64.親父とお袋と木曜創造神
大神鈴鹿、自動義肢を入手し唯姫と対面する。
大神鈴鹿、クランマスター・ルーベットと会う。
早海唯姫、The Magicianと戦う。
大神鈴鹿、フェンリルと会う。
大神鈴鹿、火曜創造神を倒す。
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「フェンリル! 久しぶりじゃな! ローズマリーが現れたからもしやと思っていたが・・・」
「ルーベット、久しぶりね。まさか貴女がまた懲りずにVRをやっているとは思わなかったわ」
「Alive In World OnlineがAngel In Onlineと関係あるのは少し考えれば分かる事じゃ。老い先短い命、ここで使わずして何時使う」
「もう・・・実際は良い歳なんだから大人しくしていればいいのに。相変わらずアクティブなのね。
それと、狼御前も久しぶり。まさか貴女まで居るとは思わなかったわ」
「久しぶりね、フェンリル。まぁ、ルーベット同様に私も思うところがあったから、ですね」
俺達――俺、唯姫、トリニティ、フェンリル、ローズマリー、リュナウディア、ラヴィ――は火曜都市ドンフレイムの後始末を『AliveOut』のメンバー達に任せ、一足先に木曜都市ローズブロッサムに戻って来ていた。
報告と新たに加入する七王神をクランマスターに面通しする為だ。
で、俺の複雑な思いを余所にフェンリル――親父はルーベットと狼御前と久々の挨拶を交わしていた。
信じられない事にどうやらフェンリルの中身が親父であるのには間違いがなさそうだ。
Angel Inプレイヤーであるローズマリーに加え、ルーベットや狼御前までもフェンリルの中身が男なのはAngel Inプレイヤーには周知の事実らしい。
あー、だからか。ルーベットが俺を最強の血を受け継ぎし者だなんて言ってたのは。
確かに親父がフェンリルなら七王神最強の神・巫女神フェンリルの血を受け継ぎし者になるよなぁ。
因みに親父が神秘界に居るのは、ローズマリーと同様に謎の声と共に魔法陣が現れ強制召喚されたらしい。
ただ、俺とは別口でAIWOnにダイブしていたのでそれ程混乱はなかったらしいが。
「つーか、未だに信じられん。いや、信じたくないと言った方がいいのか? 何が悲しくて父親がネカマだなんて・・・」
「あー、うん。その気持ち良く分かるよ。あそこまで立派に女をしていれば哀しくもなるよね」
そう、唯姫が言うように、親父は何処からどう見ても女なんだよな。姿形だけでなく、仕草や話し方まで全部。
その所為か、唯姫は親父に拒絶反応を示さなかった。
「そう言わないで。わたしだって好きでこの格好をしている訳じゃないのよ。どうやってもどのVRにダイブしてもこの女の姿になってしまうのよ。
後はAngel In時代の癖ね。あの時から女を演じていたから今じゃもうこの姿で男のふりは逆に違和感だらけになっちゃうのよ」
「開き直んなよ!」
「何か鈴鹿の父親?って色んな意味で凄いわね・・・」
フェンリルの中身が俺の親父としってトリニティは何重の意味でも驚いていた。
・・・いや呆れているのかもしれない。
「私もビックリ。だからなのねぇ、あの時の試練をあっさりクリアできたのも」
そう言うのはラヴィだ。
聞けば親父とラヴィは100年前に戦った事があるらしい。正確には23年前のAngel In Onlineの時だが。
「ビックリしたはこっちのセリフよ。
まさか貴女が神秘界の騎士として生きていただけでなく、鈴鹿達に協力していたとはね」
「んふふ、恋バナあるところに私在り。貴女の息子は興味深い恋バナを持ってたからね」
「以前の様にセクハラをかましてないでしょうね?」
