71.シヴァと月夜神軍とライバル
「何故虫がこんなところに居る」
ルナムーン神殿の入り口、その手前でシヴァこと志波光輝がそこに居た。
そして開口一番、俺を見るなり志波は喧嘩を売ってくる。
「あ゛あ゛っ!? 喧嘩売ってんのか、てめぇ。いいぜその喧嘩買ってやるぜ。武闘大会の時みたいにその鼻っ面へし折ってやるよ」
「ちょっと、鈴くん。いきなりそれじゃシヴァも話が出来ないよ」
唯姫はいきり立つ俺を宥めるも、決して俺の前に出て志波と話をしようとはしない。
男性恐怖症により俺以外の男の前に出る事が出来ないからだ。
志波は唯姫の行動を不信に思いながらもここに来た目的を告げた。
「探したよ、ディープブルー。悪いようにはしない。俺と一緒に来るんだ」
「はぁぁ!? お前ふざけてんのか?」
俺は志波の言葉に怒りを覚えた。
何が捜しただ。何が悪いようにはしないだ。
お前の今所属しているのは神軍だろうが。神軍が唯姫に何をしたのか、知ってたらそんな事を言えるはずがねぇ!
「おい、志波。お前、月夜神軍所属だって話じゃねぇか。だったら分かるだろ。てめぇの所に唯姫をやるなんざ死んでもごめんだな」
俺は敢えていつもの石ころじゃなく名前で志波を牽制する。
名前で呼ぶことでそれだけ重要な事だと示唆しているのだが・・・
「ネットゲームではプレイヤーネームで呼ぶのがマナーだぞ、虫。
それはまぁいい。俺が神軍だからって? 何を言っている。神軍だからディープブルーを迎えに来たんじゃないか」
ブチィッ!!
「ふざけんなぁっ!! どの口で言ってんだ、てめぇ!! 神軍が唯姫に何をしたか分かって言ってんのか!? あ゛あ゛っ!?」
「知っている。知っているさ。だから探したんだ」
こいつまさか・・・月夜神軍でも同じことをしようとしてるのか!?
現実世界では志波はキザで唯姫が美人になった途端に掌を返す様な嫌な奴だがここまで下種な奴ではなかったはずだ。
唯姫を同じような目的で連れ去ろうとしているのなら、俺は容赦はしない。それが例え顔見知りの奴だとしても。
「言っておくが、月夜神軍は白土神軍とは違う」
「下手な言い訳どーも。神軍は神軍だろ。下種な野郎共に種類があるなんて初めて聞いたぜ」
一応、トリニティが昨日ルナムーンや『AliveOut』のメンバーに聞いて集めた情報によれば、確かに月夜神軍は他の神軍とは違い、欲望のままに動く奴は少ないらしい。
だがあくまで“少ない”らしいだ。皆無じゃない。
「平行線だな。虫の意見はどうでもいい。さぁ、来るんだ。ディープブルー」
そう言って志波は一歩前に踏み出し唯姫に手を差し伸べるが、当然唯姫は手を取らずに逆に俺の影に隠れてしまう。
「ディープブルー、何故そんな虫に縋る。縋る相手を間違えるな。俺なら・・・俺ならディープブルーを守って見せる。」
「守る? 嬲るの間違いじゃないのか? 自信過剰の偽の宝石野郎が」
「ぶんぶんぶんぶん五月蠅い虫だな。余程死にたいと見える」
「おいおい、武闘大会でボロクソ負けた記憶は何処いった。てめぇは俺に勝てねぇよ」
「虫こそ何時まで過去の栄光に縋りついているつもりだ? 今の俺の強さはあの時に比ではないぞ」
「はっ、面白れぇ冗談を言えるようになったじゃねぇか」
一触即発。互いに口撃しあい、互いの殺気が膨れ上がっていく。
「おーおー、2人とも殺る気満々じゃねぇか。
大人の立場として止めた方がいいんだが・・・男としては互いのプライドを賭けてやれって言いたいな」
「ん、彼は口だけじゃないわ。そこそこやる。まぁ、それでも鈴鹿には及ばないけど」
成り行きを見守っていたヴァイさんと美刃さんが止めようか止めまいか悩んでいるが、最早俺達の殺気は最大限に膨らみ何時爆発してもおかしくは無かった。
「ちょっと、鈴くんもシヴァもやめてよ。
シヴァには悪いけどあたしは行けない。行けないの。だから・・・ごめんなさい」
「ああ・・・ディープブルー。分かった。分かったよ。強引にでも連れて行く」
あまりの雰囲気に唯姫が志波に断りを入れるが、今の志波には当然その言葉は届かない。
唯姫の意向を無視してでも連れて行こうと剣に手を掛ける。
俺もユニコハルコンに手を掛け、志波の動きに目を見張る。
「待って」
互いに攻撃を仕掛ける一歩手前、その絶妙なタイミングで待ったを掛けたトリニティの声により俺達は思わず気を削がれた。
「シヴァ、貴方は月夜神軍所属って言ったわよね? なら何故貴方はここに1人で来たの?
