかと見れば、魔術師の男と弓使いの女性が止めを刺しているところだった。
「モード剣閃三日月
――刀戦技・居合一文字:連」
美刃さんは鞘に収めた刀を居合抜きで斬撃を飛ばし風竜のブレスを斬り裂く。
そしてすぐさま刀を収めて再び居合抜きで斬撃を飛ばす。
抜いて飛ばして収める。これを一瞬の間に連続で行う。
キキキキキキキキキキィィィィン
飛ばされた斬撃は容易くブレスを消し飛ばし、そのまま風竜の頭に直撃しあっさりとその命を奪った。
ズズン
風竜が倒れたことにより俺の気も緩みその場へと倒れ込んでしまった。
慌ててアイさんが駆けつけて緑色の液体の入った小瓶――ポーションを渡してくる。
「鈴鹿くん、ごめんね。私がもう少し気を付けていれば・・・」
「アイさんの所為じゃないよ。俺が油断していただけだから」
「もう、いつから油断するほど強くなったのよ。
取り敢えずこれを飲んでおいて。体力だけは回復するから」
ポーションはあくまで体力を回復するためのアイテムだ。
体の傷を治すのは傷薬か、回復魔法のヒールでしか治せない。
今の俺の体はドラゴンレザーの鎧に守られていたとは言え、肌が剥き出しになっているところは傷だらけだ。
この辺が普通のAIWOnがVRMMOとは違うところなんだろう。
「美刃さんも鈴鹿くんを助けてくれてありがとう」
「・・・ん、助かったのはこちらも同じ。火竜と風竜の同時相手は面倒」
まぁ、確かに俺達がいなければ美刃さん達は2体のドラゴンを相手にしてなければならなかったからな。
「おい、生きてるか? つーか、まともにドラゴンブレスを食らった時は死んだかと思ったぞ」
「・・・何とかな。なんだ心配してくれてるのか?」
「ばっ! 誰がお前なんか心配するか!」
「・・・もしかしてツンデレか?」
「はぁ? 何だツンデレって?」
なんだかんだ言いながらトリニティは俺を心配してくれてるみたいだ。
こうして俺達はドラゴンとの予想外(いや、この場合予想然るべき事なんだが)の戦闘をしたが、何とか美刃さんを探し出すことに成功した。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
Alive In World Online流派スレ199
623:名無しの冒険者:2058/12/13(木)23:51:33 ID:Edn9Dq9fiG
誰か剣姫二天流の流派習った人いる?
624:名無しの冒険者:2058/12/13(木)23:52:59 ID:wi310Kme2R
ああ、あの巫女神フェンリルが開祖の流派だね
625:名無しの冒険者:2058/12/13(木)23:54:25 ID:Adl6Ms10r
あれ? でも剣姫二天流を広めたのってコボルトだって話聞くよ?
626:名無しの冒険者:2058/12/13(木)23:56:41 ID:Bm33bK10n
コボルトってモンスターの?
いや、NPCならイベントであり得るのか?
627:名無しの冒険者:2058/12/13(木)23:57:59 ID:wi310Kme2R
>>626 ああ、コボルトと言っても獣人の方だね
628:ケモモフ命:2058/12/13(木)23:59:12 ID:km0Nmfm2L
コボルトには魔物コボルトと獣人コボルトが居るニャ
魔物コボルトはまんま魔物ニャけど
獣人コボルトはモフモフなんだニャ
629:名無しの冒険者:2058/12/14(金)00:01:41 ID:Bm33bK10n
なぬ!? モフモフだと・・・!?
630:名無しの冒険者:2058/12/14(金)00:03:09 ID:BltzPl202P
ああ、あのモフモフは触ってみたいよな・・・
631:名無しの冒険者:2058/12/14(金)00:04:33 ID:Edn9Dq9fiG
ケモモフフェチ共はケモモフスレへ行けよwww
632:名無しの冒険者:2058/12/14(金)00:05:13 ID:H24jkcBu4
オーケー話を戻そうか
剣姫二天流を習った人は居るのかい?
633:名無しの冒険者:2058/12/14(金)00:07:59 ID:wi310Kme2R
んー、運よく剣姫二天流を覚えている天地人に会ったけど
あれは覚えるのに一苦労するね
634:名無しの冒険者:2058/12/14(金)00:08:25 ID:Adl6Ms10r
残念ならがら覚えてない
と言うか今テライト閃剣流を覚えるので精いっぱい
635:名無しの冒険者:2058/12/14(金)00:09:33 ID:Edn9Dq9fiG
俺は噂で聞く巫女神フェンリルの流派を見てみたいと思ったけど
使用者が見つからないんだよな~
636:ケモモフ命:2058/12/14(金)00:10:12 ID:km0Nmfm2L
あたしも獣王爪牙流を習うので精一杯ニャ
637:名無しの冒険者:2058/12/14(金)00:13:09 ID:BltzPl202P
>>634 テライト閃剣流は早さ重視の剣戦技だからそんなに苦労しないのでは?
638:名無しの冒険者:2058/12/14(金)00:14:41 ID:Bm33bK10n
>>635 おいおい、男なら鋼斬剛剣流だろ
639:名無しの冒険者:2058/12/14(金)00:15:13 ID:H24jkcBu4
Oh なるほどね
開祖が伝説だけあって剣姫二天流は見つけるのも難しそうだな
640:名無しの冒険者:2058/12/14(金)00:16:25 ID:Adl6Ms10r
>>638 何を言っているだね君は
鋼斬剛剣流はただの力任せの流派じゃないか
641:名無しの冒険者:2058/12/14(金)00:18:41 ID:Bm33bK10n
>>640 それを言ったらテライト閃剣流なんて早いだけで
攻撃力がしょぼいじゃないか
642:名無しの冒険者:2058/12/14(金)00:19:33 ID:Edn9Dq9fiG
おいおい、三大剣術の1つヴァーラント獣剣流を忘れてもらっちゃ困るぜ
643:名無しの冒険者:2058/12/14(金)00:20:00 ID:Adl6Ms10r
あれは邪道だ!
644:名無しの冒険者:2058/12/14(金)00:20:01 ID:Bm33bK10n
あれは邪道だ!
次回更新は1/4になります。




