56.七曜都市と恋愛と神軍
神秘界には7人の八天創造神が居る。
そして1人1人それぞれが1都市を支配している。
月曜創造神の支配する都市、月曜都市ムーンカグヤ。
火曜創造神の支配する都市、火曜都市ドンフレイム。
水曜創造神の支配する都市、水曜都市ハイドロエクスト。
木曜創造神の支配する都市、木曜都市ローズブロッサム。
金曜創造神の支配する都市、金曜都市ミスリルウォール。
土曜創造神の支配する都市、土曜都市ランドバイド。
日曜創造神の支配する都市、日曜都市サンライトハート。
これらの7都市を纏めて七曜都市と呼んでいるらしい。
因みに八天なのに7人なのは、その内の1人が100年前に裏切りの神として外されているからだ。
唯姫が大量の異世界人や天地人を救出に向かった場所は土曜都市ランドバイドとの事だ。
そして俺達が今居る都市は水曜都市ハイドロエクストの郊外にある隠れ家の内の1つらしい。
日曜都市を中心として、時計回りに月曜都市・火曜都市・水曜都市・木曜都市・金曜都市・土曜都市と六角形に並んでおり、ホイルフォー山から流れるスターダスト川は水曜都市と木曜都市を横断するように流れて俺達は都市の中に流される前にラオたちに発見された。
もしあのまま水曜都市の中まで流されていると神軍に捕まって水曜創造神の支配下に置かれていたかもしれないと言う。
「神軍って?」
「神秘界の騎士とは別の力の象徴、八天創造神の直属の軍ね。
信じがたい事にその構成されている人たちは異世界人や天地人なのよ。
さっきも言ったけど、期限が切れて異世界に戻れなくなった異世界人が大半ね」
「え? ちょっと待ってよ。何で閉じ込められている人たちが八天創造神の部下なんてやってるのよ!?」
トリニティは信じられない面持ちでいたが、俺には何となくだが理解できる。
「大方異世界や天と地を支える世界に戻るより神秘界で美味い汁を吸う為に八天創造神に尻尾を振ったんだろうよ」
「ええ、まったくその通りよ。そいつらは八天創造神の権力を行使してアルカディア人や神秘界に来た何も知らない冒険者を捕まえて食い物にしているのよ」
ユリアは溜息をつきながら答える。
もしかしたらユリアの知り合いもそいつらの餌食になったのかもしれない。明らかに不快感をあらわにしていた。
「すると俺達の目的地は土曜都市で間違いないが、問題はそこに行くまでのルートだな。
『AliveOut』の救出部隊の計画を考慮するなら出来るだけ面倒は避けて行った方が良いだろう。
そうすると日曜都市を突っ切って最短距離で真っ直ぐ行った方がいいか?」
各都市との距離はそれぞれ均等になっており、歩いて約3日ほどだと言う。
水曜都市→日曜都市→土曜都市で約6日掛かる計算だ。
「いえ、そのルートはやめておいた方が良いわ。
他の都市ならいざ知らず、日曜都市は一番危険なのよ」
日曜創造神は八天創造神の中で頂点に立つ存在だけあって、日曜都市は魔窟と化しているらしい。日曜都市に行ったら2度と戻って来れないと言われているほどの。
「日曜都市にも神秘界の騎士が居るけど、攻略は一番最後だと言われているわ。それほど危険なのよ。
よって、土曜都市に向かうルートは迂回しての時計回り、木曜都市から行く形になるわね。それも出来るだけ都市に寄らない形で外側を進むから日数も10日以上は掛かるわ」
「都市と都市の間・・・日曜都市とそれぞれの都市の間を抜けていくって訳にはいかないのか?」
「出来るだけ日曜都市には近づかない方が良いのよ。何処で日曜都市の神秘界の騎士や神軍の目が光っているか分からないから」
うーむ、移動だけで10日も掛かるのか。歯痒い。
こういう時にはスノウが居れば移動もかなりの短縮になるんだがな。
「馬や走竜とか言った騎獣は居ないの?」
「騎獣は殆んど神軍に抑えられているんだ。『AliveOut』にも居ることは居るけど、数は少ないし神秘界の騎士の攻略部隊に回しているからね」
ラオは申し訳なさそうに言うが、まぁそれはそうだろうと俺は理解する。
仲間の救出も大事だが、八天創造神の力の象徴でもあり脱出のカギを握っている神秘界の騎士の攻略も大事だから戦力にもなる騎獣を集めるのは間違ってはいない。
だからと言って救出部隊を蔑ろにするのには納得いかないがな!
