65.デュオの経緯と謎のジジイの秘密とアイの正体
「わたしからも聞いてもいいかしら?」
親父の鋭い視線が木原に向けられる。
木原は分かってるとばかりに親父の視線を受け止めていた。
「フェンリルが聞きたい事は、何故他の創造神を裏切ったのかでしょう?」
「そうよ。ここまで用意周到な計画をしておきながら終盤に於いて放棄するなんてあり得ないわ。
まだ何か裏があるのじゃないかと疑うのが妥当だと思うけど?」
親父のその言葉に木原は深いため息をついて質問に答える。
「・・・そうね。確かに貴女方から見ればそう思うわよね。
私はね、疲れたのよ。この神プロジェクトを始動して30年。今のこの姿は貴女方異世界人と同じように身体で作られたものよ。
でも中身はもう50代後半のおばさんなの」
確かにルーベットの様な例もあるから中身が外見と違い年老いていることもありうるわけだ。
Angel In Onlineの時から計画をしていたともなれば確かに30年以上の月日が経過している。
計画開始時が20代だとしても木原の言う通り今は50代だな。
だが、人の命を奪ってまで計画したことを年齢や疲れたからで諦められるものなのか? ましてや不老不死を目標とした計画だ。年齢の有無は誤差の範囲だと思うのだが。
「不老不死を目指して他の創造神と協力して来たけど、年老いて価値観が変わったのかしらね。そこまでして得たいものじゃないと思い始めたの。
とは言ってもつい最近までは私も不老不死を得ようとしていたわ。だからこれまでの罪を許して欲しいだなんて言わないわ。
だから私は私の責任でこの事件を終わらせる。その結果、私の命が失われるようなことになっても構わないと思っている」
「・・・何かあったのね。この神秘界に来て」
何かを察したのか、親父は木原の変化は何か事件があったのではと思ったみたいだ。
「そうね。色々あったわ。その結果が神秘界唯一のクラン『AliveOut』ね」
その時の事を語る気はないのか、木原は遠い目をしていた。
・・・いや、自分だけが不幸な目に遭ったような言い方をするが、お前らの所為で唯姫や色んな人がお前より酷い目に遭ったんだ。同情する気にはなれないぞ。
だが木原もそれは分かっているのか、同情を誘うようなそぶりは見せずに罪の告発と共に自分を罰して欲しいのか敢えて俺達を挑発しているようにも見えた。
そう言えば、さっきの「終わらせて見ろ」って約束もそのような心境から来るものだったんだな。
「いいわ、大体分かったから。その心境の変化は信じていいのね?」
「それはさっきの彼にも言ったように信じてもらうしかないわね」
まぁ、ここまで来て実は罠だったんだと言われてもそれはそれでこっちから食い破っていくつもりだがな。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「さて、それじゃあこれからの事を話し合いましょう。まずはお互いの持っている情報を共有しておかないと」
親父の仕切りの元、俺達は互いの情報を交換することにした。
そうだな。俺達は異世界――現実世界視点で話していたわけだが、秘密を話したトリニティは兎も角、デュオ達にとってはチンプンカンプンな話ばかりだったろう。
この場に居るのは俺、唯姫、トリニティ、親父、お袋、ローズマリー、アイリス、リュナウディア、ミュリアリア、ラヴィだ。
それぞれがそれぞれに繋がりを持ち情報が交錯している状態だ。
まずはその辺りの情報を統一しておかないと。
「その前に1つ、私から言っておくべきことがあります。
私から他の創造神や神秘界の騎士の情報は得られないと思って下さい。
理由は陽菜から彼女らに関する情報提供の制限を掛けられているからです」
「何だよそれ。呪いか何かか?」
「鈴鹿、お主も赤坂烈火で経験したじゃろう。八天創造神特有の能力によるものじゃ。
先程も言った神秘界に来てからのいざこざでの。その所為で木原は日輪陽菜の能力による枷が掛けられておる。
じゃからお主らに赤坂烈火や傍に仕える神秘界の騎士の情報を与えられなかったのじゃ」
俺の呪いかと言う疑問にルーベットが変わりに答える。
ああ、そう言う事か。
さっき裏で?木原と『AliveOut』が繋がっているって聞いた時、火曜創造神――赤坂烈火や神秘界の騎士・The Magicianのマグガイアの情報が聞けなかったのかと疑問に思ったが、そう言う事だったんだな。
まぁこの情報交換には木原があまり役に立たないと言う事が分かった。
「そんなことないですよ。私にも言える範囲がありますので、出来る範囲で情報を提供しますよ」
俺がその事を告げると、木原は少し子供っぽくムキになっていた。
そう言うところは今の姿に似合っているんだが、中身がおばさんともなれば・・・
ゾクリ
うん、止めよう。女性に年齢の事を言うのは。
いや、言ってはいないが、こういう時は女は感が鋭いからなぁ。
まずは俺から神秘界に来た後の経緯を話し、その目的、置かれた状況を話す。
