表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Alive In World Online  作者: 一狼
第15章 Judgement
79/83

77.審判と日曜創造神となし崩しの最終決戦

 サンフレア神殿の外には予想通り神秘界の騎士(アルカナナイト)・Judgementが待ち構えていた。

 精悍な顔つきをした金髪の青年だが、これと言って特徴のない至って平凡な冒険者にも見える。

 腰には剣を差し、左腕には円盾(バックラー)を装備していた。


「あんたらが不穏分子(イレギュラー)か。しかもよりにもよってサンフレア神殿に駆込むとは。悪いがこれ以上は見逃せないなぁ」


「はっ、元々見逃すつもりなんかないくせに。あんたの役目は日輪陽菜に降りかかる災いを芽の内に刈り取る事。

 日輪陽菜の能力が効かない時点で見逃すはずはねぇよ」


「ごもっとも。出来れば陽菜の能力が効かない秘密を暴こうと泳がしていたんだが・・・サンフレア神殿に秘密があるのか? そこんとこ話せばもしかしたら見逃すかもしれないぜ?」


 Judgementは肩を竦めながらも俺達を最初から排除しようとしたことを認める。その上で俺達に能力が効かない秘密を話せば見逃すと言ってきた。

 まぁ、話したところで見逃すつもりはないだろうからこれは形だけの問いかけだろう。


「言うと思うか? 知りたければ力づくで聞いたらどうだ?」


「やれやれ・・・出来ればてっとり早く済ませたかったんだが。そっちがその気ならお望み通り力づくで行こうか。

 ああ、秘密を聞き出すまで殺さないと思ったら大間違いだぞ。あくまで出来ればって事だからこっちは容赦なく殺しに行くからな? 言いたきゃ早めに話すことをお勧めするぜ」


 Judgementは剣を抜きながら呪文を唱え俺達に迫ってくる。

 俺はユニコハルコンを抜いてJudgementを迎え撃つ。

 トリニティは戻ってきた蛇腹剣を抜きながら俺の援護をすべく距離を取る。隙あらば死角に潜り込み姿を消して奇襲をかけるのだろう。


 戦いの場となったサンフレア神殿の前は神社の境内のように多少広いが、大きな魔法を使える程の広さは無い。

 Judgementは魔法も得意と言う事だが、広範囲の大規模魔法は無いと見る。


「レイブラスト!」


 Judgementが開幕に放った魔法は光属性魔法のレイブラストだった。

 これは幾つもの閃光を放つ魔法で、光属性と言う事もあり地味に避け辛い魔法だ。


 俺は致命傷になりそうなものだけをユニコハルコンで弾き、残りは多少の被弾をしながらJudgementとの間合いを詰めた。

 これにはJudgementも驚いたらしく、間合いを見誤り慌ててその場に止まった。


「アイスブリット!

