69.契約の悪魔と恋愛の魔女とルナムーン神殿
大神鈴鹿、デュオと再会する。
大神鈴鹿、ベルザ(母親)と再会する。
大神鈴鹿、木曜創造神・木原時枝と会う。
大神鈴鹿、アイの秘密を知る。
大神鈴鹿、水曜創造神とDeathと戦う。
大神鈴鹿、巫女スケルトンロードと戦う。
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「契約の悪魔?」
「そう、昔は私と同じ26の王の1人、『婚約の王・Engage』であり今は神秘界の騎士The Devilの本当の正体よ」
「契約・・・そっか、Engageはそこから来ているのか。婚約もある意味契約だからな」
「で、主人公君はあいつと近いうちに月曜都市で殺すと『契約』をしたわけ。もうそれはどうあっても覆せない効力を発揮しているのよ」
「それって、『契約』を破ったらどうなるんだ・・・?」
「それこそ魂を取られて死んじゃうわね」
「Oh・・・マジか」
つまり俺の魂はThe Devilことケイジに握られているって訳か。
俺が助かるにはケイジを殺す意外に無いと。
しかも期限が『近いうち』と曖昧な『契約』を交わしてしまっている。その『近いうち』が1週間後なのか3日後なのか、或いは1日後なのか。
その為、俺達は水曜都市の後始末を『AliveOut』に任せて直ぐに月曜都市へと向かった。
まぁ、後始末を『AliveOut』に任せるのはいつもの事と言えばいつもの事だが。
因みに主であるDeath・『不死者の王』が倒されても何故か生き残っていた巫女スケルトンロードはいつの間にかその場から姿を消していた。
主が倒された今、奴が何を目的として行動しているのか今時点では不明だ。
これまで通り俺を狙い続けるのか、それとも主が居なくなったことで暴走を始めるのか。
だがその場から姿を消したと言う事は少なくとも理性は残していると思われる。(スケルトンに理性と言うのも変だが)
次に会う時は厄介な事になってなければいいが。
急遽月曜都市ムーンカグヤに向かうメンバーは、俺、唯姫、トリニティに加え、親父、アッシュ、紫電ことヴァイオレットと今回はオブザーバーではなく戦力の1人として参加するラヴィの7人だ。
今はスノウの背に乗って月曜都市へ超特急で向かっている。7人を乗せるのにはちょっと窮屈な上、重量がきついがスノウには無理を言って飛んでもらっている。
まぁ、スノウは本来の主の親父と再会し物凄く喜んで張り切っていたからそれ程苦にはなっていないみたいだが。
ああ、そう言えばスノウが俺に懐いていたのは、俺が親父――フェンリルの血を引いていたからなんだな。
こんなところにも俺と親父の繋がりが証明されていたわけだ。
因みにその親父だが、未だに秘宝の欠片――七王神に隠されていた不老不死の法の7つの欠片――を強制的に魂から引き剥がされて脱力状態にある。
この脱力状態は暫く養生していれば回復するとことなのだが、親父は無理を言って俺達に付いて来ていた。
親父以外の七王神で無事?なのはヴァイオレット――ヴァイと既に秘宝の欠片を抜き取られているアッシュだ。
「で、ヴァイは紫さんなのか?」
「おうよ。まさか神秘界に強制召喚されて最初に会ったのが鈴鹿とはビックリしたぜ」
そう、俺が神秘界で最初に会った紫電が実は七王神の闘鬼神ヴァイオレットで、現実世界では親父の知り合いの警視庁電脳犯罪対策部仮想現実犯罪課――通称電脳警察の篠原紫さんだとは。
紫さんは親父と同じくAIWOn――天と地を支える世界でArcadia社の調査をしていたのだが、強制召喚で神秘界に呼ばれたらしい。
「・・・薄々感付いてはいるが、ヴァイさんの中に秘宝の欠片が無いのは?」
Death戦で紫さんだけが秘宝の欠片を抜き取る死神の腕から逃れられていたのだ。
その理由は・・・
「ああ、鈴鹿の思った通りだ。今は闘鬼神の力はお前の中にある。秘宝の欠片と一緒にな。
