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Alive In World Online  作者: 一狼
第13章 Death
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66.水曜創造神と死神とスケルトンロード

「話を戻すけど、2つ目の八天創造神の攻略。

 これは引き続き対神部隊――鈴鹿達に任せるわ。勿論わたし達も付いて行くから余程の事が無い限り対処可能なはずよ」


「残りの八天創造神は水曜創造神と月曜創造神と日曜創造神じゃ。したがって次の攻略には水曜創造神を当たって貰いたい」


 ルーベットの指示で次の攻略は水曜創造神になった。

 となれば、一応水曜創造神・水曜都市ハイドロエクストの情報を収集からだな。

 木曜創造神である木原からは何やら呪いの所為で聞けないが、何も木原だけが情報源じゃない。


「何か水曜創造神に関する情報は?」


 俺の視線を受けて早速トリニティが情報収集にあたる。


「こういう言い方も変ですが、ごく普通に神秘界(アルカディア)を支配していますね。

 火曜創造神の様に人体実験を行っているわけでもないし、金曜創造神みたいに享楽に耽っているわけでもないです。

 そう言った意味では月曜創造神や日曜創造神も同じですね。普通の支配を行っています」


「水曜創造神の能力、守護の神秘界の騎士(アルカナナイト)、水曜都市の神軍は?」


「能力は不明です。神秘界の騎士(アルカナナイト)はDeathだと思われます。神軍は規模で言えば小規模ですね。3人編成の部隊が3つ、9人しか居らないと確認しております」


 トリニティの質問に狼御前が随時答える。

 ある程度聞き終えたところで俺達は会議の続きを行う。

 この会議が終わればトリニティは追加の情報収集や情報の精度を高める為、『AliveOut』のメンバーに聴取しに回る予定だ。


「すると水曜創造神を攻略するメンバーはここに居る俺、唯姫、トリニティ、フェンリル、ベルザ、ローズマリー、デュオ、アイリス、リュナウディア、ミュリアリアの10人でいいか?