 ――剣姫一刀流・氷華一閃!」


 俺が尤も使い慣れた弾丸形態のアイスブリットを纏わせた魔法剣で放つ刀戦技・桜花一閃。

 Judgementは円盾(バックラー)で氷華一閃を受けるも、ユニコハルコンに纏わせた魔法剣のアイスブリットが炸裂し円盾(バックラー)を弾き飛ばす。

 そのまま返す刀で右わき腹下から逆袈裟切りを放つ。


「ソードバッシュ!」


 だがJudgementは素早く体勢を立て直し剣と盾を駆使した体当たりの技を放ってきた。

 俺の逆袈裟切りはソードバッシュに弾かれ逆に俺の方が体勢を崩してしまった。


「ベアドラムエッジ!」


 体勢の崩された俺はJudgementの放つ一撃を避けられない。このままだったら。

 Judgementは攻撃を取りやめ地を這うようにその場から引いた。


「ちっ、もう少しだったのに」


 先程までJudgementが居た場所には剣を分割したような1つの刃が刺さっていた。

 トリニティの蛇腹剣の無弦モードだ。

 本来弦で繋がっている蛇腹剣が分割した刃のみで自在に操り宙を舞い攻撃するトリニティの蛇腹剣の3つのギミックの内の1つだ。


 トリニティはJudgementが俺に意識を向けている間、死角にその姿を隠し無弦モードで足下と頭上に攻撃を仕掛けた。

 Judgementは寸前でそれに気が付き攻撃を止めて下がったのだ。


 仕留め損なったとばかりにトリニティは舌打ちをしていた。頭上と足元の攻撃に加え、引いた後にも追撃をしていたにも拘らず避けられたことに悔しがっているんだろうけど。

 まぁこれくらいで倒せるほどJudgementは弱くは無いだろう。


 にしても、こいつ2つもの流派を使ってきやがった。

 Judgementがさっき使っていたのはステライル騎士道流のソードバッシュとヴァーラント獣剣流のベアドラムエッジだ。

 ステライル騎士道流は剣と盾を使った攻防一体の流派であり、ヴァーラント獣剣流は剣戦技と獣化戦技を合わせた流派だ。

 ただでさえ単純な戦闘能力が高いだけでも厄介なのに、2つもの流派を使ってくるとは。

 おそらく他の流派も使えるんだろうな。


 ただ単純に基本的な能力が高いという事は平均的とも言えるが、言い換えれば弱点らしい弱点が無いとも言える。

 日輪陽菜を見据えて軽く考えていたが、これは思ったよりも腰を据えて相手した方が良さそうだ。




◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 俺とJudgementがぶつかり合い互いの刀と剣が交錯する。

 俺は剣姫一刀流を用い、Judgementは予想していた通りスレライル騎士道流やヴァーラント獣剣流の他にもテライト閃剣流や鋼斬剛剣流などと言った複数の流派を使いこなしてくる。


 トリニティも隙を狙いながらJudgementを攻撃するが2対1にも拘らず常に冷静な対応で対処されていた。

 よくよく考えれば向こうはこれまでにも複数の敵対者相手に1人で対処していることを考えれば多対1は慣れているんだろう。


 だがやり難い相手ではあるが、決して勝てない相手ではない。これまで剣を交わした感じでは噂に聞いていたほどには感じなかった。

 能力が平均的だからそう感じるのか、はたまた奥の手を隠して手を抜いているのか。


 とは言えやり難いのには変わらない。

 今も俺の刀を躱すとテライト閃剣流と魔法を同時に放ってくる。


「クレセントスラッシュ! キャノンスパイク!」


 三日月のように弧を描きながらそれでいてこれまでで最速の剣を放ちながら、地面からは野太い杭が襲ってくる。

 俺は杭を無視し、Judgementの剣をこちらも最速の瞬刃を以って迎え撃つ。

 勿論そのままだと自ら無視した杭に飛び込む形になるが、そこは頼りになる相棒が付いている。


 蛇のように地を這いながら無限刃で伸ばした蛇腹剣が俺に襲い掛かろうとした杭に噛み付くように突き刺さる。

 そして俺は瞬刃で交差しながらJudgementのクレセントスラッシュを弾き飛ばす。

 あわよくば瞬刃で一撃を与えればと思っていたが、そう都合よくはいかないみたいだ。


「思ったよりもやるなぁ。んー、とは言えこれ以上下手に時間をかけるとブルブレイヴの奴が来るからとっとと終わらせるか」


 どうやら今の戦闘力はこれが素じゃなく奥の手を隠していた方らしいな。そしてJudgementとしてはブルブレイヴに介入されるのが拙いみたいだ。

 元々俺達はブルブレイヴの招待で日曜都市に来たようなものでもある。それをJudgementが横やりを入れているのだからブルブレイヴにしてみれば面白くないのだろう。

 それを気にしてかJudgementは一気にけりをつけるつもりだ。


「インフェルノ!

 タイタルウエイブ!

 ――フレアティックエクスプロージョンバスター!!」


 技名長っ! ってか、これって火属性魔法と水属性魔法の相反する属性の輪唱呪文による魔法剣――すなわち親父の最も得意とする剣姫流の技じゃないか!


