61.火曜都市と烈火神軍と火曜創造神
「え? リュナウディアってリュデオの従妹なのか?」
「うむ、そうだ。リュデオの奴は元気でやっているか?」
火曜創造神攻略の為、対神部隊に組まれた竜人のリュナウディアと簡単な自己紹介を済ませたのだが、そこで話題に出たのが同じ竜人と言う事で『災厄の使徒』との戦いで共に戦った戦友のリュデオだったんだが、どうやら従妹同士らしかった。
リュナウディアはリュデオより3つ年上で、リュデオと同じように女性ながら武者修行の旅に出ていたのだと言う。
その為に冒険者として活動し仲間と共にエンジェルクエストをクリアしたのだが、現在はこうして神秘界に捕らわれの身だ。
「あー、元気元気。今も元気に武者修行の旅をしているんじゃないのか?」
「武者修行だと? 族長の後継者でありながら何をやっているんだ、あいつ・・・」
「え? リュデオってもしかして竜人のお偉いさんなのか?」
「ああ、竜の里を総べる紅玉族の族長の長子だ。次期族長でもある。
なのに武者修行の旅などと・・・まったく、己の身に何かあったらどうすると言うんだ」
「・・・いや、リュナウディアが言っても説得力ないよな、それ」
族長の息子・リュデオの従妹と言う事は、リュナウディア自身もお姫様に準ずる身分だと言う事だ。
おそらくだが、リュデオはリュナウディアを見て同じように武者修行の旅に出たんじゃないかなぁー
「それよりも、お姉ちゃんが一緒だったって言う方が凄く気になるんだけど」
「うむ、木曜都市に来る途中までは一緒だったんだが・・・塔に捉われてそのままはぐれてしまった。
ローズマリー殿と私は無事に脱出できたのだが、デュオ達は行方不明だ」
そして驚いたことに、リュナウディアはデュオ達とも面識があった。それもこの神秘界で。
リュナウディアは七曜都市の南方にあるエンパレス山、そこに居を置く神秘界の騎士のThe Empressを攻略していたのだが、そこへ現れたのがデュオ達だと言う事だ。おまけに何故かスノウまでも一緒だったと言う。
一体全体何がどうなっているのやら。
そしてデュオ達の協力の元、The Empressを攻略してクラン『AliveOut』への加入を誘い、拠点の木曜都市へ帰還中に神秘界の騎士のThe Towerの塔に捉われたのだと言う。
そしてその帰還の途中で七王神のローズマリーと出会ったと。
どうもThe Towerの目的はローズマリーだったらしく、付随していたデュオ達は閉じ込められた塔で分断された。
リュナウディアはその時に一緒に閉じ込められていたローズマリーとThe Towerを倒して塔を脱出したと言う事だ。
脱出した後は塔は消え失せ、デュオ達は現在行方不明になっている。
「トリニティ・・・」
ただでさえ天と地を支える世界――Alive In World Onlineの真実を知って衝撃を受けている所へ、姉の消息不明を告げられ更なる動揺がトリニティを襲う。
「大丈夫よ、鈴鹿。確かにお姉ちゃんは心配だけど、あの『鮮血の魔女』デュオよ。心配しないでも近いうちにお姉ちゃんを中心とした活躍が聞こえてくるわよ。鈴鹿に負けず劣らずね」
「おい、俺は好き好んで騒動を起こした覚えはないぞ? でもまぁ、デュオも最近は騒動に巻き込まれっぱなしみたいだから、その内無事の知らせが届くか」
「そうそう。だってあたしのお姉ちゃんだもの」
そう言ってトリニティははにかみながら笑う。そして少しばかり意を決意したように俺に次のように告げる。
「・・・あと、心配かけてごめんね。あたしは大丈夫だから。鈴鹿から教えてもらった事はそりゃあショックだったけど、今はそれ程不安でもないの。
あれからいろいろ考えたんだけど、何時か消えて無くなるかもしれないって言うけど、それはこれまでと何ら変わりないってね。
それと、『「生きる」使徒』の最後のセリフ覚えてる? 魂の精製とか生成とか。あれってあたし達に魂が宿っているって事よね。それって鈴鹿が言っていたデータとかと違うんじゃないかなって思うの」
そう言えば言ってたな。あの時は気にしなかったが、確かに電子構成されているこの世界に魂とか違和感だらけだ。
それがゲーム設定とか言ってしまえばそれまでだが、このAIWOnのNPC――天地人に限っては違うと言えよう。NPCにしてはあまりにも人に近すぎるのだ。
・・・もしかして魂云々も奴らArcadia社幹部の計画の一つなのか?