貴方がいつも侍らしていた女性たちはどうしたの?」
・・・言われてみれば、その通りだ。
こいつは唯姫を付け回しているのに何故かそれでも志波の側には4人もの女が居た。
それはAIWOnに居ても変わらなかったはず。
それが今は1人で俺達の前に居る。
神軍所属なら俺達の敵側なのに1人で。
「それは・・・」
さっきまでの殺気が嘘のように志波は急に佇まいが悪くなる。
それに合わせるかのように、志波の背後の建物の影から数人の男が現れた。
「ああ、シヴァの女共なら俺達が懇切丁寧におもてなしをしているぜ。何せ月夜神軍には貴重な女だからな」
・・・志波が1人で来たのは俺達を油断させるためだったみたいだな。
トリニティがその事に気が付いたから奇襲部隊はバレたと思って出てきたって訳か。
「シヴァは気が付いていなかったみたいだけど、あんた達が潜んでいるのは分かってたわ。
ただ、やる気は無かったみたいだからどういうつもりかは気になったけど」
ん? 志波が不意打ちの為に連れて来たんじゃないのか?
だがトリニティは志波にはそんな気が無かったと、この神軍は志波とは別件だと言う。
「俺達は1人で突っ走ったシヴァを連れ戻しに来たんだよ。何せケイジ様の獲物に勝手に手を出したとなれば後が怖いからな。
後、隠れて様子を伺ってたのは面白い話をしてたからだな。少なくとも月夜様やケイジ様へお詫びの面白い土産話が出来そうだ」
「ならシヴァは連れて帰って。今ここで手の内を明かすような真似はしたくないの」
「おい、トリニティ! こいつらを黙って見逃すのかよ!」
あろうことかトリニティは志波を見逃せと言ってきた。
下種になり下がった志波を。そして何処に行っても変わらない神軍を。
「鈴鹿こそ頭を冷やしなさいよ。今鈴鹿はルナムーン様の加護が効いているのよ。その状態で戦いを仕掛けるっていうの? まぁ確かに鈴鹿には有利すぎるけど、鈴鹿はそれでいいの?」
トリニティにそう言われて昨日のルナムーンの言葉を思い出した。
ルナムーン神殿に侵入する者を排除する上、神殿から外出する者に一定時間敵意・害意を持つ者は攻撃を反射される月鏡・反鏡の加護が与えられていると言う事を。
確かに今の俺にはその月鏡・反鏡の加護が掛かっている。
ルナムーンに神殿に入ることを認められ、今は志波の対応で神殿の外にいるのだから。
トリニティの言う通り、今の俺が志波と戦えば一方的にぶちのめすことが可能だ。
だがそれは俺の本意じゃない。
確かに志波は下種になり下がったが、俺まで下種になる必要は無い。と言うかこいつと同じになりたくはない。
「・・・ちっ、いいぜ。行きな。今回は見逃してやる。だがそれも1・2時間だけだ。
後1・2時間もしたら月夜城にケイジと藤見を倒しに行く。
その前に俺の前に立ち塞がることがあれば容赦なくぶち殺す」
甚だ不本意だが、俺は志波たちをこのまま見逃すことにした。
志波はまだ何か言いたそうだったが、神軍の代表格の男が志波に2・3話しかけ渋々従っていた。
「うちのシヴァが迷惑を掛けたな。迷惑ついでにケイジ様から伝言だ。
『早く来ないと『契約』が不履行と判断されますよ』だってさ。ま、その様子じゃ言葉通り1・2時間で来るみたいだが」
代表格の男は慣れ親しんだような態度で肩を竦めながら手を振ってこの場から立ち去る。