ほら、最初に会った時、俺の血の混じったオリジナルカクテルを飲んだろ? あれだよ」
「やっぱりヴァイさんの所為か――――――!!! って言うか、あれかよ!!!」
俺が唐突に鬼獣となった原因は紫さんの所為だった。
何と言うか、鬼獣化には色々助けられたところはあるから不満は無いが文句はある。
一言くらい説明があってもいいと思うぞ。
全くの初対面なら兎も角、紫さんは俺の顔を知っていたわけだし、偽名なんか使わずに事情を明かしても良かったんじゃないのか? でなければここまで面倒な事にはならなかったと思うが。
「言ったろ、保険だって。
お前の中に秘宝の欠片を隠したのは万が一秘宝の欠片が7つ揃うのを防ぐためだ。何も知らない方が狙われにくくなるからな」
ああ、そう言えば言ってたな。保険だって。
まぁ、確かにその保険は見事に当り、水曜創造神・水無月芙美から守り抜く事が出来た。
紫さんの予想外と言えば、俺が闘鬼神の力を発現させ鬼獣化の能力を得た事だ。
その所為で最終的には水無月にもバレ、月曜創造神・藤見月夜に仕えるケイジにもばれてしまった訳だが。
「ねぇ、鈴くん。ヴァイさんの本当の名前が紫さんって・・・おじさんの逆で中身が女の人なの?」
「え? フェンリルが女男でヴァイオレットが男女・・・? 七王神って性別も超越しているんだ・・・」
どうやら紫さんの名前から唯姫はヴァイオレットの中身が女でないか疑ったらしい。
外見が男とは言え中身が女なら男性恐怖症に引っかからないんではないか、と言う事なのだろう。
そしてトリニティは逆にだからこそ七王神なのかって勘違いする始末だ。
因みに、男性陣2人のヴァイさんとアッシュは唯姫から離れている。
「まぁ、勘違いはするわな」
言われ慣れているのか紫さんは苦笑していた。
俺は唯姫に紫さんがれっきとした男だと説明し、警察の仕事としてAIWOnの調査と唯姫の救出の為に情報提供をしてもらった事を付け加える。
説明を聞いてから唯姫とトリニティはひたすら勘違いをしていたことを紫さんに謝罪していた。
そして説明と言えば、もう1人の七王神こと天魔神アッシュも親父からこれまでの経緯を説明していた。
アッシュはローズマリーのように何も知らずに強制的に神秘界に呼ばれたのだ。
しかもローズマリーとは違い、俺らのうち誰にも会わずに直ぐに水無月に捕まってしまったから事情は何も知らない状態だ。
「はぁ~、まさか23年経っても事件は終わってないとは・・・まぁ、こうして強制召喚され帰還方法も限られているとなれば俺も協力は惜しまないんだが、ブランクがあり過ぎるなぁ・・・
さっきの戦いもイマイチだった訳だし。俺って戦力になるのか?」
「そのうち勘を取り戻すわよ。わたし達の七王神としての力は文字通り魂に刻み込まれているのだからね」
「そう聞くと頼もしそうに聞こえるが、実際は余計な事をするなよとコピー榊原に文句を言いたいよ。まぁ、もう既に居ないけど」
深いため息をつきながら文句を言うアッシュ。
まぁその気持ちは分かる。自分の魂にまで干渉し、23年経った今となっても関与してくるとなれば文句も言いたくなるよ。
「そう言えば、お父さんたち大丈夫かなぁ・・・」
唯姫は秘宝の欠片を抜かれて脱力状態になって置いて行かれたお袋やおじさんを心配していた。
「暫く養生していれば元に戻るらしいからそんなに心配する必要は無いだろう。そう言えばアッシュはどれくらいで元に戻った?」
七王神の中では既に秘宝の欠片を抜き取られているアッシュが居る。この場合は経験者に聞くのが一番だろう。
「あの、一応俺お前らより年上なんだけど・・・まぁいいか。俺の場合は大体2日ほどで元に戻ったな」
「少なくとも命に関わるような状態じゃないから大丈夫だよ」
「・・・うん、そうだね。それよりも今は鈴くんの方が大事だね」
「お、おう・・・」
ちょっとストレートに心配した唯姫に俺はちょっと戸惑ってしまう。
今までも似たようなことがあったのに何故今になって動揺するんだ?
