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Alive In World Online  作者: 一狼
第12章 The Magician
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62.魔術師と八翼と双刀の巫女

「ったく、何処をほっつき歩いていたんだか。貴様も俺様の神秘界の騎士(アルカナナイト)なら仕事をしろ、仕事を」


「これは心外な。ちゃんと仕事はこなしてますよ、マイマスター。

 マイマスターの側を離れてたのはゴミ掃除をしてきたのですよ」


 俺達の存在を無視して火曜創造神とThe Magicianは会話を交わす。

 The Magicianが入り口に現れたことによって退路を断たれ、実験室に閉じ込められた形になった。


 背後のThe Magicianを警戒して最後尾のトリニティとリュナウディアがそちらを向き、それぞれ剣と拳を構える。

 俺と唯姫とローズマリーは前方の火曜創造神から目を離さずに警戒を最大にする。


「だったら残りの仕事もちゃんとしな。そいつらを片付けておけ。ああ、そこの異世界人(プレイヤー)3人は生きたままにしておけよ」


「了解しました。

 さて、そう言う訳で、貴方方の相手は私が致します。流石にここで暴れられるとマイマスターに怒られますので、場所を変えさせていただきます」


 火曜創造神から俺達の相手を任されたThe Magicianはおもむろに杖を振りかざす。


「チェンジオブクレスト」


 すると俺達を囲むように正方形の光の格子が現れ、気が付けば一瞬で外に居た。

 慌てて周囲を確認すれば、そこは烈火城の外の中庭らしき場所だった。


「なっ!?」


「嘘・・・時空魔法!?」


「ここなら幾ら暴れても構いませんので。」


 驚く俺達を余所にThe Magicianは平然と言ってのける。


 テレポート系等の魔法は時空魔法に属しており、その魔法が使えるのはAIWOn(アイヲン)に於いて2人しか存在しないはず。

 1人は七王神の時空神であり、もう1人はその七王神の力を使う事の出来るデュオの兄貴である『正躰不明の使徒』ソロだ。


「どういう、事だ?」


「どういう事、とは?」


「てめぇが、時空魔法を使える事だよ」


「ああ、その事ですか。そうですね、改めて自己紹介をしましょう。

 私はマイマスター――火曜創造神様付きの神秘界の騎士(アルカナナイト)・The Magicianのマグガイア。

 The Magicianの名の示す通り、私の力は魔法に特化しています。

 その力は七王神の究極の魔力を操り大魔法を使った天魔神とあらゆる魔法の知識をその身に収めた大賢神の2人の力を有していると思って差し支えありません」


 おいおい、七王神の力が2人分もあるだと? 冗談も大概にしろよ。

 明らかに神秘界の騎士(アルカナナイト)の力を超えているじゃねぇか。


「その2つの力を使えば全てとは言いませんが、時空魔法を使う事も可能です」


 おまけに時空神の力も一部可能ときたもんだ。

 はっきり言って無理ゲーに近いぞ、これ。

 唯一の対策としては、奴が魔法特化と言う事は接近戦などの物理攻撃が有効か?