志波も大人しく男について行き、最後にこちらを振り返り捨て台詞を残していく。
「ディープブルー、必ずお前を守る」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「へぇー、私達が作戦会議をしている間、そんな事があったんだ。
せっかくのチャンス、見逃しちゃったみたい」
「チャンスってなんだよ。チャンスって」
「え? だってここに来て主人公君のライバル君登場でしょ? ラヴマスターとしてはぜひ見ておかなきゃならなかったのに!」
「誰がライバルだ。誰が」
作戦会議をしていた親父達にも神殿先での騒動が伝えられたらしく、何があったのかを話すとラヴィが惜しい事をしたと悔しがっていた。
まぁラヴィは兎も角、親父達は志波の行動を少し不審がっていた。何故かトリニティも志波の行動は不可解だと頭を捻っている。
つーか、何処が不可解なんだよ。今まで同様不遜な態度で唯姫を我が物にしようとしていたじゃねぇか。
それも神軍なんてふざけた力を借りてまで。
「まぁいいわ。図らずとも宣戦布告の形になったけど、わたし達のやることは変わらないわ」
親父の言葉に俺達は頷く。
月夜城に突入してケイジと藤見の討伐。ついでに志波を含む月夜神軍の撃破だな。
突入経路は昨日トリニティが仕入れた地図で判明しているが、月夜神軍が来たことにより少々また事情が変わった。
「さっきの月夜神軍の言葉によれば、鈴鹿はケイジの獲物らしいから彼らは手を出せないみたいね。だったらこっちとしてもそれを利用させてもらうわ」
なんとトリニティの提案は正面から堂々と乗り込むことだった。
向こうは俺を歓迎しているから少なくともケイジの前までは通されるはずだと。
「鈴鹿に手を出さなくても俺達には手を出してくるんじゃないのか?」
「あたし達に手を出せば必然的に鈴鹿も手を出すからその可能性は少ないはずよ」
「だからと言って無警戒に敵の懐に入るのは愚策だぞ?」
「ん、あの程度なら問題ないわ。フェンリルとヴァイオレットとアッシュの3人が居れば対処可能よ。
後は鈴鹿がケイジを破れば私も『契約』から解除され戦闘に参加できる」
「確かにあの代表で話していた男の人はシヴァ以上に強そうだったけど、他はそうでもなかったものね」
ヴァイさん、トリニティ、アッシュ、美刃さん、唯姫たちが神軍の対策について意見を述べる。
まぁ確かに『契約』内容は俺とケイジの互いの魂(秘宝の欠片)を奪い合う事で、1対1でと言う訳じゃないからな。
こっちも人数を揃えて行くし、当然向こうも数を揃えるだろう。
まぁ俺達の戦力を鑑みれば月夜神軍の戦力は問題ないみたいだが。
ただ、志波を迎えに来た代表の男はそれなりに実力があったように見える。
それはヴァイさん達も同じらしい。
「気を付けるのはあの代表の男とシヴァって奴だな。それ以外の取り巻きはトリニティのお嬢ちゃんでも対処可能だ」
「あたしでもってどういう意味よ、って聞き返したいところだけど、この中じゃあたしが一番実力不足なのよね」
ヴァイさんの言葉にトリニティは少し落ち込むが、今のトリニティの実力はそこら辺の冒険者よりは遥かに高いと思うぞ。
何せこなしてきたエンジェルクエストの内容の濃さは他とは比べ物にならないからな!