 ラヴィは・・・期待するだけ無駄か」


「あらぁ、分かっているじゃない。私を当てにしちゃダメ。私はあくまでオブザーバーよ」


「よく言うわよ。『恋愛の女王』の時はわたし達に嫌って言うほどちょっかいを掛けて来たくせに」


「あれはクエストだもの。なになに? フェルちゃんはまた私にいじってほしいのかしら?」


 何が楽しいのかラヴィはニヤニヤしながら親父に絡み始めた。

 それを見て親父は途端に不機嫌になり、何故かお袋までもが笑いながら怒っていた。


「や・やぁねぇ。冗談よ、冗談」


 お袋の修羅の怒気(オーラ)に流石に己の身の危険を感じたのか、ラヴィは大人しく引き下がった。


「彼女の力を借りれれば頼もしいけど、Angel Inの時とAIWOn(アイヲン)を同じに考えるのは危険かもね。

 まぁいいわ。それで水曜創造神の攻略だけど、わたしを除いた8人でお願いするわ。

 わたしは3つ目の謎のジジイの確保。これにあたらせてもらうわ」


 どうやら親父は謎のジジイの正体が気になるらしい。

 幾ら裏切りの神・榊原源次郎の指示とは言え現実世界(こちら)の事情に詳しすぎるのが引っかかるみたいだ。


「フェンリル1人で大丈夫なのかよ」


「あら、誰にものを言っているのかしら?」


 そう言って親父は不敵に笑う。


 まぁ確かに七王神最強の巫女神フェンリルだからな。身の心配をする方が余計なお世話か。

 こっちの水曜創造神攻略に関してもお袋とローズマリーの七王神が2人も居るから戦力的には問題ないからそれ程戦力の分担は痛手ではない。


 そう思ってこれで決定しようとしていたのだが、それに待ったをかける人物がいた。


「あの・・・フェルさん。お爺ちゃんの捜索にはあたしが行きたいんだけどダメかな?」


 デュオだ。

 どうやらデュオも謎のジジイを気にしているみたいだ。


「フェルさんは鈴鹿達と一緒に水曜創造神に向かった方がいいと思うの。

 確かに戦力的には過剰かもしれないけど、相手はこの世界を創造した『神』なんでしょ? 何をしてくるか分からないなら最高の戦力をぶつけないと」


「うーん、デュオの言いたいことは分かるけど、ここは異世界(テラサード)の事情に詳しいわたしが言った方がいいと思うんだけど。

 それともデュオには何か自分でなければいけない別の理由があるのかしら?」


「ううん、特には無いけど・・・

 なんて言うのかな? お爺ちゃんを見つけるのはあたしの役目のような気がして。

 それにお爺ちゃんから色々この世界やあたし達の世界の事の秘密を教えてもらったんだけど、まだ秘密にしていたことがあるのはちょっと面白くないかなって思って。

 お爺ちゃんとは長い付き合いなのに、お爺ちゃんにとってはあたしはその程度の付き合いだったのかなぁって悔しくなって文句を言いたいの」


「ふふふ、文句、ね。デュオは謎のジジイが大好きなのね。

 いいわ、謎のジジイの確保をデュオに任せるわ。ただ流石に1人ではいかせられないわね」


 親父はそう言ってルーベットの方を見る。

 ルーベットもそれに頷いてデュオに同行するパーティメンバーを『AliveOut』の中から選出することにした。


「アイリスとリュナウディアはデュオに同行するのじゃ。他にもう2人メンバーを加える。デュオはこの4人で謎のジジイを確保してくるのじゃ」


「フェルさん、ルーベットさん、ありがとう!」


 因みにミュリアリアは情報収集の為、俺達とは別行動をするようにルーベットに指示された。

 ミュリアリアって魔術師(ソーサラー)だったよな? 情報収集に向いているとは思えないんだが・・・まぁいいか。クランマスターの指示だ。ミュリアリアも素直に従っているし何か理由があるのだろう。


「先ほど『AliveOut』の情報網に厳つい老人が北東で見かけたと言う情報がありました。

 おそらく謎のジジイと思われるでしょう。デュオはまずは北東に向かうのがよろしいかと」


 そうして今後の予定を組んでいると、狼御前が謎のジジイの行方を示す情報を教えてくれる。先程のアイさんの捜索の指示をしている時に入った情報だろう。


 俺達は水曜創造神へ、トリニティは謎のジジイ捜索へとそれぞれ動き出す。




◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 デュオ達は謎のジジイを捜しに北東――ホイルフォー山へ向かって行った。

 聞いた事のある山だと思ったら、俺とトリニティが崖から落ちた山だった。


 そう言えばほんの少しの間だけ相席した紫電はどうしたのだろうな。

 あの後薪を拾いに行ったままはぐれてしまったから心配しているのだろうか? ・・・無いな。ほんの少しの間だったが、紫電はそんな気遣いが出来る様な男じゃなかった気がする。