「お前には我々の仲間が当たっていたはずだ。彼らはどうした」


 どう対策を取るか悩んでいると、リュナウディアがマグガイアに向かって尋ねる。

 そう言えばThe Magicianには攻略部隊が当たる手はずだったはず。

 だが、マグガイアがここに居ると言う事は・・・


「ああ、彼らは貴女のお仲間でしたか。キッチリと掃除をさせて頂きましたよ。

 そうそう、こそこそ動き回っていた鼠も居たのでそちらも掃除をさせて頂きました」


 そう言えばこいつ、火曜創造神にゴミ掃除をしてきたと言ってたが、攻略部隊の事を言ってたのか。

 って、こそこそ動き回っていた鼠って・・・


鼠人(ラトス)の事か!?」


「ええ、そうですよ。私の仕事はマイマスターの邪魔をさせない事です。こそこそ動き回れては迷惑なのですよ」


 俺の脳裏には最後に別れた鼠人(ラトス)の彼女の顔が浮かんでいた。

 たった数分しか会っていないのだが、それでも俺達を万全に戦わせるためにその身を挺して道案内をしてくれた彼女の顔が忘れられなかった。


 彼女もまた、火曜創造神に恋人を殺され復讐にその身を投じた1人だった。

 それがこうもあっさりと。


 そしてその事に怒りを覚えたのは当然俺達より仲間の時期が長いリュナウディアだった。


「ならば、仲間の敵は私が討とう」


 そう言ってリュナウディアは拳を構える。

 だが、それに待ったを掛けたのは唯姫だった。


「リュナちゃん。その役、あたしに譲ってくれない?」


「ディープブルー・・・しかし」


「リンガン達の敵はあたしにとっても同じよ」


 そうか。唯姫も決して短くない期間『AliveOut』に所属していたんだ。マグガイアにやられた者達に仲間意識があって当然か。


「それにあたし達の目的は火曜創造神よ。ここで神秘界の騎士(アルカナナイト)如きに手間を取られるわけにはいかないわ。

 それとこれは個人的理由だけど、相手が魔術師(ソーサラー)ならあたしは負けない。魔法戦であたしに敵う敵はいないわ」


 それは魔術師(ソーサラー)としてのプライドだろう。

 まぁ実際、唯姫よりも上の魔法戦の達人は数人いるだろうが。デュオとか。


「待て、唯姫。駄目だ、お前1人にそんな事はさせられない」


 だが俺は認めない。唯姫1人で神秘界の騎士(アルカナナイト)と戦うなど。

 唯姫の実力を認めないわけじゃないが、俺が心配なのはこれが再起戦だと言う事だ。

 火曜都市に向かう道中もモンスターとの戦闘は無かったわけではないが、それはほぼ唯姫の手を煩わせるまでも無い戦闘だった。

 それがあんなことが起きてからの本格的な戦闘だ。まともに戦えるのかすら怪しい。

 下手をすれば恐縮してその身に再び被害が及ぼさないとも限らない。


 それ以前に複数で当たる神秘界の騎士(アルカナナイト)に1人で挑むなんて無謀すぎる。

 実際にマグガイアを担当するはずだった数人の『AliveOut』のメンバーが犠牲になっている。


「お願い、あたしに任せて欲しいの。これはあたしが前のあたしを乗り越える為の戦いでもあるの。

 それにそんなに心配しなくても大丈夫よ。あたしの二つ名『八翼』は伊達じゃないのよ。

 ・・・幸か不幸か、この身になって新しい力も手に入れたからね」


 そんな俺の心配を余所に、唯姫は自信満々で言い切った。


 前の自分を乗り越える戦い・・・以前負けたことによって自分の身に起きた心的外傷(トラウマ)を乗り越えると言う意味なのだろうか。

 それに新しい力・・・? そんなそぶりは無かったんだが、こうも自信満々であるのならそれ程の力を手に入れたと言う事か?