「それは必要とあらばするわよ? ただ今のところその必要が無いからね」
親父は必要以上にラヴィに対して警戒をしている。
ただどちらかと言うと敵勢力と言うよりセクハラに対してだが。
「親父、セクハラって・・・こいつそんなに酷いのか?」
「はぁ・・・酷いなんてもんじゃないわよ。エンジェルクエストを受けにきた恋人同士に互いに嫉妬し合うように仕向けたセクハラをしていたのよ。
こいつの所為でどれだけのカップルが犠牲になった事か」
ああ、ただ恋バナを聞きたいが為じゃなく、その先を期待しているって事なのか。
確かに恋愛とエロは切っても切り離せない関係だしな。
「さて、積もる話もあろうが、まずは火曜都市ドンフレイムの報告を聞こうではないか」
ルーベットの仕切り直しにより、俺達は火曜都市――赤坂烈火と神秘界の騎士The Magician・マグガイアの報告をする。
「ふむ、火曜創造神を殺したことはまぁ仕方のない事とは言え、帰還用の魔法陣もろとも城が半壊したのは痛手だのう」
「あの、ごめんなさい」
烈火城を半壊させて原因の唯姫が申し訳なさそうに謝る。
だが、あれは仕方のない事だ。
対戦相手のマグガイアの強さは神秘界の騎士の中でも異常だったと思う。
何せ大賢神と天魔神の七王神2人分の力を有していたのだから。
それはルーベットも理解しており、唯姫には特にお咎めは無いように取り計らう。
「謝る必要はないの。七王神の力は理解しておる。それに匹敵する神秘界の騎士相手じゃ。周辺に被害が全く無いとは言えないからのう」
「寧ろあれだけの魔法戦でお城半壊で済んでいる方が十分すぎるわよ。魔法職はその気になれば町1個壊滅出来るからね」
そう言って親父が唯姫のフォローをする。
そっか、そう言えば親父は巫女神で一応魔法職でもあるんだな。魔法の威力を凄まじさを分かっているわけか。
「それに帰還魔方陣の心配はいりません。別口で確保したと言う情報が入りましたので」
「え? それマジで? 別口って言うと俺ら以外にも八天創造神と戦った奴が居るっていう事か?」
狼御前のもたらした情報に俺達は驚いた。
確か八天創造神はついこの間設立した対神部隊の俺らしか対処できないと言っていたはずだが。
それも七王神の1人・戦女神ローズマリーが居たからこその対八天創造神戦だったはず。
それはつまり俺ら以外の七王神に匹敵する戦力が居たと言う事だ。
「ええ、貴方達が戻る前に金曜創造神を倒したと連絡を受けたのよ。彼女たちは貴方方の事を聞いて会いたがってたわ。それでこちらに向かっているそうよ。
っと、彼女たちが到着したみたいね」
俺達に会いたがっている彼女たちって・・・まさか!
狼御前の話を直ぐ傍で聞いていたかのような見計らったタイミングで部屋の扉が開かれ4人の女が入ってきた。
そしてそこには見知った顔が居た。
「デュオ!」
「お姉ちゃん!」
俺達の顔を見るなりデュオは喜びの表情を見せる。
「はぁい。2人ともどうやら無事に生き延びているみたいね」
「それはこっちのセリフだよ。まさか俺達が心配で神秘界にまで来たとか言わないよな」
「お姉ちゃん、あたしを馬鹿にしすぎ。こう見えてもエンジェルクエストを攻略したA級冒険者なんだよ」
「あたし達が神秘界に来たのは別に鈴鹿達を追いかけてきた訳じゃないわよ。
鈴鹿達とは別件で来たんだけど・・・まぁ、色々あった訳よ」
別件でわざわざ神秘界にまで来る用事って何だ?
本当に色々あったみたいだな。何かデュオから苦労がにじみ出ているような気がするぞ。
そんなデュオとの再会の喜びを分かち合っていたところに連れの女性が俺にアタックを掛けてきた。
「鈴鹿! 無事なのね! 何処か怪我してない!? 無茶な事していないでしょうね!?