まぁ目的は唯姫を助け出す事だって知っているが、今の唯姫の置かれた状況から異世界の真実と天と地を支える世界と神秘界の状況――つまりAlive In World Onlineについて説明する。
デュオの方からもどうして神秘界に来たのか、どうやって神秘界に来たのか、その目的、置かれた状況を説明する。
そして驚いたことに、デュオ達は自分たちが置かれた状況――この天と地を支える世界と神秘界の2つの世界が異世界で作られた電子構造による世界だと言うのを認識していたのだ。
詳細を聞くと、謎のジジイからその事を教えてもらったのだと言う。
だがそこに俺達は疑問を感じた。
天地人でありながら異世界の事情に詳しすぎるのだ。
当然親父もそこに疑問を感じ、デュオに謎のジジイについて聞いた。
「その謎のジジイって何者なの? 確か世界で5人しか居ないS級冒険者だと言う事は知っているけど、幾らなんでも異世界の事情を知り過ぎているわ」
「何者かって聞かれればあたしも全部は答えられないわ。だって名前からして謎なんだもの。
多分だけど、お爺ちゃんは裏切りの神から頼まれたって言ってたから、そこから異世界の事を聞いたんじゃないのかな?」
「100年前は榊原源次郎のコピーが居たから聞いていたとしても不思議じゃないけど・・・」
謎のジジイってって確かジジイのくせして筋骨隆々の猛者って感じの奴だったよな。
確かに100年生きていると言われれば裏切りの神から情報を知り得たって納得は出来るが、それでも異世界に関して詳しすぎやしないか?
デュオによれば裏切りの神――榊原源次郎(正確にはコピー人格らしい)から聞いたと言うのだが、聞いただけで簡単に理解できるとは思えないんだが。
親父もそこのところを疑問に思っていたが、取り敢えずは話を先に進めることにした。
「デュオが謎のジジイに連れられ神秘界に来たのは分かったわ。その目的もね。
それでデュオ達はどうするの? 肝心の謎のジジイは居ないし、ソロも居ないんでしょ?」
謎のジジイの目的は榊原源次郎からの頼まれごとで八天創造神を倒す事らしい。
で、謎のジジイから世界の秘密を知ったソロは天地人の魂の生成と天と地を支える世界に代わる神秘界の乗っ取りだと言う。
デュオはソロに賛同し協力しつつも、娘同然だったクオの恨みを晴らすべく八天創造神の討伐が目的だと。
「実はソロが謎のジジイの弟子で、実は天と地を支える世界を救おうとしている、ねぇ・・・
衝撃の事実だが、その肝心のソロが今どこにいるんだか」
「ソロお兄ちゃんの事だから大丈夫だとは思うけど、The Towerでバラバラになっちゃったからね。
あたしはアイリスとミュリアリアと一緒だったから、多分ソロお兄ちゃんも他の人と一緒だと思うよ」
謎のジジイに連れられて神秘界に来たのはデュオ、ウィル、美刃さん、ソロ、アルベルト、ルーナ、スノウ、ガジェット(謎のジジイの騎竜)の総勢7人と2匹。
美刃さんは謎の干渉によりはぐれてしまい、謎のジジイも美刃さんの行方不明を機にガジェットに乗って単独行動をしてしまい、デュオ達は謎のジジイの情報を元に神秘界の騎士The Empressのエレナーデの協力を仰いだらしい。
そこで『AliveOut』の攻略部隊のフレンダ、アイリス、リュナウディア、ミュリアリアと出会いクランに加入することにして本拠地である木曜都市を目指したのだが、何故か妨害に遭い、神秘界の騎士『The Towerに捕らわれたと言う。
今思えば道中、出会った七王神のローズマリーを狙ったのではと。
The Towerの特殊領域の塔内でデュオはアイリスとミュリアリアと協力して守護者と思わしきものと戦っていたのだが、突然塔からはじき出され気が付けば金曜都市で再び捕らわれの身となったと言う。
この時、ローズマリーとリュナウディアがThe Towerを倒したので塔を維持できなくなったのではないかと思われる。
そしてデュオ達はそこで同じく捕らわれの身となっていた七王神が1人、大賢神ベルザ――お袋と出会い、金曜都市の神秘界の騎士Justiceと金曜創造神・小金井鉄也を撃破し、漸く『AliveOut』と連絡を取り木曜都市に来れたと。
「まぁ、他のメンバーも生きているだろうさ。寧ろデュオみたいにどっかの神秘界の騎士を倒しているのかもな」
「あり得るね。特にウィルなんかはお姉ちゃんを捜しに張り切っているかも」
ああ、確かにウィルならあり得そうだ。
わざわざ神秘界に付いてくるまでデュオにベタ惚れだからな。
「さて、お互いの情報も共有したところで、それぞれの目的の為に動きましょう」
親父がそう言うが、良く考えれば皆の目的はそれぞれバラバラだよな。
俺は八天創造神の皆殺しと現実世界への帰還だし、デュオはクオの落とし前――八天創造神の討伐兼神秘界の乗っ取り、ルーベット達『AliveOut』はそれぞれ天と地を支える世界と異世界――現実世界への帰還、親父達七王神は・・・八天創造神の討伐か?