最終的には徒歩で外回りルートで土曜都市に向かう事に決まった。
その為に携帯食料などの消耗品の準備を済ませる。
とは言ってもこの都市の事は詳しくは無いからユリアたちにその辺は任せる。
「『AliveOut』って言ってみれば反乱軍なんだよな。よくそれで物資の補給なんかできるな」
「その辺は色々やりようがあるのよ。実際に町に住んでいるのはアルカディア人だし、全員が全員心の底から八天創造神を崇拝している訳じゃないしね」
出来るだけ神軍に見つからない様にと1日ほど時間を掛けて準備をする。
その間にラオから別の『AliveOut』のメンバーを紹介された。
まぁ、紹介されたと言うより釘を刺されたと言うべきか。
俺達の前に現れたのは釣り目の厳つい男だった。
男はこの都市の救出部隊を任される小隊長と言った立場らしい。
「お前らが外から来た冒険者か?」
「そうだが、そう言うあんたは?」
「お前らは来たばかりで何も知らないくせに余計な事はするな。今我々は仲間の救出に全力を注いでいる。余計な真似をされると邪魔なんだよ」
俺の質問は無視かよ。ああそうですか。
と言うか、全力を注いでいるのなら今すぐにでも唯姫を助けろよ。出来もしないくせにそっちこそしゃしゃり出るな。
「それはそっちの都合だろ。俺は俺の都合で動くんで」
「貴様・・・そこまで言うのなら覚悟は出来ているんだろうな。作戦を邪魔され仲間が危険にさらされるかもしれないのを黙って見過ごす訳にはいかないぞ」
男は腰に下げた剣に手を掛け今にも抜き放とうと殺気をぶつけてくる。
伊達にエンジェルクエストを攻略して神秘界に来たわけじゃないと言う事か。
「ちょっと、ギャンザさん。話が違いますよ。僕達が付いていく人物を一目見たいって話しじゃないですか。
何でいきなり剣を抜くような話になるんですか」
「ラオ、君こそ勘違いしている。私はこの男に付いて行く事に賛同したわけではないぞ。
貴重な仲間をこれ以上危険な目に遭わせようとしている輩を捕まえに来たのだ。
大人しく従えば拘束はしない。だが逆らうのであれば場合によっては・・・」
ギャンザは俺から目を離さず殺気をぶつけたままラオに説明する。
そんなラオは顔を青褪めてギャンザを見ていた。
自分が俺に付いていて事が大きくなることに気が付いたのか、それとも自分がギャンザを連れて来たことによって俺達が斬られるかもしれないと責任を感じたのか。
「俺はあんたらのクラン『AliveOut』のメンバーじゃないぜ。何であんたらの言う事を聞かなきゃならねぇんだよ。
俺はあんたらが動かねぇから自分で仲間を救出に行くって言ってんだよ」
「そうか、余程死にたいらしいな」
「そう言うてめぇもな」
ギャンザは手に掛けていた剣を抜き、正眼の構えを取る。
俺もユニコハルコンに右手を添え、居合の構えを取る。
後方ではトリニティも短剣を抜いて援護の姿勢を見せる。
ラオはギャンザの後ろで狼狽えており、ユリアは何故か俺達と並んでギャンザに敵対する意思を向けていた。
「ユリア、お前はその男に付いていくつもりか?」
「そうね。あたしは心情的には鈴鹿達に賛成なの。『AliveOut』の事情も分かるけど、流石にちんたらしすぎね。
脱出する手段を確保しても一緒に帰る仲間が居なければ何の意味も無いのよ」
「そうか、ならばお前も斬らせてもらう。外の者に唆された反逆者としてな」
それに慌てたラオはギャンザに抗議を上げる。
「ま・待って下さいよ! 何でユリアまで!」
「君も逆らうのか?」
「違う! 僕はそんなつもりじゃ・・・!」
「ならば大人しくしていろ」
そう言われて口を噤んでしまうラオ。
と言うか、実質3対1なのに余裕を見せているギャンザはそれほどの実力者なのか。
俺は警戒を怠らずギャンザを観察する。
こうしてラオやユリアと話をしつつも僅かな動きも見逃さないよう俺から目を離さずにいる姿を見れば、確かにかなりの実力者なのだろう。