まぁ、今居るメンツの実力が異常なだけだ。気にする程じゃない。
「さて、それじゃあ正面から堂々の突破でいいわね」
親父の言葉に俺達は頷く。
準備は既に整っているのでルナムーン神殿を出て、1・2時間ほど周囲を警戒して潜伏した後、月夜城へと向かう。
親父達の作戦ではルナムーンの加護(月鏡・反鏡)を持ったままの突入も検討していたが、加護を頼りにして戦闘が疎かになるよりも初めから加護に頼らない方がいいだろうと言う事で時間を置いて向かう事にしたのだ。
まぁ、反射を頼りに無双していていきなり加護が切れて攻撃を無防備に食らうよりはまだマシだろうな。(この場にはそんな間抜けな奴は居ないだろうけど)
月夜城に向かうメンツは俺、唯姫、トリニティ、親父、ヴァイさん、美刃さん、アッシュ、ラヴィの8人。
「で、何であんたも付いて来てんだ?」
「おうよ。面白そうだからに決まっているだろ!」
何故か付いて来ている神秘界の騎士・The Chariotこと勇猛神ブルブレイヴ。
理由が面白いから・・・って、神話通りフリーダムだな、おい。
「戦力を当てにしてもいいのか?」
「うーむ、面白ければ参加するし、詰まらなければただ観戦して帰るだけだな」
だめだ、当てにしない方が良さそうだ。
親父達も同じ意見の様だ。戦いは俺達8人で対処する方向で変わらない。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
時間を置いてルナムーンの加護を消してから俺達は正面から堂々と月夜城の正門をくぐる。
警備していたアルカディア人の兵士、及び神軍の1人は俺達の姿を確認すると警戒を顕わにするものの襲ってはこなかった。
「よく来たな。ケイジ様がお待ちかねだぜ。案内するから付いて来な」
思った通り、俺達はケイジの『客』と言う事で神軍達は手出しできないみたいだ。
俺達は神軍の男に案内され城の地下と思しき場所へ連れて来られた。
地下にある一室、大きさは小さな体育館くらいの広さだろうか。
接近戦をするには問題は無いが、魔法戦をするにはやや手狭な感じがするな。
多分、広範囲の魔法の使用を封じる意味もあるんだろう。
下手に使えば生き埋めになってしまうからな。
俺達は城の地図から判断しててっきり中庭で行うものだとばかり思っていたが、どうやら考えが至らなかったみたいだ。
ちらりと親父を見ればそれ程動揺は見えない。想定の範囲内なのだろうか。
地下広場の中央にケイジと女性が1人――おそらく彼女が月曜創造神・藤見月夜だろう。そしてその周囲を10人ほどの神軍が囲っている。その中には志波の奴も居た。
俺達が奴らと向かい合い足を止めるとまずはケイジが声を掛けてくる。
「よく来てくれました。あまりのも遅いのでワザと『契約』の期日を切らして私に貴方の魂を捧げてくれるのではと思ってしまいましたよ」
「まだ1日ぐらいしか経ってねぇよ。これで遅いって、少しは心を広く持ったらどうだ? 大抵の事は許せるようになると思うぜ」
「心の隅に止めておきますよ。
さて、軽い冗談はこれくらいにして、我が主の紹介を致しましょう。
月曜都市ムーンカグヤの支配者、月曜創造神の藤見月夜様です」
「私が藤見月夜よ。
ああ、待ってたわ、最後の秘宝の欠片。わざわざ持て来てくれてありがとう。これで私は不老不死になれる。
お礼は何がいいかしら? 今なら私の配下にしてあげてもいいわよ」
最後の秘宝の欠片を持つ俺が来たのが余程嬉しいのか、上機嫌に声を掛けてくる藤見月夜。
無論そんな提案は受け入れるわけがない。
「冗談。俺はお前を殺しに来たんだぜ」
「あら、それは残念ね。ま、その心意気もいつまで持つのかしら。無理やりケイジの『契約』を使って従わせるのもいいけど、出来れば自らの意思で下ってほしいわね。
後は任せたわよ、ケイジ」
「はっ、我が主の御心のままに。
さて、『契約』に従い決着を着けようと言いたいところだが、その前に貴方にはこの者と戦ってもらおう」
ケイジの言葉に促され、神軍の中から志波が前に出てくる。
「残念だがお前の相手は俺だ」
「あ? 今はてめぇと遊んでいる暇はねぇんだよ」
「そうもいかない。俺もケイジ様と『契約』を結んでいるからな」
「・・・何だと?」
志波がケイジと『契約』を結んだだと? 何でわざわざ味方にまで『契約』を結ぶんだ?