一見、目的が似通ってはいるが、実質方向性がバラバラなんだよな。
共通しているのは、天と地を支える世界並びに現実世界への帰還、即ち神秘界からの脱出だ。
いや、真実を知った今は天地人は天と地を支える世界へ戻る気は無くなっているはず。
デュオやソロにしてみれば神秘界を乗っ取るために戦力が必要だから天と地を支える世界に戻るのは待ったをかけたいよなぁ。
「わたし達『AliveOut』がこれから目標にするのは3つ。
1つは神秘界からの脱出するためのゲートの確保。
デュオやソロの思惑は兎も角、一度天と地を支える世界へは戻らないといけないしね。
2つ目は八天創造神の攻略。
これはそれぞれ思うところがある人がいるけど、今はそれは省かせてもらうわ。
3つ目は謎のジジイの確保。
もしかしたら謎のジジイはこの神秘界を攻略するにあたって重要な人物になるかもしれないわ」
親父がこれからの俺達――『AliveOut』の目標を3つ掲げる。
1と2は俺も考えていたから分かるが、3つ目の謎のジジイの確保って必要か?
俺の考えを読んだかのように親父はその理由を述べた。
「謎のジジイはあまりにも異世界の真実を知り過ぎている。多分裏切りの神からの情報だけど、その裏切りの神との繋がりももう少し詳しく知りたいところから探し出す必要があると思うの」
あー、確かに天地人にしちゃあ詳しすぎるか。後は裏切りの神とのどの程度の繋がりか親父は知りたいのか。
まぁ親父は23年前のAngel In事件の当事者だから詳細を知りたいのだろうな。
「まず1つ目の帰還ゲートの確保だけど、現在帰還ゲートが判明しているのは3つ。
神秘界の騎士が鍵を持つ緊急避難口、八天創造神専用の専用転送陣、後は謎のジジイが所有していた誰も知られていない裏口魔法陣」
「緊急避難口の鍵は順調に集まっています。現在『AliveOut』で確保しているカードキーは愚者・女皇帝・皇帝・教皇・恋人・力・吊るされた男・節制の8つ、瓦礫の中から捜索中の魔術師の1つとデュオが所持していた正義と世界の2つ、ローズマリーが所持していた塔の1つ、今は所在不明ですがフレンダが所持している女帝の1つ、全部で13個になりますね」
流石サブマスター。狼御前が『AliveOut』で確保しているカードキーの詳細を説明する。
こうしてみると俺達が集めたのが1/3もあると以前の『AliveOut』の攻略率はそれ程いいともいえないな。
「と言う事は残り9個ね」
一刻でも早く帰りたい異世界人のアイリスが残りの神秘界の騎士の数を数えて意気込んでいた。
「まぁこれは2つ目の八天創造神の攻略を進めていけば必然的に集まるから取りこぼしを注意しておくだけでいいと思うわ。
問題は専用転送陣と裏口ね」
「専用転送陣は金曜都市のを確保しておる。今は全力で解析にあたっておるので使用には時間のもんだかと思うのじゃが・・・」
そう言ってルーベットは木原を見る。
木原はルーベットの視線を受けて気は進まないのか仕方なしに口を開いた。
「多分無理ね。そんな簡単に解析できるものじゃないのよ。本当に八天創造神それぞれの専用転送陣よ」
「お主が解析に協力してくれてもか?」
「言ったでしょう。それぞれの専用なのよ。金曜都市の転送陣は小金井専用よ。仮に解析できたとしても使用は絶対不可能ね」
「それってアイの『電脳支配の神』を使っても?」
「アイって・・・ああ、榊原の『娘』ね。確か世界中の全ての電子機器をオン・オフに関わらず操作可能な能力だったわね。
多分それでも無理だと思うわ。だって専用転送陣は魂魄理論を用いた魂の識別で使用可能にしているのだから」
待て待て待て待て。何かとんでもない情報が飛び込んできたぞ。
専用転送陣に魂魄理論を利用して本人しか使用できないのは、まぁ理解できる。
元々この神プロジェクト事態に魂魄理論を使っているのだから他に利用しない手は無いからな。
だがここでアイさんの特殊能力が出てきたのには驚いた。
つーか、『電脳支配の神』ってなんだよ。世界中の全ての電子機器をオン・オフに関わらず操作可能な能力って・・・この能力ってその気になれば世界を支配できるんじゃないのか?