 まぁ縁があればまた会えるだろう。


 俺達は早速水曜創造神――水無月芙美(ふみ)を攻略する為、水曜都市へと向かう。

 移動には走竜(ドラグルー)を使い、約1日で到着する予定だ。


「スノウが居ればよかったんだけどね。とは言っても流石に6人はちょっときついか」


「スノウもThe Towerに捕まっていたから、今頃どこかで俺達を捜しているかもな」


 親父がスノウが居れば時間を短縮できるのにとぼやく。

 そう言えばスノウは元々巫女神フェンリルの騎竜だったっけ。

 ・・・なるほどな。スノウが俺に懐くわけだ。俺の中の親父の血を感じ取ったんだろうな。


「あ、そうそう。言い忘れていたけど、アイや謎のジジイの捜索だけじゃなく、残りの七王神の捜索も積極的にしていくわよ。

 折角の戦力をみすみす見過ごすのは勿体無いからね」


 そりゃあ確かにそうだ。他の七王神が揃えばかなりの戦力の増加に繋がるのを見過ごすのは馬鹿のすることだ。


「やはり他の人たちも来ているのかしら?」


「間違いなく来ているわ。ただわたし達にとっては戦力の増加に繋がるけど、八天創造神にとっても何かしらのメリットがあって呼んだはず。

 七王神を集めることが八天創造神にとって有利に働く可能性もあるわ。気を付けないと」


 ローズマリーの問いに親父は間違いないと答える。

 ただ親父の言う通り、八天創造神が親父達を神秘界(アルカディア)に呼び出したのにはそれなりの理由があるはずだ。

 これは俺達にとってのメリットになるのか、八天創造神にとってのメリットになるのか。

 ある意味、七王神は諸刃の剣なのかもしれない。


 俺達はそれ程問題も無く水曜都市に到着した。

 精々B級やA級のモンスターが襲ってきた程度だ。

 この程度なら今の俺達のパーティーじゃ何の問題にもならない。鎧袖一触だ。


 ・・・訂正。ちょっとは問題があった。


 お袋が構いすぎる。

 これまでAIWOn(アイヲン)に深くかかわっていなかったせいか、俺と一緒に居られることに凄く喜んでいて何かにつけてあれこれ構ってくるのだ。

 口を開けば「お腹すいてない?」「あまり危ない事をしちゃダメよ?」など。


 そしてそれは俺だけじゃなく唯姫にまで及ぶ。

 何しろ唯姫があんな目に遭ったと言う事を知ったお袋の怒りは目を見張るものがあった。


「女の子を何だと思っているのかしら!! 鈴鹿、よくやったわ! こんなことをする輩は死ねばいいのよ!!」


 かなり過激な発言をしながらお袋は唯姫をギュッと抱きしめる。


「唯姫ちゃん、辛かったら溜めこまないで吐き出してもいいのよ?」


「あの、おばさん。大丈夫です。確かに今でも男の人はちょっと怖いけど、鈴くんが傍にいるから・・・」


 定期的にラヴィから治療を受けているから精神的には安定している。まぁ心的外傷(トラウマ)になって俺以外の男にはちょっと怯えてしまうが。


 まぁそんな訳で親父が苦笑いしつつもお袋に構われながら俺達は水曜都市ハイドロエクストへ到着した。

 因みにトリニティとローズマリーとアイリスは俺がお袋に構われているのを見てニヤニヤしていたのが凄くやり辛かったのは言うまでもない。


「さて、まずは水曜都市に潜入している『AliveOut』のメンバーに連絡を取って内部に侵入しないとな」


「クランマスターから連絡が行っているから向こうからの接触があると思うけど」


 このメンバーの中で『AliveOut』の所属が長いアイリスがクランメンバーとの連絡係となっていた。

 親父・お袋・ローズマリーは言わずとも、俺とトリニティは『AliveOut』に加入してほぼ数日程度だからな。

 唯姫も所属日数は長いが、心的外傷(トラウマ)の所為で男との接触が無理だから除外される。

 ラヴィは初めから数には入っていない。


 都市の郊外にある小さな小屋で俺達は『AliveOut』からの接触を待っていた。

 この小屋は都市の人間が外で活動する為の拠点の1つだ。

 まぁアルカディア人は殆んど外に出ることが無いから使用することはほぼ無いが。


 周囲を警戒しながら待っていると、気配探知に近づいてくる2人の反応があった。

 トリニティ、親父、お袋も近づいてくる2人に気が付き警戒し、アイリスが符丁を確認しながら迎え入れる。


「お前たちが噂の対神部隊か。期待しているぜ」


「へぇ、ここまで噂になっているのか」


「ああ、互いの都市に潜んでいる『AliveOut』のメンバーと連絡を取っているからな。

 火曜都市、金曜都市、土曜都市それぞれの八天創造神を討ったって話しで持ちきりだぜ」