 思わずユニコハルコンで受けたJudgementの攻撃により、そこを起点に大量の水蒸気爆発が起き俺は受け身のまま吹き飛ばされ地面へ叩きつけられた。

 しかも水蒸気爆発の熱と衝撃で全身が火傷と裂傷で一気にボロボロになった。


 無論これだけで終わるはずはないのだが、俺は追撃される心配をせずにユニコハルコンで全身の傷を癒しながら何とか立ち上がる。

 何故なら奥の手を隠しているのはこっちも同じだ。それはトリニティにも当てはまる。


 大技を放った直後の隙もあるが、トリニティの放った奥の手によりJudgementはその対応に追われて追撃が出来ずにいた。


 8本もの蛇腹剣があらゆる死角からJudgementに襲い掛かっていたのだ。

 本来は1本であるはずの蛇腹剣はトリニティの手元の柄から8本に分れ、所謂バラ鞭と呼ばれる形状に似ている。

 だが蛇腹剣によるその姿はまるで日本神話にある八つの頭を持つ大蛇、八岐大蛇を髣髴させた。


 ――夢幻増殖モード・八岐大蛇――


 トリニティの3つある蛇腹剣の最後のギミック。無弦モードと無限刃モードを組み合わせた取って置きの隠し技。

 これまで1本でも厄介な蛇腹剣が8本になって襲い掛かるのだ。おまけにどうも1本――いや、1頭ごと半ば意思を持っており、全てトリニティが操らなくても半自動で敵を追撃する。


 流石にこれにはJudgementも一蹴できずに防ぐので精一杯だった。


 俺はその間にユニコハルコンの力を最大限に引出し最速で傷を癒し、同時並行で止めの一撃の準備をする。


「トリニティ!」


 俺の合図を受け取ったトリニティが八岐大蛇を操作して攻撃するタイミングを合わせる。

 放つのは俺の尤も得意とする決め技、八種の属性魔法を融合して一つの魔法として放つ魔法剣。

 疾風迅雷流の奥義・(またたき)|(剣姫流瞬動)で一気に間合いを詰めながらすれ違いざまに放つ一撃。


「剣姫一刀流奥義・天衣無縫!!!」


 Judgementはステライル騎士道流の剣と盾で防ごうとするも、剣と盾ごと斬り裂いた。

 俺の一撃をまともに受けたJudgementはその場に崩れ落ちた。


「――っしゃぁ!」


 これでまずは日曜都市の三強の内の一角を落としたぞ。

 トリニティも崩れ落ちたJudgementを残心で警戒しながらも起きてこない事を確認しつつJudgementを倒した事を喜んでいた。


「鈴鹿、やったわね!」


「ああ! このまま日輪陽菜をって言いたいところだが、まずは唯姫達をサンフレア神殿に集めないとな」


 Judgementを倒したのは喜ばしいが、日輪陽菜を倒したわけでもなければ肝心の唯姫達の記憶を取り戻した訳ではない。

 逸る気持ちを抑えつつ呼吸を整えて唯姫達を捜しに行こうとするが、トリニティが信じられない物を見るように境内の入り口を見ていた。


「おいおい、気が早いな。まだ終わってねぇぜ?」


 そこには倒したはずのJudgementが立っていた。

 慌てて地面に倒れたJudgementを見るが、間違いなくそこに横たわっている。


「さっきのが奥の手と思われちゃ心外だな」


 声は別の方からも聞こえた。丁度俺達の背後から。


「奥の手ってのは戦況をひっくり返すようなのを言うんだぜ」


「今の状況みたいにな」


「まぁ普段は1体で対処するんだが、今回は特別だ」


「それだけあんたらが強かったからそこは誇っていいぜ」


 見渡せば俺達を取り囲むように数人ものJudgementが立っていた。


 ・・・やられた!