「そんなに心配ならあたしも手伝うわよ。あたしはどちらかと言うとサポート向きだし、ガチの戦闘にはならないからこの後の火曜創造神戦にも影響はないからね」


 そう言ってトリニティがショートソードを構え、唯姫の隣に並ぶ。


「あら、トリニティちゃんが一緒だと心強いわね」


「ユキばかりに活躍されるわけにはいかないんで」


「あら、そんなつもりは無かったんだけど・・・言われてみればそうね。結構なアピールになってたかも」


 えーと・・・あれ? さっきまでのシリアスな空気は何? 何か別の次元で争ってませんか? お二人さん。


「・・・分かった。リンガン達の仇を私の分まで頼む」


 リュナウディアは渋々ながら唯姫の提案を飲み、拳を収めた。


「任せてよ。鈴くんもあたしの力をその目で見ていてね! あたしだってただ鈴くんに連れて行ってもらうだけのお荷物じゃないんだから!」


 いや、そんなことは思っていないんだが・・・

 どうやら思っていたより唯姫は俺の負担になっていると感じていたらしい。

 この戦いはこれから自分も戦力になるとのアピールでもあるわけか。


 渋々ながらも俺もトリニティのサポート付きで唯姫の対The Magician戦を認めた。

 但し少しでもピンチになったら助太刀すると言う条件付きでだ。




◇ ◆ ◇ ◆ ◇



「高速詠唱プログラム展開、並列詠唱プログラム展開、八属性詠唱意思構築、

 ――『八翼』起動!!」


 唯姫の掛け声と共に唯姫の背中に菱形の一角を伸ばした8つの光の翼が広がる。

 左右に4つの4対8翼だ。

 光りの翼はそれぞれ赤・青・緑・茶・白・黄・紫・金の色を放っている。


「って、何だあれ」


「おや、鈴鹿は知らないのか? あれはディープブルーの二つ名の由来になったディープブルーのオリジナル『八翼』だ」


 いや、それは見れば分かるんだが・・・

 要はあれが何なのか、何の意味があるのか知りたいんだが。


 俺の言いたいことが分かったのか、リュナウディアはそのまま唯姫の『八翼』を説明してくる。


「ディープブルーはあの『八翼』を展開することによって8属性の魔法を無詠唱で複数同時に放つことが出来るのだ」


「は? 8属性複数同時に無詠唱!?」


「あの光の翼1つ1つがそれぞれ各属性の呪文詠唱を負担しているそうだ。それによりディープブルー本人は詠唱を省略している。

 こと魔法戦に於いては『八翼』を起動したディープブルーに敵う者はほぼいないだろうな」


 確かにこれは魔術師(ソーサラー)としてのプライドが掛かっているな。


「面白い魔法の使い方ですわね。詠唱破棄や魔法の複数同時仕様なんてベルザさんやフェンリルさんのような方たちの専売特許だと思ってましたわ」


「ディープブルーの場合は高速思考(ハイシンク)並列意思(パラレルリンク)の2つの祝福(ギフト)を持っているそうだ」


2つの祝福を受けし者(ダブルギフトホルダー)だと!?」


「そうだ。だが高速思考(ハイシンク)はD級、並列意思(パラレルリンク)はC級と個々では大したことの無い祝福(ギフト)だ。

 しかしディープブルーはこの2つを組み合わせることであの『八翼』を生み出したそうだ」


 あー、確かに聞いた感じじゃその2つとも大したことの無さそうな祝福(ギフト)だな。でも2つの祝福を受けし者(ダブルギフトホルダー)だからこそその2つを掛け合わせ新たな力を生み出したと言う訳か。


「ほう、面白いですね。これは少しはやり応えがありそうです」


「その余裕ぶった態度を直ぐに変えさせて上げるわ。

 バインド!

 ウォーターボール!

 ブリザード!」


 土属性魔法の束縛魔法で地面から生えた蔦にマグガイアは身動きを封じられ、水属性魔法の水球で蔦やマグガイアを濡らし、氷属性の氷雪で蔦ごとマグガイアを凍らせ動きを封じる。


「サンダーストーム!」


 凍らせると同時に伝導率を上げた事で雷の威力が増し、放った雷属性魔法の雷の嵐がマグガイアを襲う。


「これは私に劣らず魔法の速度・威力共に見事ですね。それに魔法の使い方も工夫しています」


 だが雷の嵐が収まったそこには無傷のマグガイアが佇んでいた。


「そっちこそThe Magicianの名は伊達じゃないわね。

 小規模のファイヤーブラストで氷を溶かしつつバインドを焼き斬り、サンダーストームはパラライズミストで雷の通り道を作って直撃を避ける」


「ほう、よく分かりましたね」


「見れば分かるわよ」


 すまん、俺にはよく分からなかった。

 唯姫が複数の魔法を放ったところまでは分かったんだが、マグガイアがどうやって防いだのかは雷の嵐によって見えなかったんだよ。

 つーか、唯姫は良く分かったな。


「さて、小手調べはここまでにしましょう」


 マグガイアは両手を広げ杖を掲げる。


「そうね。ここからは全力で行かせてもらうわ」


 唯姫も応えるように杖をマグガイアに向けて背中の『八翼』を瞬かせる。


「鈴鹿、離れていた方がいい。魔法戦は範囲が広いからな」


「お、おう」


 俺はリュナウディアに促されローズマリーと共に中庭の端の方へと避難する。

 って、そう言えばトリニティは・・・


「短剣戦技・バックスタブ!」


 いつの間に回り込んでいたのか、マグガイアの背後から短剣戦技の刺突技を放っていた。

 しかもこれから本気を出そうと互いに意識を切り替えようとした絶妙のタイミングだ。


「マテリアルプチシールド」


 だがそれを読んでいたのか、マグガイアは小さな複数のマテリアルシールドを背後に展開してトリニティの刺突を防ぐ。

 そしてトリニティも防がれることが前提だったのか、すぐさま次の行動に入っていた。


 背中への刺突から回転しながら足下の斬撃へ切り替え、その回転の力を以ってロープをマグガイアへ絡みつかせる。


「ルフ=グランド縄剣流・天地縛斬!」


「エネルギージャベリン!」


 トリニティの斬撃が足下に到達する瞬間、マグガイアの真上から真下に無属性魔法の槍を突き刺しトリニティの斬撃を迎撃する。

 トリニティは慌ててショートソードを引っ込めその場を離れる。

 ついでにスレスレにエネルギージャベリンを放つことにより絡みついたロープをも斬っていた。


 トリニティの奇襲は失敗した訳だが、キッチリとマグガイアに隙を与えた。

 無論、唯姫はその隙を見逃さない。


「レイブラスト!