ラヴィはそんな俺を見てニヤニヤしている。
「あらあら、こんな時もイチャラブとは妬けるわねぇ。
さて、話を戻すけど、ケイジとの戦いは下手な会話は不用意な『契約』を結ぶ羽目になるから気を付ける事ね」
「了ー解」
「ケイジの戦い方はオールラウンダーよ。素手でも武器でも接近戦は何でもござれ。遠距離攻撃もあらゆる魔法を網羅しているから遠近共に隙が無いわ。
それに加え、言葉巧みに『契約』を結ぼうと語りかけるから厄介ね。一度『契約』が結ばれると『契約』を果たすまで効力が続くから尚更よ」
・・・おいおいおい。なんだよ、その完璧超人は。
23年前に親父達はこんな悪魔をよく倒せたな。
「まぁ戦闘に関してはそれほど心配はしなくてもいいと思う。私もあいつと戦うから」
「・・・それは、ラヴィもケイジと同じくらい強いと言う事か?」
「うーん、私はケイジほど強いわけじゃないけど、私が相手だとケイジも思いっきり戦えないと思うから」
そう言えば、ラヴィとケイジはお互い見知った相手らしいな。
Angel In時代の26の王と言う繋がりだけじゃなく、それ以外での繋がりがあるみたいだ。
「ラヴィとケイジは夫婦なのよ」
俺の思っていた疑問を親父が答える。
・・・って、夫婦、だと? まさかとは思うが今回ラヴィが戦いに参加するのは夫婦喧嘩とか言わないよな?
「元・夫婦よ。元ね。しかもエンジェルクエストが始まる前の100年以上も前に私達は別れているわ」
「元、ね。確かにあの時の様子だと、仲が良さそうには見えなかったわね。でも見たところラヴィが今回は参戦するのは別の何かがあるんじゃないの?」
「そう言えば、あのケイジ。エンジェルクエストの時と違って随分若返っているけど、もしかしてそれが関係あるのかしら?」
確かに2人の様子は夫婦とは言い難い態度だったが、トリニティの言う通りまだ何かありそうな感じがするな。
まさか100年前の離婚が今更蒸し返している訳でもあるまい。
どうやら親父が言う通り、ケイジが若返っているのが関係しているらしい。
親父の言葉にラヴィの態度が硬くなるのが分かった。
「・・・悪いけど、それは言えないわ。ただ、あいつは私達を裏切ったのよ。私はそのけじめをつけさせに行くのよ」
「・・・分かった。無理に聞こうとは思わない。だが、当てにしていいんだな?」
「それは勿論よ。とは言え、ケイジは私だけを相手に戦う訳じゃないわ。向こうの狙いは主人公君の中にある秘宝の欠片だからそこは注意してね」
「でもDeathみたいに魂に干渉する術が無いからそんなに心配しなくてもいいんじゃないの?」
トリニティは俺の魂の中にある秘宝の欠片は手出しできないだろうと高を括っているが、そんな簡単に済むわけがない。
向こうが秘宝の欠片を狙ってくる以上、その手段は確保しているはずだ。
案の定、その手段はあるみたいだ。ラヴィはトリニティの言葉を否定する。
「残念だけど主人公君の魂に干渉する術を持っているのよ。あいつは。
さっきも言った通り、ケイジは契約の悪魔。契約とは互いの魂を代価にして結ばれるもの。それ故にケイジは相手の魂に干渉する術を持つのよ。
尤も今回は主人公君と『契約』を結んでいるから、主人公君を殺すことでその魂を手に入れられるわ」
「うわぁ・・・それじゃあ、尚更The Devilを倒して『契約』を解除しなきゃヤバいじゃないの。
鈴鹿も迂闊すぎ。何、相手の口車に乗ってるのよ・・・これじゃあ時間稼ぎも使えないじゃん」
「うるせー。俺だってこんなことになるとは思わなかったんだよ。第一あいつは俺の獲物に手を出したんだぜ。見逃せって言うのか? 冗談じゃない」
今思い出してもムカつく。俺が殺すはずだった水無月を目の前で殺された。
あいつにはキッチリとお礼をしなければ気が済まない。
その為だったら『契約』くらい幾らでもしてやる。どうせ緊急脱出口のカードキーも手に入れなきゃならねぇんだ。
俺の殺気を滲ませた雰囲気にトリニティは口を噤む。
唯姫や親父は心配そうな表情でこちらを見つめ、ヴァイさんとアッシュは何とも言えない顔をしていた。
それからは月曜都市に着く間、会話は殆んどされなかった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
俺達は暫くして月曜都市に到着した。