「良かった。トリニティちゃんも元気になって。これから一緒に旅をするのに心配だったんだよ?
でもトリニティちゃんじゃないけど、デュオちゃん達の事も心配だね」
そっか、そう言えば唯姫はデュオと面識があるんだったな。
エンジェルクエストの攻略の時に何度か協力を要請して共に戦ったらしい。
「でもそこが不思議なんだよね。お姉ちゃん達ってエンジェルクエストそんなに攻略してなかったと思ったんだけど・・・その辺りの事リュナウディアは何か聞いてない?」
「いや、残念だが聞いていはいないな。確かに何やらデュオ達には事情があったらしいが・・・」
神秘界に現れたデュオ達は全部で5人と1匹。
デュオ、ウィル、アルベルト、ルーナ、ソロ、スノウ。
アルベルトやルーナが居たのも驚いたが、デュオの兄である『正躰不明の使徒』ソロが居たのも驚いた。
エンジェルクエストを攻略しておらず、どういった経緯でそのメンバーで神秘界に来たのか疑問だが、少なくとも合流できればかなりの戦力強化になるだろう。
「デュオの事だから何か裏ワザ的みたいなのを使ったんだろ。
・・・って、待てよ。じゃあ何か? わざわざエンジェルクエストを攻略せずにデュオに頼めば神秘界に来れたって事か?」
唯姫があんな目に遭わずに済んだかもしれない・・・のか?
その事に思い至った俺は激しい憤りを覚える。
そして無意識に怒りの気配を周囲に撒き散らしリュナウディアを怯えさせてしまう。
「鈴鹿、落ち着いて。もしそうだとしたらお姉ちゃんはちゃんと鈴鹿にそう言うよ。
だからあたし達があった時はその裏ワザは使えなかったんだよ。多分神秘界に来れるようになったのもホントについ最近かもしれないわ」
「ねぇ、鈴くん笑って。鈴くんがあたしの為に怒ってくれるのは嬉しいけど、いつも怒りっぱなしの鈴くんは見ていて哀しいよ」
慣れているのか、付き合いが長いからなのか、俺の怒りの気配に当てられても平然としていたトリニティと唯姫にそれぞれ嗜められた。
「そ、そうか。ああ、くそ。最近頭に血が上りやすくなってるな・・・」
「もしかして鬼獣化の影響、かな?」
「わかんねぇ」
だがおそらく鬼獣化が原因だろう。
怒りに身を任せるのはやめた方が良さそうだ。もしかすれば飲まれる可能性がある。
そうなった場合、先の鬼獣化の事を考えればあまり想像したくないな。
何はともあれ俺達は火曜都市へと向かい、約3日ほどで到着した。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
まずは外で火曜都市に潜伏している『AliveOut』のメンバーと合流し、走竜を預けてクランメンバーの先導で都市内部へと潜入する。
途中で現地協力者と合流し、火曜都市隠れるようにして内部を移動して拠点となっている隠れ家に向かう。
その過程で火曜都市の様子を伺う事が出来たのだが・・・土曜都市もどんよりした雰囲気が蔓延していたが、ここはそれよりも殺伐した空気が広がっていた。
道行くアルカディア人は生きる希望を失ったかのように目に光を失いまるで生きる屍のように徘徊していた。
中には逆に怒りの形相に満ちた殺気を宿らせ、巡回している神軍と思しき奴らを睨んでいた。
その巡回している神軍も会話の内容も聞いていて胸糞が悪くなってくる。
「おう、聞いたか? バートンの奴この間アルカディア人を10人殺したって吹いてたぜ」
「ばっか、数じゃねぇよ。如何にして殺したか。過程が大事なんだよ、過程が」
「つーか、アルカディア人を何人殺しても自慢にならねぇよ。殺るなら異世界人だろ」
「あー、異世界人は殺される瞬間の反応が面白いんだよな」
「お前らなぁ・・・アルカディア人は兎も角、異世界人や天地人は勝手に殺すな。創造神様の大事な実験体だ。バレてお咎めくらっても知らないからな」
・・・幾らなんでも変わり過ぎだろう。
現実世界や天と地を支える世界に帰れなくなったと言っても、嬉々として人を殺す会話をしているなんてとてもじゃないがまともじゃない。
もしくは、元々快楽殺人者の素質を持っていたかだ。