あぁ、唯姫ちゃんも無事に見つかったみたいで良かったわ」
その女性は俺をギュッと抱きしめたと思ったら、今度は怪我が無いか体中をべたべた触る。
そして隣に居る唯姫を見て安堵した表情を見せていた。
「って、待った待った! 何か俺達の事を知っているみたいだけど、あんた誰?」
「そ・そんな・・・鈴鹿が私の事を知らないだなんて・・・」
俺のその言葉にその女性はショックを受けてよろよろと後ずさる
「あのねベル、その姿で分かれって言う方が無理だと思うよ?」
「え~~、そこは血のなせる業で気が付いてほしかったわ・・・」
親父がベルと呼んだ女性に仕方ないだろと宥めるのだが・・・何か見たことのある光景だ。それに気になるセリフを言っていたな。「血のなせる業」って・・・まさか。
「まさかとは思っていたけど、やっぱりベルも神秘界に来たのね。こうなると他の七王神――ユニーク職たちも来てるとみていいわね」
「そうみたいね。まさかマリーまでAIWOnに来ているとは思わなかったわ」
そう言ってベルはローズマリーの方を見て久しぶりと挨拶をする。
「久しぶりですわね、ベルザさん。フェンリルさんから色々お伺いしましたが、本当に碌な事をしませんわね、Access社の幹部は。いえ、今はArcadia社の幹部でしたわ」
「私はフェルから事情を多少は聞いていたからすぐ対応出来たけど、マリーとかは大変だったでしょ?」
「ええ、いきなりでしたから。でもまぁそこはデュオさん達と出会う事が出来ましたので、それ程トラブルはありませんでしたわ」
ああ、そう言えばローズマリーが最初に神秘界で会ったのがリュナウディア含むデュオのパーティーだったっけ。
デュオもローズマリーが無事だった事を喜んでいた。
神秘界の騎士The Towerではぐれたきりだったからな。
と、そんな事より、親父の会話、ローズマリーとの親交を見るに、ベル――ベルザも七王神と思われる。
だが俺が一番気になったのは・・・
「なぁ、親父、まさかとは思うが・・・そのベルザは七王神で、お袋・・・か?」
「うーん、この姿の時はフェンリルかフェルって呼んでほしいわね。
それでベルの正体だけど、鈴鹿の言う通りよ。七王神の1人、大賢神ベルザ。そして貴方の母親よ」
「・・・・・・マジ?」
「マジマジ、大マジ」
親父の言葉に俺は開いた口が塞がらなかった。
そして隣では唯姫も驚いていた。
そりゃあそうだろう。親父だけでなくお袋までもがVRMMOで有名プレイヤーだともなれば。
しかもAIWOnで伝説とまで言われている七王神ともなれば驚くなと言う方が無理だ。
「もう、鈴鹿ったらちょっと離れただけでお母さんの顔を忘れたの?」
「いやいやいや、親父・・・じゃない、フェンリルも言っていたけど顔が全然違うから!」
聞くところによると何故かAngel In Onlineの時の身体がそのまま引き継がれているらしい。
で、当時のAngel In Onlineは身体がランダムに設定されていたらしく、現実世界と全く違う姿になっていたそうだ。
「ねぇ、ちょっと待って。一体誰が誰でどんな関係かわけわかんないんだけど。
あまりにも情報があり過ぎて一旦整理しない? 互いの持っている情報交換も必要だろうし」
あまりにも混沌になりそうな状況にトリニティが待ったをかけた。
確かにデュオの置かれている状況や目的、これまでの経緯を知っておいた方が良さそうだし、向こうも俺達の情報を聞いておいた方がいいだろう。
どうやら互いに知った顔もあるみたいだし、聞きたいことも沢山あるだろう。
「そうじゃな。無事な者の顔を見て安堵した者や、久々に会って挨拶を交わしたいところじゃが、今は互いの情報交換を優先じゃ。
特にこれからはお主らの協力が必要になる。互いの協力体制を整えねばならぬ」
ルーベットの言葉にこの場に居る全員が頷く。
確かにどんな目的があるにせよ、デュオ達の協力はこの上ない戦力になるので、互いの情報を共有するのは当然だ。
「あー・・・それでじゃな。情報を共有するのはもう1人を加えて行いたいのじゃ。
ただその者はちょっとばかり問題人物でのう」
「正確には以前はそうでしたが、今は我々『AliveOut』の協力者です。問題と言うのはその以前の行動になります」
狼御前がルーベットを捕捉するように説明するが、いまいち分からん。
前は敵、今は味方って認識でいいのか?