 ストーンブラスト!

 ファイヤーブラスト!」


 ユキは光属性魔法の幾つもの閃光弾、土属性魔法の石飛礫、火属性魔法の範囲火炎をそれぞれ右から回り込むように放つ。

 マグガイアはそれをことも無く冷静に相殺していく。


 だが唯姫の狙いは別にあった。

 離れたところから見ている俺達には分かったが、その場の中心にいるマグガイアは影が差すまで気が付かなかった。

 唯姫は正面から魔法を放つことによって意識を唯姫の方に向けさせていた。

 そしてマグガイアの頭上から落ちてくる巨大な岩石がマグガイアを叩き潰す。


 トリニティがマグガイアを奇襲した隙に、土属性魔法のロックブレイカーでマグガイアの頭上に出現させていたのだ。


 これで決まってくれれば御の字なのだが・・・やはり神秘界の騎士(アルカナナイト)はそう甘くない。


「レイブラスト!」


 何故か真っ二つに割れた岩石からマグガイアが唯姫に向かってお返しとばかりに同じ光属性魔法のレイブラストを放つ。

 数も威力もお前とは違うぞと見せつけんばかりに。


「ウォーターボール・プリズム」


 唯姫は2つの水球をレンズ状に展開し、マグガイアの放つ閃光弾を歪め躱す。

 互いに微笑みながらも次なる手を打つべく魔法を放つ。


 接近戦の戦闘狂(バトルジャンキー)はよく見るが、魔法戦の魔法狂(マジックジャンキー)はあまり見ないよなぁ。

 多分だが、互いの魔法戦は無詠唱による高速戦闘になる為、上手く噛み合ってしまっているのだろう。

 それにより、気分が高揚しているのかもしれない。


 唯姫やマグガイアの笑いは心底楽しそうに見えるよ。




◇ ◆ ◇ ◆ ◇


 魔法戦らしからぬ高速戦闘をする中で、次第に差が出始めてきた。

 どっしり構えた威力砲台を髣髴させるマグガイアに対し、唯姫は常に動き回る移動砲台のように攻撃を仕掛けているが、どちらかと言うと、マグガイアの攻撃を相殺しきれずに移動し続けなければならなかったのだ。


 トリニティのサポートで何とか持ちこたえてはいるが、次第に押され始め防御に回る回数が多くなってきていた。

 これはヤバいか?と思い始めた矢先、マグガイアの土属性魔法が飛んできた。


「ゲヘナストーン!」


 巨大な六角柱の石柱が唯姫を目がけて飛んでくる。

 だがこれは躱せない攻撃じゃない。と思っていたのだが、唯姫の背後にはトリニティが居た。

 マグガイアが上手く誘導して唯姫とトリニティを直線状に並ぶようにしたのだ。


 勿論トリニティもこの程度の攻撃は躱せるのだが、唯姫は一瞬後ろのトリニティに気を取られてしまい、躱すタイミングを逃してしまった。


 流石にこれは黙って見てられないと駆け出そうとした瞬間、唯姫はおもむろに右手を振り上げ巨大な六角石柱を叩き落とした。


「はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!? なんだ、それっ!?」


 これには俺だけじゃなく、一緒に見ていたリュナウディアやローズマリーも驚いていた。


 そして唯姫はそのまま石柱を駆け上り、宙に身を晒す。

 勢い任せに宙に身を晒した唯姫だが、これは失敗したと言わざるを得ない。流石に空中では身動きが取れずいい的になるからだ。

 これを好機ととらえたマグガイアは幾つもの風属性魔法の風の槍を放つ。


「ウインドランス・ブースト!」


 だが、空中では身動きが取れないはずの唯姫は文字通り空を駆け風の槍を躱す。


 って、何なんだ、あれ!? ジャンプ戦技の多段ジャンプじゃないぞ!? マジで空中を疾走しているぞ!?