 Judgementの『審判』は敵対者の元へ飛ぶ(・・)能力なんかじゃない。

 敵対者の元へ分身を送りつける能力だ。

 そしてこれが不死身の秘密だ。分身だから倒されてもまた現れる訳だ。

 おそらく分身は本体に比べ戦闘力は落ちるのだろう。だからこそ俺達以外の冒険者も奇跡的に勝てたのだ。


「ちょっ、鈴鹿どうするの!?」


「分身を相手するだけ時間の無駄だ。叩くとすれば本体だ。ここは強引にでも突破して本体の居る陽菜城へ向かう」


 このままだとJudgementは幾らでも分身体を送り込んでくるだろう。1体だけならまだ対処可能だが、複数体ともなると流石に勝てる見込みが少ない。

 唯姫達を捜してサンフレア神殿に連れて来たかったが、こうなっては仕方がない。このままJudgement本体が居ると思われる陽菜城まで一気に攻め込むことにした。


 トリニティの八岐大蛇で場を乱し、その混乱に乗じて俺達は分身Judgementの包囲網を突破してサンフレア神殿から抜け出した。




◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 Judgementの『審判』は日輪陽菜に対しての敵意や悪意を持つ敵対者の前に分身体を送る能力だ。

 つまり何処に隠れていようとも必ず見つかる。


「だから身を隠しながらの移動は以ての外。今求められているのは慎重さよりも速度だ」


「だからってあまりにも身を晒し過ぎじゃないの!?」


 俺達は陽菜城を目指して日曜都市を爆走している。

 行く先々には分身Judgementが現れ、背後からは分身Judgementをあしらった時の騒動で都市の衛兵が俺達を追っていた。


 流石にここまでの騒動になれば日曜都市での活動は著しく制限されるだろう。

 トリニティはそれを心配しての事だが、元凶である日輪陽菜を倒せばその心配はしなくてもいいんだよ。


 俺達は分身Judgementや衛兵を撒きながら一直線に陽菜城に辿り着く。

 陽菜城の城門にも衛兵が居たが、何故か俺達をすんなりと通した。

 後ろから追いかけていた衛兵も、俺達が陽菜城へ入ると追いかけるのを止め散り散りになって騒動は収まる。


「どういう事・・・?」


「おそらく余計な邪魔が入らないように配慮してくれたんだろうぜ、この城の主様がよ」


 悪役がよくやる歓迎するって意思表示なのだろうよ。

 その証拠にさっきまで頻繁に現れていた分身Judgementも城に入ってからは現れない。

 城門にも衛兵が居た事から当然城の中にも警備兵や城や都市を管理する為の文官や執事・メイド等が居るのだろうが、そう言った者達は一切見受けられない。


 まぁ、こっちとしてはありがたいがな。城の中の人たちは兎も角、分身Judgementが現れなくなったのは助かる。体勢を整え直すことが出来る。

 問題は戦力が俺とトリニティのたった2人だけと言う事だがな。


 まぁ一応助っ人の当てはある。あるにはあるが・・・向こうが気が付いてくれていればいいんだが。


「まずはJudgementを倒すぞ。日輪陽菜とJudgementが別々に居ればいいんだが・・・まぁ護衛か何かで2人は一緒だろうな。

 2人一緒の場合は最優先するのはJudgement本体だ。いいな」

「了解」


「一応、別々に居ること可能性もあるから城の中を探索しよう」


 その探索の間に助っ人が来るまでの時間稼ぎにもなるし。まぁ、日輪陽菜が大人しく見過ごしてくれていればの話だが。


「もしJudgementが陽菜城に居なければどうするの?」


「その場合は日輪陽菜を倒す方に優先順位が変わるな。Judgementの分身を相手しながら」


「うぇ~~」


 その言葉を聞いてトリニティは実に嫌な顔をする。

 そんな顔をするな。俺だって嫌だよ。


 だがそんなことは無いだろう。

 Judgementの『審判』が日輪陽菜に対する敵対者に裁きを下す能力なら、一番悪意敵意が向けられる日輪陽菜本人が居る場所の警備はどうなっているのか。

 当然Judgement本体が居る可能性が最も高いだろう。もしくは同じ城の中で警備しているか。