そんな風に解釈していると、ルーベットがこちらを見て思案顔を見せる。
「デュオはまぁ折り合いをつけておるから問題なさそうじゃが、一番心配なのはこっちじゃな」
「少なくとも今は隣にディープブルーやトリニティが居りますし、フェンリルやベルザも居ります。最悪の事態は避けられるとは思いますが」
「そうじゃな。何時までも隠し通せるわけでもないからの。
まずは話し合いの場を変えよう。付いてくるのじゃ」
ルーベットと狼御前が話し合いをした結果、取り敢えずその人物と顔合わせをすることになった。
俺達は『AliveOut』のクランマスターの部屋を出てその人物の居る所へ向かう。
・・・何かさっきの会話、まるで俺が暴れるみたいな言い方じゃないか。失礼だな。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
前言撤回。暴れそうになりました。
俺達はルーベットに連れられ都市の中心部に向かって行った。
そう、中心部――時枝城にだ。
この木曜都市ローズブロッサムの支配者・木曜創造神が居を構える城に俺達は連れられてきた。
そしてルーベット達に当の本人、木曜創造神・木原時枝に引き合わされたのだ。
「初めまして。八天創造神が1人、木曜創造神・木原時枝です」
木原時枝はストレートの長い黒髪に、スレンダーの体形をした何処にでもいるような普通の女だった。
「おい! どういう事だ、ルーベット!」
俺は怒りのあまり掴みかからんばかりにルーベットに問い詰める。
いや、我を忘れて本当に掴みかかろうとした。
それに気が付いた唯姫やトリニティが止めようとしたが、間に合わずルーベットに掴みかかる寸前、一瞬で割り込んできた親父に刀の鞘で額を小突かれ思わず尻餅をついてしまった。
「落ち着きなさい、鈴鹿。怒るのは後にしてまずは話を聞いてから、でしょ。
まぁ、わたしも色々言いたい事ことがあるけどね。まさか八天創造神と『AliveOut』が繋がってたなんて思いもしないわよ」
「そうじゃな。お主らの言いたいことも分かる。じゃがこれもまた現実じゃ。
『AliveOut』の設立には木原の協力も絡んでおるのじゃ」
「なるほどね。つまり榊原源次郎と同じく彼らを裏切った、って事なのね」
それまで黙って見ていたお袋が木原を見てそう言ってくる。
榊原源次郎ってどこかで聞いた名前だな。誰だ?
「榊原源次郎、Angel In Onlineの最高責任者で、天と地を支える世界では裏切りの神と呼ばれる八天創造神の1人よ」
親父が俺の疑問を読んだかのように捕捉してくる。
「私は裏切った、と言うにはまた違うけど、陽菜たちから見ればそう見えるかもね」
裏切ったと言う言葉に木原は自虐的に笑いながら答えてくる。
八天創造神と言う事で自分の欲望を叶える為に傲慢な振る舞いを行う人物を想像していただけに、今の木原の様子は拍子抜けするものがあった。
だからと言って唯姫があんな目に遭った原因を許すわけじゃない。
「さて、何から話しましょうか」
「全部よ。貴女達が立てた計画、これまでの経緯、そしてこれからの目的、全部話してもらうわ」
親父が有無を言わせぬ威圧的な態度で木原に話せと命ずる。
無論、親父の態度に誰も咎める者はいない。
「そうね、何処から話しましょうか・・・
事の発端はある研究者が発表した理論が始まりね。今から約50年以上も前に発表されたその理論はあまりにも突拍子過ぎて誰も相手にされなかった。けど私達7人――後のAccess社の幹部でありArcadia社の幹部、そして八天創造神と呼ばれる者達はそれを信じ、それに希望を見出した。
その理論の名は【肉体と魂を構成する原理と構造についての考察】、通称、魂魄理論よ」
「その理論によれば、肉体の遺伝子にヒトゲノムがあるように魂にも遺伝子――ソウルゲノムが存在し、それを完全に解析することで不老不死にさえ可能と言われている、でしょ?