おそらくそう言った輩が集中的に集まったのがこの烈火神軍なのだろう。
「何あいつら! 頭おかしいよ!」
隠れ家に入ってトリニティが最初に放った一言がそれだった。
そしてトリニティの言葉に反応したのが、この拠点に案内してくれた現地協力者――アルカディア人のブレーメンだった。
「元々トップ――火曜創造神自体がおかしい人物ですからね。奴は実験と称して人を切り刻んでいるんですよ。それも生きたまま手足を切断したり、内臓を抽出したり。そして死んだ後も解剖を行ったり、抽出した内臓を薬品に付けて保存したりと、とてもまともじゃありません」
手足を切断したとの下りで唯姫が身をすくませたので俺は傍に寄って肩を抱いて落ち着かせる。
ラヴィの治療が効いているとは言え、流石に己の身に起きたことはそう簡単には克服は出来ない。
「貴方方はあの火曜創造神を倒すために来たのですよね? お願いします! 必ずやあいつを倒してください!」
そんな唯姫の様子に気が付かず、何やら思いつめた表情で話を続けるブレーメン。
そして唐突に土下座をして火曜創造神を倒すようにお願いして来たのだ。
「ちょっ!?」
「あ、頭を上げてください」
これに驚いたのはトリニティと唯姫だ。
まさか土下座をしてまでお願いされるとは思わなかったのだろう。
だが俺はここまでするからにはそれなりに恨みがあるのだと判断し、その理由を聞いた。
「土下座をしてまで頼み込む理由があるんだな? 何があった?」
一旦顔を上げて俺の質問に再び俯いたブレーメンは振り絞るような声で語る。
「・・・俺の妻が殺された。結婚して1ヶ月もしないうちに!
俺と妻は奴の城で働いていて、たまたま妻が奴の目に止まり実験にされてしまったんだ。
それも大した理由じゃなく、ただ新妻だと言う理由だけで!
それも俺の目の前で、生きたまま切り刻まれ、妻は俺に助けを求めたが、俺は奴の不思議な力により身動きが取れず妻を見殺しにしてしまった・・・」
・・・反吐が出るな。
流石にこれには声も出ない。
見れば唯姫とトリニティとリュナウディア、そしてラヴィすらも嫌悪を顕にしていた。
ローズマリーに至っては火曜創造神の行為に怒りすら滲ませている。
「俺はその怒りが何処まで蝕むのか後で経過を見ると言われて見逃された。
その後俺は奴に仕える気がせずに奴の打倒を掲げ『AliveOut』に加わったんだ」
「分かった。お前の恨み、俺達が晴らして来てやる」
「任せてください。ローズマリーの名において火曜創造神を討ち滅ぼして差し上げますわ」
俺とローズマリーはブレーメンに火曜創造神を倒す約束をする。
唯姫とトリニティとリュナウディアも一緒に頷いていた。
その後、烈火城で働いていたブレーメンから内部の状況を聞き取り、潜入していたメンバーと合流して突入の準備を行う。
突入メンバーは当初の予定通り俺、唯姫、トリニティ、ローズマリー、リュナウディアの5名となり、ラヴィはこの隠れ家で待機だ。
火曜創造神の直近の神秘界の騎士はThe Magicianになるが、俺達が突入すると同時に、潜入している『AliveOut』のメンバーがThe Magicianを外へ連れ出し、そこへ攻略メンバーが迎え撃つ予定だ。
突入は内部との連携且つ火曜創造神の一番の隙を突くために翌朝の6時となった。
そして翌朝。
「よし、各自準備はいいな?」
それぞれ準備を終えた唯姫たちは頷く。
俺は案内者である鼠人の女性に合図を送り、彼女の先導の元、烈火城に突入した。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
潜入していた『AliveOut』のメンバーが上手くやってくれたのか、もしくは朝早い時間の為か、烈火城の中では烈火神軍の者達との鉢合わせなどは無く、問題なく火曜創造神の居る実験室へと辿り着いた。
「私の案内はここまでです。ご武運を」
そう言って鼠人の彼女は実験室へ烈火神軍が近づかないように細工を施しに向かってこの場を去る。
「よし、開けるぜ」
そう言って開けようとした俺の横を抜けて、ローズマリーが問答無用に扉を蹴り飛ばした。
ドガンッ!