 この水曜都市は上記の3都市の様に神軍の数が少ない生か殺伐とはしていないが、何処か淀んだ空気が漂って不気味なのだと言う。

 それを俺達が打ち破ることを期待しているのだと。


 特定のルートを使い、俺値は密かに水曜都市に潜入する。

 取り敢えず『AliveOut』の拠点に向かうように案内役のメンバーが先導して進んでいるのだが・・・


「囲まれているわね。まぁ囲んでいると言ってもそんなに大勢の人数じゃないけど」


 そうなのだ。親父の言う通り今俺達を前後9人で挟み込んでいた。

 3人一塊で前に左右に2組、後ろに1組と言った具合だ。


「恐らくこの都市の神軍でしょう」


「だね。ただ解せないのは、私達が来るのが何でバレていたって事なんだけど・・・」


 ローズマリーの言うようにこの囲んでいる奴らは水無月神軍で間違いないと思う。

 だがお袋の言う通りに水曜創造神――水無月に何故バレていたかと言う事だ。

 考えられるのはギャンザみたいに内通者がいた可能性がある。一番の候補者は今目の前で先導しているメンバーなのだが。


「なっ!? 囲まれているだって!? 馬鹿な。今まで神軍全員が動いた事なんてほとんどないのに・・・!」


 慌てふためく様子を見れば違うのかもしれない。まぁこれが演技ではないとは言えないが。


「演技じゃないね。本気で動揺している」


 トリニティがボソッと呟く。


 ふむ、そうなると他に内通者がいるのか、何か別の要素で俺達の行動を監視していたのか。

 そんな俺の考えを余所に、水無月神軍から動きがある。

 前方の1組が俺達に向かって歩み寄ってきた。

 その中のリーダー――如何にもイケメンで人を見下しているような男――と思しき男が俺達に向かって話しかける。


「やぁ、ようこそ、水曜都市ハイドロエクストへ。七王神の方々。我々は――と言うより我が主・水曜創造神であられる水無月芙美様は七王神の方々を歓迎いたしますよ」


 どうやら『AliveOut』云々と言うより、親父達七王神の行動が監視されていたらしいな。

 確かに親父達を神秘界(アルカディア)に強制召喚したのが八天創造神だとしたら何らかの方法で監視していたとしても不思議ではない。


「ああ、他の人たちは用は無いので帰って下さっても結構ですよ。なぁに、大人しく帰れば手を出したりはしませんよ」


 嘘付け。そう言われて素直に帰る奴はいるわけがない。

 尤も親父達を残して帰る意味も無いしな。

 道案内の『AliveOut』の2人は強制的に付き合わされることになるが、まぁ我慢してもらうしかないか。


「・・・誰も帰らないようで。まぁそれならそれで仕方がないです。

 さて、それでは大人しく付いて来てもらえると有難いのですが」


「黙って素直に従うと思う?」


 親父がそう言って左右に下げた刀にそれぞれ手を掛ける。

 それを切っ掛けにお袋も杖を構え、ローズマリーも盾を構える。

 勿論俺達もそれぞれの武器を手に警戒を最大にする。


「そうそう、水無月様から伝言をお預かりしてます。

 『現在、私は七王神・天魔神アッシュを保護している。彼は是非とも君たちに会いたいとの事だ』以上です」


 あ~~っと、つまり七王神の1人が水無月に捕まっているって事か?

 男の言葉を受けて親父達は何とも言えない表情をしていた。


「アッシュ・・・何で肝心な時にこうやっちゃうのかなぁ・・・」


「そう言えばアッシュさん、何処か抜けていたところがあったね・・・」


「ヘタレは幾つになってもヘタレなのですね」


 と言うか、お袋。あんたも金曜創造神に捕まっていたんじゃなかったのかよ。


「はぁ、仕方ないわ。大人しく付いて行くから案内しなさい」


 親父の了承を得て男は俺達を先導していく。

 と言うか、黙って付いていくつもりなのか?

 あまりにも自然過ぎて止める暇もなかったが、一応俺は親父に理由を問う。


「フェンリル、いいのか? 黙って付いて行って。明らかに罠だぞ。人質の無事を保障するなんて言ってないし」


「向こうがわたし達七王神を呼んだ張本人だから直ぐに命を奪うような真似はしないでしょう。それに少なくとも人質になっている間は無事は保障されるわ。でないと人質の意味が無いからね。

 あと・・・罠だけど、これはワザと誘いに乗ってから罠の詳細を把握してからの正面突破ね。わたし達の力じゃ大抵の事は乗り切れるわよ」


 まさかの力技だった。


 いや、七王神が3人も居ればそう思えるのかもしれないが、些か自信過剰じゃないのか?