わたし達もそこまでは調べたわ。あまりに突拍子過ぎて信憑性が無かったけど、これで裏を取れたわね」
親父がその魂魄理論の概要を説明したが、流石に突拍子過ぎていまいち理解が追いつかない。
ソウルゲノムによる不老不死? マジか。そんなオカルトを信じたって言うのかこいつらは。
そう言えば火曜創造神も言っていたな。つーことはマジで信じているのか・・・
「そうね。彼女の言う通り、その理論は不老不死の可能性を見出していたわ。
そしてその理論を実証しようと、私達はある計画を立ち上げたわ。その名も神プロジェクト。その第一段階が―――」
「Angel In Onlineって訳ね」
お袋が怒りを滲ませながら言葉を口にする。
ローズマリーも言葉を発しないが、それでも怒りを顕わにしているのが見て取れる。
ルーベットと狼御前も木原と協力関係にある為、親父たちほどではないが、明らかに面白くない顔をしていた。
そして神プロジェクトの第一段階である内容はVRMMO-RPG「Angel In Online」のデスゲームによる魂魄データの収集だ。
魂魄理論によると目に見えない魂魄のデータを取るには人に死が訪れる瞬間に発せられるエネルギーを観測することで得られると言う。
観測を行なおうとすれば必然的に人の死が必要になってくる。当然人体実験などできるはずもない。
そこで考えられたのが観測を容易に行いながら死を与えることの出来るVRによるデスゲームだ。
生命維持装置と言う名目の裏には死を与える装置の役割があり、またその装置が観測の役割も持つVR機を開発し、そのVR機を広めるために幾つかのタイトルのVRMMOを作り、世界に広めていった。
そして満を期してAngel In Onlineを世に送り出し、デスゲームを開始した。
その結果、大量の死者をだし膨大な魂魄データを観測できたと言う。
当然デスゲームで大量の使者を出すので運営――Access社に責任を問われるので、外部からAIのクオリティを上げる名目で榊原源次郎を招き、最高責任者に据えスケープゴートにした。
その結果、思惑通り榊原源次郎は責任を問われて今は刑務所で服役しているらしい。
「何度思い出しても気分が悪くなる話ですわね」
「あの当時は生き残るのに必死で、生き残った後が一番辛かったわね。現実世界に帰還して大勢の人が亡くなったのが目の当たりにしたわけだし」
ローズマリーとお袋は当時を思い出しながら辛い表情をしていた。
親父も辛い思いをしているのだろうが、今は毅然とした態度で木原に話の続きを促す。
「そして集めた魂魄データを解析し、23年の月日を経て計画は第二段階へ進んだのね」
「そうよ。計画の第二段階、Alive In World Onlineによる人口魂魄の生成及び魂魄のブラックボックスの解析、そしてそれに伴う私たちが神として君臨する新たな世界の創造」
Angel In Onlineで培ったAI技術と解析した魂魄データを用いてAlive In World OnlineのNPC――つまり天地人を作り、エンジェルクエストと言う名目で天地人のAIレベルを魂魄まで昇華させ魂を作り上げる。
そして報酬として用意した神秘界に招いて、その魂を改正期しながら最終的には神秘界に注ぎ現実世界とは独立した新たな世界を築く計画らしい。と言うか、もう新たな世界・神秘界として確立していると言う。