俺としては『AliveOut』のメンバーと揉め事は起こしたくは無かったが、今身動きを封じられれば唯姫の救出に向かえなくなる。それだけは願い下げだ。
「最後通告だ。大人しく従え」
「断る」
それが合図となって互いの剣が放たれる。
・・・・・・
・・・
結論として、ギャンザにあっさりと勝ってしまった。
足元には気を失ったギャンザが転がっている。
「なんだ、思ったよりも強くなかったな」
「そうね。これだったらまだ灰色鼠の方が強かったわ」
「いや、幾らなんでもそれは言いすぎだろ。D級より弱いって流石に可哀相だぞ」
トリニティもそれなりに強くなっているからそう感じるんだろうか。
しかも蛇腹剣は崖から落ちた時に落としてしまったので、普通の短剣でギャンザの相手をしていたことになるから余計にだ。
「鈴鹿達って意外と強いのね・・・」
ユリアとラオに至っては俺達の強さに呆然としていた。
同じエンジェルクエストをクリアしてきたからそんなにも差があったとは思えないんだがな。
「まぁ強いに越したことは無いから鈴鹿達の強さはありがたいわ。
こうなった以上ここに居るのは拙いから早速土曜都市に向かいましょう」
準備は完全に整ったわけではないが、ある程度は出来ている。
ユリアはこれ以上この場に止まれば『AliveOut』からの事情聴取で拘束されるから今のうちに向かおうと決める。
「あ、あの・・・僕は・・・」
「ラオはここに残って。上手く言い訳をしてあたし達がお尋ね者にならない様にして欲しいの」
俺達の都合のいいように情報操作しろって言っているけど、実際はラオにまで被害が及ばない様に付いてくるなって事だよな。
尤もその言い訳もどこまで通じるか分からないからかえってそっちの方が難易度が高いかもしれないが。
「わ・分かった」
まだ状況が呑み込めず呆然として頷くラオ。
ユリアの真意に気が付いたら怒るだろうか。何故自分を連れて行かなかったと。
そんなラオを尻目に俺達は手早く荷物を纏め水曜都市の隠れ家から旅立つ。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
俺達は水曜都市の隠れ家を出て外回りで土曜都市を目指す。
都市の外はモンスターが徘徊していて危険が増しているが、今のところ対処できないモンスターは出てきていないので俺とトリニティで対処している。
勿論ユリアも弓で後方から援護をしてモンスターを仕留めていた。
襲い来るモンスターを蹴散らしながら、1日の行程を進んだ俺達は野営をし食料用に解体をしたモンスターを焼いて食べる。
「あたしね、神秘界にくればモンスターも居ない争いの無い平和な世界で暮らせると思ってたの。
けど実際来てみれば、モンスターは居るわ、神様は人を支配しているわ、何処が理想郷なのかって思ったわ」
「あー、まぁ、エンジェルクエストの報酬にはアルカディアだけで詳細は書いてなかったからな。八天創造神にしてみればお前らが勝手に勘違いしたって事なんだろうよ」
「まぁ、確かに神秘界は神の住まう地ってだけであたし達が勘違いしていたのもあるけどね」
ユリアは当時の事を思い出していたのか少し寂しげに微笑みながら話す。
まぁ、勘違いするように仕向けたのだから一概にユリアたちが悪いって訳じゃない。
それでもユリアは気が付かなかった当時の自分に悔いているのだろう。一緒に来た仲間が犠牲になった事があるから。
「鈴鹿。そう言えばアイさんはどうするの?」
俺はトリニティに言われ、今さらながらにアイさんの事を思い出す。
「・・・やべ、唯姫の事で一杯ですっかり忘れてた。
あ~~~、アイさんの事だから大丈夫だろう、多分。寧ろアイさんをどうこうできる奴が居たら見てみたいよ」
「まぁそうかもしれないけど、アイさんも女性なんだから少しは心配してあげないと。
鈴鹿の事だからユキの事を優先するのは仕方ないけど、ちゃんとアイさんの事も考えてなきゃ後でどうなっても知らないわよ?」
いや、アイさんはそんなちっぽけな事で怒らないよ。お・怒らないよな?