時間にして約半日ってところか。
これまでの都市間の移動を考えると劇的に短縮されたな。
スノウが居るだけでこうも違うとは。スノウ様様だな。
「さて、月曜都市に着いたのはいいけど・・・いきなりケイジの所に行くのは無謀か・・・?」
俺達は月曜都市の郊外に降り立ち、スノウを騎獣縮小の首輪で小さくしてそのまま都市の入り口付近まで来たのだが、ここに来て立ち往生してしまった。
月曜創造神とThe Devil・ケイジは都市の中心部の月夜城に居ると思われるが、まさか都市内部の状況が分からずに突っ込むのは流石に危険と判断せざるを得ない。
よくよく考えたら俺達は月曜都市の内部の情報を持っておらず、ここを拠点としている『AliveOut』のメンバーとの接触方法すら知らない状況なのだ。
「そうね。流石にこのまま向かうのは危険ね。待ち伏せや罠を仕掛けている可能性もあるんだし。
神軍とかで足止めをしておけば、それだけで向こうは有利になるわ。ケイジにしてみればただ黙って『契約』の時間が過ぎるのを待っていればいいわけだし」
「だよなぁ・・・それに日も落ちて暗くなってきたし、尚更危ないか」
親父の言う通り、向こう側はその気になればいくらでも策を講じることが出来るのだ。
俺としてはその策の準備が整う前に乗り込みたいところだが、状況が分からない状態では流石に危険すぎた。
おまけに移動時間が短縮されたとは言え、到着した時間が夕方だ。
このまま都市内部に潜入すれば迷うのは確実と言えよう。
「そう考えれば、直ぐに月曜都市に向かわないで水曜都市で情報を集めた方が良かったかもしれないな。
少なくとも現地のクランメンバーと連絡を取る手段を確保しておかないと」
咎めているわけではないが、ヴァイさんが直ぐに行動を起こしたのは拙かったなと零す。
いや、直ぐに行動を起こしたのは間違いじゃない、と思いたい。
あの場に止まって情報を集めたとしても月曜都市で情報を集めるのとそう変わらないはずだ。
だったら直ぐに行動を起こせる月曜都市に赴いた方が時間的に有効なはず。
だが、ヴァイさんの言う通り月曜都市のクランメンバーと連絡を取る手段を確保しておかなかったのは失敗だったな。
気が逸りすぎて周囲に目を向ける余裕が無かったからな。
「あ、その辺は大丈夫よ。どうせ鈴鹿の事だからそこまで考えてなかったと思ってね。
こっちに来る前にあそこに居たクランメンバーから携帯念話を借りて狼御前と連絡を付けたわ。
既に月曜都市の『AliveOut』のメンバーはあたし達に協力をしてくれるわよ」
そんな俺達の心配を余所に既にトリニティが月曜都市の拠点の手筈を整えていた。
と言うか、いつの間に・・・
「さっき狼御前に月曜都市に着いたって連絡したから、この都市のクランメンバーがこっちに来るはずよ」
ここに着いてから俺達から離れてぼそぼそ呟いていたのは狼御前に連絡を付けていたからか。
あまりにも手際が良すぎて最初の頃のへっぽこ盗賊が嘘みたいだな。
「へぇ、やるじゃねぇか。トリニティって言ったか? 伊達に鈴鹿と一緒に旅をしてきた訳じゃないな。鈴鹿の行動はお見通しって訳か」
おい、ヴァイさん。何か誤解される言い方をしていないか? 隣で唯姫がむくれているじゃないか。
確かにAIWOnに来てからほぼトリニティと一緒だが、そんなんじゃないぞ。どちらかと言うと戦友、だな。
「まぁ、鈴鹿の無茶な行動は今に始まった訳じゃないしね。自ずとね。それにアイさんの教えの賜物でもあるわ」
「なんだ、お前アイの弟子なのか? 通りで」
ヴァイさんはトリニティがアイさんの弟子だと分かると納得していた。
そう言えば元同僚だったな。アイさんとヴァイさんは。
「お? 誰か来たぞ。さっき言ってたクランメンバーじゃないか?」
周囲を警戒していたアッシュはこちらに向かってくる人物がいることを告げる。
そちらの咆哮を見れば都市の端から物陰に隠れている俺達に向かってくる2人の人物が見えた。
まずはトリニティが姿を現し狼御前から聞いた符丁を示す。
俺達は隠れたまま何かあった場合直ぐに行動を起こせるように警戒する。
符丁は間違いなく『AliveOut』の物を示し、俺達はクランメンバーに連れられ月曜都市内部に潜入した。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
