72.簡易契約と強制契約と契約の悪魔
志波の剣が鋭い軌跡を描き反応しにくい斜め下からの掬い上げが俺に迫る。
俺はユニコハルコンを素早く下げ志波の攻撃を防ぐが、どうやら志波の斬撃は剣戦技・トライエッジだったらしく、防ぎきれなかった残りの2爪が俺の左腕と脇腹を抉る。
「ファイヤーブラスト!」
そこへすかさず火属性魔法を放ち、俺の眼前に炎の波が押し寄せた。
俺はユニコハルコンで左腕と脇腹を癒しつつ、氷属性魔法のアイスブリットを纏わせた魔法剣で炎の波を斬り裂きながらサイドステップでその場から下がる。
だがその下がった先を狙っていた志波が続けざまに火属性魔法を放った。
「スタンドフレア!」
俺の避けた着地地点に天を衝く火柱が上がる。
これまでの志波だったらこれで決着が着いたと油断していたんだろうが、今の志波は警戒を怠らずこちらの様子を伺っていた。
その甲斐あってか、志波の横から迫った俺の攻撃は不意を衝いたにも拘らずまんまと防がれてしまう。
おまけに魔法攻撃の迎撃まで加えてだ。
「ウォータースラッシュ!」
「マジックシールド」
俺は無属性魔法の魔法の盾で志波の水切りを防ぎつつも改めて距離を取った。
「武闘大会の時と違って大分マシになったな」
あの時は破壊神の二つ名に相応しい大規模破壊魔法しか使ってこなかったからな。
見栄えは良いし攻撃力も大きいが、その分隙だらけで接近戦がお座なりだったから容易く倒すことが出来た訳だ。
だが今の志波は前回の隙と言うか油断が一切なくなり、魔法も大味のものじゃ無く小技で隙のないものになっていた。
「何時までも虫に負けたままの俺でいると思うなよ」
「あー、うん。それは素直に感心するよ。よく慢心を消せたなと」
「当然だ。貴様を倒しディープブルーを救うためだ。その為なら俺の虚栄などいらない」
カッコいい事を言っているが(あ、この時点で虚栄をまだ捨ててない?)、残念だがそれでも俺には届いていない。
いや、追いついていないと言った方がいいか。
「剣姫一刀流・瞬刃乱舞!」
剣姫流の瞬動の突進力で斬撃を放つ瞬刃を連続で目標を囲い叩き付ける技、七王神クラスや神秘界の騎士・26の使徒クラスじゃないと完全に防ぎきることは難しい技だ。
案の定、志波はあっという間に体中に幾つもの致命傷を負った傷が出来上がる。
「が・・・くそっ、エクストラヒール!」
その致命傷の傷も治癒魔法により直ぐに消え去るのだが。
かなり高位の治癒魔法も使えるようになったらしいが、それでも俺には敵わない。
志波の強くなったんだろうが、俺は、俺達はその倍以上もの経験を経て強くなっている。
あのトリニティですらほぼ素人同然からマジでA級に匹敵するほどの実力を付けたのだ。
遊び感覚で強くなってきた志波が、今さらになって真面目に強くなったとしても追いつけるはずがない。
「アイスブリット――」
俺のオリジナル、弾丸のようにライフリングを刻み螺旋状に放つ氷の弾丸からの――
魔法剣でユニコハルコンを覆い、剣姫流のジャンプステップで刀戦技の突き技を放つ。
「――氷弾閃牙!」
俺の放った氷弾閃牙は慌てて回避しようとした志波の右肩を貫き、剣先が刺さると同時に発動したアイスブリットとの合わせ技で志波の肩を抉り取る。
それにより志波の右腕が千切れ手に持った剣ごと地面へと落ちた。
「ぐぁあぁぁぁぁぁぁぁっっ!!」
連続で使用できないのか、先ほどの治癒魔法が飛ばせずに志波は思わず右肩を抱え蹲る。
「お前の努力は認めるよ。だがそれでも俺には届かない。お前の負けだよ」
「それがどうした。俺はディープブルーを守ると『契約』をしたんだ。もう俺にはお前を倒す以外の道は無いんだよ!」
志波は蹲りながらも殺気を滲ませた視線を俺に向ける。
・・・うん、本当に以前に比べてマシな顔つきになったなぁ。
けど俺のやることは変わらない。
だが流石にこの様子に耐えきれなくなったのか、唯姫が懇願してきた。
「ねぇ! もういいでしょう。そこまでしてあたしを守らなくてもいいじゃない。あたしはそこまで頼んでないよ!