「ソ・ソウデスネ、チャントアイサンノコトモカンガエマスヨ?」
そんな様子をユリアは面白そうに見ていた。
「へぇ、鈴鹿達には他にも仲間が居るんだ。と言うか、もう1人の仲間も女性? 鈴鹿が助けようとしているのも幼馴染も女性でしょ。今一緒に居るトリニティも女性だし・・・
もしかして鈴鹿って意外と女タラシだったりする?」
「それは断固激しく抗議する! 誰が女タラシだ。
女率が高いのはただの偶然だよ。トリニティもアイさんもただの仲間だよ。それ以上でもそれ以下でもないさ」
「ふぅん・・・でもトリニティを見てるとそんな感じはしないし、そのアイさんって人にも信を置いている風に感じるわよね。
ブルーちゃんに至っては幼馴染の恋人ってところみたいだし。
鈴鹿の言う事には全然説得力は無いわよ?」
は? トリニティがそんな風に見えないって・・・え? どういう事だ?
アイさんは信を置いているって、そりゃあ頼りになる仲間だよ。え? もしかしてそれ以上の感情があるって言いたいのか?
ユリアが戯けたことを言い始めたので、これ以上おかしなことを言わない様に釘を刺そうとしたところ、気配探知に何かが引っかかった。
俺はユニコハルコンを引き寄せ何時でも抜ける体勢を取る。
トリニティもそれを感じたらしく、素早く気配のする方向を向き短剣を抜き放っていた。
ユリアは俺達の様子を見て慌てて弓を構える。
「あら? 続けていいのよ? 恋バナ」
暗闇から現れたのは巫女装束を着た1人の女性だ。
但しかなり着崩しているらしく、その胸元は大きく開いて巨乳の谷間を晒している。
「何者だ」
七曜都市内ならまだしも、ここは八天創造神の支配の及ばない外だ。
都市内部は完全にモンスターの侵入を阻むが、外の事にまでは関与しないらしくモンスターが徘徊している。
都市近辺はそれほど強いモンスターは居ないみたいだが、それでも女1人で出歩くには危険なはずだ。
それが例え天と地を支える世界からの冒険者でも。
少なくとも俺はこいつが都市の外を巡回する神軍の1人じゃないかと思っている。
それもかなりの力を秘めた。
でなければ1人で出歩く真似なんて出来ないはずだ。
「そんなに警戒しなくても私は敵じゃないわよ。貴方達が恋バナをしていたから興味が湧いて聞きに来ただけよ」
「それを信じろって言うのか?」
「うーん、そこは信じてもらうしかないわよ」
「こんな場所で恋バナを聞きに来たって信じられるわけねぇだろ。嘘をつくならもっとましな嘘を付けよ」
そう言うと、女は如何にも心外そうな顔をして憤慨する。
「嘘じゃないわよ。だって私、恋する乙女や愛に生きる男の味方、かつては『恋愛の女王』とも呼ばれた神秘界の騎士・The Loversのラヴィよ」
「なっ!?」
「えっ!?」
「うそっ、なんでこんなところに!?」
俺達は目の前の女が神秘界の騎士のThe Loversと知って驚きをあらわにし、すぐさま最大級の警戒態勢を取る。
「ああ、さっきも言ったけど警戒しなくてもいいわよ。貴方達に害を与えるつもりはないし」
「あんたは神秘界の騎士なんだろ。だったら俺達の敵じゃねぇか」
「言っておくけど、私は八天創造神の手下じゃないわよ。一応私たち神秘界の騎士の創造主だけど全員が全員従ってるわけじゃないわ」
「そう・・・なの?」
ユリアは疑わしげにラヴィに聞くが、俺とトリニティはそれでも警戒を緩めず相対する。
「そうよ。私は人々の恋愛を見るのが好きなの。純粋な恋愛でもいいし、ドロドロの憎愛を孕んだ恋愛でもいいからそんな色んな恋愛を見聞きしたいのよ。
それなのに何でわざわざ余計な手間のかかる支配とかに力を貸さなきゃいけないわけ?