 俺達は出来るだけ城の中の1部屋1部屋を確認しながら陽菜城を探索していく。

 大抵は使用人の部屋だったり書斎だったり客室だったりするが、暫く探索が進むとある部屋へと辿り着いた。


 一瞬髣髴させるのが火曜創造神・赤坂烈火の実験室だ。

 この部屋は赤坂烈火みたいにシリンダーや標本が置かれてはいないが、何処か実験室を連想された。

 幾つものならんでいる机の上に積み上げられた書籍に、奥に並んだ幾つものベッド。

 そのベッドの上に2人が横たわっていた。


 その2人は俺達が知っている人だった。

 と言うか、その内の1人は神秘界(アルカディア)に来てからずっとはぐれてしまっていた人だった。


「アイさん!!」


 俺達はアイさんを見つけた瞬間、思わず無警戒に部屋の中へ飛び込みアイさんの元へ駆け寄った。

 幸いにも罠の気配は無く、アイさんの元へ辿り着く事が出来た。


 アイさんは眠っているのか眠らされているのか、ベッドの上で目を閉じている。

 体に被せられているのはシーツ1枚だが、シーツの上から体のラインが丸分かりだ。おそらく裸でベッドの上に横たわっているのだろう。


 そして隣のベッドに横たわっているもう1人を見れば月神の巫女ルーナがアイさんと同じように眠っていた。

 但しこっちはちゃんと服を着たままで眠っている。

 デュオ達からルーナも神秘界(アルカディア)に来ている事を聞いていたが、まさか敵の本拠地で再会するとは思いもしなかった。


 ベッドに横たわっていたのは2人だが、実はもう1人ベッドの傍に座り込んでいた。

 何故か首輪とリードで繋がれたアルベルトが。

 こっちは意識があるようで俺達をじっと見つめている。


 俺はアイさんとルーナをトリニティに任せ、取り敢えずアルベルトに事情を聴くことにする。


「おい、アルベルト。無事・・・とは言い難いが、何がどうなってここに居るんだ?」


 だがアルベルトの口から出た言葉は思いもよらないものだった。


「・・・ぶひ。ぶひぶひ」


「・・・・・・・・・は?」


「ぶひ、ぶふーぶふー」


「おい! ふざけている場合じゃないんだ。しっかりしろ!」


「ぶひひー、ぶひっ」


「・・・マジか」


 見た目は猪ではあるが、アルベルトはれっきとした獣人だ。

 だが今リードで繋がれている姿はまるで動物の猪そのものだ。


 アルベルトは俺が分からないのか、鼻をふごふごさせながら俺の臭いを嗅いで首を傾げていた。


「これって・・・一種の記憶改竄か・・・?」


 アルベルトの獣人としての記憶を書き換え動物の猪の記憶を植え付けたってところか。

 実に嫌らしい使い方をしてくるじゃねぇか。


「アルベルトはルーナを助ける為陽菜城に忍び込んだんだけど、返り討ちにあってそうなっちゃったの」


 そう言ってきたのは眠りから目を覚ましたアイさんだった。

 裸の為、シーツ1枚を胸元に手繰り寄せてベッドの横に立っていた。


「アイさん!」


「鈴鹿君、トリニティ、ごめんなさい。私が日輪陽菜に捕まったばかりに神秘界(アルカディア)ではかなり苦労を掛けたみたいね」


「そんな事・・・! 俺達もまさかアイさんが日輪陽菜に捕まっているとは思わなかったから、アイさんの事を二の次にしていたんだ。アイさんなら大丈夫だろうって。

 俺達こそゴメン。今まで放っておいて」


「うん、ごめんなさい。アイさんなら大丈夫だって勝手な思い込みで今まで探しもしないで」


 そうだ。俺達はアイさんならって過度の期待を押し付けていたんだ。

 アイさんだってAIとは言え中身は普通の『人間』なんだ。当然失敗だってする。俺達はその事を失念していた。


 そんな今更ながら気が付き落ち込んでいる俺達にアイさんは優しく微笑みかける。


「今こうして助けに来てくれたじゃない。それに私だってただ黙って捕まっていたわけじゃないわ。お蔭で日輪陽菜に対する切り札を手に入れたわ」


「は・・・ははっ、やっぱりアイさんは凄いな。まさかこんな状況でも諦めずに戦っているなんて」


「まぁ、あくまで最終手段の切り札だけどね。でもその前に、状況を説明してもらえるかしら? 私ずっと捕まっていたから鈴鹿君たちが今どういった状況なのかいまいち分からないのよ」