「開けるなんて生ぬるいですわ」
どうやら余程火曜創造神の行為が頭に来ているらしい。
金髪縦ロールお嬢様の見た目と違ってローズマリーはかなりの激情家みたいだな。
実験室の内部は想像していた通りだった。
いや、想像以上だったと言えた。
天井からつりさげられた人体。
手足の無い者も居れば、体は捌かれ開きにされた者、上半身だけの者、首だけない体の者も居た。
人1人が入るくらいの円柱の容器に、液体に満たされた中で浮かぶ生きているか死んでいるか分からない者達。体のあちこちに穴をあけられそこからチューブが通されていた。
壁際には取り出された内臓が無造作に積み上げられては腐臭を放っている。
部屋のどの方向を見てもとても気分がいいものじゃないのは一目瞭然だ。
所謂マッドサイエンティストを表した部屋だった。
「・・・酷い」
「狂ってるな」
「・・・っ」
トリニティとリュナウディアは余りの惨状に怒りを顕わにしていた。
唯姫は自分の身に起こった事をフラッシュバックしたのか、目を背けていた。
そして俺とローズマリーはと言うと、部屋の奥、そこで俺達の侵入に気が付かず未だ実験を続けている火曜創造神を見据えていた。
そう、あれだけ派手に扉を吹き飛ばしたと言うのに、奴は平然と人を切り刻んでいるのだ。
手術台のような台に横たわる裸の女性を縦に割って中身を弄り回していた。
「こちらを向きなさい、この外道!!」
そう言いながらローズマリーは剣を抜き放ち斬撃を飛ばす。
剣戦技のエアスラッシュだ。
だが、その斬撃は火曜創造神に届く前に数秒その場に漂っていた後に消え失せた。
何だ? The Foolみたいなレベルダウンフィールドか?
攻撃を受けて、そこで初めて俺達の存在に気が付いた火曜創造神がこちらを見た。
「何だ、貴様ら。俺様の実験の邪魔をするな。
マグワイアは何処に行った。俺様の実験の邪魔をしないように誰も近づけさせるなと言ったんだがな」
「悪いけどあんたの実験はここで終わりだよ」
「Angel In Onlineでは飽き足らず、新たなゲームを作ってまでこんなことをしでかすとは・・・恥を知りなさい。
わたくしの手で引導を渡して差し上げますわ!」
「ほう・・・」
先程まで興味無さ気にこちらを見ていたのだが、何故か急にやる気を出して俺達を見据える。特にローズマリーを注視していた。
「貴様、Angel Inプレイヤーか。そこの2人も異世界人だな。
面白い。Angel Inプレイヤーはまだ解析したことは無い。どんな結果が出るか楽しみだ。
異世界人もそろそろ補充しなければと思っていたが、丁度いい」
「下らねぇ実験は終わりだって聞こえなかったか? 実験の心配よりも自分の心配をした方がいいんじゃねぇのか?」
「下らない? 下らないだと!? この崇高な実験の何処が下らないんだと言うんだっ!!
これだから無能な人間は・・・!」
唐突に怒り出した火曜創造神に反応したのは唯姫だった。
「これの何処が崇高だって言うのよ! 人の命を弄んで何様のつもり? あたし達と同じただの人間のくせして」
自分の身に起きた事を実験の犠牲となった人たちと重ねたのだろう。
しかも相手は神なんかじゃなく、俺達と同じ人間だ。
これはただの人間による犯罪行為なのだ。到底許せるものじゃなかった。
だが、火曜創造神の答えは。
「貴様こそ何を勘違いしている? 現実世界なら兎も角、ここ神秘界に於いて俺様は間違いなく『神』なのだよ。
この世界を創りあげた創造神だ。故に何をしても許されるし、俺様の行いは全てにおいて貴いものなのだ」
「ふざけないで!」
唯姫は怒りのあまり呪文を唱えて魔法を放つ。
放ったのは雷属性魔法のスネークボルトだ。
地を這うように蛇のような雷が火曜創造神に迫るが、一定の距離でその場で止まり続け、暫くすると消失してしまった。
さっきの斬撃と言い、確かに厄介な能力を有してそうだな。
良し、それなら――
「この実験が崇高なものだと言うが、俺達にも分かるように説明して欲しいもんだぜ」
「鈴くん!?」
唯姫が俺を批難の目で見てくるが、これはあくまで奴の能力をさらけ出すためのものだ。
その為に奴が興味ありそうな実験について尋ね、そこから上手く誘導しなければならない。