 そしてそのままマグガイアの頭上を取り、お返しとばかりに数本の風の槍を撃ち落とす。


「ちぃ! マジックシールド!」


 無属性魔法の魔法防御盾を頭上に展開し風の槍を防ぐマグガイア。

 唯姫はそのまま空中を駆け、マグガイアの背後を取る。

 唯姫の着地を狙いマグガイアは追撃の魔法を放つ。


「バーストフレア!」


 火属性魔法の空間一点圧縮型魔法だ。

 唯姫の着地点に赤い光が集い圧縮され、一気に解放し爆炎を周囲に撒き散らす。


炎纏装(フレアジャケット)


 だがその炎は唯姫の纏った炎纏装(フレアジャケット)に無効化され、逆に強化された火属性魔法がマグガイアを襲う。


「・・・なぁ、あれって完全に祝福(ギフト)炎纏装(フレアジャケット)だよな?」


「そうだな。私にもそう見える」


「・・・もしかしてさっきのゲヘナストーンを殴り落とした怪力も、空を走ったのも祝福(ギフト)だったりするのか?」


「多分、C級の怪力(ストレングス)とB級の天駆(スカイウォーク)だろうな」


「・・・これって、3つの祝福を受けし者トリプルギフトホルダーとかを完全に超えてるんじゃないのか?」


「・・・そうだな」


 あまりの光景に俺とリュナウディアは言葉を失っていた。

 ローズマリーは突然AIWOn(アイヲン)に連れてこられた所為か、祝福(ギフト)について良く分かっていなかったが。


 あっ! これが唯姫の言っていた手に入れた新しい力、なのか!?


 よく見れば唯姫の右手首に2つ、左手首に1つ、右足の(くるぶし)に2つ、左足の踝に1つの小さな魔法陣が灯っていた。

 そう、あまりにも自然過ぎて忘れていたが唯姫の手足は自動義肢(オートピュレーター)だ。その自動義肢(オートピュレーター)何らかの仕掛けがあってもおかしくない。

 例えば複数の祝福(ギフト)が使えるようになるとか。


 とは言え、複数の祝福(ギフト)を使っても、マグワイアとようやく互角に戦えると言った具合になっていた。

 七王神の天魔神と大賢神の力を併せ持つ神秘界の騎士(アルカナナイト)と言うだけのことはあるらしい。


 確か、天魔神は極大魔力とか言う力を有していると聞いた事がある。今は互角に持ち直したが、持久戦になると唯姫に勝ち目が無くなる。

 それを一番よく知る唯姫は、ここで更なる攻勢に出ることにした。


「鈴くん、ちょっと無茶をするから後の事はお願い」


 トリニティに牽制をしてもらい、一度俺達の近くまで下がった唯姫はそんな事を俺にお願いして来た。


 待て、無茶をするくらいなら俺が出る。


 と、俺がそう言う前に唯姫は再び戦場へと身を投じた。


天元突破(リミットブレイク)! 魔力増幅(マジックブースト)!」


 唯姫の右足踝と左手首に追加で小さな魔方陣が1つずつ灯る。

 次の瞬間、俺にも分かるくらい唯姫の魔力が膨れ上がった。


 唯姫の様子が変わったことを察知したトリニティは牽制をしながら素早くマグガイアから距離を取り、唯姫の魔法の援護をする。


「バーニングフレア!!!」


 唯姫の放った火属性魔法は火曜都市にもう1つの太陽を生んだ。

 あまりの火力に一瞬光に飲まれ、周囲を真っ白に塗り潰す。


 光が収まると、そこにはガラス状に溶けたすり鉢状の中庭と、半壊した烈火城があった。


「とんでもない威力ですわね。まるで火属性魔法の最高位・天空の劫火ソレイユですわ」


 七王神であるローズマリーが言うほどだ。唯姫が放ったバーストフレアは途轍もない威力を発揮したのだろう。


「って、唯姫はっ!?」


 その唯姫はと言うと、地面に崩れ落ちていた。

 俺は慌てて駆け寄り唯姫を起こす。


「唯姫っ! おい、唯姫っ!」


「落ち着け、鈴鹿。気を失っているだけだ。おそらく限界以上の力を使ったのが原因だろう」


 魔法を放つ前の天元突破(リミットブレイク)が原因か。唯姫が手に入れた祝福(ギフト)の内の1つのなんだろうな。


「気を抜かないで下さい。まだ終わってませんわ」


 ローズマリーがマグガイアが居たと思われる場所を睨みつけ、盾を構えていた。

 すると烈火城が崩れて瓦礫となった山からマグガイアが半身大火傷を負った姿で這い出る。


「がはっ・・・まさか天元突破(リミットブレイク)とは・・・幾つか祝福(ギフト)を使っていたのは分かってましたが、S級の祝福(ギフト)まで持っていたとは少々侮りました」