鈴くんもこれ以上はもういいでしょう。これ以上やったら本当に死んじゃうよ」
「残念ですが、それは無理な相談ですね。
彼は私と『契約』を結んでいます。『契約』を果たさなければ『契約』不履行で私に魂を捧げることになります。
どちらにしろ彼は貴方の恋人から秘宝の欠片を奪わなければ助かる道は無いのですよ」
ようやくお望みのものが見れたのか、嫌らしい笑みのしたり顔で唯姫に懇切丁寧に説明してくるケイジ。
ケイジに乗っかるわけじゃないが、俺も唯姫にこの戦いを黙って見ていろと言う。
「唯姫、余計な口出しは無用だ。こいつはもう俺と志波の互いの命を賭けた戦いだ。もうどちらかが死ぬ以外の決着はねぇよ。
覚悟なんざ最初から決まっているさ。なぁ、石ころ」
「ふん、虫に俺の気持ちが分かってたまるか」
「ここまでくればそのプライドも立派なものだよ。
・・・唯姫、これ以上見たくなければ見るな。お前が背負うべきことじゃない。これは俺達のプライドによる我がままだからな」
ここで泣き言を言うと言う事は、唯姫にとっては辛いものになるだろう。
ただでさえ集団強姦に遭って心の傷が完全に癒えきってないのにまた変な心的外傷を与えてしまう事になるからな。
だが唯姫は――
「ううん、最後まで見ている。だってこれはあたしが招いた事でもあるんだもの」
どうやら変な心的外傷にはならないみたいだ。寧ろそれよりも1歩前に進んだようにも見える。
まぁあれとこれとでは心的外傷の種類が違うが。
「さぁ、決着を着けようか。偽の宝石野郎!」
「勝つのは俺だ。虫の分際でディープブルーに集るな。蹴散らしてやる!」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「ぐはっ・・・!」
俺の一撃が志波の体を大きく切り裂き志波は地に伏せる。
最早志波に反撃を起こす様な力は無く、後は止めを刺す状態だ。
気力を振り絞ったものの、志波が俺に勝てる道理は無く、大番狂わせも起きずに志波は敗北したのだ。
「何か言い残すことはあるか?」
ユニコハルコンを突きつけ俺は志波の最後の言葉を聞き遂げる。
「ふ・・・ん、虫如きに負けるとは・・・だがこれが最後なのは悪くない」
志波は苦痛に顔を滲ませながらも何処か晴れやかな表情をしていた。
「いいか、虫。俺に勝ったんだ。絶対ディープブルーを――唯姫を守りきれよ」
「てめぇに言われるまでもねぇよ」
「その約束、必ず守れよ。
――ああ、後カーリーたちの事も頼む。俺が死ねば『契約』が切れる。そうなればあいつらを守るものが無くなるからな」
ああ、そう言えば志波の取り巻きたちがいたっけ。なんだ、そいつらも『契約』で守ってたって訳か。
てっきりこいつのワザとらしい説明で月夜神軍の慰み者になっているかと思ったが、どうやら違ったみたいだ。
「分かった。ケイジと藤見を倒すついでにそいつらの事も面倒見てやるよ」
「・・・ふ、相変わらずでかい口を叩きやがる・・・ごほっ、がはっ・・・! さぁ、止めを刺しな」
せめて最後は苦しまないよう、ユニコハルコンの力で苦痛を消しながら心臓を貫いた。
その瞬間、唯姫は必死に目を逸らしそうになるのを堪え志波の最後を見届けた。
志波が死んだことにより『契約』が成されなかったため、志波の体から光の球が浮かび上がりそのままケイジの方へと吸い込まれていった。
「大変良いものを見させていただきました。出来ればもう少し悪足掻きした姿を見たかったのですが・・・まぁこれはこれで良しとしましょう」
「随分とまぁ悪趣味になったものね。彼が勝っても秘宝の欠片を奪えて良し、負けても魂を奪えて貴方の力が増して良し。あんたにとってはどっちに転んでも旨みがあったって訳ね」
ラヴィが非難めいた視線をケイジに向ける。