「当然最初の頃はただの電子データの塊でしかなかった神秘界は、魂にまで昇華した天地人や異世界人の魂を注ぎこむことで電子とも霊子とも言える、言わば電霊子で構成された世界になったわ。
もう現実世界でAlive In World Onlineのサーバーの電源を止めてもこの世界は変わらず存在し続けることになるわ」
・・・マジか? サーバーの電源を切ってもゲームが終わらない、と言うか、神秘界が存続しつづけるって・・・本当に新しい世界を創ったって・・・それってマジで神の所業じゃねぇか。
「異世界人が神秘界に来ることで現実世界の体が抜け殻になるのは、魂魄理論を使った離魂ね。言わば幽体離脱みたいなもの。
それもAngel In Onlineの時の魂魄データを解析した結果、でもあるのね」
「流石に天地人の人口魂魄だけじゃ神秘界を安定させられないからね。
VRMMOとして異世界人を招き、本物の魂を捧げる必要があったのよ」
天地人で魂魄生成の実験をしつつ、異世界人で本物の魂魄を解析しながら神秘界に世界の命を吹き込んでいたわけか。
ちっ、実に一石二鳥・三鳥の合理的な計画だな。
「そして計画の第三段階、神秘界が安定し後は念願の不老不死の為の研究を成功させること。
但し、これは八天創造神が全員で協力するのではなく、各々で研究を進める言うものよ。
中には自分の思い通りになる神秘界を支配する事に夢中で不老不死の研究はそっちのけの創造神もいるけどね」
あー、あのクソ土曜創造神みたいな奴か。
そりゃあ自分の思い通りになる世界があれば欲望に走る奴が居てもおかしくは無いか。
「計画は大詰めよ。特に日曜創造神――日輪陽菜や月曜創造神――藤見月夜は本気で不老不死を狙っているわ。
魂魄データは9割がた解析出来ているけど、残りの1割――不老不死の法だけはまだ分からないのよ。
多分これからも多くの人の魂が使われることになるわ」
「ふざけんな! そんな事を許せるわけねぇだろ! 今でさえ大勢の魂が弄ばれてそれを見逃せって言うのかよ!」
「だったら止めて見なさい。少なくとも貴方達にはその力があるのでしょう?」
俺の憤りに木原は挑戦的に言い放つ。
出来るものならやって見ろとばかりに。
「言われなくても止めてやるよ。そう言うてめぇは何をしているんだよ。てめぇらが元凶だろう。自分で蒔いた種を人に任せているんじゃねぇよ。
そもそも俺はてめぇも討伐の対象なんだぜ。てめぇらが唯姫にしたことは俺は絶対にゆるさねぇ・・・!」
無責任な物言いに俺は怒りをぶちまけ、他の創造神じゃない、木原も殺すと言っているのに当の本人は涼しい顔で俺を見ている。
「・・・いいわ。貴方が望むなら私の命を貴方に差し上げるわ。でもそれは全てが終わってから。
それまでは私の命はお預けよ。私は逃げも隠れもしない。ずっとここに居るわ」
「それを信じろって言うのか?」
「さぁ? 信じる信じないは貴方の自由よ。今ここで私の命を奪ってもいいわ。但し、最後まで責任を持ち全てを終わらせること。
当然そこまで啖呵を切るんだから出来ないとは言わせないわよ」
木原の鋭い視線が俺を突き刺す。
俺はその冷たい視線に負けじと見つめ返すが、その視線は冷たいと言うよりもどこか乾いているようにも感じた。
「・・・いいぜ。俺が全部終わらせてやるよ。お前ら八天創造神の野望を打ち砕いて。
そして最後にはお前を倒す。お前の命で罪を償ってもらう。それまで首を洗って待っていろ」
「分かったわ。待っている。その日が来るのを」
次回更新は12/23になります。