アイさんが強いのはこれまでの旅で十分身に染みている。
だが、その旅の途中で不可解な事――エチーガの野郎の強制命令権が効かなかったり、『XXXの使徒』の所為で俺が女になったのを強制的に戻したり――があった。それがこれなのか?
俺の視線を感じた親父が少し躊躇いながらも説明してくれた。
「信じられない事かもしれないけど、これから言う事は事実よ。
アイの本当の正体を知ったら多分今まで通りに接することが出来ないかもしれない。それでもいいの?」
「俺達の旅はその程度で態度が変わるほど安っぽいものじゃないさ。例えそれがアイさんが自分の目的の為に俺を利用していたのだとしてもな」
「その程度って・・・聞いてもいないのに自分の物差しで測るようなものじゃないわよ。それにアイは鈴鹿を利用していたわけじゃないわ。たまたま偶然が重なって一緒に居ることになったのよ」
それは・・・分かっている。さっき言った「俺を利用している」はアイさんは聖人でもなんでもない、アイさんにも黒い部分がある事を示していただけだ。
「・・・分かったわ」
「フェル、いいの?」
お袋が心配そうに親父に問いかける。
と言うか、お袋も知っているって事か・・・
「鈴鹿が望んだことだしね。多分アイもいずれは話すつもりでいたと思うし」
ああ、確かに神秘界に来る直前の最後のエンジェルクエストでアイさんは自分の抱えている秘密を打ち明けてくれる約束をしていた。
結局、アイさんとははぐれてしまい聞けずじまいだったが、まさか親父の口から聞くことになろうとは・・・
そして親父の口から出た言葉は俺を驚愕させた。
「アイはね、純粋な人間じゃないの。限りなく人間に近い創られた人工知能――プログラムAIよ」
「・・・・・・・・・は? アイさんがAI・・・だって?
確かに現実世界じゃヒューマノイドはほぼ人間と言っていいほどのAIを搭載しているけど・・・アイさんがAIと言うにはあまりにも人間臭すぎるぞ」
「それはそうよ。アイは既に30年以上も前から稼働している世界初の人格を持つAIなのよ。それも人間と同じように心が成長し、人間と同じように経験を積んだAIなの。
もうそれは人間と言っていいほど差し支えない程の」
呆然とする俺に、親父はアイさんの生まれや育ちを説明してくる。
アイさんはあの裏切りの神ことAngel In Onlineの最高責任者の榊原源次郎が作り上げたのだと言う。
生まれた当初は人間の赤ん坊と同じように自我があやふやだったが、言葉を教え対話をすることで人らしく育てたらしい。
そして榊原源次郎は当時はAccess社の幹部からAngel In OnlineのNPCの設計及び最高責任者として招かれ、Angel In Onlineに関わっていくうちに自分が生贄だと言う事に気が付いた。
だが榊原源次郎はそれを逆手に取ってアイさんをより人間らしくする為にAngel In Onlineに組み込んだのだと言う。
最初は一プレイヤーとして、そして最後にはラスボスとして。
驚いたことにそのラスボスは天と地を支える世界で言い伝えられている魔王の事らしい。
確かに魔王AIって名前だったよな。
Angel In Onlineで人の生き死にを、そして自分の死を経験したことでアイさんは『人間』として進化したのだと言う。
榊原源次郎の仲間がアイさんのAIをAngel In Onlineからサルベージし、ヒューマノイドの原型となった体に移植して現実世界でも活動できるようにした。