親父やラヴィの話によれば昔は嫌がらせ程度の事はしていたが、それはラヴィのように恋人達の仲を進展させる程度のものでしかなかったと言う。
それが今は俺と志波のように友情や恋心を利用する如何にもな悪者に成り下がってしまった。
「なんとでも言いなさい。私の全ては我が主の為に。
さぁ、今ここで貴方――大神鈴鹿との『契約』を果たしましょう! 大神鈴鹿の中の秘宝の欠片を主に捧げるのです」
ケイジの合図を皮切りに月夜神軍が武器を手に取り俺達を包囲する。
流石に歴戦の強者らしく、親父達も慌てることは無く武器を手に取り鋭い眼光で睨み返し今にも襲い掛かろうとしていた神軍達にたたらを踏ませた。
・・・どういう事だ? てっきり俺は『集団契約』でケイジとの連戦を強いられるものばかりだと思っていたのだが。
「ふふふ、安心しなさい。大神鈴鹿には『集団契約』のような無粋な真似はしませんよ。
折角そちらも戦力を揃えてきた事ですし、ここでキッチリと決着を着けた方が貴方の心をへし折りやすくなりますからね」
1対1が無粋な真似って・・・どちらかと言うと集団乱戦の方が無粋なような気がするのだが。
だが、ケイジの言いたいことも分かった。1対1で俺を負かすよりも仲間の力を借りても勝てないと俺に知らしめたい訳か。
もしかしたら負けを認めた方が魂を奪いやすいとかあるのかもな。
だがそれならこちらには好都合だ。
負けるつもりは更々無いし、当初の予定通り神軍相手は親父達七王神だ。神軍は万に一つも勝ち目はないだろうよ。
「はっ、てめぇのその自信、打ち砕かせてもらうぜ」
「そのセリフ、そっくりお返ししますよ」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
合図と共に襲い掛かってくるリーダー格の男を除く9人の月夜神軍。
それを迎え撃つのは親父、ヴァイさん、アッシュの3人。
美刃さんは残念ながらケイジの『強制契約』により今は戦闘行動が不可能な状態なので後方に控えている。
面白がって付いてきたブルブレイヴも美刃さんと一緒に観賞モードだ。
「桜花雷炎十字!」
「螺旋拳! 戦斧脚!」
「ガトリングエアバースト!」
ヴァイさん達の予想通り、月夜神軍の強さはいいとこB級上位くらいの実力だった。
親父達が3人は余裕で対処し、俺たちの戦いの露払いをする。
そしてこの戦いのメインであるケイジとリーダー格の男には俺と唯姫、トリニティ、ラヴィの4人で当たる。
戦いに参戦するかと思われた藤見は下がって高みの見物と決めていた。
「剣姫一刀流・瞬刃!」
まずは小手調べで瞬刃を放とうとするが、ケイジの『契約』により邪魔が入る。
「『簡易契約』、大神鈴鹿はその場から後退」
ケイジの発動した『簡易契約』に従わなかったため、ほんの一瞬だが動きが阻害され瞬刃のタイミングがずらされその場でたたらを踏んでしまう。
その隙を逃さずにリーダー格の男が一気に間合いを詰めて剣を振る。
だが動きが止まったのは一瞬だったため、辛うじてその攻撃を避けることが出来た。
と、同時にトリニティが割り込んで攻撃を防いでくれたので慌てる必要もなかったが。
「ホーミングボルト!」
『八翼』を展開した唯姫からの援護により無属性魔法の自動追尾弾がリーダー格の男を退け、ケイジの牽制を行う。
その牽制の合間にラヴィがケイジに迫り手にした錫杖で接近戦を仕掛けた。
・・・うーむ、実際に受けて見て思ったよりも厄介だな。『簡易契約』
事前にラヴィから聞かされてなければもっと隙が大きかったかもしれないぞ、これ。
『簡易契約』はケイジから相手にほぼ一方的に結ぶ『契約』だ。そこに相手の了承は必要ない。
こう聞くとチート的に感じるが、これも『集団契約』同様にある限定的なもので、効力も一時的なものなのだ。
『簡易契約』の効果はほんの1秒ほど。