 当然向こうもそれに対応しているのだろうし。


 俺の不安を余所に神軍の男が仲間のパーティーに合流し、俺達を水曜都市中央部――水無月城へと連れて行く。

 因みに残りの神軍の2組は俺達から見えないところで左右を挟む形で追従している。


 水無月城へ連れて行かれた俺達は城の中庭に案内された。

 てっきり謁見の間のような如何にもラスボスが見下すような対面になるかと思っていたが、どうやら向こうさんは一戦を交える気でいるみたいだ。

 何故なら最早中庭とは呼べない程のかなりの広さを有していたからだ。

 しかもその中庭は木や花などを愛でる景観をしておらず、戦闘を目的とした武骨な作りになっていた。


 寧ろ中庭を囲う城の方がおまけのように感じる。


 そしてその中庭――闘技広場とでも呼ぼうか――の中央には1人の女性と1匹の骸骨、そして手枷を付けられた男がいた。


 女性の方は水曜創造神の水無月芙美だろう。流れる様なストレートな青髪に長身でスレンダーな体型をしていた。

 骸骨は神秘界の騎士(アルカナナイト)か? ボロボロの黒布を纏い、手には身の丈もある鎌を持っている。まるでまんま死神を連想させる姿だ。

 そして手枷の男が捕まっている七王神の1人である天魔神アッシュだろう。中肉中背で魔導師(ウィザード)風の格好をしている。


 因みに案内した神軍のパーティーたちは邪魔にならない様にあっさりと闘技広間から下がっていった。


「げ、マジか。何であいつが居るんだよ・・・ラヴィと言い、厄介な奴ばかり復活させやがって」


「うそ・・・流石に乗り越えたとはいえ、会いたくない奴に会ったわ・・・」


 人質になっているアッシュを余所に、親父とお袋が骸骨を見て露骨に嫌そうな顔をしていた。

 話の流れからすると、ラヴィみたくAngel In時代の敵らしいのだが・・・


「ようこそ、七王神の方々、そしてそのお供の者達。歓迎するぞ」


「歓迎してもらう必要はないわ。さっさとアッシュを解放しなさいよ」


「残念だがそれは出来ない。彼は我々の丁重なおもてなしの真っ最中だからな」


 水無月が歓迎すると言えば、親父は必要ないと答える。

 逆にアッシュを解放しろと言えば、人質をそう簡単に開放するわけがないと水無月が言う。

 水無月はどうあっても親父達を戦いに巻き込みたいらしい。余程の自信があるのか。


「ちょっと、アッシュさん。何を簡単に捕まっているのですか。捕まっているのならいるで逆に脱出するような気概を見せて頂かないと!」


「いやいやいや! 何が起こっているのかさっぱりわからないのにどうしろと言うんだよ! 辛うじてAI-On(アイオン)だと言うのは分かるが、あれってもう消滅してしまったんだろ? 訳が分からな過ぎる!」


 ローズマリーが捕まっているアッシュにダメ出しをするが、確かにアッシュにとってみれば訳が分からないか。

 お袋は辛うじて俺や親父から事情を聞いていたから何とかなったし、ローズマリーも運よくデュオ達と出会ったから対処出来たんだから。

 こうして見ればアッシュは運が無かったとしか言いようがないな。


 因みにアッシュが大人しく捕まっているのは、手枷に込められた能力封じが込められているからだそうだ。

 この手枷は金曜創造神・小金井の能力で創られた神秘界の騎士(アルカナナイト)Justiceの能力を込めた物らしい。


「君たちにも我々の歓迎を受けて欲しいな。素直に受けてくれると嬉しいんだが、こちらからの一方的な歓迎はお気に召さないようなので、君たちからのお礼の品を受け取る事にしよう。