そんなの創造主たちで勝手にやってって話しよ」
「じゃぁ、本当にあたし達の敵じゃない・・・?」
「本当に疑り深いのね。まぁそれだからこそ貴方達の恋愛に興味があるわ」
どうやらこいつは本当にただ恋バナが聞きたくて俺達の前に現れたっぽいな・・・
まぁそれでも一応警戒は怠らないが。
「一応、信じてやるよ。だけどお前に話す様な恋バナなんて無いぞ?」
「あら、あるじゃない。そこの彼女との関係も詳しく知りたいし、幼馴染を助けるために神秘界に来た話も知りたいし、今ははぐれている人の話も聞きたいわぁ」
いや、幼馴染は兎も角、何でそこでトリニティが出てくる。
何故かアイさんも恋愛対象に数えられているし。
「何を勘違いしたか知らないが、トリニティとアイさんはパーティー仲間だ。それ以上でもそれ以下でもない。変な勘繰くりはやめてもらおうか」
「うわぁ・・・気づいてないよ、この子。可哀相に・・・」
思いっきり呆れられた顔をするラヴィ。そして可哀相な目でトリニティを見ていた。
「まぁ貴方がそう言うならそれでもいいわ。それもそれでまた面白いしね。
じゃあ、幼馴染ちゃんはそこに愛があるって事でOKね。うふふ、君の幼馴染ちゃんの話を聞きたいなぁ」
「・・・言う訳ねぇだろ。俺に何のメリットも無いし」
「あら、メリットならあるわよ」
そう言ってラヴィは大きく開いた胸の谷間から1枚の銀のカードを取り出した。
「あ! それ! 緊急避難口の鍵!」
なんだとっ!?