 そりゃそうか。幾らアイさんでも全てを見通せるわけじゃない。流石にずっと捕まっていたんだったら外の状況が今どうなっているか分からないだろう。

 ・・・アイさんの特殊能力『電脳仕掛けの神デウス・エクス・マキナ』なら一発だろうが、今のアイさんの残りの寿命で無駄に使う気はないだろうし、使わせる気も無い。


 アイさんに状況を説明しようとするが、トリニティが待ったをかける。


「待って。その前にまずルーナとアルベルトをどうにかして、場所を変えないと。

 流石にこのままだと日曜創造神に見つかるわ」


 そうだ。ルーナとアルベルトをどうにかしないと。


「ルーナは心配しなくてもいいわ。ただ眠らされているだけ。私と言う最高の被験体が手に入ったから不完全なルーナは後回しにされたのよ。

 アルベルトは・・・今はどうしようもないわ。彼には申し訳ないけどもう暫くはこのままでいてもらうしかないわね」


「日輪陽菜を殺せば元に戻るのか?」


「確証はないけど、おそらくは」


「鈴鹿はルーナを背負って運んで。アルベルトはあたしが引っ張っていくから。

 後は日曜創造神が見つからないような場所で状況の確認よ」


 日輪陽菜の本拠地で見つからない場所と言うのも無茶な話だが、まぁ見つかる確率、もしくは見つかるまでの時間稼ぎが出来る場所って事だな。


 だがそれは一歩遅かった。

 俺達が行動を開始したその時、部屋の入り口から声が聞こえた。


「あら、それには及びません。私自らこうして現れて差し上げたのですから」


 部屋の入り口には1人の女性が立っていた。

 見た目は普通のおっとりした女性に見えるが、明らかに雰囲気が違う。

 迫力があるわけじゃない。凄みがあるわけでもない。なのにただそこに居るだけで圧倒的存在感を醸し出してる。

 但し滲み出ている気配(オーラ)はどす黒く底なしの闇を思わせた。


 おそらくこいつが日曜創造神・日輪陽菜だろう。


「日輪陽菜・・・!」


 アイさんが女性――日輪陽菜を見て殺気を顕わにする。

 だが日輪陽菜はどこ吹く風でアイさんの殺気を受け流しながら世間話をするように俺達に話しかけてくる。


「折角招待して差し上げましたのに一向に来て下さらないんですもの。私待ちくたびれてこちらから伺う事に致しました」


「それは悪かったな。こっちでもサプライズを用意するつもりでいたんでな。ちーとばかっし時間がかかって申し訳ない」


 俺も軽口をきいて出来るだけ日輪陽菜の意識を俺の方へと向けさせる。

 その間にトリニティとアイさんにここを突破する方法を捜してもらう。


 このまま戦闘になっても構わないが、アイさんは装備無しの裸だし、眠ったままのルーナと今の状態じゃ全く役に立たないアルベルトが居る。

 流石に苦戦は免れない。


 それによく見れば日輪陽菜は1人じゃない。

 思った通り、傍にJudgementが控えていた。

 そしてよく見ればもう2人、日輪陽菜の傍に控えている。扉が影になってそこまで見えなかったみたいだ。


「あら、私もサプライズを用意いたしましたのよ。とっても驚かれると思いますわ。

 さぁこちらにいらっしゃい」


 日輪陽菜に促され、その2人が俺達の前に姿を現す。


 ・・・って、マジかよ。


「日曜創造神様。この人たちですか? 日曜創造神様に逆らう背信者って」


「よく見ればあの時のナンパ男じゃない。ふーん、なるほどねぇ。陽菜城にまで忍び込むなんてただのナンパ男じゃなかったって訳ね」


 俺達の前に現れたのは未だ記憶を書き換えられたままの唯姫と親父だった。









次回更新は3/11になります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