 ああ、因みにもしよかったら彼も一緒に歓迎を受けてもらってもいいぞ」


 アッシュを人質にして俺達の行動を制限させるどころか一緒にかかってこいと言う。何処までが本当なのだか。


「君たちの歓迎はこの神秘界の騎士(アルカナナイト)Deathが受け持つ。君たちの中にはDeathを知っている者も居るだろう。存分に楽しんでくれたまえ」


 そう言って水無月はアッシュの手枷を外し、俺達の方へと寄越す。そして自分は闘技広場の――城壁へと移動する。


「どうやらマジで俺も戦いに参加させるつもりみたいだな」


「どういうつもりなんだか」


 アッシュが俺達に近寄る時も水無月は何もせず、ただ黙って見ていただけだった。

 本当に人質を解放すると言う事みたいだ。

 親父も水無月が何を考えているのかは読めないみたいで訝しんでいる。


「なぁ、フェンリル。人質が解放されたんだ。何もこんな見え透いた罠に向かって行く必要はねぇよ。ここは一旦引いた方がいいんじゃねぇのか?」


「そうね。鈴鹿に賛成。フェンリルさん、ここは一旦引きましょう。盗賊(シーフ)としてもみすみす罠にかかるのは見過ごせないわ」


 俺とトリニティは引くことを提案するが、親父はそれを却下する。


「いえ、このままDeathと戦うわ。わざわざ罠を張っていると言う事はそれだけわたし達に用があるのよ。

 ここで引いたら多分だけど向こうの準備が整うまで姿を眩ますと思うの。結局わたし達は罠に飛びこまなきゃ水無月らとは戦えないのよ」


 むぅ・・・確かに親父の言う通り罠が無くなれば水無月は俺達に手を出す理由が無くなる。そうなればどれだけ俺達が水無月の跡を追えるかだが・・・

 他の日曜創造神と月曜創造神に挑みながら水無月を追いかけるのはかなりの労力を要することになる。

 だったら今ここで罠ごと食い破るのもありか。


 トリニティも納得はしていないが、罠ごと敵を突破する作戦は有用だと判断して渋々了解した。


「それに、鈴鹿は目の前に八天創造神が居てみすみす逃げると言うの?」


「・・・それを言われちゃぁ引き下がれないじゃないか」


 確かに。目の前に唯姫の敵がいるにも拘らず、逃げるなんて選択肢はねぇな。


「さて、それじゃあ一戦交えますか。と、アッシュは奴らに捕まっていたんだから何か有用な情報は無いかしら?」


「あのな・・・さっきも言ったが、俺は何も分からないまま捕まっていたんだぞ。精々AI-On(アイオン)の敵が目の前にいると言うことくらいだな。

 ああ、そう言えば、目の前のDeathには注意した方がいいな。死神の鎌に注意が行きがちだが、奴の手にも注意しろ。

 捕まっていた時に奴の手を体に突っ込まれて何かを取られた。あれが何だったか分からないが・・・」


「それも有用な情報じゃないの。死神の手・・・ね。まさか魂を取ったとか言わないわよね」


 もしくはアッシュの体に何か細工をしたとかか?

 でなければわざわざ俺達の元に戻す真似なんてしないはず。


 取り敢えず俺達はアッシュを加えて陣形を取る。


 たった1人俺達の前に立っているDeathは俺達の話が纏まったとみると、手にした鎌を一振りし戦闘態勢を取る。


「ほほほっ、作戦会議は終わったかの?

 久しぶりじゃのう、儂を倒した女子(おなご)よ。再びお主と相まみえることになろうとは。運命とは数奇じゃのう。

 久しぶりの対面じゃから話に花を咲かせたいところじゃが、主の命令となれば儂はお主と戦わねばならん。覚悟をしてもらおうか」


「何を世迷言を。何時わたし達が楽しく会話をするような関係だったのよ。

 あー、アルカナの称号からまさかとは思っていたけど、マジで居たのは予定外よ。出来ればあの能力まで引継いでないといいんだけど」


 あの親父がこのDeathと戦うのをためらっているのを見て俺達はちょっとビックリしていた。


「あのね、あのDeathはAngel In時代は『死を撒く王』と言って、即死攻撃しかしないボスだったのよ。フェルは身代わりアイテムと運を上げるアイテムを駆使して何とか倒したんだけど、今は明らかに準備不足でね」