俺は思わずラヴィの指に挟まれた銀のカードを見る。
「ふっふ~ん。どう? 少しは話したくなったかしら?」
「うぐぐ・・・」
「とは言っても、貴方みたいなタイプは素直に話す方じゃないから別の話でもいいわよ。
そうね、貴方は幼馴染ちゃんを助けに神秘界まで来たんでしょ? だったら幼馴染ちゃんを助け出す話なんていいわね」
俺がどうしようか葛藤していると、ラヴィはその先を読んで俺が唯姫を助け出すときの話をすればいいと言ってきた。
「と言う訳で、貴方が幼馴染ちゃんを助け出したときにまた話を聞きに来るわ。それまでこれはお預けね」
そう言って銀のカードキーを再び胸の谷間へ仕舞った。
「一ついいかしら? もしあたし達が力づくで、って言ったらどうする?」
トリニティはそう言いながらラヴィを挑発するように問いかける。
ああ、何かそっちの方が手っ取り早いような気がするぞ。
「うふふ、勿論抵抗させてもらうわよ。私は神秘界の騎士の中ではそれほど強いわけじゃないけど、それでも神秘界の騎士の1人よ。
少なくとも1人でこの都市の外を自由に歩けるだけの力はあるって言っておくわ」
ラヴィは飄々とした態度ではいるが、これでもれっきとした神秘界の騎士だ。その気配だけでもそれなりに強い事が分かる。
「それだけ聞ければ十分よ。あたし達も今は貴女と敵対するつもりはないわ」
「そう、賢明な判断ね。それじゃあ次に会う時は良い話が聞けるのを楽しみにしているわ」
ラヴィは来た時と同様にあっさりとこの場を立ち去った。
俺達はそれを黙って見送る。
「ふぅ・・・何か嵐が来たみたいだったね」
「そうね、まさかこんなところで神秘界の騎士と出会うとは思わなかったわ」
ユリアもトリニティも突然現れたラヴィにそれなりに気を張っていたので居なくなってようやく肩の力が抜けたみたいだった。
「それはそうと、鈴鹿は頑張ってね。次に会う時は助けたユキを含む壮大なラブストーリーを話さなきゃらないからね」
「おい、あいつの戯言を真に受けるなよ」
「あら、だって神秘界の騎士のThe Loversなんでしょ? 少なくとも彼女にと手は真面目な話だと思うわよ?」
「はぁ・・・だとしても、別に俺が話さなくても別の誰かが話してあいつから鍵を貰えればいいだけだろ」
「あ、それもそうか」
そう言われてトリニティは納得する。
ラヴィは色んな人の恋愛を見聞きしたいと言ったんだ。そう、別に俺じゃなくてもいいんだよ。
「え~~、あたしは鈴鹿のラブストーリーが聞きたいなぁ」
どうやらユリアはラヴィから鍵を貰うのは俺の話の方が良いと不満を垂れている。
悪いが俺はそれを無視して途中だった夕飯をかっ食らいさっさと寝ることにした。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
移動初日に神秘界の騎士のThe Loversが接触してくるというハプニングがあったが、その後は何の問題も無く土曜都市に到着した。
「さて、土曜都市ランドバイドに来たのはいいが、ここからどうしよう?」
意気込んで土曜都市に来たのはいいが、肝心の唯姫や捕まった『AliveOut』のメンバーの居場所が不明なため、俺達は途方に暮れていた。
「本来ならあたしがこの都市に潜伏している『AliveOut』のメンバーと接触して情報を得たいところだったけど・・・」
「そうよね、おそらく水曜都市でのトラブルは伝わっているだろうからすんなりと情報をくれる訳ないわよね~」
当初の目論見ではユリアが間に入って『AliveOut』の情報を得る予定だったが、ギャンザの所為で『AliveOut』との間に溝が出来てしまった。
無論その時のイザコザは流石にここ土曜都市にも伝わってきているだろう。
「まぁ、情報を得なくても大体の見当は付くがな」
「だね」
俺達は都市の中心にそびえ立つ煌びやかな城を見る。
都市内部に潜入して直ぐに目に入ったのが件の城だ。
遠目でも分かるほど金箔等の装飾を施した豪華絢爛な城であり、如何にも贅を尽くして作られた成金趣味と言われても仕方ないものだった。
この土曜都市ランドバイドの支配者である土曜創造神がそこに居ることは明らかであり、唯姫たちもそこへ連れ込まれているのは明らかだ。