「そう、つい先ほど『契約』を結ばせて頂きました。
聞けばこの者は貴方方と知り合いだと言うじゃないですか。そこで私は一計を案じました。
『契約』の内容はこの者が貴方を殺して秘宝の欠片が籠った心の臓を取り出す事。報酬はディープブルーに今後一切八天創造神及び神軍が手出しをしないと言う身の安全の保障です」
ケイジの言葉に俺は思わず志波を見る。
志波はそれでも平然と俺を見つめ返していた。
こいつ、唯姫を手に入れるために神軍に入ったんじゃないのかよ。
この『契約』の内容だとまるで唯姫を守るためみたいじゃないか。
「この者は貴方の恋人を救うためにこうして己の命を賭けています。
貴方は恋人の命を守る為に己の命を差し出しますか? それともこの者の心意気を踏みにじって友の屍を越えていきますか?」
ケイジは実に楽しそうに俺の選択を待っていた。
ああ、俺が友情と愛情の板挟みでもだえ苦しむ姿を楽しもうって魂胆だな。
だがケイジは勘違いをしている。
例え今の状況であろうとも俺は志波を友と思ったこともないし、唯姫を守るのにケイジや志波の力なんか必要ない。俺が唯姫を守る。
その為にはどんな犠牲を払おうと俺は後悔はしない。
「そりゃあ俺の邪魔をするなら容赦なくぶちのめすに決まっているだろ」
「ほう? 『契約』が不履行となればこの者の魂が奪われると分かっていても?」
「それがどうした」
流石にケイジは俺の態度にためらいが無いのを不審に思ったらしい。
だが『契約』は既に結ばれているし、ケイジの思惑を余所に俺と志波のやる気は高まりを見せていた。
「俺も虫を殺すのにためらいは無い。
俺は全てディープブルーの為に行動している。それを邪魔するのなら容赦なく殺す」
相変わらず人の事を虫虫って見下してんな。
志波はそのまま唯姫に対する想いを言葉にする。まぁ自分勝手な想いだが。
「俺は神秘界に来てディープブルーの惨状を知って俺は怒り狂ったよ。
だから俺は敢えて神軍に入ることで内部からディープブルーを救い出そうとした。
だがお前が邪魔をした。お前が邪魔をしなければ俺がディープブルーを救い出していたんだ」
あ、ちょっとは唯姫を救う為だといいやつぽく見せていたがが、やっぱり志波は志波だな。
けど、志波が己が身を犠牲にして唯姫を救い出そうとしていた心意気は共感・・・しないな。
多分自分に酔って自己犠牲心がカッコいいとか思ってる可能性もあるな。
「だから今度は俺がディープブルーを守る番だ。
どうやったかは知らないが神秘界で虫がディープブルーを守りきれるはずがない。
最初は敢えて神軍に迎え入れることで俺の物として手出しできないようにしようとしたが、今は『契約』がある。
この『契約』が成れば今後ディープブルーを守ることが出来る。
だから虫――いや、大神鈴鹿。お前をここで殺す」
「はっ、お前が俺を殺す、だと? 出来るものならやってみな。武道大会の時みたいに返り討ちにしてやるよ」
「前の俺と一緒にしないでもらおうか」
志波が剣を抜き、俺もそれに合わせてユニコハルコンを抜く。
『契約』はあくまで志波が俺を殺して秘宝の欠片を手に入れる事。