『簡易契約』の内容も行動に関する事にしか効力は無い。
『簡易契約』は同じ内容を『契約』するには30分の経過が必要である。
(用は同じ『簡易契約』を連続で使用することは出来ない)
『簡易契約』に従わない場合は1秒ほど動きが阻害される。
『簡易契約』に従わなくてもペナルティは無い。
つまり『簡易契約』は相手の動きを阻害する為の『契約』でしかないのだ。
但し、一瞬の判断が重要になる戦闘中に『簡易契約』を仕掛けられれば効果は抜群だ。
『契約』内容に従ってもケイジに動きをコントロールされるし、従わなくても動きを阻害されるのでその1秒が命取りになりかねない。
まぁ辛うじて1秒程度なら回避可能だ。全くの無傷とはいかないが。
と、思わせておいて、実は隠されたペナルティが存在したりする。
美刃さんはこれに引っかかったのだ。
『簡易契約』に従わなければ密かに業が加算され、一定の業に達すると『強制契約』を執行することが出来る。
まぁこの『強制契約』も行動に関することにしか効果は無いが、それでも一方的に『契約』を結べる『強制契約』の効果は絶大だ。
何せ七王神である美刃さんをも縛る『契約』なのだから。
美刃さんが『強制契約』で結ばれた内容は「戦闘行為の禁止」。
戦闘行動を起こそうとすれば体が動かなくなり全身に激痛が走る。それでも無理やり行動を起こそうとすれば魂を強制的に搾取されると言う仕組みだ。
これは何も知らなければ俺達もケイジにより『強制契約』を結ばれていた可能性があった。
幸いにも今回は積極的に参加してくれるラヴィにより、ケイジの『簡易契約』と『強制契約』を知ることが出来たので対策が打てた。
まぁ対策と言っても『簡易契約』の内容に従う事だが。
『簡易契約』に従わなければ業が加算されると言う事は、逆に軽減する方法もあると言う事だ。
つまり『簡易契約』に従えば従った分だけ業は軽減されるのだ。
ケイジに動きをコントロールされたり封じられたりするが、それをフォローする仲間がいる。
『集団契約』で1対1に持ち込まれるとヤバかったが、今のこの状態ならほぼ問題なく勝てるだろう。
それに、こっちは時間を掛ければ掛けるほど親父達が月夜神軍を排除してこっちに参戦するからな。
その現状を認識しているが故か、ケイジに焦りの様子が見て取れる。
ラヴィの攻撃を捌きながら俺達の行動を『簡易契約』で制御しようとするも、注意が散漫していてラヴィの攻撃を捌き切れないでいた。
「『簡易契約』、大神鈴鹿は刀を振りかぶ――」
「おっと、よそ見をしている暇はあるのかしら? 杖戦技・金剛杖!」
『簡易契約』を結ぼうと俺を視界に捉えていた隙をついたラヴィの杖戦技が炸裂する。
杖戦技の金剛杖により、一時的に魔力を消費してオリハルコン並みに硬くなった錫杖をケイジの脇腹に叩きつける。
「――ぐぅっ!」
ラヴィの攻撃によりケイジは弾き飛ばされる。
リーダー格の男は援護しようと向かおうとするが、そこに唯姫が割り込み針路を塞ぐ。
「魔術師ごときが前線に立つとは、死にたいのか?」
進路を塞いだ唯姫にリーダー格の男は剣戦技を振るうも、唯姫はそれを容易く避ける。
自動義肢の祝福の刻印にある天駆によって。
「魔術師じゃなく魔導師なんだけど。
――ライトニング!」
文字通り天を駆けリーダー格の男の攻撃を避けながら、避けにくい頭上からの雷属性魔法による攻撃。
見方によっては文字通り雷が落ちたように見える。
唯姫たちがリーダー格の男を抑えている間、体勢を崩したケイジに俺は瞬で間合いを詰めユニコハルコンを振るう。
「くっ! 『簡易契約』、大神鈴鹿は刀を振るうのを禁ずる!」
ケイジの苦し紛れに放った『簡易契約』により、ほんの一瞬動きが止まってしまう。
くそっ、嫌らしい『簡易契約』の使い方をするじゃねぇか。