 おいおい、まさかあれを喰らって生きているなんてあり得ないだろう。

 流石に無傷とはいかなかったみたいだが、向こうはまだやる気でいるみたいだ。


「流石にこのままただで返す訳には・・・いえ、マイマスターの良い実験材料になる事でしょう」


 そう言ってマグガイアは周囲に数十個の雷球を浮かび上がらせ俺達に向かって解き放つ。


「サンダーボール・アンリミテッドブースト」


「フルラージシールド!」


 ローズマリーが盾戦技を使い、目の前に巨大な盾を展開して雷球から俺達を守る。


「リュナウディア、唯姫を頼む!」


「おい、まさか撃って出るつもりか?」


「ああ、このままじゃ突破されてしまう。その前に何とか反撃しないと」


 マグガイアの持つ極限魔力を考えればこの豪雨のような雷球の攻撃は止まることは無いだろう。

 マグガイアが雷球で手も足も出ないと思っている今がまだ反撃するチャンスでもあるのだ。


「あら、このわたくしの力を過小評価しているのかしら?

 幾ら戦乙女(ヴァルキリー)に無い盾スキルでもわたくしの盾スキルはこの程度の攻撃は防げないことは無くってよ?」


 そう言いながらもローズマリーは巨大な盾を展開しながらも次々と盾戦技を繰り出しマグガイアの攻撃を防いでいた。


 確かに、思っていた以上にローズマリーはマグガイアの攻撃を防いでいた。

 これなら防御に徹しながら反撃のチャンスを待つ方が勝機はあるか・・・?


 だがそれはマグガイアも考えていた事で、俺がその判断を付ける前にマグガイアが仕掛けてきた。


「鈴鹿!」


 リュナウディアが唯姫を俺に押し付け突き飛ばす。

 見れば、放つ雷球の嵐はそのままにマグガイアが俺達の背後に転移し雷の槍を放っていたのだ。


 背中からまともに攻撃を受けたリュナウディアはその場に崩れ落ち、マグガイアは俺達を仕留めるべく止めの魔法を放とうとする。


「させるかぁっ!!!」


 俺は咄嗟に(またたき)で一瞬で間合いを詰め、居合を放つ。

 だが、俺が斬り裂いたマグガイアは手応えが無く、素通りする。


 しまった! 幻影(ルクスミラージュ)か!


「止めです」


 声のする方を見れば、真上にマグガイアが宙に佇んでおり、羽が生えた巨大な雷の蛇を放っていた。


「スネークボルト・ケツァルコアトル」


 ローズマリーは正面からの雷球の嵐で手がふさがっており、リュナウディアは致命傷を負って倒れている。

 俺も(またたき)を使った直後で、唯姫の元に駆けつけるには一手の差で間に合わない。


 だが、雷の蛇が俺達に降り注ぐ瞬間、俺達の間に割り込む人物が居た。


「神降し・タケミカヅチ!」


 その人物は長い黒髪をサイドテールに纏め、左右に2本の刀を差したミニスカ巫女の女だった。

 彼女は襲い掛かる雷の蛇を頭上に掲げた掌で受け止めていた。

 それどころか雷の蛇を吸収して雷のエネルギーを己の身に纏わせていた。


「どうやらクライマックスには間に合ったようね」


 その巫女は俺を見てニッコリと微笑みかける。


 俺はその巫女に見覚えがあった。

 そう、俺を付け狙っていたあの巫女スケルトンロードに。


 だが違う。奴はスケルトンであるが故、生きた人間の気配(オーラ)はないが、今目の前に居る巫女には明らかに生者の気配(オーラ)がある。

 それも途轍もない強者の気配(オーラ)が。


「・・・あんた、何者だ?」


「わたしは通りすがりの流離(さすらい)の巫女・フェルよ」


 そう言って、その巫女――フェルは何故かドヤ顔を決めていた。









次回更新は10/29になります。

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