これほどの典型的な自己主張をしている奴が、捕まえた者達を他の建物に閉じ込めておくとは思えない。
ただ・・・その場合は捕まった者達がどんな目に遭っているか想像に難くない。
嫌な予感が膨らむ。
「取り敢えずはあの城を目指すでいいか?」
俺の問いにトリニティとユリアは黙って頷く。
俺達は建物の影を縫って周囲を警戒しながら徐々に城へと近づいていく。
と、そこへ先頭を歩いていたトリニティが足を止めた。
「囲まれているわ」
俺も少し遅れて気配探知で周囲を囲まれているのに気が付いた。
その数およそ50前後。
前方と後方にそれぞれ20ずつ配置し、左右の建物の上から5ずつ気配を感じる。
「ちっ、明らかに俺達を狙って包囲した配置だな」
「もしかして気付かれていた?」
「分からん。都市内部に侵入したのは気が付かれなかったと思うが・・・どこで誰の目があるか分からんからな」
俺とトリニティは話しながらも突破口を探ろうと思考する。
その間にも包囲網は狭まり、その中から1人の男が俺達の前に姿を現す。
「悪い事は言わねぇ。大人しく捕まっておきな」
「バッド・・・!」
どうやら知った顔らしく、ユリアは出てきた男を睨めつける。
「知り合いか?」
「ええ、あたしとあたしの仲間を売った裏切り者よ。
一緒に神秘界を目指した仲間だったと思っていたけど、それが一番の間違いだったわ。
今は土曜創造神の白土神軍の1人よ」
「ああ、お前らは土曜創造神様への良い手土産になったよ。ただ、肝心のお前には逃げられてしまったのは残念だったよ。
だけどあの時は捕まえなくて正解だったな。当時は何の手柄も無かったからお前を俺の物に出来なかったが、今ならお前を俺の物に出来る」
そう言いながらバッドはユリアを舐めずりまわすように視線を送る。
当然ユリアはその視線を嫌悪する。
「冗談。誰があんたの物になってたまるもんですか。天と地を支える世界に居た時にそれに気が付いていればあんたを仲間になんかしなかったのに」
「くくく、減らず口も相変わらずだな。まぁその気の強さが気に入ったんだが。
さて、大人しく投降しな。そうすれば、ユリア、お前だけは酷い目に遭わないで済むぜ」
逆らった場合は大勢で慰み者にするとでも言うんだろう。
その場合は人数が変わるだけでユリアにすることは変わらないんだろうよ。
だからと言ってユリアも大人しく従うつもりは当然無い。
「その前にちょっといいかしら? どう見てもあたし達を狙って囲んでいるわよね、これ。
あたし達が土曜都市に来たのはついさっきよ。明らかにあたし達がここへ来るのを見越しているとしか思えないんだけど?」
トリニティのその言葉にバッドは小さく笑っていたかと思うと、次第に声を大きくし大声で笑い始めた。
「プッ・・・ククククク・・・アーーーーッハハハハハハハハハハハハハッ!
いや、な? お前らがここへ来る前にタレこみがあったんだよ。捕まった仲間を助けるために3人が土曜都市に向かったって。その中にユリア、お前の名前があったのには狂喜したぜぇ」
「タレこみって、そんな・・・」
思いもよらぬ事実にユリアは動揺を隠せないでいた。
つまり『AliveOut』の中に裏切り者が居ると言う事なのだ。
「ああ、タレこみしてきたのはギャンザって奴だったな。どうもそこのお前、鈴鹿って奴に相当怨みがあるみたいだったぜ」
って、あの野郎か!!
幾ら作戦の邪魔だからと言って自分の仲間まで売るとは見下げた奴だ。
あの時の俺達への妨害は仲間を思うが故の作戦の成否にかかるものだと思えばこそだと思ったが、奴にとっては単に自分の思い通りに行かなかった事から来るものだったらしい。
「おい、何時までくっちゃべってんだよ。いい加減捕まえようぜ。俺はさっさと城へ戻ってパーティーへ参加したいんだよ」
包囲している方向から更に1人の男が現れた。
どうやら何時までも捕縛の合図を送らないバッドに痺れを切らしたらしい。
後でキッチリとギャンザの奴をシメるとして、今はこの包囲網を抜ける事を考えないと。
「あー、そうだな。ユリアの奴は俺の物にするから丁重に扱え。他の奴はどうでもいいぞ。お前らの好きに扱え」
「うぃーす」
それを合図に俺達を取り囲む神軍が動き始めた。
次回更新は8/27になります。