Angel In Onlineの経験やヒューマノイドボディでの人間として現実世界を経験したそれまでの過程の副産物か、アイさんは人の心を持ちながら電子機器を自在に操る『電脳支配の神』の能力に覚醒しと言う事だ。
そしてアイさんはAngel In Onlineの真実を知る。それは生みの親の榊原源次郎が嵌められたのだと言う事を。
アイさんがAlive In World Onlineに挑むのは、榊原源次郎を嵌めた八天創造神への復讐なのだと。
「なぁ、それってもうAIの範疇を越えてるよな? 生みの親にした仕打ちに対する復讐って普通のAIじゃあり得ないし」
「そうね。アイのプログラム内は最早既に解析不能となっているわ。まぁ人間の精神を解析できないのと同じね。
そう言う点で見ればアイはもう『人間』といても過言ではないわ。
でも、それでもアイは人間じゃないわ。鈴鹿はそれでもアイと変わらず接することが出来るのかしら?」
親父が試す様な口調で俺に問い詰めるが、俺の答えは決まっている。
「あれだけ人間臭くて人間じゃないってありえないだろ。言うか、アイさんにも人並みに黒い部分があるんだな。寧ろより親しみが増したぜ?」
「そう・・・そう言える息子で誇らしいわ」
アイさんを受け入れてくれたのが嬉しかったのか、親父もお袋も何処かほっとした表情を見せていた。
「うわぁー、もう何なの、これ。情報が多すぎて頭がパンクしそう・・・
アイさんがあの100年前の世界を破滅に導こうとした魔王? しかも人間じゃないって・・・ああ、あたし達も同じようなものなの? あ、魔王だから元々人間じゃないかって、ダメだ、訳分かんない」
ただでさえ二つの世界を含むAIWOnの秘密を語られ理解と感情が追いつかない上に、アイさんの秘密を語られ混乱の極致にトリニティは頭を抱えていた。
「アイのAIプログラムを元に天地人のAIを作っているからそう言う意味ではアイは最初の天地人であり、天地人にとっての神かもしれないわね。
ただ、流石に『電脳支配の神』は身に付かなかったみたいだけど。あれはアイだけの特殊能力ね」
そりゃあ、NPCというかAI全てが『電脳支配の神』を身に付けたら人間に変わってAIが世界を支配してしまうだろう。それこそ映画の世界みたいに。
「あのー、アイさんの『電脳支配の神』って能力は世界中の全ての電子機器を支配できたんですよね?
それなら今起こっているAIWOnの事件はアイさんの能力で解決できたんじゃ・・・?」
それまで黙って話を聞いていた唯姫がアイさんの特殊能力があれば全ての問題は解決できたんじゃないかと言う。
確かに『電脳支配の神』があれば解決は可能だっただろう。だがアイさんや親父達がその事に気が付かないわけがない。何か理由があるのだろう。
俺の予想通り、親父はその答えを示す。
「確かにそう出来ればよかったんだけどね。唯姫ちゃんの救出も迅速に行われただろうから文句の1つも言いたくなるのは分かるけど」
「いえ、そんなつもりじゃ・・・」
味方によっちゃアイさんが手を抜いたせいで唯姫があんな目に遭ったと言っても過言ではない。
尤も唯姫もアイさんを責めるつもりで言ったのではないのは分かっている。ただ純粋にアイさんの能力に対して疑問を持っただけだろう。
「はっきり言って『電脳支配の神』は文字通り世界を支配できるほどの能力よ。
けど、強力な力にはリスクが伴う。わたし達はそれに気が付かないまま、アイは仕事の都合上、自分の為じゃなく他者の為に能力を使い続けた。
結果、アイの寿命が残り10年にも満たないって分かったのよ」
・・・・・・は? アイさんがあと10年しか生きられないって?