俺達はクランメンバー先導され月曜都市にある『AliveOut』の拠点に案内されたわけだが、拠点はこれまでの隠れ家的なものと違い、周囲にも目立つ外観だった。
何故なら、拠点にしている建物は神秘界にあるルナムーン神殿総本殿だったからだ。
「ここが拠点、か?」
「はい、ここが『AliveOut』の月曜都市の拠点になります」
「こう言っちゃなんだが、拠点としては目立ちすぎやしないか?」
「その点は大丈夫ですよ。確かに月夜神軍にはバレバレですが、彼らはここには手出しできませんよ」
「神軍にはバレてんのかよ・・・てかバレ無い方がおかしいか」
あまりにも大っぴらすぎる拠点に驚いた俺は案内をしてくれたクランメンバーに確認を取ったが、間違いなくこのルナムーン神殿が拠点らしい。
しかも周囲の目を気にすることなく堂々と出入りしているのでバレてない方がどうかしている。
「手出しできないって、宗教的な理由? それとも何か別の要素でもあるの?」
ルナムーン神殿と言えば天と地を支える世界ではほぼ存在を忘れられた神殿だが、本来であれば天と地を支える世界を支える三柱神を祀る三大神殿としてあってしかるべきなのだ。
トリニティの言う通り三柱神を祀る神殿としてここは襲われないと言う事なのか。
ルナムーン神殿が神秘界にあるのも驚きだが、案内のクランメンバーが次に発した言葉は俺達に更なる衝撃を与えた。
「詳しい話はルナムーン様から説明されます」
「・・・は? 待て待て待て。ここに月神ルナムーンが居ると言うのか?」
「そうです。ルナムーン様が居られます」
マジか。
・・・いや、あり得ない話じゃないか?
ここは神秘界。設定とは言え神々が住む世界で、ルナムーンは天と地を支える世界を支える神だ。
神秘界に居てもおかしくは無いか。
俺達はそのままクランメンバーに神殿の最奥の神の間と呼ばれる大部屋へ案内された。
最奥の神の間は、神の名が付くものの無駄な物が一切無く質素な作りでありながら凛とした空気を醸し出していた。
それでありながら何処か心休まる気持ちになれる不思議な空間だった。
まるでその名の通り、月に照らされた様な――
そして部屋の奥には1人の女性が穏やかな表情で佇んでいた。
しっとりしたようなストレートの長い金髪にスレンダーな体型のどちらかと言えば小柄な女性だ。
そしてもう1人、この部屋には相応しくない大柄な男も居た。
こっちは筋肉隆々の荒々しい雰囲気を纏った偉丈夫だ。
逆立つような黒髪はそのまま後ろに流れポニーテールで結ばれている。
そしてその目は正に狩人のような鋭い目つきで俺達を吟味していた。
「ようこそおいで下さいました。私が当神殿の長の月神ルナムーンです。
そしてもう1つ別の名も。神秘界の騎士・The Moonでもあります」
俺はその名を聞いて驚くと同時に納得もしていた。
確かにこれほどThe Moonの名が合う人物も居ないだろうよ。
「そしてフェンリル。貴女にはこう名乗った方がよろしいでしょうか? ツクヨミと」
「ツクヨミ様にはお力を貸していただき大変助かってます。特にこの月読の太刀にはいろいろ助けられました」
「それはようございました」
どうやら親父はルナムーンとは知り合い?らしい。
親父がルナムーンに礼を述べ、ルナムーンが朗らかに微笑んでいたが、そんなゆったりとした雰囲気を壊したのはルナムーンの隣に並ぶもう1人の男だった。
「姉貴、俺様にも挨拶させてくれや」
「貴方と言う者は・・・本来であれば遊んでいるような立場ではないのですよ」
先程まではおっとりとした雰囲気だったルナムーンだったが、この時ばかりは少し咎める様な口調で男を諭していた。
当の本人はどこ吹く風で聞いちゃいなかったが。
「あー、あー、説教はもういいよ。
よし、聞いて驚け! 俺様は勇猛神ブルブレイヴ! 戦と勇気を司る神だ!
そしてまたの名を、The Chariot! 姉貴と同じく神秘界の騎士の1人だ!
ああ、俺も姉貴に習ってフェンリルにはこう名乗った方がいいか。スサノオと!」
・・・えっと、どうなってんの? これ?
ルナムーンがThe Moonでツクヨミ。ここまではまだいい。
ブルブレイヴがThe Chariotでスサノオ? 何でそんな大物が揃ってここに居るんだよ!?
次回更新は2/23になります。