これまでの『簡易契約』は動きを指定していたのだが、今回の『簡易契約』は動きを禁ずる指定をしてきた。
それは即ち、『簡易契約』に従わなくても従っても俺の動きが一時的に封じられることになるからだ。
今回の場合は「刀を振るうのを禁ずる」だから『簡易契約』に従わなければ動きが阻害され、従えば自力でユニコハルコンを振り下ろすのを止めなければならない。
どちらにしろ俺の動きは一瞬止まってしまうのだ。
今回は『簡易契約』を無視して強引にユニコハルコンを振り下ろそうとする。
「うぉぉらぁぁぁぁぁぁぁっっ!!」
動きが阻害されたその一瞬がもどかしく、体が動いた瞬間に止められた分の勢いも乗せて振り抜く。
だがほんの一瞬の間にケイジは俺の攻撃からの間合いから外れ、薄皮一枚切り裂くにとどまった。
ちっ、やっぱりほんの1秒とは言え動きが阻害されるのはキツイな。
「杖戦技・螺旋杖!」
俺のフォローをするように、ラヴィがケイジに向かって杖を回転させながら突きを放つ。
俺もユニコハルコンを振り抜いた体勢から素早く左右にステップを刻み強引に剣姫一刀流の技を放った。
「剣姫一刀流・刃翼!」
高速で左右にステップを刻みながら翼で包み込むように左右からの斬撃を放つ技だ。
「『簡易契約』! 大神鈴鹿は剣姫一刀流を禁ずる!」
おっと、あまり『簡易契約』を無視していれば業が溜まるからな。
今回は『簡易契約』に従って強引に刃翼を止めて一端下がる。
にしても、大分焦っているな。
『簡易契約』の制約により、30分は同じ『簡易契約』が使えない様になっている。
つまり、ケイジは30分は俺に剣姫一刀流の使用を禁ずることが出来ない。
30分は同じ『簡易契約』が使えないとは言っても、言葉を少し変えれば同じような効果は得られるのだが、今回のは明らかに大雑把すぎる。
これで俺は30分は『簡易契約』を恐れずに剣姫流を放つことが出来る。
ケイジは俺の他にもラヴィや唯姫、トリニティにも『簡易契約』を放っているが、流石に多勢に無勢、1対1なら兎も角、戦闘をしながらの『簡易契約』は隙を生む。
ケイジは目に見えるくらい追い詰められていた。
「さぁ、観念なさい。これで終わりよ。
って言っても、決着を着けるのは私じゃなく主人公君なんだけどね」
ラヴィの視線の先を見れば親父達も月夜神軍を片付けてこちらへ向かってきている。
唯姫とトリニティもリーダー格の男を伸していた。
こりゃあ勝負あり、だな。
観念して諦めたのか、ケイジは肩を降ろし俯いていた。
「ふふふ、これで勝ちが決まった、そう思いでしょうね。ですが勝負はこれからですよ」
だがケイジは諦めた様子は無く、寧ろケイジは肩を震わせて笑っていた。
「我が主、宜しいですか?」
「構わないわ。やって」
ケイジが後方に下がっていた藤見に何やら確認を取ると、許しを得たケイジは直ぐに行動に移す。
「『契約』執行。立ち上がれ、生きる屍よ。その魂を燃え上がらせ敵を喰らい尽くせ」
それまで地に伏せていた月夜神軍が急に立ち上がり怒声を上げて襲い掛かってくる。
リーダー格の男も何事も無かったかのように立ち上がり、我武者羅に手にした剣を振っていた。
リーダー格の男や月夜神軍の様子は明らかにおかしかった。
目は充血を通り越して血が溢れんばかりに真っ赤に染まり、体中の筋肉も異様なまでに膨れ上がっていた。
親父達が襲い掛かってきた月夜神軍を迎撃するも、幾ら斬られようが殴られようが一切の反応は無く淡々と俺の武器を振るう。
その様子はまるでゾンビのようにも見えた。
「ケイジ! てめぇ、何をした!?」
「何をしたって、ただの『契約』による身体強化ですよ。
まぁ魂を燃やし尽くす強化ですから、使用後は運が良ければ廃人で済みますが、大抵の方は死にますけどね」
次回更新は3/1になります。