「さっきも話したけど、アイはもう既にAIの枠に捕らわれない『人間』よ。言い換えればアイと言うAIに魂が宿ったと言っていいわ。
『電脳支配の神』の使用にはそのアイの魂を削っていたのよ。
気が付いた時には遅かった。アイの寿命は残り10年。それも『電脳支配の神』を使用しなければの話しよ」
「・・・ちょっと待てよ。まさかとは思うが」
アイさんの性格だ。まさか馬鹿正直に能力の使用を控えるとは思えないし、アイさんの復讐の為に使用するのは勿論の事、俺や唯姫の為に事件を早期に解決するために使用したと考えられる。
俺の疑問を裏付けるかのように親父は肯定する。
「そうよ。アイは自分の寿命が残りわずかなのを知っていて『電脳支配の神』を使ったのよ。残り寿命が僅かなせいか、使えば使うほど加速度的に寿命が減るにも拘らずね。
多分、残りの寿命はもう1~2年も無いのかもしれない」
マジか・・・アイさんが後2年の命、だと・・・?
さっきの10年の比じゃねぇじゃねぇか。
立て続けに明かされる事実に俺は動揺を隠せないでいた。
更に悪い事実は重なるもので、アイさんの行動は無意味なものだと判明する。
「それで、アイさんがあたし達の世界天と地を支える世界・・・この場合え~と、Alive In World Onlineでしたっけ?にその『電脳支配の神』を使ったんですよね?
でもあたし達がそのまま旅を、エンジェルクエストを攻略して来たって事は能力による解決は出来なかった、って事ですよね」
「そうよ。トリニティの言う通り、アイは『電脳支配の神』を使って天と地を支える世界と神秘界の解析及び解決を試みたわ。
でも天と地を支える世界は支配できても神秘界は調べる事すら出来なかったらしいわ。
原因は神秘界が既に純粋な電脳空間じゃなくなってたことね。今だとはっきり分かるけど、魂を与えられたこの世界はもう電脳世界とは言えない。言わば電子と霊子を合わせた電霊子で構成された世界なのよ。
アイは碌に調べる事すら出来ずに寿命を減らしただけになったわ」
しかも旅の途中で能力を行使したから更に寿命が減ったと思われる。
何故そこまでして俺達を助けてくれたのか、それともそれほどまでに八天創造神への復讐が先だったのか。
「何で、そこまでして・・・」
「それは鈴鹿や唯姫ちゃんを家族だと思っているからよ。Angel In時代はアイちゃんはフェルをお姉ちゃんって慕っていたのよ。
それは現実世界に戻っても同じよ。お兄ちゃんって一時は私と奪い合いまでしたわ」
「今でこそアイはアメリカに行って離れてしまったが、何処に行ってもアイはわたしの妹よ。だからこそ鈴鹿の為に力を使ったのよ」
お袋と親父がどれだけ親父がアイさんに慕われていたか、俺が可愛がられていたか語る。
唯姫の叔父さんと叔母さんとも交流があり、親父、お袋を交えての交流があったのだと言う。
そして俺が生まれた時にアメリカに渡ってしまったが、その僅かの間だけでも俺を愛おしく思ってくれたらしい。
「まぁ、その肝心のアイが今は行方不明なんだけどね」
そう言って親父は呆れながらもアイさんを心配した表情をしていた。
「アイの事だから心配はいらないだろうけど、今の神秘界の情勢を考えるとちょっと本格的に探した方がいいのかもしれないわ」
「そうじゃな。アイの捜査を強化するようにクランメンバーに通達しておこう。アイの戦力も当てにしておるが、アイの出自を考えると何やらきな臭くなってきておるからの」
ルーベットの言葉に秘書?の狼御前がすぐさま捜査強化の指示を出す。
確かの親父の言う通りアイさんの事だから心配はないと思うが、万が一と言う事もある。
おまけにアイさんの残りの寿命の事を考えると尚更だ。
ピンチに陥った時に強制的に『電脳支配の神』を使用している可能性もある。
アイさんのとんでもない秘密を知って戸惑うが、アイさんはアイさんだ。
俺達を助け導いてくれた大切な人だ。それを疎ましく思うなんてとんでもない。
アイさんの僅かな魂だってどうにかなるはずだ。
そうだ、八天創造神の魂魄データがあればそれも可能になるかもしれない。
また目的が1つ増えたな。
・・・ルーベットの言葉じゃないがどことなくきな臭く感じる。
神秘界に来てからアイさんと2週間以上も会ってない所為か、どことなく心にぽっかり穴が開いた感じがするな。
ああ、早くアイさんに会いたいな。アイさんのお蔭で唯姫に会う事も出来たし、アイさんに唯姫を会わせてあげたい。
説明会。Alive In World Onlineの説明の為デュオ達はほぼ空気。
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次回更新は12/25になります。