「ほう、貴様は俺様の実験に興味があるか。いいだろう、俺様の実験の糧になる前に聞かせてやろう。
貴様、人には魂があると思うか?」
「突然何を――」
「答えろ」
「・・・ある。この神秘界に捕らわれている状況がその証拠の1つになるんじゃないのか?」
VRギアを外した状態にも拘らず、未だに目を覚まさないプレイヤーたち。
親父や医者である綾子おばさんも魂が捕らわれているのではと言っていた事から考えて、魂は存在すると思えた。
「そう、魂は存在するのだ。そこで面白い事を考えた人物が居た。人の遺伝子――ヒトゲノムがあるように、魂にも遺伝子――ソウルゲノムがあるのではないかと。
もしそれを完全に解析出来たらどうなると思う?」
「それは――」
「そう・・・そう言う事なのですね。貴方は――貴方方は不老不死を目的としてこんなことをしでかしたのですね。Angel In Onlineの時から」
俺の答えの前にローズマリーが答える。
って・・・不老不死だと? バカな。そんなの不可能だ。
しかもそんなものの為に大勢の人を犠牲にしたのか。
「ご明察。23年前のAngel In Onlineの時の大量死で膨大な死のデータから魂の解析を行い、このAlive In World Onlineで最後の解析と次なるステージへと進んだ。
これは人類が新たな進化を遂げるための儀式なのだよ」
「そんなものの為に、皆を、大勢の人を殺したと言うの・・・」
唯姫の力ない――怒りを滲ませた呟きが響き渡る。
「これでも分からないとは・・・これだから愚物は嫌になる」
「おい、待てよ。じゃああんたのこの実験は何の意味があるんだよ。
魂の解析を行うなら現実世界じゃないと意味が無いだろ。ここは――今の俺達はデータの塊にしか過ぎないんだぞ」
「ふむ、まだ気が付かないのか? 天と地を支える世界なら兎も角、ここ神秘界はもう既に『生きた』世界だ。ただのデータの塊じゃない。
そして今ここに在る貴様らも魂を宿した身体だ」
・・・何を言っている、こいつは。
「エンジェルクエストがあっただろう。あれはデータの塊に過ぎない天地人に魂を宿らせるための試練だ。
勿論元々魂のある異世界人は神秘界に来る祭に身体に魂を宿らせるためのものでもある。ああついでに魂の純度を高める試練でもあるがな」
・・・あ、最後のクエスト、『「生きる」使徒』が言っていたのはこの事だったのか!
つまりエンジェルクエストは神秘界に誘いつつ、八天創造神に献上する魂を生成、又は精製する為のクエストだと言う事になる。
くそっ! 俺達は知らず知らずのうちに奴らの実験に協力してたと言う事か。
そしてこいつがここで行っている実験は、魂の宿った天地人や俺達異世界人の身体を物理的に解析する為のものなのか。
「分かったのなら大人しく俺様の実験の糧になれ。貴様らの献身は人類にとって進歩のための大きな一歩となろう」
いや、だからと言って大人しくやられていい理由にはなりゃしない。
そもそも人の魂を弄ぶような禁忌を黙って見過ごす訳にはいかないだろうよ。
「下らねぇな。てめぇらの誘いなんか誰が乗るか」
「そうですわ。人が人であるために貴方方の行為は見過ごせませんわ」
「あんた達がやろうとしているのはただの自惚れよ! 人は決して『神』になんかなれはしないのよ!」
「あんたが偽りの神だと言うのがよく分かったわ。『神』の名を騙るただの人間だってね!」
「お前の崇高な目的は興味は無い。ただ分かるのはお前の行為が我々の仲間の命を奪っていくと言う事だ。それは到底許せるものじゃない。
よって、この場で倒させてもらおう」
上手く火曜創造神の能力を聞き出すことが出来なかったが、これ以上こいつの言葉を聞くのは堪えがたかった。
俺はユニコハルコンを抜き、ローズマリーも背の丈もある大盾を構え、唯姫は杖を掲げる。
トリニティもロープを付けたショートソードを抜き、リュナウディアは拳を構える。
「所詮は人の枠に囚われた人間か。まぁいい。時間は十分に稼げた。さっさと仕事をしろ、マグワイア」
そう言って火曜創造神は俺達の奥――ぶち破られた扉を見ていた。
「仰せのままに。マイマスター」
そこには神秘界の騎士・The Magicianと思しき人物――身の丈もある大杖を携えた魔術師が居た。
次回更新は10/27になります。