そこに1対1である必要は無い。
俺としては邪魔な志波を相手にする必要もないから志波の相手をすると見せかけ、志波と神軍を親父達に任せて俺はそのままケイジに向かって行く予定だ。
その辺りは親父達も心得ているので俺の動きに注意を払っていた。
だが、ここで予想外の事態が起こる。
いや、もっと警戒してあるべきだったのか。俺達は敵の懐に飛び込んでいる形だ。
当然ケイジ達が迎え撃つ準備を整えていることを想定してしかるべきだったんだ。
この志波の『契約』もその一環だと言う事を。
「『集団契約』発動。当事者以外のこの場に居る過半数の賛同により、鈴鹿、シヴァの両者の1対1の決闘を行うものとする。それ以外の戦いを禁ずる。
賛同者は賛成の声を」
「勿論賛成よ」
「賛成するぜ」
「「「「「賛成する」」」」」
藤見を始め、月夜神軍代表の男や神軍の男達がこぞって賛成の声を上げ、それが認められ周囲が光りに包まれる。
俺達は突然の『契約』に対応できずにただ唖然としてしまうだけだった。
そうして俺と志波の1対1の決闘が強制的に認められた。
「ケイジ、てめぇ! 何のつもりだ!」
「何のつもり? それは彼の心意気を組んでの1対1の決闘を汚さないようにしたんですが何か問題がありますか?
まぁこちらとしても貴方方の関係が思っていたのとは違い、少々予定と違いましたが」
こいつどうあっても俺と志波との決闘をお望みらしいな。
「ちょっと、この『集団契約』って卑怯じゃない? なんせ過半数の承認が得られれば強制的に『契約』が結ばれるってどう見てもあんた方が有利じゃないの。
好きなだけ人数を集めてから『集団契約』を発動すればどんな『契約』も結び放題じゃない」
トリニティが流石にこの仕打ちには納得がいかないので文句を言う。
確かにこの『集団契約』はある意味チートだ。
人数さえ集められればほぼ勝ちが決まると言ってもいい。
「大丈夫よ。そこまでこの『集団契約』は便利なものじゃないわ」
そう言ってきたのはラヴィだ。
「ごめん、この『集団契約』の事をすっかり忘れていたわ。
この『集団契約』はケイジ側の賛同者は13人までと決まっているの。当然相手側は好きなだけ人数を揃えることが出来るわ。
そして何より、この『集団契約』の効力は1対1の決闘にしか使えないのよ」
おいおいおい、決闘用の『契約』かよ。
確かに覚えておく必要があまりない『契約』だな。
とは言え、当初の予定では俺とケイジの戦いに親父達や神軍が乱れかう乱戦が予想されていたが、『集団契約』を発動されればケイジとの決闘を強制されていたわけか。
・・・いや、志波との戦いを終えればケイジとの『集団契約』を結ばれるのは必須だ。
・・・やべぇな。俺は連戦になるし、折角の親父達の戦力が全くの無意味だ。
ケイジ側の策に見事に嵌まっちまった感が否めない。
「寧ろ俺としては好都合だな。一切の邪魔が無しにお前を俺の実力で殺せる」
とは言え、今はまず目の前の志波を何とかしないとな。
舐めるつもりはないが、今の志波は己の命を賭けた手負いの獣と同じだ。
こっちも全力で当たらせてもらう!
次回更新は2/27になります。