 お袋がDeathについて説明してくれるが、その内容は明らかに俺達に不利な内容だった。

 ローズマリーも『死を撒く王』について聞いていたのだろう。何か別の攻略法は無いかラヴィに聞いていた。


「ラヴィさん? AI-On(アイオン)から変わった点とかございませんの? あまりにも一方的な能力などなくなったとか」


「うーん・・・流石に即死系だけの能力は無くなったとは思うけど、どっかに即死系の攻撃は残されているとは思うよ。

 それとそれ以外にも別の能力を持っている可能性もあるわ。私が精神系の能力を強化されたみたいにね」


「それは心強い情報ですわね」


 それに加え、トリニティも事前に集めていたDeathの情報を教えてくる。


「因みに、即死系の攻撃は多分あの鎌から放たれる特殊戦技だと思われるよ。

 以前、水曜創造神に挑んだ『AliveOut』がDeathに返り討ちになった情報があるから」


「よし、少なくとも相手は1人だ。こっちは6人もいる。攻撃する暇もないくらい連続して攻撃すれば即死系の攻撃は無いだろう」


 確かに即死系の攻撃は心配だが、この人数で押せばDeathは攻撃する暇がないだろう。

 親父はそのまま俺達にフォーメーションを指示し、俺達はその通り展開する。

 因みにラヴィと案内役の『AliveOut』の2人は入っていない。


 前衛に俺・親父・ローズ―マリー。

 後衛に唯姫・お袋、アッシュ。

 遊撃にトリニティ。


 ローズマリーが盾を構え、俺と親父は左右に挟むように位置する。

 トリニティはその俺の斜め後ろに。

 唯姫は自動義肢(オートピュレーター)祝福(ギフト)を展開しつつ、背中に唯姫の二つ名でもある『八翼』を展開する。

 お袋とアッシュも唯姫の隣で杖を構える。

 ラヴィと案内役の2人は壁際へと下がっていく。


 Deathは俺達のその様子を慌てるそぶりも見せずに悠然と眺めていた。


「ほほほっ、儂1人で相手をするじゃと? 甘い、甘すぎるのう。以前ならいざ知らず、今は制限は課せられてないのじゃぞ。

 なぁ、『不死者の王』」


 Deathがそう言うと、死神の姿から一変、鎧を着たスケルトンナイトのような姿になった。

 手にした鎌も一振りの大剣に変わっている。


「そうだな、『死を撒く王』」


「なっ!? 何でっ、『不死者の王』が!?」


 親父がこれまでにないほどに驚愕していた。

 と言うか、俺達も普通にビックリなんだけど。


「おいおい、忘れたのか? 『死を撒く王』は俺の体を借りてたんだぜ。元々はこれは俺の体。

 お前らは俺ら2人を相手にするって事だ。

 ああ、因みに以前の様に治癒魔法が弱点ってことは無くなっているからな」


 つまり即死系の攻撃を持つ死神と、接近戦を得意とする骸骨戦士を同時に相手にするようなものか。

 これはちと厳しいな。


 だがDeathの手札はそれだけではなかった。

 2人同時とは言え、体は1つ。実質1人を相手にするようなものだからこちらの数の有利は揺るぎなかった。

 が、Deathはその数の有利を潰しにかかった。


冥界召喚(ネクロロード)


 Deathの目の前に6つの召喚魔法陣が現れた。

 その中から6体ものスケルトンが現れる。それぞれ剣などの武器を持った。

 召喚されたスケルトンはただのスケルトンじゃない。最強のスケルトンだ。


 何故ならその中の1体に俺は見覚えがあったからだ。


 巫女神フェンリルを模して創られた最強のスケルトンロード。

 ――通称・巫女スケルトンロード。


『久しぶりね。剣姫流の少年』







次回更新は12/27になります。

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